一番アガるシーンを見ないという天与呪縛 作:意外にも喧嘩好きの不良キャラ居なくね?
砕城響と同級生の邂逅。自己紹介は拳で語れ。
砕城響とかいう雑な理屈で最強
三月の冷たい風が吹き抜ける高専の演習場。
公式な入学を数週間後に控えたその日、五条悟はいつになく芝居がかった仕草で両手を広げ、高らかに宣言した。
「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 記念すべき第一回『チキチキ! 覇者喧勝の術式効果を解き明かせ~!!』を開催しちゃうよ!」
パン、と手を叩く。
「……あ? 何がチキチキだ、ふざけんな
響は不機嫌そうに鼻を鳴らした。だが、五条の目隠しの奥の「六眼」は、未知の数式を解こうとする学者のような、不気味に澄んだ光を宿している。
「いいじゃない。剛くんとの稽古も大事だけど、自分の『力』の正体を知っておくのはもっと大事だよ。
……君の術式を見ていてわかったことがある。
君の術式効果の一つは、『領域展延』っていう、自分の周囲に生得術式を付与していない領域を張って相手の術式を中和する技術──まあ、僕もこういうやり方があるって知ったのは最近なんだけど──に酷似している。……いや、それがデフォルトで術式効果に組み込まれた上で、もっと全自動で効率的、かつ攻撃的に昇華させたものになっていると思うんだ」
五条はニヤリと、挑戦的な笑みを浮かべた。
「それが"呪術に触れて砕ける"カラクリ。まあ呪力を吸収している部分については、どうしてなのか未解明なんだけれども……、それはそれとして。今から君に見せる『領域展開』は領域展延とは少し違って、領域に生得術式を乗せる。
呪術の粋、最高峰の技術にして到達点だ。僕の領域はその中でも特別製でね、普通だったら展開された瞬間に詰みなんだけど、君の術式なら僕の領域内でも多少は動けるはず。……どうだい? 僕が領域を張った瞬間に、思いっきり殴りかかってきてみてよ。普段は『無下限』があるから触れない僕だけど、今なら──その手が届くかもよ?」
「テメェを殴れねぇのは無下限だなんだじゃなく逃げ回ってっからだろーが……ハッ、後で泣き言抜かすなよ」
響が拳を固める。その煽りに乗ったというよりは、あまりに不遜な五条の顔面を物理的に黙らせたいという、至極単純な
「期待してるよ。──領域展開、『
五条が指を交差させ*1、宣言した。
本来ならば、その瞬間に外界と隔絶された領域が構築され、響の脳内に常人ならば1秒かからず廃人になるほどの無制限の情報の濁流が流れ込む。──五条悟はこの説明を事前に行わず「多分行けるっしょ」で実行している。大概クソであった。
だが。
「──『砕城』──」
──バギンッ!!
耳障りな、何かが噛み合わない異音が響いた。
本来、領域とは自身の裡のみで成立する「生得領域」を呪力で具現化し、
しかし、ここに五条悟の誤算があった。その内側にいる砕城響という術式そのものが、一つの『穴』として機能するという事実を。
『千里の堤も蟻の穴から』。
外界と隔絶するはずの結界の「殻」が、響の術式『覇者喧勝』によって、完全に閉じきることが叶わず砕かれていく。
領域が完成するための絶対条件である「密閉」が、響という一点の瑕疵によって不成立に終わる。
行き場を失った領域展開のための膨大な呪力は、その『穴』から決壊したダムのように流れ出し──。
「…………え?」
五条の視界に映ったのは、普段通りの無限遠の宇宙ではない。
ただの演習場の景色。そして、自身の術式が「焼き切れた」不吉な感触。
領域展開は不発。呪力は一方的に流出。さらに、不可侵の鎧である『無下限呪術』すら一時的に消失。
対する響は、五条から逆流した膨大な呪力によって全身を全回復どころかオーバーブーストしている。
響からすれば、五条悟が自信満々に片手指を目の前で組み「領域展開」と言った直後に自分の呪力をこちらに流し込み自爆した形になる。一瞬呆気にとられたものの、その復帰は五条悟よりも明らかに早く──獰猛に笑って踏み出した。
「……隙だらけなんだよ、ボケがッ!!」
「ちょっ──」
五条の言葉が続く前に、限界まで加速した響の拳が、無防備な最強の顔面に吸い込まれた。
ドガアアアアンッ!!
