一番アガるシーンを見ないという天与呪縛   作:意外にも喧嘩好きの不良キャラ居なくね?

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前回のあらすじ: 砕城響の中学校卒業(大嘘)。
身辺整理と心変整理と見知らぬ過去との決別と。


GW期間中に呪術廻戦全巻の読み返しをしたんですが、思ってた3倍くらい1巻の情報量がすごかった。1巻だけで呪術廻戦の二次作品を書けるくらいの設定説明が書いてあるってばよ。(これは言い過ぎか)

いよいよ同級生の登場(最後の最後に)。くらい冬を経て青い春を迎えます。
そして第一話のミスリード要素を若干回収。砕城響(旧)はちょっとユニーク。


原作開始の前の世代 高専一年編
新生活の始まりは


 

 

 

 

 

 覚悟していた、つもりだったけれど。

 

 

 世界がひっくり返る音は、案外、安っぽい金属音だった。

 

 鈍い衝撃。肺から空気がすべて絞り出される。

 直後、鼓膜を裂くような家族の悲鳴。

 視界が激しく回転し、次に目に入ったのは、砕けたフロントガラスの向こう側に広がる白銀の地獄──北海道の吹雪だった。

 

 

「ぁ……、あ……」

 

 割れた窓から一瞬で車内の熱が奪われていく。

 対向車と衝突し、無残にひしゃげた鉄の塊から、僕はやっとのことで這い出した。

 体中が痛い。けれど、それ以上に恐ろしいものが、雪の帳の向こうから這い寄ってきている。

 

 

 ──ギギ、ギ……。

 ──ォ、ォォォ……。

 

 

 獣の唸り声に似た、しかし、この世のものとは思えない呪詛の響き。

 鹿や猪の形をした「悪夢」たち。その背後から、さらに巨大な「絶望」が悠然と姿を現した。

 羆の呪霊。その圧倒的な威容に、僕の呼吸は止まる。

 

 振り返ると、大破した車の中に残された姿が見えた。

 震えながら体を動かせず見ていることしかできない僕の目の前で、車ごと、みんなの時間が凍てついていく。

 

 

 知っていた。内側にいる「神様」から、こうなる運命だと教えられていた。

 けれど、理解していることと、耐えられることは別だ。

 雪山の寒さだけじゃない。心臓の芯まで凍てつくような恐怖に、歯の根が合わず、膝の震えが止まらない。

 

 

 覆さないといけない運命に抗えない。僕は、弱い。

 目覚めた術式()。だけど、これを振るって戦うイメージが、湧かない。

 このままじゃ、僕もここで凍りついて終わる。

 

 

(……助けて)

 

 無意識に、僕は自分の中の「強さの象徴」を必死にかき集めた。

 

 かつて読んだ漫画の、拳一つで理不尽を跳ね返す不良少年。

 傷だらけになっても笑い飛ばす、不敵な人格。

 

 僕の持つ、触れる呪いのすべてを砕く術式と、「神様」を宿す強靭な器としての、この身体。

 それらを使いこなせるのは、「僕」みたいな弱虫じゃない。

 

 

(……代わって。強い「彼」なら、きっと……)

 

 僕がその「理想の姿」を思い描いた瞬間、内側の「神様」が僕の意識を塗り潰した。

 視界が反転し、僕は一時的に自分の体の主導権を「神様」に明け渡す。

 

 

「神様」の動きは、初めから僕の身体を知悉(ちしつ)していたように、洗練されていた。

 入れ替わった瞬間から。僕の身体と術式を自在に操って、「悪夢」を散らし、「絶望」を払い、呪霊たちを赤子の手をひねるように祓っていく。

 僕は意識の奥底で、その"手本"を静かに観ていた。

 これが最初で最後の機会だと、わかっていたから。

 

 

