一番アガるシーンを見ないという天与呪縛 作:意外にも喧嘩好きの不良キャラ居なくね?
生存者の救助をしながら辿り着いた最後の教室には、謎の二級呪霊が待ち構えていた!
中学校編: 後編。砕城響の
「ワルいことしようぜ」
そう言って、放課後の旧校舎に数人で集まったことがあった。
持ち寄ったのは「ワルそうなもの」。
兄の部屋からくすねた一本の煙草。
コンビニで万引きしたというライター。
アンパンを持ってきて「これが一番ヤバいんだぜ」と真顔で言い張るやつに全員で首を傾げたり。
俺はといえば、川原で拾った泥で汚れたエロ本を差し出し、俺こそがワルの頂点だと自負していた。
そんな中、あいつが自信満々に鞄から取り出したのは、一昔前の不良漫画の全巻セットだった。
数年もすればどこかで目にして「ああ、これか」と納得するような、少し時代遅れの少年誌。
それをいかにも「これぞ悪の教典だ」と言わんばかりのドヤ顔で掲げるあいつを見て、俺らはみんな同じことを確信していた。
──こいつは、心の底から真面目で素直なやつなんだ。
結局その日はみんなでその漫画を読んで、みんなして肩で風を切って帰っていった。
──大人ぶって背伸びをした俺らの中で、あいつだけが「ワル」の形を教科書通りに信じていた。その純粋さが、たまらなく可笑しくて、眩しかったんだ。
つい足を運んだ旧校舎で、あいつの顔を見たときに。そう思ったことを、ふと思い出していた。
その教室は、静寂と悪意に満ちていた。
『さいジょォ、くゥン。……踊りましょうゥ? イッしョに、踊ろォよォォ!』
「俺の名前を気安く呼んでんじゃねぇよ!!」
響が踏み込んだ瞬間、その呪霊は奇妙なほどしなやかな指先を踊らせ、嘲笑を浮かべていた。家族の死を娯楽のように語ったその醜悪な口元を、響の拳が粉砕せんとする。
迷いのない全力の打撃。だが、衝突の直前、呪霊は異様な動きを見せた。
『おッとォ! かすル、こワい、イたいのはヤだ!』
「……ッ」
舞うようなしなやかさ。それでいて
『イヒッ、イひヒッ』
宙に浮いた呪霊は、そのまま指先を遊ばせた。
呪霊が握った手を引くと、廊下の奥から集まってきていた雑魚呪霊たちが
響はそれらを薙ぎ払っていくが、操り人形のように糸が通った呪霊たちは、全身が砕け散りながらも不自然な角度で響の顔面へ迫る。
「──チッ、小賢しいマネを」
消失反応による目くらまし。無視して更に踏み込んだ。
着地を狙い、響が拳を放つ。狙った胸部を守るように突き出された呪霊の右腕。接触した響の拳が何の抵抗もなく突き進む様を認識した呪霊は、即座に腕を自切し鮮やかに身を翻した。血の代わりに噴き出す黒い呪力。拳は虚空を切り裂き、響の勢いはわずかに流れた。
『いタい、もげタぁ! いらない、このおてて、アンタにアげる!』
呪霊の血による更なる目くらまし。術式で掻き消しながら怯むことなく踏み込んだ響の追撃が放たれる直前。呪霊の背中から伸びた「呪力の糸」が、天井へ一瞬で突き刺さる。
呪霊は重力を無視して自らの体を吊り上げ、泥のように柔らかな動きで響の拳を回避する。再び距離を空けたその体が右肘を横に伸ばしたかと思えば、校舎内の壁や床に
『ボク、あたラシくなるの。ほら、生エる、生えルゥ! ぐじゅ、グジュ、きレぇな『つぎはぎ』のデきあがりィ! ボク、たかァーい! アンタ、ヒくぅーイ! お星サま、掴めルかなぁッ?』
(コイツ……動きが、今までのと違う。知能があるのか?)