重い衝撃音が響き渡り、現代最強の術師が砂埃を上げて地面を数メートル転がっていく。
「…………」
ギャグのような結果に、静寂が訪れる。
数秒後、頬を赤く腫らした五条が、芝生の上に座り込んだまま呆然と声を漏らした。
「……あいたたた。……え、何今の? 僕、今殴られた? 領域は?」
「知るかよ。テメェが『殴ってみろ』っつったんだろ。呪術の最高峰が聞いて呆れるぜ。スカスカじゃねぇか」
右拳から立ち上る、他人の──五条悟の呪力の残滓を振り払いながら、響は勝ち誇ったように笑う。
五条は目隠しをずらし、信じられないものを見る目で響を凝視した。
領域を閉じさせず、そのエネルギーをすべて奪い取り、さらに術師を焼き切れた状態に追い込む。
まさに──『砕城』の名に相応しい、対・領域展開における最悪の天敵。
「……はは、……はははっ! 最高だよ響! 君、本当にめちゃくちゃだね!」
頬をさすりながら、五条は再び爆笑した。
最強の術師が初めて味わった、「わけもわからないまま殴られる」という屈辱と、不可思議な爽快感に。
「と、いうことで。金次くん、君、領域展開したら負けだから。絶対展開しちゃダメだよ?」
五条が頬をさすりながら*2、事も無げに告げた。対する秤は、眉間に深い皺を寄せて耳を疑う。
「は? ……ということって、どういうことだよ。俺から
「言葉の通りさ。今の響に領域をぶつけるのは、ガソリンスタンドで煙草を吸うより自殺行為だ。
五条は「健闘を祈る」とばかりにひらひらと手を振り、安全圏まで後退した。グラウンドの中央に取り残されたのは、獲物を前にした獣のような眼光の響と、いまだ納得がいかない様子の秤である。
「……ケッ。理屈は知らねぇが、領域抜きでやれってか。上等だ」
秤が首の骨をボキボキと鳴らし、前傾姿勢をとる。その身体から溢れ出す呪力は、まるで粗いヤスリのようだ。触れるだけで肌を刺しざらざらと削り取るような、刺々しく分厚い熱。
「悪いな同級生。期待してた『台』は故障中らしいが──俺の『熱』は、これしきじゃ冷めねぇぞ!」
「御託はいい。来いよ、短髪野郎!」
響が地面を蹴った。
呪力を纏い強化された脚力が土を爆ぜさせ、一瞬で秤の懐へと潜り込む。
「オラァッ!!」
挨拶代わりの右ストレート。
秤はそれをあえて避けず、呪力を集中させた腕でガードした。だが、衝突の瞬間、秤の目が見開かれる。
(──重ッ!?)
ただの呪力強化じゃない。響の拳が触れた箇所から、秤の防御を構成する呪力が文字通り「砕かれる」ような衝撃が走る。
『覇者喧勝』──常時発動されるその術式は、常に響の肉体に宿り、触れるものの呪的強度を根底から否定する。
「ハッ、いい拳だ! だが、甘ぇ!」
秤はガードした腕をそのまま流し、カウンターの膝蹴りを響の腹部に叩き込んだ。
ドォォン、と肉を打ったとは思えない重い音が響く。
普通ならもんどりうって悶絶する一撃。だが響は獰猛な笑みを消さなかった。
「……あぁ。熱くなってきやがった」
響の拳が、秤の側頭部を狙って唸りを上げる。
秤はそれをスウェーで回避し、即座に裏拳で応戦。
拳と拳、骨と骨がぶつかり合う、剥き出しの暴力。
呪術師としての洗練された「術」の掛け合いではない。
そこに在るのは、互いの魂の熱量をぶつけ合い、どちらがより高く、より強く「俺」を主張できるかという、純粋な喧嘩だ。
「ははっ! 良いぜ、最高だ響! お前、最高に『ノって』んじゃねぇか!」
秤の呪力がさらに膨れ上がる。ヤスリのような呪力が響の皮膚を裂き、逆に響の「砕く」衝撃が秤の骨を軋ませる。
「……あぁ、気に入ったぜ金次! テメェのその薄汚ねぇ呪力、全部まとめて……俺の糧にしてやるよ!」
響の瞳の奥で、かつての弱虫だった自分を焼き尽くすような、黒い炎が爆ぜた。
一歩も退かない。一寸も怯まない。
二人の影が、春の陽光の下で激しく交錯し、校庭の地面に次々とクレーターを刻んでいく。
それは、高専という檻の中で、二頭の若き獅子が初めて互いの牙を確認し合う、儀式のような格闘戦だった。
「……ねえ、五条先生。本当に止めなくていいの? あれ」
遠巻きに見ていた綺羅羅が、不安そうに瞳を揺らして尋ねる。
五条は満足げに頷き、スマホのカメラを構えながら答えた。
