お姉ちゃんはいろPと幸せになるべきだと思うの   作:いろかぐヤチは美しい

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八千代超えて──

「彩葉ノートで赤点回避記念〜」

 

「お礼の品でーす。ご査収くださーい」

 

「あ、ありがとう!」

 

──今日一日、家に置いてきた地球外シスターズ達が何かしらやらかさないかと、不安でいっぱいのまま過ごしていたのだが、まさかまさかの芦花と真美からのご褒美タイムが訪れた。

 

私の前に運ばれてきたのは、クリームと夢が溢れ出るふわふわ三段重ねパンケーキ。

 

経験からわかる……このノリのときは奢りだ!!正直嬉しすぎる。

 

あいつらには悪いけど、私は久方ぶりのキラキラした食事を楽しませて──。

 

『『くっそまじぃ……』』

 

………バイト代入ったら、少しぐらいは……っていやいや!何考えてんの私っ!?ただでさえ限界ギリギリの貧乏生活だって言うのに……!絆されるな私!相手は宇宙人……しかもおねだりの仕方をマスターしている質が悪いタイプのエイリアンだ。惑わされるな……!!

 

「彩葉〜?どったのー?」

 

「何か考え事?悩みあるなら聞くよー?」

 

「え?……あっいや何でもない!とにかくありがとう!いただきまー……」

 

「──シャッ!」

 

瞳の先のキラキラふわふわパンケーキに、突如として突き刺される三叉の刺突武器。

 

「……は?」

 

銀色のフォークを握るのは、夏の日差しにも解けない雪のような白い左手。

 

「ねえツキミ!これ超美味しそーだよ!!はいあーん」

 

「お、お姉ちゃん!私はいいからまずお姉ちゃんから……!」

 

「駄目!ツキミが最初っ」

 

「う……じゃ、じゃあ……い、いただきます……あ、あーん」

 

「あーん♪」

 

……何で居るの?てか何してんのこいつらっ!?家で大人しくしてろって……言ってないっ!?痛恨のミス……!!

 

「んっ……お、美味しいよお姉ちゃん!!本物のパンケーキだ!!」

 

おいツキミ、その言い方だとまるで偽物のパンケーキがあるみたいに聞こえるんやけど?なんなん、あの粉と水だけパンケーキそんな駄目なん……?

 

「よかった!じゃあ私も……いただきまーす!あむ、もぐもぐ……うんんまあああ!!」

 

妹が幸せそうにパンケーキを頬張る姿を見て、心の底から安堵の表情を浮かべたかぐやは、次は自分の番!とツキミが食べた分の残りを一口で口に運び、そのあまりの美味しさに飛び切りの笑顔を光らせると。

 

「よっ、彩葉!」

 

そのまま完璧なウインクで地上に星を飛ばして見せるのでした。

 

「えー、可愛い。誰この子たち?」

 

「彩葉の服着てる。彩葉の友達?」

 

「あああああ、そう!そうなの!!友達…っていうか何というか……」

 

何て説明すればいいんだ!?とパニクっている彩葉を尻目に。

 

「パンケーキ好き?はい、これもど〜ぞ」

 

「パンケーキ?これが?彩葉のと全然違〜う」

 

「お姉ちゃん……外じゃあんまり言わないであげて……」

 

交流を深めていく宇宙人と彩葉の友人たち。

 

相変わらずディスられる己の画期的貧乏飯についてはもう考えない事した。

 

「紹介してよ、彩葉。こんな可愛い友達独り占めはズルいって」

 

「いや、友達っていうか……えーっと、あの、そのー」

 

「月から来たの!」

 

なに……何を言ってくれてんのこの宇宙人はっ!?正気っ!?

 

「……え?」

 

「ツキ……?」

 

「ジ!築地だよね!築地から来たの、私のイトコ!」

 

苦しすぎる言い訳を放ちながら、恐る恐ると真美のほうへ目を向けると。

 

「わー、美味しいお鮨屋さん教えて〜?」

 

よし、行けた。さすが立川一のグルメガール。……芦花の方は?

 

「可愛いね、二人とも名前は?」

 

助かった…こっちも宇宙人姉妹達の見目麗しさに夢中のようだ。さすが立川一の美容ガール。

 

「私はかぐや!こっちは妹のツキミ!!可愛いでしょ〜?」

 

「お、お姉ちゃん……♡」

 

いやいや違うから!いつもの出してる場合じゃないんだよツキミ……!!早くソレ連れてどっか去ってくれお願いだから!!

