一番アガるシーンを見ないという天与呪縛   作:意外にも喧嘩好きの不良キャラ居なくね?

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前回のあらすじ: 五条悟をぶん殴れる男。
新入生合同喧嘩会の開催。勝者は砕城響。


※一年生編ではジェンダー関連及びキラキラネームに関するセンシティブな話題を扱う可能性があります。この手の内容にナイーブな方は、念の為ご注意ください。
思いついた設定をそのままストーリーに導入するための整合性を考えるのに困ったため、一先ずはざっくり流して済ませるつもりですけどもね。一応ね。

困りすぎて死ぬほど書き直した結果誤魔化すことにしたわよ!!


新入生歓迎オリエンテーション(嘘)

 某日。春の陽気が、呪術高専の演習場に微かな眠気を運ぶある日。

 そこに立つ二人の男──最強の呪術師と、破天荒な新入生──が放つ空気も、どこか緩んだものだった。

 

 

「……え~、第二回『チキチキ! 覇者喧勝の術式効果を解き明かせ~!!』を開催しまーす……どんどんパフパフ……」

 

 五条悟の宣言は、前回とは打って変わって露骨にテンションが低い。やる気のない拍手が、乾いた音を立てて消える。

 

 

「またやんのかよ、そのふざけた企画」

 

 辟易とした声を上げたのは、砕城響だ。だが、その格好はツッコミを入れる五条以上に「ふざけて」いた。

 高専の制服を腕まくりし、頭には麦わら帽子。肩に虫取り網を担ぎ、腰には虫カゴをぶら下げている。

 

 

「いや、まだまだ未解明な部分も多いし、僕の知的好奇心も疼くしさ! ……というか、その格好なに? 令和の虫取り少年?」

 

「さっきナメ川センパイに聞いたんだがよ、この東京高専には“白黒の珍獣”がいるって噂があるらしいんだわ。暇だったから探そうと思ってな」

 

 響の瞳は至って真面目だった。心なしか輝いている気もする。

 

 

「……? あー、それって(パン……なるほどねぇ、その虫取り網とカゴには収まらないと思うけど)……まぁ、言うのは無粋か。その"珍獣"の居場所は心当たりあるよ。この検証が済んだら、教えてあげる」

 

 噂の真相──パンダの存在──を知っている五条は、一瞬天を仰ぎ、内心で「零司くん、ちょっと適当なこと吹き込んだな?」と思ったが、これを利用しない手はない。

 

 

「マジかよ、本当に居るんだな、珍獣。……で、何すればいい。また領域展開(あの自爆技)か?」

 

「自爆技じゃないんだけどねー。……今回はちょっと趣向を変えるよ。今からやる領域は、君を対象に取らない状態で展開してみる。黒い球状の結界ができると思うから、響はそれが安定した頃──5秒後くらいに外側から入ってきてみてよ」

 

「ふん……まあいいぜ。やって見せろよ」

 

 了承を得た五条はやる気満々に気合を込めた(ちょっと本気出した)様子で、人差し指と中指を交差させる。

 

 

「──領域展開」

 

 瞬間、虚空から溢れ出した呪力が空間を塗りつぶし、体内に格納されていた小宇宙を内包した「殻」が顕現した。五条悟の『無量空処』。無制限の情報が渦巻く五条の領域だ。

 

 

「……もういいか。触りゃあいいんだな」

 

 数秒後、響が躊躇なく右手を伸ばす。指先が結界の外殻に触れた。

 

 

──バギィ!!  

 

 

 その瞬間だった。

 本来は外部からの干渉にもある程度の耐性があるはずの領域の壁が、ガラス細工のように亀裂を走らせる。

 

 

「(成立した領域へ後から侵入してくる状況なら、多少は抵抗できるかと思ったけど……これでもダメか。まあ予想通り。だけど──!)」

 

 ここまでは予想通り。五条は領域内部で既に目隠しを外していた。

 露出した『六眼』が、崩落の起点となる響の指先を、その周囲の結界の状態を介して捉える。

 

 

「ここからが、検証の時間だ」

 

 五条は全力の呪力を領域の維持へと回す。堰を切ったように崩壊していく領域の外殻を、高純度高効率の呪力で修復し、無理やり繋ぎ止め続けるという、神業に近い抵抗。

 

 

──ギギギ、ギギ…………! 

 

 

 黒い球体が激しく歪み、異音を上げる。

 

 

「……っ、く……!」

 

「ん……? (なんか変なもんが見える気が──)」

 

 響の視界に、刹那の瞬間だけ無辺の宇宙(無量空処の内部)が捉えられる。だが、彼がそれを「認識」するよりも早く──。

 

 

──バギィン!!  

