一番アガるシーンを見ないという天与呪縛   作:意外にも喧嘩好きの不良キャラ居なくね?

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前回のあらすじ: 砕城響は夢を見る。
中学校に荷物を取りに行こう!前編。

前回の設定をちょっと調整しました。さすがに昨日の今日過ぎて展開詰めすぎだと感じたので、中学校来訪のタイミングを響覚醒から数日後ということにします。ごめん。


学校の怪談とメランコリック

 

 

 

 

 

【山道で交通事故、家族の遺体発見。長男は捜索中──北海道】

 

 週末の夜、何気なく流れていたテレビの音が、不意に耳に残った。

 

 交通事故、雪山、家族の死亡。

 

 そして──行方不明。

 

 映し出されたシルバーワゴンは前面が大きく破損している。白い雪。赤色灯。その映像の傍らに添えられた写真は、中学行事のどこかのタイミングから引用された、いつかの笑顔だった。

 

 

「……嘘だろ」

 

 声は薄く滑り落ちたようで、自分のものではないように聞こえた。「響くんじゃないの」遠くで母親の小さな悲鳴が響く。

 

 アナウンサーは繰り返す。“行方は分かっていない”と。

 

 死んだとは言っていない。

 

 その一文にすがるように、彼は画面を見つめた。

 

 救助隊とか、ヘリとか、ニュースでよく見るやつがすぐ来て、案外あっさり──

 

 

 ──雪が降り始め、捜索は難航しており──。

 

 

 それだけの情報が、逆に想像を呼び込む。

 

 白い闇の中に、放り出されてたったひとり。

 

 

「……いや」

 

 小さく首を振る。

 

 あいつは、あんなふうに普通に笑っていた。今朝も、何も変わらない顔で。

 

 

 ──楽しんでくるね。

 

 

 違和感など、なかったはずだ。

 

 そう思いかけて、ふと引っかかる。

 

 昇降口での、ほんの一瞬。

 

 

 

「……なんか、あんまり楽しそうじゃないなって」

 

 あの言葉に、わずかに見開かれた目。

 

 

「……気のせいだろ」

 

 自分に言い聞かせるように呟く。

 

 眠いだけだと言っていた。ちゃんと笑っていた。

 

 それでも。

 

 

 ──また来週。

 

 

 自分の声だけが、やけに鮮明に残っている。

 

 返事は、なかった。

 

 

 

「……早く見つかれよ」

 

 祈るような声が、誰に届くでもなく零れた。

 

 

 

 その夜、眠りは浅かった。

 

 目を閉じれば、雪と赤色灯が滲んで浮かび上がる。意識を手放すたびに、同じ光景に引き戻された。

 

 

 

 翌朝、いつもより早く目が覚め、居間のテレビをつける。

 

 だが新しい情報はなかった。

 

 

『……昨日午後、北海道の山道で、乗用車同士が接触する交通事故が発生しました。車内からは地元の──さん及び観光に来ていた砕城(さいじょう)さん一家の遺体が発見されましたが、同乗していたとされる中学三年の砕城響くん(15)の行方は現在も分かっておりません。捜索隊は現在も雪山を捜索中ですが、現場の天候が悪化しており──』

 

 

 捜索は続いている──それだけが繰り返される。

 

 一日中同じだった。

 

 時間ばかりが過ぎ、状況は少しも動かない。

 

 

「……遅くないか」

 

 思わず漏れた言葉に、自分で顔をしかめる。

 

 救助活動が遅い理由など、考えなくても分かる。

 

 天候。雪。山。

 

 その先を、考えないようにするだけで精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気が、生理的な不快感を伴って粘ついていた。

 

 ざわざわと、くすくすと、聴くものの身の毛もよだつような奇怪な声が廊下を反響している。

 

 空気中には呪霊のざわめきと、人間の恐怖が混ざっていた。

 

 

 

(他のやつにも視えてんのか? こいつらは)

 

 

 ──非術師(一般人)は呪いを視認できません。そこが高濃度の呪力で満たされていたり、本人が死に瀕していたりする場合はその限りではなく、彼らでも視認できるようになる場合もありますが。

 

 脳裏に過る杉並の説明。今の状況は前者だろうが、校内ではまだ大した騒ぎは起こっていないようだった。

 

(──もう見える奴とまだ見えないやつがいるらしい。怪我人はいんのか?)