 

「かぐやにツキミ〜?かわよー!」

 

「え〜ぴったりだね。……ツキミちゃんこれ地毛?凄く綺麗だね」

 

「へ?……あ、ありがとうございます!嬉しいです……!!」

 

「確かに〜銀髪でさらさらしててー……あっ意外ともふってしてる〜触り心地よー」

 

「そ、そうですか?私よりお姉ちゃんの方が綺麗ですし可愛いですよ?」

 

「お姉ちゃんっ子だね〜」

 

「だねー」

 

「ツキミはお姉ちゃんのこと大好きだもんね!」

 

「う、うん……♡大好き……♡」

 

何だこれ。……本当に何だこれっ!?何が起こってんの!?

 

いや、考えるのは後でいい……!今はとりあえず……!!

 

「ごめん帰る!ありがとね、ごちそうさま!後で埋め合わせするから」

 

この場から脱出しないと……!

 

私はかぐやの襲撃を逃れたパンケーキの一階と二階を口に詰め込むと、かぐやとツキミを引っ掴んで、風のようにカフェから脱出するのだった。

 

── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

「正気!?何でここにいんの!?何で家から出てくんの!?月から来たって何!?正体バレたらどうすんの!?」

 

言いたい事は全部吐き出した。さて、かぐやさんはこの完璧なクレームにどう反論……。

 

「だって外の方がおもしろそーだったし、ツキミに楽しいこといっぱいやらせてあげたいし」

 

……ぐっ、こいつ……それ言われたら何も言えないじゃないの……。

 

「お、お姉ちゃん……私のためだったの?」

 

「うん、そーだよ?……余計なお世話だった?」

 

「ううん!そんな事ないよ!!すごく……凄くうれしいっ!お姉ちゃん大好き!!」

 

「えへへへ〜私もだよツキミー」

 

笑顔で心底幸せそうに抱きしめ合ってる彼女達を見ていると、何だか怒っているのが馬鹿らしくなってくる。

 

……まあ、幸せそうなら何よりですよ……お嬢様方。

 

そんな風に私の中の怒りボルテージが急降下していくのを感じ取ったのか、かぐやは。

 

「ねー、これどうやって使うの?」

 

そう言ってコンタクトレンズ型のPCデバイス・通称──。

 

「スマコンじゃん。私の持ってきた?」

 

「ううん、彩葉のノートPCで買えた!」

 

…………………は?

 

「イエイ♪」

 

イエイじゃないんだよ、何言ってんだこの宇宙人。

 

慌ててスマートファンを取り出して半狂乱で通販の履歴を探ると。

 

『ウォレット残高 ¥0 前月比 ¥マイナス124852』

 

……え、これ、現実?そ、そんな馬鹿な……。

 

「し、死ぬ気で貯めたんですけど……死ぬ気で!!貯めたんですけどっ!!!!」

 

「あ、大丈夫!なんか銀行?のデータ書き換えれば……」

 

「絶対ダメ!!いい!?フリじゃないからね!?絶〜対っ!しないでよ!!」

 

倫理観ゼロのとんでもないことを言い始めたかぐやに、キッチリと釘を刺しておく。

 

「……てか、ツキミ!あんたは姉絡み以外じゃ割と常識ある方でしょ!?止めなさいよ!!」

 

「止める?お姉ちゃんを?私が?……なんで?」

 

「あーそうだった!こいつただの姉馬鹿だった!!」

 

姉が関わると知能が著しく低下するツキミと、妹が関わると知能が著しく上昇するでこぼこ姉妹に振り回され続ける彩葉なのでした。

 

 

── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

 

「まーずは、生トウモロコシから作ったポタージュ。こっちは新ゴボウとアスパラのカリカリサラダ温卵付き。メインはトマト煮込みハンバーグ、ズッキーニのソテーをそ・え・て♪」

 

「……これも私のウォレットですか?かぐやさん」

 

「そだよ〜?」

 

めちゃくちゃ美味しそうな料理を作ってくれたのは素直にありがたい、ありがたいんだけど……使い込まれた金額を考えると気絶しそうになる。

 

「はい、食べて」

 

