一番アガるシーンを見ないという天与呪縛   作:意外にも喧嘩好きの不良キャラ居なくね?

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前回のあらすじ: "現代最強の術師"五条悟、ガン逃げ引き撃ち戦法。
砕城響は雪に埋もれてあえなく降参。呪術高専東京校へドナドナ(空輸)。

私は戦闘シーンが書きたいのだ。書かせてください。


五条悟を殴れる男

 呪術高専東京校、その敷地内にて。

 

 

 

「ぐ……。(ひで)ぇ目に遭った」

 

「まあまあ、歩きで雪山を下りて、それから飛行機に乗って、電車に乗って……、ってより、こっちの方がずいぶん早いでしょ。いい経験したと思いなよ。()()()()()()も踏まずに済むしね」

 

「ああ……? まあいい、ここが呪術高専か。……これからどうすんだ?」

 

「そうだねぇ、まずは学長にあいさつかな。ついておいで。

 

 ──あ、そうだ。僕が先に学長室に入るけど、君は入らずに外で待機ね」

 

「あ? なんでだよ」

 

「ちょっとした演出だよ。多分その方が面白いからね!」

 

 

 

 

 

 

 学長室。

 重苦しい空気の中、東京校学長・夜蛾正道の机の上には人形*1ではなく、先の事件に関する数枚の書類*2の束が載せられていた。

 紙の端は僅かに歪み、強く押さえられた形跡がある。すでに一度、怒りをぶつけられているのだろう。

 

 

「夜っ蛾(がっく)長~。今戻ったよん」

 

 その空気を破るように扉を開け放ち、五条悟がわざとらしく明るい声で入室する。

 

 

「悟。説明しろ」

 

 低く、腹に落ちる声。

 五条の目論見は失敗する。室内の空気は霧散せず滞留し、さらに一段重く沈んだ。

 

 夜蛾の低く響く声に、五条悟はあえて軽薄な笑みを浮かべて肩をすくめた。

 

 

「説明も何も、北海道での特級呪霊騒ぎは処理済みだよ。結果で言えば、山一つ()()してやった*3し、二次災害も起こってないでしょ? 何も問題ないって」

 

「問題があるから呼んでいるんだ。北海道の"窓"から、「祓除終了の連絡を受けて現場を確認したが、呪霊に関する残穢が"お前のもの以外"まるで残っておらず、帳内部の状況検証が不明確」との報告があった。現場も、領域の展開されていた事故現場付近は傷一つなく残されていたが、それ以外の場所が周辺穴だらけで、雪崩など麓への二次被害が発生しなかったのは奇跡だったそうだ。その上今回の件とは無関係なお前らしき目撃情報*4も……待て、外にいるのは誰だ」

 

 

 それまで、つらつらと罪状を述べるように圧力をかけていた夜蛾の声が止まる。五条悟の呪力を感知してから、怒りのせいかその他の呪力の感知が乱れていた。

 

 

「今ごろ気づいたの? ──もういいよ響、入っておいで」

 

「……ああ」

 

 

 両耳から手を離した*5五条が手招きすると、開きっぱなしだった扉の外で待機していた砕城響がのそのそと歩み出る。学生服姿の少年の姿を見て、夜蛾は険しい表情を緩め、その声を、どこか慈愛の宿った声色に変えた。

 

 

「……随分と若いな。君は、まさか報告にあった唯一の生存者……砕城響君か?」

 

 学生服のポケットに手を突っ込んでそっぽを向き、荒々しい呪力がその体内から漏れている響を、「目の前で起こった悲惨で痛ましい出来事を受け入れることが難しいのだ」と解釈した夜蛾は、彼の傷心を殊更に慮り、言葉を選んで話す。

 

 

「……辛い目に遭ったな。君は特級レベルの呪霊災害、その中でも奇跡的な、唯一の生存者だったそうだ。……高専(ウチ)としては、君のような呪霊被害の犠牲者をそのままにしたくはない。身寄りがないなら、高卒認定を受け手に職をつけるまでは寮で住まわせることもできる。呪いの存在を知り、呪力に目覚めた今、もし中学校の卒業を──元の世界に馴染めないようならば呪術界の裏方……"窓"という役職に就いて生きる道もある。──今は安全な場所で、ゆっくりと心の傷を癒すといい」

 

 

 夜蛾が心からの提案を口にした、その瞬間だった。

 

 

「あーあー、夜蛾学長。この子、"窓"にするには勿体ないよ」

 五条悟が、あまりにも気負いなく、話に割って入ってきた。

 