 

 

 臨界。

 五条悟の全力の抵抗すら数瞬で押し流し、漆黒の結界は粉々に砕け散った。

 演習場に静寂が戻る。五条は肩で息をつき、焼き切れた術式の感触を噛み締めていた。

 

 

「……終わりか。(何だったんださっきの?)──ま、どうでもいいか。オイ五条(ゴジョー)、これで満足か?」

 

「……うん。やっぱり響を抑えるのは無理みたいだ。()でさえ無理だったんだから、他のどんな領域でさえ、君を阻むことはできないんだろうね。……さすがだよ、響」

 

 五条は苦笑いしながら、目隠しを巻き直した。響の術式は、まだ未解明のままだ。

 

 

「はあ……領域展開、何が何なんだかさっぱり分からねえな。……で、珍獣の件だが。どこにいやがる」

 

「ああ、そういえばそうだった。夜蛾学長がその珍獣の飼い主()……じゃないや、事情を詳しく知っているから、今すぐ聞いてきなよ」

 

「ああ!? たらい回しかよふざけんな! ってかお前に呼び止められなきゃ、さっさと聞きに行ってたわ!」

 

 怒鳴り散らしながら、麦わら帽子を直して走り去る響。その背中には虫取り網が揺れている。

 その、あまりに真っ直ぐで不器用な少年の姿を見送りながら、五条はぽつりと呟いた。

 

 

「自分から学長室に聞きに行くつもりだったんだ。……響ってやっぱり、根が真面目だよねぇ」

 

 最強にさえ「不可解」という熱を突きつける少年は、いま、高専の森へ一頭のパンダを捕まえに、全力で駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

「──あいたぁっ!?」

 

 乾いた音が、春のグラウンドに響いた。

 

 両手で頭を押さえ、その場にしゃがみ込む星綺羅羅。

 対する砕城響は、拳骨を落とした右手をぶらぶらと振りながら、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 

「ギャーギャー騒ぐな。拳骨の一発ごときで」

 

「いやいやいや!? 普通、初対面の相手に拳骨落とす!?」

 

「落とした」

 

「見りゃ分かるよぉ! 鬼、悪魔、あいたたた……」

 

 涙目で抗議する綺羅羅を見下ろし、響は口の端を吊り上げた。

 

 

「改めて……砕城響だ。よろしくな、綺羅羅」

 

 その声音には、先ほどまで綺羅羅へ向けていた剥き出しの殺気は、もうほとんど残っていなかった。

 

 綺羅羅は頭を押さえたまま呆然と響を見上げる。

 

 その少し離れたところで。

 

 

「は、はは……っ、クソ、腹いてぇ……」

 

 よろよろと立ち上がった秤金次が腹を押さえながら笑っていた。

 

 さっき響にまともにもらった一撃が、未だに内臓へ鈍く響いている。再び捻出した呪力で誤魔化してはいるが、正直かなり痛い。

 

 一方で、響の方はというと。

 

 秤との殴り合いで頬に走っていた擦り傷も、ぶつかり合って拳の皮膚が破れていた痕も、気づけばほとんど消えていた。

 

 傍にいた綺羅羅がそれに気づき、ぎょっと目を見開く。

 

 

「……え、ちょっと待って。殴り合ってた傷、治ってない?」

 

「あ? あー……そういや治ってんな」

 

「『治ってんな』じゃないでしょ!? 何それ!?」

 

「知らねぇよ。勝手に治った」

 

「怖……」

 

 綺羅羅が半歩引く。

 

 すると響が、じろりと睨んだ。

 

 

「ビビってんじゃねぇよ」

 

「いやビビるよ!?」

 

 

 

「はいはいそこまでー」

 

 パンパン、と手を叩きながら五条悟が割って入った。

 

 その口元には笑みを湛えている。

 

 

「いやぁ、いいね青春。殴り合って仲良くなるって、実に少年漫画的だよ」

 

「そういうもんか、五条(ゴジョー)

 

「俺も結構ノれてきたぜ……」

 

「響くんも金次くんも絶対感覚おかしいって……」

 

 綺羅羅がげんなりと呟く。

 

 そんな三人を見渡し、五条は満足げに頷いた。

 

 

「よし。それじゃ改めて、教室戻って自己紹介の続きしよっか」

 

「まだやんのかよ」

 

「そりゃやるよ。君たち今日から同級生なんだからさ」

 

 そう言って五条は、三人の背をぐいぐい押しながら校舎へ向かう。

 

 春風が、戦闘で抉れたグラウンドの土埃をさらっていった。

 

 

 

 

 

 一年教室。

 

 先ほどまで一触即発だった空気は、僅かな疲労感と共に落ち着きを取り戻していた。

 