「……なんなのよ、旨いじゃないのよ……なんなのよあんた……久しぶりの美味しいご飯で……身体が喜びに満ちていくじゃないのよ……」

 

味は勿論だが、誰かが自分のために作ってくれたご飯というのは何かが違う気がする。賄いとかも手料理ではあるけど……かぐやが作ってくれた料理は、お腹だけでなく心も満たされて行く気がして……何故だろう、箸と涙が止まらない。

 

「よかった!どんどん食べてねっ。……ツキミ〜?私も洗い物手伝おっかー?」

 

「私がやるから大丈夫だよー、お姉ちゃんは美味しいご飯たくさん作ってくれたんだから、片付けは私に任せてー」

 

「分かったー、ありがとー」

 

……人の貯金全部使った奴等とは思えないほど穏やかな会話してるわね……。

 

「……大悪魔姉妹」

 

「悪魔じゃないよ、天使だよ〜♪」

 

ムカつく。くそう、ムカ旨い。どこまでも楽しげな悪魔の宇宙人による天使のような料理は、最後の瞬間まで腹立つくらい旨かった。

 

── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

「あのさぁ、あんた達の迎えが来るまでって言ったけど……それっていつ……」

 

「出来たあ!」

 

姉妹の連携おねだりに敗北して、迎えが来るまで匿ってあげると約束してしまった故、追い出すことが不可能となってしまった今現在。

 

ならばせめてもの抵抗として、時期を早めてやろうと話題を振ったのだが、当のかぐやさんは何やらカタカタとパソコンを叩いていたかと思いきや、突然嬉しそうに出来た!と……。

 

……待て、何が出来た?

 

「ちょ、ちょっと?サイバー犯罪とかじゃないですよね?」

 

「見て、彩葉!携帯ゲーム見つけたから弄ってみた!これ、『犬DOGE』!!」

 

そう問い詰める私の眼前に、かぐやは誇らしげにレトロな携帯ゲーム機を掲げてきた。

 

「しまってあったの引っ張ってきたのね……まあ使ってないからいいけど」

 

「これでいつも一緒だって!……ねえ彩葉、もう一個ないの?ツキミの分も作ってあげたい!!」

 

「昔お兄……あー、家族から貰ったやつだからそれしかないわよ」

 

「え〜?……じゃあまた貰えるまで待とっかなー」

 

「んな無茶な……てか、一生住む気満々かよ」

 

「だって他にどこ行けばいいの?もし捕まったらかぐやちゃん解剖されちゃうかも〜」

 

「──大丈夫だよお姉ちゃん!その時は私が代わりになるから!!」

 

──やる。冗談のように聞こえるがこの姉狂いは間違いなくそんな状況下に置かれたら、迷う事なく人体実験や実験動物として喜んでその身を差し出すだろう。

 

そんなツキミの危うさを若干認識し始めている彩葉と、自分の為なら妹は文字通り何でもしてしまいかねないと理解しているかぐやは即座にお互い目を合わせ。

 

「……マジで迎えが来るまでだからね」

 

「やった!彩葉優し〜」

 

阿吽の呼吸でツキミが良くない方向に進み続けるのを止めるのだった。

 

「……て言うかちょっと待って。……何でツキミもスマコン持ってるの?残高的に一個しか買えないでしょ?」

 

洗い物を終えて会話の中に参入してきたツキミの左手には、よく見るとスマコンケースが握られていた。

 

「なんか1000円で買えたよ!ツキミの日頃の行いがいいからだねっ」

 

「は!?1000円っ!?それって詐欺とかじゃ……!ちょ、ちょっと出品者ページ見せ……!」

 

「もう消えたよー」

 

余りにも定価を割りすぎている価格にどう考えても怪しさしか残らないと、慌てて出品情報を確認しようとするが、既に消えてしまっていることをかぐやから教えられる。

 

「だ、大丈夫だよいろp!これちゃんと使えそうだし……た、多分お金持ちの人の道楽なんじゃないかなぁ?」

 

「……そんな奇特な金持ち居る?」

 

「よ、世の中広いし!居るかもじゃん!!」

 

「……けど、それ目に入れるものだし……本当に大丈夫?私の使う?」

 

「いろpの気持ちは嬉しいけど……これは、私が使いたいんだ」

 

