女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
――私の後に付いてきなさい。
後にも先にもこのセリフがアイリの口から出るシーンは一つだけ。
一つだけであるが故に、あぁちょっと頑張り過ぎたとアイリの背中を追いながら冷や汗を流す。
えぇい、シュレディンガーの猫を想えっ! 事象は観測することによって確定するのだっ! すなわち!
「えぇと、何処に?」
「はぁ。口を開くことを許可した覚えはありませんが? まったく愚かな……ですが答えましょう。光栄に思いなさい、サティア様の私室へと案内します」
「……うぼぁ」
「うぼあ?」
わっ、魂抜けちゃった。
いやいや魂飛ばしてる場合じゃあない。
通称『お部屋にお呼ばれ』イベントはご主人様の好感度が一定以上に至ることで発生するヤツだ。
そしてそのお呼ばれイベント、サティアの場合は監禁拘束の沼に片足を突っ込んでしまってることを意味している。
「あの」
「だから口を開くなと――」
「まさか拘束具とか購入したりしてません?」
「は?」
あ、ようやく振り返ってくれたね、ありがとう。
何言ってんだコイツってゴミを見るような視線もありがとうございます!
うーん、敵意120%って感じだね。
こっちはこっちで同じ程度にイベント進行してら、どうしろってんだよ楽しんでたちょっと前の自分を殴りたい。
「いえ、なんでもないです……」
「そうですか。では改めて黙って付いてきなさい」
「はい……」
さぁてどうするかね?
ルート外を進む、すなわち仕様の外を攻略するって心に決めたは良いけれども流石にちょっと早すぎる。
何度も言うがサティアは監禁拘束型ヤンデレご主人様だ。
プレイヤーに対して自分の想定外を求め、上手く想定外を提供できたのならお気に入りとする。
お気に入りとなればどうなるか? ただ愛されるというか愛でられるなら可愛いものだがそこはごしゅ通り、甘くない。
「ぶっちゃけ屋敷内から脱出しろなんてクエストが自動発生した時はマジでビビったからな」
屋敷どころか監禁された部屋から脱出することすら初見じゃ無理ゲーだった。両手足を丸裸で拘束されてる状態からどうしろとって話なんだよ。
しかもどうにかして脱出しようとしてもアイリとサティアのどちらかに捕まれば即『ご褒美』だ。
つまり失敗する度にデバフが積もり、何もできなくなっていく。
挙句、デバフ最大まで辿り着いたら興味を無くされてポイされるしね、くそわよ。
「とりあえず仕様内に戻ることは回避するとして……先が一気に見えなくなったな」
「先ほどから何をブツブツ言っているのです? 耳障りなのですが」
「失礼、ついお呼ばれにドキドキしてしまって」
「……ふん」
一応このお呼ばれイベントを仕様外へ進む方法は考えていた通りで問題はないだろう、その先は交渉次第になってくるだろうが。
「カッツォ」
「カツオです」
「なんでもいいです。それより一言よろしいですか?」
あー、こっちもですかそうですか。
さっきの視線を鑑みるに進行してるなーとは思ったけどさ? まーさかアイリたんもそこまで行ってるとは思わなかったよ。
「何でしょうか?」
「そのおざなりな敬語は止めなさい、不愉快です」
「であればどのように?」
「一生口を開くなと言いたいところですが、それでは仕事に支障をきたしますし……ですが敬いの気持ちがない言葉遣いをされるのは不快でしかありません、楽に喋ることを許してあげましょう」
貴重なデレシーンと言えるだろうが、イベントの先を知っている身としては引き攣った笑いしかできないっての。
これも両方のクエストを勝手に完了させた弊害って奴だろうか?
想像したくない未来を絶対に回避すると心に決めた所存でございます、絶対わからせてやる。
「……わかった。助かるよ、アイリ」
「呼び捨て……はぁ、まぁいいでしょう。わかればよいのです。ですが、サティア様に対してはキチンとした言葉を使うように」
「それも、わかってる」
「そうですか」
アイリもアイリであのサティアの従者らしいと言うか、割と歪な癖を持ってるんだよなぁ。
クレイジーサイコレズって部分のせいだけど、俺を利用して自分とサティアの距離を縮めようとするわけだ。
で、散々利用しつつ私が管理してあげてるおかげでサティアの役に立ててるんだとわからせにくる。
あえて言えることがあるとすればカウントダウンはきもちいいってことで一つよろしいな?
