お姉ちゃんはいろPと幸せになるべきだと思うの   作:いろかぐヤチは美しい

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永い長い旅路の始まり

──どうもツキミです。私は今、お姉ちゃんといろpの真ん中で抱きしめられながら寝ています。いわゆる抱き枕状態ですね。

 

……私は絶対真ん中はお姉ちゃんが良いと抗議したのですが、『目を離すとどっか行きそう』とのことで、私が真ん中となってしまいました。

 

……どっか行きそうってなに?私そんな子供っぽく見えるのかな……。

 

まあそんなわけで前方いろp、後方お姉ちゃんという無敵すぎる布陣で朝を迎えたのですが──。

 

「ん……」

 

「つきみぃ……へへ……」

 

いろpとお姉ちゃんが全っ然起きてくれません。

 

……お姉ちゃんはともかく、いろpはそろそろ起きないと学校不味いのでは?

 

そう判断した私は、すごく気持ちよさそうに夢の世界を満喫していそうな彩葉の両頬を。

 

「いろpいろp、もう朝ですよー」

 

スリスリと摩ることによって意識の覚醒を促すのでした。

 

「ん…んぅ……はっ!?今何時っ!?」

 

絶妙に鬱陶しいのが功を奏したのか、慌てて飛び起きる彩葉に。

 

「おはよー、いろp。……まだ七時前だから大丈夫だよー……ちょっと早かったかな?」

 

背中にしがみついている姉が起きないよう小声で、今の状況を伝えるのだった。

 

「あ、ああそう…ありがとうツキミ……助かったわ。……あとおはよう」

 

それを受け彩葉はほんの少しだけ恥ずかしそうに、目を逸らしながらお礼の言葉を──。

 

……何でまた抱きしめられてるんだろう。なぜまた布団に入り直したんだろう。

 

「……起きないの?」

 

「いやその……あんたって、抱き枕適性高くない……?」

 

寝起きのせいなのか、よくわからない事を呟き始めるいろp。

 

……抱き枕適正ってなに?

 

「……私ってそんなに抱き心地いいの……?」

 

脳裏によぎったそんな疑問をそのまま言葉にすると、彩葉は若干答えづらそうにしながらも。

 

「……背中に引っ付いてるの見てみなさい」

 

私の背後を指さしてきて──。

 

「んへへぇ…つきみー……すかー」

 

それはそれはもう気持ちよさそうに眠り続けるお姉ちゃんを、少し呆れたような表情で見つめるのでした。

 

「お姉ちゃん……♡」

 

「んぐっ……あーつきみ?……おはー……」

 

「おはよー……寝起きお姉ちゃん可愛い……♡」

 

「……急にスイッチ入ったわね……まあ元気そうで何よりです……っと」

 

相変わらずのシスコンっぷりに、今日も一日始まったなと謎の安心感を覚える彩葉。

 

そのまま昨日までのように姉妹漫才に巻き込まれてはたまらないと、急いで布団の中から脱出を図って。

 

「……取り敢えず、朝ご飯でも作ってやりますか」

 

──幸せそうにきゃっきゃっとイチャつき始めた姉妹達を尻目に、画期的貧乏飯である「粉と水だけパンケーキ」を作りにキッチンへと向かい始めるのだった。

 

……それにしても、信じられないくらいよく眠れたな……かぐやの言ってた通り、ツキミの安眠効果すげー……。

 

──これからも、お願いしてみようか。そんなことを考えながら、久々の疲れを一切感じさせない清々しい朝に、思わず口角が上がってしまう彩葉なのでした。

 

── ── ── ── ── ── ── ──

 

「ねーねー、彩葉がいつも見てるこの人は誰?好きなの?」

 

月見(るなみ)ヤチヨ。AIライバー。推し。分身もできて歌って踊れて八千歳──って設定」

 

「えー、AI?ロボットってこと?ヴェー、おもろー?」

 