「僕」という弱さを棄て、二度と怯えない、新しい自分を造り上げる。

 荒っぽい言葉遣いで、不遜な態度で、何者にも屈しない眼差しで。

「神様」から託されたこの力で、誰にも舐められないように振る舞う「俺」を自分に投影する。

 

 

 やがて、空から「最強」を自負する男──"五条悟"が降りてくる。

「神様」が彼と交渉し、言葉を交わしている間、僕は暗い意識の隅で、最後の仕上げをしていた。

 やり方は「神様」に聞いていた。それがもたらす効果も、()っていた。

 

 

 僕は僕自身を犠牲にする縛りを結び、「俺」という人格を完成させ、すべてを()に託した。

 それが一番の正解だと、信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 窓の外には、昨日の出来事が嘘のような、どこか他人行儀な青空が広がっていた。

 

 高専の寮の一室。砕城響はベッドの上に上体を起こし、自分の掌をじっと見つめていた。そこには、あの中学校の旧校舎で感じた「過去の残り香」など一片も残っていない。

 

 

「おはよー。心の整理はついたみたいだね」

 

 見計らったようなタイミングで、目隠しを揺らして五条悟が顔を出した。

 

 

「整理も何もねぇよ。そもそも俺には、覚醒(めざ)めるまでの記憶なんてねぇんだからな」

 

 響は吐き捨てた。彼にとって、この肉体が歩んできた「砕城響」としての幼少期は、書物で読んだ設定資料のようなものに過ぎない。実感を伴う記憶は、あの吹雪の日から始まっているのだ。

 

 

「そう。……まぁ、少しずつ思い出せばいいさ」

 

「思い出すもクソもねぇんだっての。……それより五条。昨日ぶちのめした二級呪霊のことだが」

 

「お、何か気づいた?」

 

「……妙に不自然な挙動で、()()()()()()()だった。あとで"窓"のやつにも聞いたが、()()()な言葉を話すのは二級呪霊でも稀なことなんだろ? 俺の名前も知ってたみてぇだったしよ。──誰かに仕込まれてたとしか思えねぇ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、五条の口角から余裕が消えた。僅かに鋭い雰囲気を纏い、目隠しの下で、六眼が細められる。

 

 

「……ふぅん。──ちょっと、"確認"してこようかな」

 

 五条はそれだけ言い残すと、瞬時に部屋から姿を消した。

 

 彼は昨夜の現場*1で、親友であった男──夏油傑の残穢を探した。しかし、そこには何も残っていなかった。響の持つ「覇者喧勝」の術式が、その場の呪力を跡形もなく吸収し、自らの糧としていたからだ。証拠は、暗雲の中に消えた。

 

 一通り()ての確認を済ませた五条は、再び寮の部屋に戻る。

 

 

「──おまたせ」

 

 再び姿を現した五条の表情は、先程までの鋭さを消し、いつもの飄々としたものに戻っていた。

 

 

「お前、本当にワープ出来んだな。……で、どうだった。何か見つかったか?」

 

「いや。笑っちゃうくらい綺麗さっぱり、残穢の『ざ』の字も残ってなかったよ。……君の術式、やっぱり厄介だね。証拠まで食べて消化しちゃうんだから」

 

 五条は肩をすくめ、響の隣に腰を下ろした。六眼の持ち主ですら何も掴めなかったという事実は、裏を返せば、あの「操り人形」を仕掛けた者の痕跡を、響自身が消してしまったことを意味していた。

 

 

「……まぁ、いい。得体の知れねぇ野郎が俺を狙ってるってんなら、次に来た時にぶん殴るだけだ」

 

「ははっ、頼もしいね。……でも、その前に。君にはまだ『呪術師としてのイロハ』を叩き込まなきゃならない。一緒に行こうか。夜蛾学長、おっかないよぉ?」

 

「あん?」

 

 

 

 不服そうに眉根を寄せた響を連れ、五条が向かったのは高専の中枢──学長室だった。

 重厚な扉を開けた先、そこに待っていたのは、サングラスの奥に峻烈な光を宿し、無心に羊毛フェルトを針で突く大男、夜蛾正道である。

 