「いいんだよ。男の子っていうのはね、拳で語り合った後が一番仲良くなれるんだから。……あ、今の響の左フック、いい画だったなぁ!」
「…………」
綺羅羅の溜息を置き去りにして、グラウンドにはなおも、肉体と肉体が激突する心地よい「破壊音」が鳴り響き続けている。
お互いの呪力量に余裕はあり、どころか砕城響は打ち合う中で呪力が自己補完以上の量を回復しているため、一切の損耗なし。
対する秤金次も戦う中で砕城響の癖──殴打に偏重した格闘スタイル──を見抜き、待ち構えてのカウンターで着実に有効打を重ねていく戦法に切り替える。
さらに数度の交錯を経て、ぶつかり合いの間に自然と距離を離して向かい合った両者。
呪力量において圧倒的優勢である砕城響の表情は苦み走っており、着実に削られる呪力に焦りを覚えているはずの秤金次の表情はぎらついた笑みが崩れない。
「(チッ……埒が明かねぇな。このまま殴り合ってりゃダメージレースで俺が競り勝つだろうが)」
「(まだまだ熱は冷めてねぇ。ヒリ付く乱打戦も楽しいもんだな、──俺がぶっ倒れるまで、しこたま拳をぶち込んでやる!)」
「しょうがねぇな……ここから、本気で行くぜ」
「なんでもいい! 全力で掛かってこいや! 響ィ!!」
秤の刺々しい呪力が大気を震わせる中、響の動きが明確に変わった。
ただ闇雲に突っ込むのではない。重心を低く保ち、鉄塚との稽古で叩き込まれた「合理的かつ冷徹な」足捌きが、荒削りな喧嘩殺法に一本の筋を通す。
「……フッ!」
響は秤の踏み込みに合わせ、鋭いローキックを放つ。それは単なる蹴撃ではない。響の拳に意識が集中し上体に呪力配分が割かれる秤の下半身──膝関節の呪力密度が最も薄くなった瞬間を狙い、その足場を『砕く』ための楔。
「おっとォ!」
寸前に気付いた秤が反射的に足を引くが、響の攻勢は止まらない。流れるような動作で軸足を入れ替え、跳躍。空中での捻りを加えた回し蹴りが、秤のガードを上から叩き潰す。
「(動きのキレがさっきまでと
秤の顔から余裕が消える。響の格闘戦術は、立体的な広がりを見せていた。地面を蹴る反動を利用し、左右の連撃から死角へ回り込む。鉄塚から学んだ「格闘術」が、響の重い一撃一撃を、回避不能な連撃へと変えていた。
拳だけではない。肘、膝、さらに予測不能なタイミングで放たれる蹴撃。
響の術式『覇者喧勝』は、その四肢が触れるたびに秤の防御呪力を「城壁」を崩すように削り取っていく。削られた呪力は響の糧となり、彼の動きをさらに加速させた。
「いいねぇ……最高にアガってきたぜ!!」
秤のボルテージが臨界点に達する。ヤスリのような呪力が真っ赤な熱を帯び、彼の周囲で陽炎のように揺らめいた。
「この熱、この感触……! これなら『当たる』気がすんぞ、響ィ!!」
振りぬかれた響の拳に押し出されるように秤が大きくバックステップし、両手を特定の印の形──弁財天印──に組む。
彼にとって、この
「領域展開──『
顕現するパチンコ台の喧騒と、圧倒的な呪力の奔流が世界を書き換えようとした、その瞬間。
「あちゃー……」
安全圏でポップコーンでも食べていそうな気楽な調子で、五条悟の声が漏れた。
刹那。
秤の頭上に展開されようとした巨大なギミックが、まるで「穴の空いた風船」のように萎んだ。
外界と隔絶するはずの結界が、その中心にいる響という『蟻の穴』によって、閉じることを拒絶される。
「……なっ!? 呪力が……抜け……ッ!?」
秤の身体から、あれほど猛り狂っていた熱量が急速に引いていく。
領域展開の不発。呪力の大量喪失。そして、無理やり発動しようとした術式が、脳内で「焼き切れる」不快な感触が響いた。
最強のギャンブラーが、自分の「台」が稼働すらしないという未曾有の事態に、戦慄して足を止める。
対照的に。
秤のほとんど全呪力を食らい尽くした響の身体は、全身から火花を散らしながら、かつてないほどの威圧感を放っていた。
「またこれか……お前もかよ、金次」
絶望的な動揺を見せる秤の懐へ、響が音を置き去りにして踏み込む。
「期待させやがって。──テメェの『台』は、最初から『故障中』だっつってんだよ」
渾身の力が込められた右拳が、防御すら間に合わない秤の腹部にめり込んだ。
ドォォォォォォンッ!!