宝物を持つかのように、両手でぎゅっとスマコンを包み込んだツキミの表情は、今まで見たことないくらい幸せそうで──。

 

今の彼女から、それを取り上げる気は起こらない。

 

……もし、危なそうだったら外せばいいだけか。

 

「ねえねえ彩葉!結局これってどうやって使うの?」

 

ズイッと差し出されたかぐやの手にもスマコンが握られていて。

 

……しょうがないな。

 

まだライブまでかなり時間あるけど……ツクヨミ、連れてってやるかぁ。

 

「両目につけて……そう、そんな感じ」

 

「おー!すげーおもろそーじゃん!!楽しみだね!ツキミ!!」

 

「うん!私も楽し────」

 

説明しただけではしゃぎのテンションが頂点に達したかぐやと、それに釣られて楽しそうに笑顔を浮かべるツキミだったが、突然言葉を切り──。

 

「あっ……ちが、違うの……ちょっと楽しみって思っただけで……私は……」

 

──青ざめた表情で、何かに怯えるように身を丸くするのだった。

 

「……ツキミ?ちょっと大丈──」

 

その尋常じゃない様子に、やはり何か問題でもあったのかと慌ててツキミのスマコンを──。

 

「……ツキミ!折角なんだし楽しまなきゃ損だよ!!」

 

──取り外そうとする彩葉を押し除け、かぐやは。

 

「ふー♪」

 

未だ顔面蒼白で、震えている彼女の耳元に息を……。

 

「ひゃん!?ちょっ、お姉ちゃん!?何するのいきなり!?」

 

「えへへー♪なんとなく?……あっち行っても出来るかな?」

 

「で、出来たとしてもしちゃ駄目だからね!絶対駄目だよ!!」

 

「……つきみ?」

 

「う、うぅ……!」

 

涙目で姉を睨みつけるツキミの姿は、先ほどまでの何かに怯えたものとは違い、いつも通りの彼女で。

 

……そっか。ツキミの様子が時々おかしくなるのを、かぐやが気付いてないわけない。

 

……かぐやはいつもこうやってツキミを……。

 

「つきみ〜?」

 

「だ、駄目っ!絶対駄目ー!!」

 

「……あんたたち、いつまでも遊んでないでとっとと行くわよ」

 

──今の私に出来るのは、かぐやに合わせる事だけ。

 

かぐやは私より、ずっとツキミのことを知ってる。そんな彼女が踏み込まないと判断したのなら、多分それは正しい。

 

……踏み込むことで、壊れちゃう何かも、あると思うから。

 

ただ、いつかは──。

 

 

──この二人が心の底から笑えるようになればいいなと思う、彩葉なのでした。

 

 

── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

──どうも、ツキミです。色々ありましたがとうとう私もツクヨミデビューです!!

 

ヤチヨお姉ちゃんと直接対面するのは楽しみでもありますが、正直かなり緊張してしまいます。

 

……だって今のお姉ちゃんよりほんの少しだけ歳を重ねた大人のお姉ちゃんとお話しするわけで……うっ、緊張する……!

 

ガチガチになりながらも、いろpが教えてくれた通りにツクヨミへログインすると──。

 

「──太陽が沈んで、よる…………が……………………………っ」

 

──ヤチヨお姉ちゃんの、そんな声が聞こえてきた。

 

……お姉ちゃんは私のこと……覚えててくれてるんだよね……?私はちゃんと、お姉ちゃんの役に立てたんだよね……?

 

少しの不安と、少しの期待。

 

そんなものを抱えながら、チュートリアルが始まるのを待っていると、遠くに見えるお姉ちゃんが私の元へと走ってくるのが見えて──。

 

──その勢いのまま私を思いっきり抱きしめてきた。

 

 

「!?お、お姉────」

 

 

「──────生きてる……!生きててくれてるっ……!!ツキミ……!つきみぃ…………!!」

 

 

──泣きじゃくりながら、私にしがみつくお姉ちゃんの姿を見て、私は──。

 

 

────────また何かを間違えてしまったのかと、強烈な自己嫌悪に襲われるのだった。

 




貴方の考え方と行動は全て間違っていますよ、ツキミさん。

……ツキミちゃんのこころをなんとか出来るかどうかでハッピーかバッドかが決まってしまいます。

お姉ちゃん……頑張って。
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