 

「砕城か……座れ」

 

 地を這うような低音。響は「チッ」と舌打ちを一つして、言われるがままソファに深く踏ん反り返った。

 

 

「まず、砕城。お前が昨日行った行為についてだ」

 

「あ? 呪霊をぶっ飛ばしただけだろ。文句あんのかよ」

 

「大いにある。……第一に、非術師の目がある前での術式使用。呪術界の秘匿のルールを破ることは、混乱と新たな呪いを生む種になる。今後は控えろ。第二に、公共物──中学校の校舎の損壊。あの惨状を修復するためにどれだけの人間が動き、どれだけの予算が動くと思っている」

 

 

 夜蛾の指先がピタリと止まる。

 

「まあ、これは補助監督から"被害の軽減に最大限努めた"との報告を受けているから、今回はお咎めなしとする。──そして第三に。二級呪霊を相手に、単独で、無策で突っ込んだことだ。無事に、怪我無く祓えたようだが、一歩間違えれば死んでいたのはお前だったかもしれんのだぞ」

 

「死ぬ? 俺が? 冗談はツラだけにしろよ、サングラス」

 

 響の不遜な物言いに、夜蛾の額に青筋が浮かぶ。だが、夜蛾の怒りの矛先は、ここで真のターゲットへと向けられた。

 

 

「……砕城。お前への説教はここまでだ。お前はまだ『何も知らない』ガキだからな。だが──」

 

 夜蛾の視線が、響の隣で「まぁまぁ、結果オーライだし」と呑気に鼻歌を歌わんばかりの男に突き刺さった。

 

 

「──悟ゥウ!! 貴様、何のつもりだ!!!」

 

 室内の空気が震えるほどの怒号。五条が「うわっ、鼓膜に響くねぇ」と耳を塞ぐが、夜蛾の追及は止まらない。

 

 

「お前は監督責任という言葉を忘れたか! 覚醒したばかりで制御もままならぬ『爆弾』のような子供を、なぜ単独で呪霊にぶつけた! 帳の確認も、非術師の避難も、補助監督(お前)の同行も、全てを投げ棄てて何を遊んでいた!」

 

「いやこうなるとは思ってなかったし、なにかあっても響なら勝てるって分かってたし。それにほら、実戦が一番の教育でしょ?」

 

「屁理屈を抜かすな! 万が一不測の事態が起きていたらどうするつもりだった! お前の『大丈夫』は、組織としての『安全』とは同義ではないと何度言えば理解するんだ! 始末書! 今すぐそこで書け!!」

 

 先程の響への注意が「ささやき声」に聞こえるほどの猛烈な剣幕。夜蛾は机を叩き、五条の鼻先に白紙の束を叩きつけた。

 

 

「えー、僕今から響を観光に連れて行こうと思ってたのに」

 

「却下だ! 貴様がここでペンを動かしている間、砕城は私が預かる。いいか、一字一句漏らさず状況説明を書き記せ! 貴様の『うっかり』で済まされる被害じゃないんだぞ!!」

 

 怒髪天を衝く勢いの夜蛾に、流石の五条も「ハイハイ、分かりましたよ学長……」と渋々ペンを握る。

 

 

 その光景を、響は冷めた目で見つめていた。

 

 

「……ハッ、最強も形無しだな。……おい学長。その『始末書』ってのは、俺がぶん殴るより効くのか?」

 

 響の言葉に、夜蛾は五条を睨みつけたまま、短く答えた。

 

 

「ああ。……少なくとも、このバカの鼻柱を折って大人しくさせるには、暴力よりも『事務作業』の方が幾分か効果的だ」

 

「ケッ、くだらねぇ世界だ」

 

 響は吐き捨てたが、その口角は僅かに上がっていた。

 

 

 

 