 秤は椅子に深く座り込みながら腹を押さえ、

 

 綺羅羅は未だに頭をさすっており、

 

 響は真ん中の席で退屈そうに外を眺めている。

 

 

「はい、じゃあ仕切り直しねー」

 

 教壇に手をついた五条が軽い調子で言った。

 

 

「まず金次くん」

 

「あー……秤金次。好きなもんは熱くなれる賭け事(ギャンブル)。嫌いなもんはシケた空気。以上」

 

「雑だなぁ」

 

「自己紹介なんざこんなもんだろ」

 

 秤はニヤリと笑い、隣の響へ顎をしゃくる。

 

 

「つーかそこの喧嘩バカの方がもっと雑じゃねぇか」

 

「ん?」

 

「まだ名前しか言ってねぇだろお前。次お前の番だ」

 

「ああ……、砕城響。喧嘩が好き。ムカつく奴は殴る。以上だ」

 

「ほらな?」

 

「終わってるよこのクラス……」

 

 綺羅羅が頭を抱える。

 

 五条はケラケラ笑いながら指を向けた。

 

 

「はい綺羅羅くんもー」

 

「……星綺羅羅。好きなものは……その、綺麗な小物、とか。嫌いなのは騒がしい人……かな」

 

「へぇ、じゃあ俺ら最悪じゃねえか?」

 

 秤が笑う。

 

 綺羅羅は「うっ」と言葉に詰まった。

 

 

「……でもまぁ、退屈はしなさそう」

 

 小さく付け加えられたその言葉に、響がちらりと視線を向けた。

 

 

「……ハッ」

 

 鼻で笑う。

 

 不快そうな響きではなかった。

 

 

 

 その日の午後。

 

 三人はさっそく、五条に連れられて簡易任務へ投入されていた。

 

 

「いや待って待って!! 入学初日っていうかまだ数時間だよ僕たち!?」

 

「実地教育だよ実地教育」

 

「せめてオリエンテーションとかあるでしょ普通!」

 

 綺羅羅の悲鳴を聞き流しながら、五条はひらひら手を振る。

 

 

「呪霊は待ってくれないからねえ。──じゃ、僕は近くで見てるから。()()()()けど、見た感じ三級未満の雑魚呪霊ばっかだし、君たちなら余裕でしょ。困ったら響*1を盾にすればいいよ~」

 

「おいコラ」

 

「同級生を肉盾にしていいのかよ」

 

 秤のツッコミも虚しく、五条は本当に帳を下ろし、その外に消えた。

 

 残されたのは、人気のない廃ビルと、淀んだ呪力の気配。

 

 

「……で、どうするの」

 

 綺羅羅がおそるおそる尋ねる。秤も響も、先ほどグラウンドでの喧嘩を見たばかりで、まだその「底」が見えない。

 

 

「どうするもクソもねぇだろ」

 

 響が首を鳴らす。

 

 

「邪魔なもんから順番に、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。 テメェらは適当に後ろで見てろ! 逸れるんじゃねえぞ!!」

 

 次の瞬間。

 

 響が床を踏み締め突っ込んだ。

 

 

「速っ!?」

 

 驚愕する綺羅羅と笑う秤。

 

 

「ハッ、いいねぇ! その短絡さ、嫌いじゃねぇぜ!! だが、俺にも俺の『熱』があるもんで、抜かしてやるぜ響ィ!」

 

「──あ、ちょっと金次くん、待ってよ!」

 

 ザラついた呪力を撒き散らし、秤もまた重い足音を響かせて後に続く。

 

 綺羅羅は数秒遅れて、盛大に溜息を吐き、動き出した。

 

 

「……最悪だあ。選ぶ進路間違えたかも」

 

 けれど。その瞳には、今まで見たことのない異質な存在への、隠しきれない好奇心が混じっていた。

 

 

 

 ──ショボい結果でイラついてたんだ、ちょうどいい気晴らしだぜ!! 

 

 ──マジにノンストップかよ……! だが逆に、あいつが離れた今ならいけるか? 領域展開──……しゃあっ ジャック・ポットだ!! 