ヤチヨについて聞かれるのが嬉しく、努めて声が弾まないように淡々と解説した彩葉だったが、その想いを隠し切る事は不可能だったのか、かぐやはやけに楽しそうに椅子代わりにしたチャブ台をギシつかせ……てか、テーブルに座るなよこいつ。今更だけど……。

 

「ヤチヨちゃん、可愛いよね。綺麗で……あと多分すっごく優しいと思うんだぁ……へへへ、好きぃ……♡人生に絶対必要な栄養素……♡」

 

「おー…………ん?あれ?ツキミ?」

 

「分かってるわねツキミ……!私もヤチヨのお悩み相談や歌にどれだけ救われたか……数え出したらキリないわ」

 

「分かる…!分かるよいろp……!私も全部見たいんだけど、時間がなー……いろpのおすすめとか、あったりする?」

 

「しょうがないわね……今度あんた用に再生リスト作ってあげる」

 

「ほんとっ!?やった!ヤチヨちゃん尽くしの一日〜♡」

 

「……………ん〜?」

 

何かおかしいぞとこめかみを指でグリグリと押し始めたかぐやをよそに、推しが同じ二人はさらに盛り上がり。

 

「ヤチヨのライブがまた最高で……!ようやく抽選に受かって今度やっと……!絶対脳に焼き付ける……!!」

 

「いいなぁ……私も見たかった……」

 

「こればっかりはスマコンが無いとね……流石に買ってはあげられないわよ、悪いけど」

 

「ああうん!大丈夫大丈夫!………………………ごめんねいろは……」

 

…………………なるほど〜?

 

「ねえねえツキミ、ツキミもこの人のこと好きなの?」

 

「え?うん。好きだよ?」

 

何だろう、何か凄くモヤモヤする。……ツキミが楽しそうなのは良いことのはずなのに、何かこう……すっごいモヤモヤする!!

 

「……ツキミが一番好きなのは私だよね?」

 

「………………………わ、私はお姉ちゃんが好き……だよ……………?」

 

「だよね!じゃあこの人と私どっち好き〜?」

 

「か、かぐや……?」

 

かぐやの余りにもあんまりなその質問攻めに、思わず少し引いた声が漏れ出てしまう彩葉。

 

かぐやとて分かっている。自分が今妹を困らせてしまっていることくらい。

 

……しかし姉として、ツキミの一番を譲るわけにはいかないのだ。

 

そんな焦りが普段ならしないような、ちょっと意地悪な質問を彼女の口から溢れ出させる。

 

だが今一番焦っているのは、かぐやでも彩葉でもなく──。

 

……どどどどどどどどどうしよう!?かぐやお姉ちゃんとヤチヨお姉ちゃん、どっちが好きかなんて私答えられないよ!?だってどっちもお姉ちゃんなんだもん……!!どっちも好き……じゃ駄目かな……?そもそも、何でお姉ちゃんはこんなこと私に聞いてくるんだろ……。

 

頭の中でパニくりながらも、嘘はつきたくないと決意したツキミはゆっくりと口を開き。

 

「……………………私は、お姉ちゃんが"一番"好き………だよ…………?」

 

一番の部分を強調して言ったのだった。

 

……べ、別に嘘は言ってないし……どっちもお姉ちゃんだし……。

 

「んー……そっか!ありがと、さっすが私の妹だね〜!私もツキミの事好きだよ!!」

 

若干煮え切らないようなその答え方に、少しだけモヤモヤしたものが残ったかぐやだったが、これ以上は本当に妹を困らせてしまうと判断して、素直に一番好きと言ってくれたことを喜ぼうと思考を切り替えることにしたらしい。

 

……まあツキミがどれだけヤチヨを好きだって言っても、この子のお姉ちゃんは世界で私一人だけだし……大人の余裕大人の余裕……かぐやちゃんは大人大人大丈夫大丈夫……ツキミのお姉ちゃんの立場は世界で私一人だけ……よ〜し落ち着いてきた……!