 

 

 廊下の角から、掃除用具入れの隙間から、無数の「目」と「口」が這い出してくる。

 

 

 

「──はは、こっちのほうが()()()な」

 

 響の視界を埋め尽くしたのは有象無象の雑魚の群れと、旧校舎よりも()()になった低級呪霊の気配だ。それらは、学校という檻の中で「怪談」と「現実」の継ぎ接ぎを撒き散らしていた。

 

(今はやたら喋るやつを優先して祓う(殺す)。雑魚がその辺に居るだけなら逃げれんだろ)

 

 

 

 

「おい、お前ら逃げろ」

 

 

 音楽室の扉を開け放つ。

 

 

 怪訝そうな表情の生徒たちと、怯える一人の女子生徒。吹奏楽部か。

 

 

「状況わかるやつ、いるんだな。お前が先頭で外出ろ。走れ」

 

「砕城くん? 今は練習中よ、用事なら後に―」

 

「うるせぇぞババア、急いで避難しろって言ってんだ」

 

 指差す一階の窓から校庭へ。コクコクと頷いて動こうとする女子とあっけにとられる女性教師、顔を見合わせる大多数。

 

 

 窓際に立つ一人のその背後、カーテンに擬態していた呪霊が、無防備な男子生徒の首へ触手を伸ばそうとしていた。

 

 

『帰れない、帰さない。だッてランドセルの中、石、石、石! こんなに詰め込んだら、アンタの背骨、笑ッちゃうでしょお゙ォッ!?』

 

 

「──ッ!」

 

 響が瞬時に床を蹴る。呪力を纏った拳がカーテンごと呪霊を貫いた。

 

 かすった触手で生徒の頬に赤い切り傷が走るが、致命傷には至らない。響は構わず、怯える生徒たちの襟首を掴んでそのまま窓から放り出す。

 

 

『三枚目、トびらの三枚目は開かないの、だッてあの子が中から鍵飲み込んじゃッたからぁ。あハ、カチリ、カチリッて、胃の中で音がする、おなかが痛゙い゙、のぉお゙ッ!!』

 

 

 開けた扉がギシギシと軋みを上げ、蝶番がへし折れる。ただ事ではない異変に、教師もようやく悲鳴を上げた。

 

 

 ニタニタと笑う呪霊に舌打ちをして、窓際から反転し殴りつける。人知を超えた響の動作とぐしゃりと弾ける呪霊の残滓に、周囲は戦慄と共に事態を認識した。

 

 

 

「窓から出ろ! あの黒い壁の外まで走れ! 迷ったら殺すぞ!」

 

 

 脅し文句ではない。響の殺気に押された生徒たちは、逃げる以外の選択肢を失い、悲鳴を上げながら走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 次の教室。

 

『お花、お花、机に枯れたお花。でも花瓶の水これ誰の涙ぁ? しょッぱい、ねえ、しょッぱいよ。もッと、もォッとお、泣いてくれないと、お花が、死んじゃうでしょぉお゙?』

 

 

 足元の呪霊を蹴り飛ばした先で、別の呪霊が床に這いつくばりながら、上履きを執拗に舐め回すような声を上げている。

 

 

 

 図書室。

 

『しーッ! 静かに、図書室のユーレイが怒るよ。あの子の口、ホチキスで綴じちッたからぁ。もう、一文字も、喋れない、喋っちゃダメだ゙ぁあ゙!!』

 

 

 響の呪力に触れてぐずぐずに崩れるそれを握る。

 

 どこの呪霊も同様に、抵抗なく潰れる。

 

 指の間から溢れ出たのは、黒い煤と、錆びた画鋲のような不快な手触りだった。

 

 

 

 理科室。

 

『ねえ理科室の人体模型。あれ、皮を剥いだら中身はアンタだッたよ。赤いの全部アンタの嘘。綺麗に標本にしたげるゥ、内臓、ぜんぶ、洗ッてあげるからぁッ!』

 

 逃げ遅れた生徒が呪霊の粘液に足を取られ、上履きが溶けかけているところを、首根っこを掴んで引き摺り出し、代わりに踏み潰した。

 

 

 

 階段。

 

『ねえ4にんめ、ダれが4人目ぇ? 階段が、だんすうが偶数になッちゃう、あ、あシが一本足りな゙い゙のぉお゙ッ!!』

 