 それから。

 説教の続きとして教育論を説き始めた夜蛾正道の話を聞き流しながらうっかり呪骸を()()掛けた砕城響が、圧倒的な剣幕に押されて五条悟が始末書を書き終えるまで正座させられたあと。

 

 

 結局始末書を書き終えた後も説教が始まり学長室に拘束され続けることとなった五条悟を置いて廊下に出た砕城響は、再び同じ場面を迎える。

 

 

 

 

 

 夜蛾学長の咆哮と五条の悲鳴が響き渡る学長室を後にして、響は独り、高専の長い廊下を歩いていた。

 その行く手を阻むように、二人の人影が立ちはだかる。数日前、響が「洗礼」を受けて叩きのめした二年生の二人組──滑川と鉄塚だった。

 

 

「よぉ、後輩。学長にたっぷり絞られたみたいだな」

 

 滑川が、いかにも先輩風を吹かせたニヤけ面で声をかけてくる。対する響は、視線を合わせることもなく、鼻を鳴らしてその横を通り抜けようとした。

 

 

「……っておい、無視すんな! 挨拶は!? 滑川『先輩』と呼べと言ってるだろ! 俺はこれでも準二級術師で、無級のお前より階級が上なんだぞ! 年も一コ上だ!!」

 

「あー……。へーへー、分かったよ。ナメ川()()()()

 

「……なんかお前の呼び方、微妙に俺を馬鹿にしてる気がすんだよなあ……!」

 

 顔を真っ赤にして食い下がる滑川の背後から、もう一人の先輩、鉄塚が静かに歩み出た。彼は滑川とは対照的に、どこか落ち着いた、探るような目で響を見つめている。

 

 

「零司、それくらいにしておけ。……そのことだが、こいつは昨日、単独で二級呪霊を祓ったそうだ。だから入学するときには、二級術師に推薦されているかもしれんぞ」

 

「……鉄塚さん、それマジ? こいつ、まだ入学もしてないんだぜ?」

 

「マジだ。五条先生から直接聞いた」

 

 鉄塚の言葉に、滑川が「うげっ」と露骨に顔を引きつらせる。その様子を眺めていた響は、呆れたように吐き捨てた。

 

 

「……ったく。漫才なら他所でやってくれ」

 

「ああ、こいつがすまない。初めてできる後輩に、少し浮かれているんだ」

 

 鉄塚は滑川の頭を軽く小突いて黙らせると、真剣な面持ちで響に向き直った。

 

 

「──ところで響。お前の戦闘スタイルについてだが」

 

「あ? ()る気か? いいぜ、今度は保健室送りじゃ済まさねぇぞ、カネ塚センパイ」

 

 好戦的に拳を鳴らす響に対し、鉄塚は首を横に振った。

 

 

「いや、少し待ってくれ。戦うのは後でもいい。……お前、拳での殴打にこだわる癖があるな?」

 

「あ? あー、そうかもな。喧嘩っつったら殴るもんだろ」

 

「……あの日、お前とやり合った後、振り返って考えていたんだ。……捌くことに必死で当時は気づかなかったが、お前ほどの身体能力の持ち主の猛攻を俺が凌ぎ切ることができたのは、お前の動きが拳にこだわり、かつ『洗練』されていなかったからだ」

 

 鉄塚の言葉に、響は僅かに眉を動かす。

 

 

「それは、とても惜しいことだと思った。……よければ、一緒に体を動かさないか? 俺でよければ、お前に身体の動かし方と、殴打だけでないいくつかの技を教えてやろう」

 

「へぇ……ありがてぇ申し出だな。でもいいのか? 後輩が圧倒的に強くなっちまって、先輩の面目丸潰れになるかもしれねぇぞ」

 

「構わないさ。すでに()()()は済んでいるし、先輩は後輩が強くなることを(いと)うものではないからな。それに、俺もお前の力を受けることで、自分の技術を磨き直すつもりでいる」

 