 

「お、お姉ちゃん……♡私も好きだよ……♡」

 

私は朝っぱらから一体何を見せられているんだろうか、と目の前で繰り広げられる濃すぎるホームドラマに、多少の後ろ髪を引かれるような思いを感じつつも。

 

「……じゃあ、行ってきます」

 

いい加減出ないと不味い時間帯になってきたので、通学鞄を肩に掛け、靴を履いて、一応留守を預ける彼女達に言葉を残しておく彩葉だったが……。

 

「えー!どこ行くの!?一緒いて!」

 

猛スピードで突っ込んでくるかぐやに邪魔……てか、またデカくなったな、ツキミは全然変わらないのに……もうほとんど私と同い年じゃん。

 

「無理。学校休めないし、家から出ないでね。……ご飯はそこ、パンケーキ」

 

抗議と追求、駄々捏ねは許さんと、断ち切るようにそう言い切った私をムスーとした表情で見つめてくるかぐや。

 

…いやだから、そんな表情されたって無理なもんは無理なんだってば……。

 

「お、お姉ちゃん……このパンケーキ、食べてみよ?」

 

ツキミは切り替え早いって言うか……あんまり興味なさそうね。

 

……少しはかぐやみたいに、名残惜しんでくれても……って違う!何考えてんの私っ!?

 

素直に気持ちをぶつけてきてくれるかぐやと、素直なようで絶対心の奥底は見せてくれないツキミ。……現時点では、両極端な二人に心も身体も振り回される彩葉なのだった。

 

「パンケーキ……食べる!ほれ、ツキミも!!」

 

「え?……わ、私は…………こ、これはちょっと…………ね?」

 

「食べさし合いっこしよ?」

 

「するぅ♡」

 

……何故渋ったツキミ。これはちょっとって何だ?私の画期的貧乏飯に文句でもあるんか。

 

「じゃあ……はい!あーん」

 

「お、お姉ちゃんも……ああああああーん……?」

 

こなれたようにパンケーキを妹の口元に運ぶかぐやと、しどろもどろになりながらも何とか姉の口元にパンケーキを運ぶことに成功するツキミ。

 

……早く学校行かなきゃいけないのに、何でこう、続きが気になるやりとりしかできないのよこいつらは……。

 

そしてパクっとお互いパンケーキを頬張ったかと思いきや。

 

「「くっそまじぃ……」」

 

と、失礼極まりない感想を放ちやがった。……おい、もう食わなくていいからな失礼シスターズども。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「えー?本当に行くの?私達宇宙人だよ?不審者だよ?それなのに部屋に放置して出かけていいの?学校ってそんなに大事なわけ?」

 

自覚あったんかい!じゃあ言わせてもらうけどね……!

 

「命より大事!」

 

私が一年間で築き上げてきた学校生活は、私の意地と努力と忍耐の結晶だ。命を懸けて守るし、誰にも壊させやしない。

 

「あんた達と関わったのは私のせいだけど、出来る限りもう全部元に戻すから」

 

迎えが来るまで、と確約してしまった以上追い出す事はできない。

 

ただ、私は私で元の完璧女子高生に戻らせてもらう。

 

「だからあんた達もどうすれば迎えが来るのかとか、月への帰り方とか早く思い出して」

 

「……でもここおもしろそーだし、迎えきても帰りたくなーい」

 

「へへへ……駄々をこねるお姉ちゃんも素敵……♡」

 

おい、それじゃあ約束が違うだろ。

 

ツキミも全肯定してんじゃないよ、加速するだろ、我儘が。

 

「とにかく早く思い出して!今日一日で!!分かった!?」

 

行ってきます!と言い残して私はすかさず扉を閉めた。

 

追い縋ってくる気配はない。

 

……はぁ……朝からなんでこう……疲れるというか……まあ、言うほど悪いわけじゃないんだけど……。

 

──この三連休で急速に賑やかさが増した己の生活圏に悪態を突きながらも、その表情はどこか晴れやかな酒寄彩葉さんなのであった。




ツキミさんの見た目は大人ヤッチョっと子供ヤッチョの中間みたいな感じです。
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