 追い立てられた階段で躓き足を滑らせた生徒をキャッチ。空いた片手で消し飛ばす。

 

 

「雑魚が。学校の怪談ごっこなら、あの世でやってろ」

 

 

 

 気配は減るが、雑魚呪霊の数は減っていない。影が、音が、「呪いの渦」が、飽和して学校中を埋め尽くしていくようだった。

 

 

 校内が呪力で軋む音を背中に聞きながら、窓の外で生徒たちがばらばらに走っていくのが見えた。

 

 校門の向こうへ抜けていき、必死に帳の外へと転がり出る。視界の隅で、彼らが安全な外へと逃げ延びるのを確認し、響は舌打ちして次へ向かう。

 

 

 

 

 救って、祓う。

 

 救って、殺す。

 

 校舎内を、隅から隅まで。

 

 

 

『たの、楽しかったぁ?』

 

『たのしぃのはぁ……おまえだけぇ』

 

 

 

 その合間に、不意にノイズが混じる。

 

 

 

 ──なんでやってる。こんな面倒なこと。

 

 

 

『わ、忘れてるぅ……くせにぃ』

 

『知らないぃ、クせニぃぃぃぃ』

 

 

 ──杉並に言われたからって、守る必要あるか? ちまちまと。

 

 

 

 沈んだままの、もう一人。

 

(……お前なら、どうした)

 

 響は自らの裡に向けて問うてみるが、返事はない。

 

 

 

 最上階の廊下の端、最後の教室。

 

『さいジょォ、くゥン。屋上から見てたよ、アンタの家族。みんなピアノで空飛んでたぁ! あハ、綺麗、お人形さン、みたいだねぇ。ねえ、次はアンタが踊るゥ? 踊るのぉお゙ォッ!?』

 

 

 

 

 

「……。……テメェ」

 

 

 

 響の眼光が、かつてないほど鋭く、冷たく研ぎ澄まされる。

 

 意味不明で支離滅裂な囁きの中に、時折混ざる芯を食ったようなセリフの断片。それが今の響にとっては、何よりも不快なノイズだった。

 

 

 

「黙れ。……その腐った喉、二度と鳴らねぇように潰してやる」

 

 

 

 響は拳に、過剰なまでの呪力を凝縮させる。

 

 この学校に蓄えられた思い出も、怪談も、かつての記憶も。この学び舎に残っているすべてに、跡形もなく始末をつけるために。

 

 

 

 

「さて、小手調べだ。二級呪霊で済まないね」




筆者「投稿予約時刻を夕方にすると感想とかここすきとかワンチャン来るかなーのテスト。

前書きにも書いたけどさすがに設定上「昨日の今日」だと今話の描写に至るまでの情報の伝達や各勢力の動作とかが早すぎたので設定変更しました。金曜出発、土曜の早朝に覚醒、日曜挟んで月曜日か火曜日の夕方とかそんな感じで読んでくださいっす。……それにしても早いか?

今週の3本目は木曜日とかの予定です。明日までの反響を見て投稿時間をいじっていきます。



>>ランドセルの中、石、石、石!
こいつは中学校由来の呪霊ではないらしい。

・喋る呪霊たち
学校の怪談とか都市伝説とかから適当にピックアップしてぼかして混ぜ混ぜした感じ。
こいつらは何となく呪霊っぽい雰囲気の喋り方で書けてるんじゃないの?と筆者は思っている。


・逃げた生徒たち
ちゃんと無事。屋外に出てからはなぜか襲われなかった。現在杉並が要請した応援とともに対応中。

・呪霊のセリフにイラつく砕城響
初のちゃんと喋る(ちゃんと喋るとは言っていない)呪霊との戦闘。根が真面目なのでちょっと受け止めちゃう。

・懊悩する砕城響
フラストレーション溜まり気味&もう一人の自分の母校のためかなりデバフ気味。作中でも指折りの窮地かもしれない。(響が怪我を負う可能性は微塵もないけど)

・最後のセリフ
誰なんやろなあ……。


前後半構成のつもりが前中後半構成になる模様。たった1日の話を5回に分けて描写した筆者だ、実績が違う。ごめんね。


なお次回の投稿予定は……もう言っちゃったけど、確定ではないのでね。その日に投稿できなくても許してね!なんも責任を取らない筆者です。ごめーんね。
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