 鉄塚は僅かに口角を上げ、不敵に笑ってみせた。

 

 

「──お前に『弱点』が残っている間は、せいぜい先輩面させてもらうさ」

 

 その真っ直ぐな言葉に、響はふっと表情を緩めた。打算も、怯えもない。ただ強さを追い求める者同士の、清々しいまでの誠実さ。

 

 

「……はは。気に入ったぜ、カネ塚()()

 

「あ、おい! 今『カネ塚先輩』って言ったろ! 俺との対応の差を感じる……! 俺も、俺も先輩だからね!? 年も一コ上だし!!」

 

 横から必死に割り込もうとする滑川に、鉄塚は静かに視線を向けた。

 

 

「零司……。お前も、少しは修行しろ」

 

「うぐっ……! それは、まぁ、そうなんだけどさぁ……!」

 

 陽光が差し込む廊下で、騒がしくもどこか温かい時間が流れていた。響にとって、それは「他人」をただの障害物ではなく、肩を並べる存在として認め始めた、最初の瞬間だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 そして、季節は巡る。

 北海道の極寒の吹雪が遠い記憶に思えるほど、東京の春はひどく甘い花の香りに満ちていた。

 

 四月。東京都立呪術高等専門学校。

 

 

 

「……ケッ。窮屈な服だな」

 

 黒い高専の制服の襟を乱暴に寛げ、響は一年の教室の扉の前に立っていた。

 隣では五条悟が、これから始まる「青春」を確信しているかのように楽しげに笑っている。

 

 

「いいかい響。今日は君にとって記念すべき“同級生デビュー”の日なんだから、仲良くするんだよ?」

「うるせぇ。誰がガキのお友達作りみてぇな真似するか」

「わ、ひねくれてるねぇ。でも、そういう『可愛げのなさ』も若さか」

 

 軽口を叩きながら、五条が顎で扉を示す。響は吐き捨てるように舌打ちを一つ。

 これからこの場所で、他人と「日常」を共有しなければならない。その事実が、自分を「俺」という鎧に閉じ込めている響には酷く不快だった。

 

 響は返事の代わりに扉を蹴り開けた。

 

 教室の中にいた二人の視線が、一斉にこちらへ向いた。

 

 一人。窓際の席で足を投げ出し、退屈そうに空を眺めている大柄な青年──秤金次。

 そしてもう一人は、教壇に近い席で、少し肩を丸めて座っている小柄な青年──星綺羅羅。

 

「…………」

 

 響の足が、止まった。

 星綺羅羅(新顔の同級生)。その姿、その佇まい。

 黒い髪を切り揃え、まだパンクな装いもメイクもしていない、どこか「真面目で大人しそうな」少年の姿。

 

(──あぁ、反吐が出る)

 

 脳裏に、あの日の光景(存在しない記憶)がフラッシュバックする。

 猛吹雪の中。羆の呪霊を前にして、歯の根が合わず、膝をガクガクと震わせ、死すら受け入れようとしていた、あの情けない「僕」の姿。

 星綺羅羅の持つ、周囲を伺うような、自信なさげな気配。それは、響が必死に切り捨て、二度と戻らないと誓った「弱かった自分」そのものだった。

 

「おい、お前……」

 

 地を這うような低い声。響は無意識のうちに、その「弱さ」という「鏡」を叩き割るための一歩を踏み出していた。

 

「え、……え?」

 

 突然放たれた剥き出しの殺意に、綺羅羅が肩を跳ねさせ、顔を上げる。

 その瞬間だった。

 響の視界に、綺羅羅の耳たぶで鈍く窓からの春光を跳ね返す銀色が入り込んだ。

 

「…………?」

 

 響の指先が、その胸ぐらを掴む直前で止まる。

 真面目そうな外見に似合わぬ、攻撃的ですらある装飾。それは、自分の意思で自分を形作ろうとする、明確な「我」の主張だった。

 