「再度確認しますが、心の準備はよろしいですね?」
「今更何を準備するって?」
「いい度胸です。では――失礼します、カッツォをお連れしました」
ノックと共にそんな台詞。
少しした後、入りなさいという言葉が返って来て。
「では、くれぐれも失礼のないように」
「……あれ? アイリは入らないの?」
「二人きりでと仰せつかっていますから」
初回のお呼ばれイベントは一緒に入室だったはず、だけども。
……まぁ、こっちの方が都合良いと言えばそうか。
「失礼します」
ともあれ入室する。
相変わらず暗めの部屋だ、吸血鬼ってやつはどいつもこうなのかね? 別に日光で焼けるとかはないはずだけどもさ。
けど、ところどころにあるランプは良いアクセントになる。
「仕事お疲れ様、おかえりなさいカッツォ。よく来てくれたわ、楽にしなさい」
「……ありがとうございます」
うーわ、露骨にめっちゃ機嫌がいいな? ちょっと間違ったら後半の言葉はご飯にするかお風呂にするかそれともって続きそうだったぞ?
進められるがままにソファへと腰かければ、少しだけ目を丸くした後より一層笑みを深めた。
普通ここは恐縮しつつ固辞してその場でひれ伏したり何なりするのが正解だもんな? そういう選択肢がゲームじゃ出てたし。
「くすくす」
「えぇと、俺に何か?」
「あら? 用が無いと呼んではいけないの?」
「そう言うことでは、ありませんが」
うん、想像以上にお土産が効いているらしい。
視線を外して部屋を見渡せば、フレイムリザードの幼体が入っている鳥かごがあって、その中にはしっかりエサも用意されている。
「困らせるつもりはなかったの。まずは感謝を伝えておくわね? 素敵なお土産をありがとう、おかげさまでポストが一つ埋まったわ」
「喜んでもらえたのなら何よりです」
「……本音は?」
「メッセージをちゃんと汲み取って頂けたようで一安心、と言ったところですか」
フレイムリザードの幼体に合掌、ってか?
俺の返事を聞いてそりゃもうめちゃくちゃニッコニコになったサティアはともかくとして、そう言うことだ。
丁度いいポジションとしてサティアは俺をペットという位置づけに置こうと考えていた。
だが、フレイムリザードの幼体をペットの位置に置くことで俺のポジションを再検討することになった。
あぁ、そう言うことじゃないって? それもそうか。
「ええ、私としても良かったわ。あなたをペットになんて勿体なすぎるもの」
「恐れ多くも、フレイムリザードと同列に扱われることを嫌っただけですよ」
「そうね。今のあなたが言うのなら許すし認められる。本当に、いい仕事をしてくれたわ……だからこそ」
「ご褒美も、相応のモノを頂ける、と」
にっこり笑顔で頷かれる。
同時にゆっくりと空気に重みが混じって来た。
――あなたなら当然、思いもしないご褒美をおねだりしてくれるのよね?
そういう、空気だ。
「教えて頂戴? あなたは、何を私に望むのかしら? また私の脚でも舐める? 他の場所でも構わないわよ?」
「好きなものは最後に残しておく性分なもので。では、恥ずかしながら」
けどまぁ関係ない、火竜の庭で考えていて良かったよ。
「弁当作って下さい」
「……はい?」
「弁当です、できればサティア様の手作りが良いですし、何なら一緒に火竜の庭へハイキングでも如何でしょうか? 楽しいかどうかは別として、空気も綺麗ですし気分転換になりますよ」
よぉし言ってやった! 言ってやったぜ!
わからせの形がちょぉっと不明瞭になって来たけど、ここはまずジャブからですよ!
そんな気持ちで、ぽかんと口を開いたサティア様へとドヤ顔してみれば。
「ふ、ふふっ! うふふふふっ!」
「だめ、でしょうか?」
「い、いいえ、いいえっ! ええ、ええっ! 構わないわ! ハイキング、ね? だからお弁当を、と……うふふふふっ! わかった、わかったわ! 腕によりをかけて作ってあげるから、楽しみにしてなさい?」
「ありがとうございます!」
大層お気に召して頂けたのか、しばらくお腹を抱えて大笑いしてくれましたとさ。
……オリチャー発動はガバを呼ぶって、ほんとだよね? チャートにちゃぁんと書いておこう。