演習場に、この日一番の衝撃音が轟く。
呪力を失い、術式を焼かれた無防備な秤の身体が、紙屑のように地面をバウンドして吹き飛んでいった。
「…………」
静寂。
砂埃が舞う中、響は荒い息を吐き切り、自身の右拳を見つめた。流入した秤の呪力が、まだ全身を熱く焦がしている。
「……あーあ。金次くん、言ったのに」
五条がひょいと響の隣に現れ、遠くで伸びている秤を眺めて肩をすくめる。
「響の前で領域を展開するってのはね、相手に自分の全財産を振り込むのと同義なんだよ。……まぁ、いい勉強になったでしょ」
「……ケッ。お前もこないだぶん殴られたところだろーが」
「……っせぇぞ、白髪目隠し」
地面に転がったまま、秤が片手をひらひら振る。
敗北感より先に、笑いが来ている顔だった。
「なんだよそれ……。領域開いた瞬間、全部持ってかれるとか……クソゲーすぎんだろ……」
「ケッ。テメェが勝手に突っ込んできたんだろーが」
響が吐き捨てる。
だが、その口元にも、うっすら獰猛な笑みが浮かんでいた。
本気で殴り合った相手にしか向けない、妙に清々しい表情だった。
「……でも、楽しかったぜ金次」
「……はっ。奇遇だな響。俺もだ」
演習場に、春先の風が吹き抜ける。
砕けた地面。抉れた土。
そこら中に刻まれた衝突痕。
入学初日、高専のグラウンドに刻まれたのは、二人の喧嘩師の激突と、呪術界の常識を粉砕する新入生達の圧倒的な「異質さ」だった。
「いやぁ、青春青春」
五条がスマホ片手にぱちぱち拍手する。
「じゃ、次いこっか」
「……次?」
「え」
嫌な沈黙。
その場にいた全員の視線が、一人へ向いた。
「…………」
星綺羅羅。ぎくりと動きが固まる。
「いやいやいやいや、待って。僕、今の見てたよ? 無理でしょ。死ぬって」
「大丈夫大丈夫。響、割と手加減するタイプだから」
「してねぇよ」
「ほら安心」
「どこが!?」
綺羅羅が半歩下がる。
響はその様子を見て、僅かに眉を顰めた。
その反応、その怯え方。
一瞬だけ、“昔の自分”が脳裏を過ぎる。
──気に食わねぇ。
だが。
その苛立ちは、不思議と薄かった。
さっき教室で見たピアス。
あの「自分を飾ろうとする意志」が、綺羅羅を“僕”とは別物だと告げていた。
「ほらほら綺羅羅くん! 行ってこい若人!」
「うわっ!?」
瞬時に背後に回り込んだ五条に背中を押され、綺羅羅が半ば転ぶように前へ出る。
響は面倒臭そうに首を鳴らした。
「……チッ。さっさと来いよ」
「〜〜〜っ、もう! やればいいんでしょやれば!」
やけくそ気味に叫ぶと、綺羅羅が構えを取る。
その瞬間、空気の流れが変わった。
「僕は
呪力が弾ける。グラウンドの地面と、落ちている石のいくつかに“マーキング”が刻まれる。
引力と斥力。星座を模した呪力ルール。
接近経路を強制的に制御する、極めてトリッキーな術式。
「(最初に触れ合いそうになった時、響くんにもマーキング済み!)近づけるなら近づいてみなよ!」
綺羅羅が叫んだ次の瞬間。響が一歩踏み込んだ。
「……はああ?」
止まらない。
術式が機能しない。
星のルールが、響に触れた端から砕け、無効化されていく。
咄嗟に星を切り替え、石を響に引き寄せようとするも、不発。
「な、なんでマーキングが……!?」
「知らねぇよ」
二歩。
三歩。
一直線。
悠然とした歩みで、何の影響もない様子の響が真っ直ぐ迫る。
「俺は砕城響」
綺羅羅の目の前まで来た響が、拳を振り上げる。
「テメェらの同級生だ」
ゴツン。
「──あいたぁっ!?」
拳骨を落とされた綺羅羅の悲鳴が、春空に響き渡った。
筆者「領域展開を見ることができない代わりに、領域展開に対して無敵になる。こと呪術戦において常に盤外にいることができるってところが転生チートオリ主っぽいよネ。
Q: 呪術廻戦で一番アガる要素とは?
A:
週三回の投稿ができず申し訳ねえ。休日はきちんと休むことが筆者がエタらないように自分で結んだ縛りなんでゲス。毎日投稿や継続投稿の維持はもうやらねえって決めてんだ。エタらせる予定はないので気長に待ってて下せえ。」
秤金次の強みを殺す同級生の屑。4分11秒状態の秤金次との戦闘シーンもどっかで書きたい。
星綺羅羅の術式を無効化する同級生の屑。星間飛行に限らず本人を対象にとる術式は根本から無効化されます。不義遊戯も本人を対象に取った入れ替えは無効。
次回はきちんとした自己紹介とあとなんかの予定。
なお次。ごめーんね。