(……あぁ。なんだ)

 

 自分を殺し、ただ怯えていた「僕」とは違う。

 外見の印象から勝手に投影していた幻影が、そのピアスの輝き一点で崩れ去る。目の前の少年は、自分ではない別の「誰か」なのだと理解した途端、響の中で煮え立っていた同族嫌悪の炎が、急速に冷めていくのを感じた。

 

「……チッ」

 

 響は掴みかけた手を、突き放すように引っ込めた。

 

 

「紛らわしいツラしてんじゃねぇよ」

 

「は……? え……ええっ?」

 

 急に解放された綺羅羅が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で目を瞬かせる。

 

 だがその瞬間。その傲慢な態度を許さない「熱」が、教室の奥から立ち上がった。

 

「おいおい同級生。挨拶も無しにクラスメイトをビビらせるとか、随分と威勢がいいじゃねぇか」

 

 秤金次が、好戦的な笑みを浮かべて響の進路を塞いだ。その瞳には、響の「力」を測ろうとする、ギャンブラー特有のギラついた光が宿っている。

 

「一人で勝手にブチ切れて、一人で勝手に納得か? 『熱』を持ってんのはいいが、相手くらい選べよ。ビビってる奴を威圧して満足するより、もっとアガる遊び相手がいるだろ? この教室の主導権は俺が握る。文句があるなら、表でハッキリさせようぜ?」

 

 重ねて挑発。

 一切の誤魔化しがない、真正面からの殴り合いの誘い。

 響は、知らず知らずのうちに自分の口角が吊り上がるのを感じた。

 

「……テメェ、自分から殴られに来たのか?」

「逆だ。テメェを振り回して、今日一番の『当たり』を引きに来たんだよ」

 

 一触即発。視線と視線がぶつかり、教室の空気が爆発寸前の火薬庫と化す。

 そこに、パンッ、パンッ、とわざとらしく陽気に手を叩く音が響いた。

 

 

「いーねいーねー! 青春だね! ぶつかり合う若き魂! 先生そういうの大好物!」

 

 教壇の上にひょいと腰掛けた五条悟が、最悪のレフェリーとして楽しげに笑っていた。

 

「「うるせぇ白髪(五条(ゴジョー))」」

 響と秤の声が重なる。

「あはは、息ぴったりだね! 響、金次くん、仲良しなのは結構だけど、でもさすがに教室壊されると夜蛾学長が本気で怖いからねぇ」

 

 五条が目隠しの下で、不敵な笑みを浮かべた。

「やるならグラウンド行こうか。……入学祝の『歓迎会』、派手にやろうじゃない」

 

 一瞬の沈黙。

 そして。

「……最高」

 秤が、狂気すら感じる笑顔を浮かべた。

 

「……あぁ、上等だ」

 響もまた、獰猛に笑い返す。

 

 隣で「えっ、何この流れ!? 止めないの五条先生!?」と完全に置いていかれた顔をしている綺羅羅の困惑など、今の二人には届かない。

*1
中学校は緊急閉鎖を実施し、校舎の修復及び備品の再配備など原状回復作業を行っている




筆者「モブキャラの再利用。もうほぼほぼ準レギュラー決定でもいいかなあという感じ。キャラクターが物語上扱いやすいのですわ。

GW明け1発目なので振り返り説明も兼ねてます。ざっくりとね。


自己紹介より前に喧嘩売買していく主人公。

読み返して気づいたんですが星綺羅羅にピアス、確認できず。アニメも見返したんですが、確認できず。めっちゃピアス開けてると思い込んでました。中学卒業後呪術高専入学に際して開けている……、というオリ設定で一つお願いします。

同級生二人の容姿は原作のものとは違いますの。

秤金次は中学ダブりからの無事卒業なので禊として刈り上げ短髪にでもなってるんじゃないですかねという一切描写しない設定など。

次回、タイトル回収。の予定。ただし以下略。ごめーんね。
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