響の警戒心が鋭く尖る。背後の学習机に、わずかに指先が触れた。木の冷たさが皮膚に伝わる。
それを視認した瞬間、呪霊が歪んだ笑い声を上げた。
『あ、そこに……あったねェ。 いい、イス。いい、つくえ』
呪霊が両手を広げる。糸が教室中の学習机と椅子に絡みつき、腕を振るうとその力に煽られ、教室中の学習机と椅子が、砲弾のごとき勢いで響へ向かって飛来した。
ガガガガガッ! と硬質な音が響く。
──「何一つ傷つけない」という条件。
響は反射的に拳を止めた。机を叩き壊せば、破片が飛び散る。任務の成否を天秤にかけ、響は飛来する机を一つ、また一つと受け止めることを選んだ。
ドン、ドン、と腕に衝撃が蓄積する。
だが、次から次へと迫る机の群れ。その圧迫感。
ひやりとしたその感触に、視界が、一瞬だけ別の光景に塗りつぶされた。
(──冷てえ)
五条悟との戦闘。
雪山で向き合った現代最強の異能。雪塊の圧倒的な重量で身動きを封じられ、抵抗する術を奪われたあの時の感覚。逃げ場を失い、ただ押し潰されるだけの無力感。
脳髄に走った悪寒。
響は咄嗟に、その「束縛」を振り払うように高く跳躍した。
──その瞬間。
「ぐっ──」
跳躍の頂点に、呪霊が放り投げた教卓が正確無比に直撃した。
重い木材が胸板を強打する。空中で体勢を崩した響は、勢いを殺せぬまま、教室の窓ガラスを突き破った。
バリバリバリィッ!
破砕音が響く。宙を舞う無数の破片と共に、響の体は重力に従い、校庭の地面へと叩きつけられた。
「……がっ」
砂を噛む。打ち付けた背中に走る痛み。
そこへ、割れた窓から次々と、呪霊が投げ飛ばした掃除用具や教科書、机や椅子などの備品が雨のように降り注ぐ。
校舎内の雑魚呪霊たちは、校舎中の重い荷物を次々と運んできては、次々と呪霊の足元に捧げていく。
それらが校庭に山積みになったころ。呪霊は軽やかに崩落した窓枠を蹴り、山の上へと着地した。
王様にでもなったように、響を見下ろしている。
呪霊は、自分の意志とは無関係に指が動いているかのように、意味もなく校庭の砂を糸で掬い上げ、空に撒き散らしていた。
『あハ、あハハハハッ! ア、壊レた、まタ、壊れチャった! 全部、バラバラ、あハ、あハは!!』
学校という「日常」を、その呪霊は無残に壊し、踏みにじり、我が物顔で暴れている。
(……俺は)
自分は、ここで「枷」のために、この面倒な制約を守り続けていた。
机にさえ傷一つつけないよう、気を使い、汗をかき、体を張って受け止めてきた。
守るべき「日常」とやらを壊さないために。
(──俺は、ずっと我慢してやっていたのに)
響の中で、張り詰めていた理性の糸が、ブチリと音を立てて切れた。
呪力を放出し、吹き飛ばした瓦礫の山から立ち上がった、その瞬間だった。
「──生存者全員の避難を、確認しました」
校庭の入り口に、黒いスーツの男が立っていた。杉並だ。
彼は帳に侵入した直後、無機質な瞳で、その光景を一瞥した。
校庭に山積している大多数が損壊した学校の備品たち。その山の上に立つ呪霊と、ふもとに立つボロボロの砕城響。校舎に目を遣ると、
杉並は、その目を見開いた。
『あ、お客さマが増エた。黒いの、カラス? ポイしよ、ポイ! 壊しチャえ、全部、ぜーんブ、ゴミ箱に……あハ、あハハハハッ!』
杉並の言葉を響が理解するより早く。
「──っ!」
杉並が避ける間などない。しかし、その金属の塊が杉並の眼前に迫った瞬間。
ドォン!!