 

「……何?」

 話が読めず、怪訝な顔を隠せない夜蛾に、五条はニヤリと笑って、

 

 

「実は特級呪霊を祓ったの、()()()。僕より先に」

 

「──は?」

 

 夜蛾の声が裏返った。五条の言葉の意味を理解するのに、数秒の沈黙が必要だった。

 

 

「おい悟。何を言っている。この子は……呪力に目覚めたての中学生だぞ?」

 

 

「しかもすごいよ、学長。この子、なんと僕を殴れる。()()()()()を貫通してね」

 五条は楽しそうに、獲物を紹介する武器商人のように響の肩を叩く。

 

 

「こりゃあ"窓"なんかに納めるべきじゃない。呪術師として正式に高専に入学させるべきでしょ。ね?」

 

「……本気で言っているのか。お前の術式を貫通する、だと?」

 

「本当ですか、と聞くなら……本当だ」

 響が短く言い放つ。その目に宿る、夜蛾すら射抜くような昏い光に、学長は息を呑んだ。

 

 

 夜蛾はサングラスの奥の目を鋭くし、響を真っ直ぐに見据えた。声色から慈愛の色は消え、呪術師(学生)に対する心構えを問い質すべく、呪術師(学長)としての峻烈な面談が始まる。

 

 

「……君は、本当に呪術師になりたいのか? そこの五条悟(バカ)にそそのかされて、ではなく、君自身の意思で。……何のためにその力を振るうつもりだ」

 

「……何のため、か」

 

 

 響はポケットから手を抜き、忌々しげに天井を見上げた。

 蛍光灯の白い光が、無機質に瞳へ反射する。

 

 

 しばらくの沈黙。

 時計の針の音が、やけに大きく響く。

 

 

「……知らねぇよ、そんなもん」

 

 吐き捨てるように言う。

 

 

「俺は喧嘩が好きだ。目の前にムカつくもんがあったら壊す。そんだけだ」

 

 迷いのない、剥き出しの暴力性。夜蛾の眉間に深い皺が寄る。

 

 

「そうか、では聞き方を変える」

 

 低い声が、空気を押し下げる。

 呪力ではない。それでも逃げ場のない圧。

 

 

「先の現場で、お前は何を見た」

 

「……は?」

 

「特級呪霊だ。君の家族を含む多くの人間が死んだ。その中心にお前がいた」

 

 夜蛾の視線はサングラス越しにも響の眼を貫いて逸れない。

 逃げることも、誤魔化すことも許さない問い。

 

 

「その時、お前は"何を思って"拳を振るった」

 

 響の舌打ちが、やけに大きく響いた。

 

 

「……るせぇな」

 

 わずかに肩が揺れる。苛立ちか、それとも──。

 

 

「答えろ」

 

 一歩も引かない。

 

 

 圧が増す。

 

 

 部屋の隅に置かれた呪骸が、微かに身動ぎする。

 

 

「別に、大した理由なんかねぇよ」

 

 響は壁に視線を投げる。

 だが、その焦点は今この場に合ってはいない。

 

 

「……うるさかったんだよ」

 

 ぽつりと、言葉が落ちる。

 

「誰かの叫び声とか、吹雪の音とか、呪霊の声も」

 

 響の指先がわずかに動く。

 無意識に、何かを振り払うように。

 

 

「目障りで、耳障りで……ムカついた」

 

 夜蛾は黙って聞く。

 

 

「だからぶっ壊した。全部」

 

 笑っているのに、まるで楽しそうではない。

 

 

「結果、俺一人生き残った。──満足かよ」

 

 自嘲気味に吐き捨てた響に対し、夜蛾は間髪入れずに否定を突きつけた。

 

 

「……違うな」

 

 間を置かない否定。

 それが、言葉以上に強く響いた。

 

 

 響の目が鋭く細まる。

 

 

「お前は"静かにしたかった"だけだ」

 

「……あ?」

 

「自分の中の不快を消すために殴った、その衝動自体は否定しない」

 

 夜蛾の声は、響の核心を突くように重く響く。

 だが、響は救われたような顔など微塵も見せなかった。逆に、苛立ちを隠そうともせず、夜蛾を睨みつける。

 

 

「……ハッ、勝手に分析してんじゃねえよ、説教臭いおっさんだな。俺はただ、あいつがムカついたからブチ殺した。それだけだっつってんだろ」

 

「ならば、その延長で人間も同じように扱うというのか。……いいか、砕城響」

 