 

 ──やっと追いつい……ちょっと目を離した間に金次くんもなんか回復してる!? うう、また頭が痛くなってきた……何この音……

 

 

 

 

 

 

「はい、お疲れちゃーん」

 

 それから、何事もなく任務終了後。

 

 夕暮れのファミレス*2で、五条悟がドリンクバー*3片手にご満悦で頷いていた。

 

 

「いやぁ、思った以上にバランスいいね君たち。 初陣にしては上出来上出来」

 

「どこがですか……」

 

 綺羅羅はぐったりしている。

 

 秤は切り分けたステーキを齧りながら笑った。

 

 

「まぁ、退屈はしなかったぜ。不完全燃焼のまま帰るよりはマシだ」

 

「弱すぎて、肩慣らしにもならなかったがな……。 金次、さっきのは何だ。あんなデカい音楽鳴らして、頭おかしくなったのかと思ったぞ」

 

「ハッ、あれが俺の術式の本領なんだよ。 ……待てよ。あの時ならテメェとも()()()れんじゃねえか?」

 

「お? 何だか知らねえが、喧嘩ならいつでも買うぜ?」

 

「響くんは基準がおかしいよ」

 

 ツッコミを入れる綺羅羅に、響がじろりと視線を向ける。

 

 

「次は、テメェももっと前に出ろ。……後ろで迷子になってウロウロされると、拳が鈍る」

 

一瞬の沈黙。

 

 

「……は?」

 

 綺羅羅が、顔を上げて響を睨んだ。

 

 

「……それ、僕が足手まといだって言いたいの? 邪魔だから目の届くところで大人しくしてろって?」

 

「ああ? ……事実だろ。目の届かねえ所で死なれたら寝覚めが(わり)いから、モタモタしてんじゃねぇって言ってんだよ」

 

 響の声には、嘘や誤魔化しがない。その言葉は、余りにも無骨で攻撃的な響きとなって、綺羅羅のプライドを逆撫でした。

 

 

「っ……わかったよ! 言われなくても、次は死ぬ気で付いていけばいいんでしょ!」

 

 綺羅羅は憤り混じりに顔を背け、届いた料理にスプーンを突き立てた。

 

 響は、自分の言葉がどうして怒りを買ったのか分からず、ただ不快そうに眉根を寄せた。

 

 

 秤は、そのチグハグなやり取りを咀嚼しながら、黙って眺めていた。

 響の不器用な性質も、綺羅羅の苛立ちも、秤にはおぼろげに透けて見えている。だが、ここで野暮な通訳を入れるほど、秤は安い男ではなかった。

 

 

「……ハッ。いいじゃねぇか、二人ともノれてきてんぜ」

 

 秤はニヤリと笑い、最後の一切れを口に運ぶ。

 

 

「次の任務がありゃあ、また違う目が出るだろ」

 

「……金次くんまで、面白がらないでよ!」

 

まだ互いの内側を読み違え、一線引いたままの空気感。

 

 騒がしい声が、ファミレスの天井へ溶けていく。

 

 窓の外では、東京の春の夕焼けが街を赤く染めていた。

 

 柔らかい熱を帯びた空気を隔てた店内で。砕城響はメロンソーダを一口啜り、得体の知れない同級生たちを、どこか冷めた目で眺めていた。

*1
入学時点で二級術師。滑川は邪知暴虐の王(総監部の判断)に激怒した。

*2
新入生の親睦会なら高級店よりこっちのほうがそれらしい、という秤金次の提案に特に否定意見が出なかったため

*3
闇より出でて闇より黒い五条悟オリジナルブレンド




筆者「
Q: "星綺羅羅"って名前、綺羅綺羅すぎじゃないですか?
A: 突如筆者の脳内に溢れ出した――"存在しない記憶"。
しかし触れる機会を捻出するとダレると判断し無念の割愛。

絶対に星綺羅羅は学力バリ高の中学校出身で、めっちゃ配慮のある周囲から自分の名前について腫物に触れるような扱いを受け続けてきてたと思うんす。マジ家庭環境も箱入りレベルやも知れん。間違いなくパチンコ店の内実は噂程度にも知らないっぽいですし(初めて本気で金ちゃんを殴った時エピソード)中学の容姿と現在の容姿の乖離と設定上それまでに確実に目覚めているであろう術式と端々の言動とで脳内に沸き起こる、空白期間に起こったであろうイベントの数々に思いを馳せること幾星霜。出来婚即放任高額養育費父×ふわふわメルヘン自己愛投影シンママとかいう書き起こすだけでアンチ・ヘイトになるレベルの家庭環境である世界線すら妄想した。少なくともピアノは弾けると思う。弾けろ。


難産でした。中学の容姿が公式で公開されている星綺羅羅の扱いに、冷静に向き合ってみると困りすぎたのでいろいろ後回し。思いついた設定に筆者の文章力が追い付かない。


・五条オリジナルブレンド
不味い。ノリで作った。

・ステーキ
とりあえず一番高い料理。先生の奢りなので遠慮しない。

・メロンソーダ
おこちゃま。

・スプーンを突き立てた
オムライスかドリアかその類。最初はパフェって書いたけどさすがに修正。



3話更新は気合で維持します。ガンバルゾー!

やれるかじゃねえ、やるんだよ!

なお次。ごめーんね。
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