空気が爆ぜた。
掃除ロッカーは原形を留めず、跡形もなく粉砕され、金属の破片となって四散した。
いつの間にか杉並の正面に移動していた響が、拳を突き出したまま立っていた。
「雑魚野郎が、何でここに入ってきやがった」
呪霊は、投擲したロッカーが文字通り「消失」したかのような破壊の余波に、歪んだ顔をさらに引き攣らせた。次なる獲物を投げようと伸ばした指先が、空中で微かに震え、選びあぐねるように彷徨っている。
対する響は杉並を一顧だにせず、真っ直ぐに呪霊を見据える。
その背後から、杉並の声がかかる。
「正直に言えば、驚いています。こんな呪霊がいるとは想定していませんでした」
「はん、そういやそうだったな。これのどこが"調査"なんだよ、ああ?」
「申し訳ございません。 ──重ねて謝罪を。私はあなたのことを
「……あ?」
前後と繋がらない応答。発言の意図が読めない響に、最低限身を守る構えを取りながら、杉並が続ける。
「あなたを一目見た時から、私はあなたを粗野で乱暴な人物だと見下していました。強い力を、自分のためだけに振るう
「はっ、その見立ては間違ってねえよ」
「──間違っていました。あなたは、圧倒的弱者である私が言ったことを、無視することなく律儀に守ろうとしていた。──あなたは本当に"強い"人だった」
「──……」
「条件変更です。対象を二級呪霊と認定、事ここに至って、もはや建物への配慮は不要と判断します。……補助監督として、対象の祓除を最優先とし、以後は最小限の『破壊行為』を許可します。──どうか、よろしくお願いします」
「……そうかよ」
(……そうか。ここは校庭だ)
これまでは校舎という「枷」を壊さないことだけに腐心していた。だが、ここは開けた校庭。広大な空の下。
「……なぁ。さっき『踊る』とか言ったか? お山の大将」
響は拳を握り直す。
その言葉と呼応するように、響から漏れ出す呪力が、物理的な質量を以て校庭の砂を押し広げていく。
先ほどまでの、どこか「制御」を感じさせる呪力の練り上げ方ではない。
大地を揺るがすほどの、暴虐的なまでの呪力が、響の全身から立ち上る。
呪霊は、その圧倒的な威圧感に「遊び」の継続が不可能であることを察したのか、喉の奥から『ヒ、ギ……ッ』と、ひしゃげた笛のような音を漏らした。
逃走か、あるいは 全力を伴う反撃を。 呪霊の本能を縛る『
「ぶっ飛ばしても怒られねぇなら、話は早ぇよ」
響の足元の砂地が、凄まじい呪力の圧に耐えかねて陥没した。
彼が再び大地を蹴れば、校庭の地面は砕け散るだろう。だが、そんなことはもうどうでもよかった。
「……お前のその指、二度と動かねぇように根元から引き抜いてやる」
決着は、一瞬だった。
帳の中から外に出る。
外はまだ夕焼け。
杉並が立っている。
「私はこれから生存者の対応の続きと、要請した術師への残存呪霊掃討任務の引継ぎを行います。"窓"の方を呼んでおりますので、お帰りの際はその車にお乗り下さい」
「ああ」
短い返答。
杉並は響を見る。
頭から爪先まで、ぼろぼろに汚れた学生服姿を。
「……お疲れ様でした」
それは最大級の賛辞。
「呪術師としての今後のご活躍を、お祈りいたします」
「うるせぇ」
杉並が去って行った後。響は振り返り、帳の中を覗き見ようとする。
これからこの場所に日常が戻る。
修復が終われば、何事もなかったかのように。
それを見て、響はわずかに目を細める。
──これを守る?
くだらねぇ。
そう思うはずなのに。
なぜか、少しだけ。
「はっ……面倒くせぇな」
呟きが、風に消えた。
校門の前。
友人だった他人が、立っていた。
「さっきは……ありがとう」
「覚えてねぇよ」
だが、少年は少し笑った。
「それでもいいんだ」
沈黙。
「じゃあな」
背を向ける。
振り返らず、車に乗り込んだ。
「──はは。あいつ、漫画の主人公まんまじゃん」
寮に戻る頃には、夜だった。
何も変わっていない部屋。
だが、朝とは少しだけ違って見える。
響はカバンを床に置いた。
開けない。
ただ、そこに置いておく。
それでいい気がした。
静かな部屋で、目を閉じる。
筆者「前中後編は長いよォ!!
オリ主の過去話に需要はないと思うので、この辺を今後掘り返すことはないと思います。
掘り返すこともあるかもしれん。なぜなら筆者は雰囲気でこの作品を執筆しているから……。」
>>アンパン
よい子は調べちゃ駄目だぜ。
・物理拘束技に若干トラウマ主人公
セルフオマージュも軽くこなす。
>>歪んだ顔をさらに引き攣らせた
虫ケラ顔。エネル顔ほどではない。
・友人だった他人
今後特に登場する予定はない。故に名無し。筆者が「主人公の過去設定考えるのめんどくせえんじゃい」と思っているせいで設定がクソ適当。すまん。
3話分更新ノルマ達成したのでまた来週~~~。なんですが、来週はめっちゃ連休を満喫する予定なので更新するかわからん。ごめーんね。
以下は今回登場した二級呪霊の設定です。2分で考えた。
マリオネット呪霊(仮称):
ものを引き寄せ、自分を引き寄せ、飛ばしたものを自由に操り、自分自身の身体も操る。
描写外で響に対して呪糸を通して操ろうとしたりしていたが、覇者喧勝を突破できなかった。
本気を出した砕城響にワンパンで祓われる。