 夜蛾が立ち上がる。その体躯から放たれる圧が、物理的な重圧となって室内を支配した。

 

 

「ここは呪いを祓う場所だ。お前の『喧嘩』で人間を壊す場所ではない。その区別もつかんまま力を振るうなら、お前はただの呪詛師だ。我々呪術師が、真っ先に処刑・排除すべき対象となる」

 

「……ジュソシ? ああ?」

 

 響は小馬鹿にしたように鼻で笑った。

 

 

「さっき五条(ゴジョー)も言ってたが、呪術師(ジュジュツシ)だの呪詛師(ジュソシ)だの、なんなんだよそれ。早口言葉か? 悪いが俺はそんな専門用語(センモンヨーゴ)、これっぽっちも知らねえし興味もねえよ。俺の邪魔をする奴、俺の気に食わねえ奴……そいつがバケモンだろうが人間だろうが、関係ねえ。突っかかってくるなら、俺は拳で答える。そんだけだ。お前が俺を殺すって言うなら、今ここでやってみろよ」

 

 夜蛾は、ほんのわずかに目を細めた。

 

 

 評価ではない。

 "矯正可能"と判断した目だった。

 

 

 イカれている。その眼を見て言葉を聴いて、夜蛾は直感した。だが呪いに関わるものは皆、多かれ少なかれ狂人である。

 

 その中で、少なくとも会話が通じ、殺意の矛先が限定的であり()()()()()()()()という事実は、この場において非常に肯定的な判断材料だった。

 

 しかし、この少年が事件のショックで錯乱している可能性もわずかにある。強力な術式が死の淵で発現し、呪力に酔ってハイになり、呪術師という危険な道へ軽はずみに踏み出そうとしている可能性も。

 夜蛾は学長として、それを確かめる必要があった。

 

 

 響の体内から、制御しきれない暴力的な呪力が溢れ出す。

 一触即発。夜蛾が部屋の隅から呪骸を呼び出そうと指を動かした、その時。

 

 

「はいはい、そこまで! 物騒なこと言わないの」

 

 五条が、ひょいと二人の視線の間に割って入った。緊張感に満ちた空気を、わざとらしく明るい声で切り裂く。

 

 

「夜蛾学長、脅しすぎ。この子、まだ『呪い』の『の』の字も知らない一般人なんだからさ。呪術師、呪詛師なんて言葉、聞かせたってチンプンカンプンだよ」

 

「……悟、退け。教育の場で甘えは許されん」

 

「いやいや、教育する価値があるから連れてきたんだって。学長、この子さっき言った通り、特級を独力で祓ってる。それだけじゃない」

 

 五条はニヤリと笑うと、響に向かって自分の右手を無防備に差し出した。

 

 

「ほら響、お手」

 

 そのあまりの馴れ馴れしさに、響の眉がピクリと動く。

 

 

「……ふざけんじゃねえよ、白髪」

 

 響は吐き捨てながらも、その挑発に乗った。

 一歩。床を踏み締める音が、ずしりと室内に響く。

 溜めも何もなく、最短距離で放たれた響の左拳が、五条の掌を鋭く叩いた。

 

 

パァァァン!!

 

 

 空間が歪み、乾いた衝突音が響く。

 五条の「無下限」に触れた瞬間、響の拳から未知の術式が火花を散らし、不可視の防壁を無理やりこじ開け、五条の掌とぶつかる。それは間違いなく「無限」の防壁を貫通し、物理的な衝撃を伴って五条の肉体に届いていた。

 

 

「……ッ!?」

 

 夜蛾のサングラスの奥の目が、驚愕に大きく見開かれる。

 机に手を突いてやや前のめりになり、信じられないものを見る目で響の手を見つめた。

 ──五条の無下限を、本当にこの少年が……! 

 

 

「……見たでしょ? 僕の術式(バリア)を貫通して、しかも僕の呪力を削りながら殴れる。ね、これを『"窓"』なんかにしたり、あまつさえ『呪詛師』として処分しちゃうなんて、呪術界にとっての損失だと思わない? 絶対に僕の側で教育(しつけ)した方がいいって」

 

 五条は、叩かれた掌を軽く振りながら、面白くて仕方がないという風に笑う。

 

 

「……はん。おっさん、これで分かったか。俺は誰に指図されるつもりもねえし、お前らのルールなんて知らねえ。五条(コイツ)と喧嘩して負けたから、ここに来ただけだ。……だが、あの雪山のバケモンみたいな『ムカつく連中』が他にもいんのなら、そいつらを殴る場所としてここは悪くねえらしい」

 

 響は夜蛾を見据えたまま、ポケットに手を突っ込んだ。

 

 

 

「俺をここに置くなら、退屈させんじゃねえぞ」

 

 

 

 ──報告を聞く限り発現直後のはずが、しっかりと意識して拳に呪力を流し、五条悟に通用する術式を扱っている。本能レベルにしろ、この才能を腐らせることはできない。

 

 

 五条悟の「無下限」を、術師として産声を上げたばかりの少年が、明確な意志を持って貫通した。その事実は、夜蛾のこれまでの常識を根底から揺さぶる。

 

 

 夜蛾は大きく息を吐き出すと、椅子に深く座り直しこめかみを押さえた。

 

 ──イカれきっている。だが、この才能を、この危うい均衡を、外に放り出すリスクはあまりに大きい。

 

 

 

「……ガッデム。悟、お前が連れてくるのはいつも問題児ばかりだな。……砕城響。君の入学を認める。だが、一歩でも道を外せば、その時は私が直々に引導を渡すと思え。……寮の部屋については後程案内する。今は一旦、退出してくれ」

 

 五条が「よしよし、合格! しばらく敷地内をぶらぶらしておいで」と告げると、響はふん、と鼻を鳴らしてそのまま一言も返さず、背を向けて学長室を出て行った。

 

 

 開いていた扉が閉まる。足音が遠ざかっていく。

 数秒の静寂の後、夜蛾が声を荒らげた。

 

 

「悟!! 説明しろ! あの少年の術式はなんなんだ! 経歴は! 身元は! 本当に信用できるのか!」

 

 五条は「なんもわかんない!」と、最高級の笑顔でへらへらと答えた。

 

 

「ガッデム!!」

 

 机を叩く夜蛾に、五条は悪びれもせず、しかし声のトーンをわずかに低くして言い放った。

 

 

「──でも、彼は信用できる。術式のことも経歴も、僕には何も分からないけれど……彼は、嘘をついていなかった。僕が保証しますよ、学長。

 

 響の経歴は今身辺調査中*6。でも少なくとも肉親はもういないから、身元は僕が代わりに引き受ける。それでいいですよね?」

 

 五条の言葉には、最強としての絶対的な確信と自負が込められていた。夜蛾は深く溜息をつき、再び書類の束へと目を落とすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「ご遺体は確認したが、一名いたと連絡された生存者が行方不明で今も捜索中だそうだ。お前……連れて帰ってくるなら事前にそう伝えておけ!!」

 

「メンゴ☆」

 

「ガッデム!!」

 

「がああああ」*7

*1
夜蛾の術式に関する実益を兼ねた裁縫趣味。キモカワ。

*2
事件報告書及び苦情申立書

*3
響の術式検証中、ついでに周囲一帯の呪霊を祓っていた。さす五条。

*4
前話ラストシーン。現在"窓"が必死に目撃情報を鎮火中。カス五条。

*5
あーあーきこえなーい。

*6
五条悟による丸投げ。"窓"は今日も頑張っている。

*7
それ以上いけない、いやもっとやれ! ──"窓"一同




筆者「五条先生のノリが軽すぎるかもしれない。普段の品行はともかく呪術師としての仕事には(最終的に帳尻を合わせることを込みで)真摯な人だと思って書いているけど、もしも解釈違いだったら教えてください。

夜蛾学長の能力を不当に低く扱っているかもしれない。客観的評価者として"びっくりする役"を着せすぎているかもしれない。バランスをとるためにものすげー人格者として書いているけど、もしも解釈違いだったら教えてください。


>>ガッデム。悟、お前が連れてくるのは()()()問題児ばかりだな。
ここ未来予知(問題児といえるのは現時点で強いて言えば秤だけ)。
でもうまく話を締められる決め台詞が思いつかなかった。筆者の技量不足です。ごめん。
P.S. 過去改変で問題児増やすかも。


>>「がああああ」(それ以上いけない)
孤独のグルメ。夜蛾学長のプロレス技は五条悟に通用する。五条悟はノリのいい男。



今話が実質的に前回までの主人公の能力についてもう一度説明するだけの回で、ほぼ内容ナシなのがつれぇ!

なお次回は五条先生の総監部面談報告回になる予定なので筆者のモチベはさらに低下だ!!

↑短くまとまるとプラスしてなんかが入るかも。


そして投稿予定時間は未定です。ごめーんね。基本的に平日に3回くらいの更新頻度にしたみ。
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