女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
ミラーズハウス、別名『鏡の館』。
設定を語るのであればミラと言う性格が270度くらい捻じ曲がった有力者が、誰かの苦しむ姿を見たいというだけで作ったダンジョンである。
ダンジョンに入れば大きめの部屋にいくつかの鏡が設置されていて、その鏡に触れたら別の部屋に飛ばされると言ったことを繰り返して最奥にいるミラの亡霊というボスを倒せばクリアだ。
ミラだけに
「――まぁ、とりあえずってことで」
消えていくミラの亡霊を尻目に、クリア報酬である遠見の手鏡をインベントリバックへしまっておく。
遠見の手鏡はこのダンジョン内で使用すると入り口まで戻れるってアイテムで、ダンジョン外で使えば魔力を消費して一定距離内で指定した光景を見ることが出来ると言うもの。風呂覗き放題だよやったね。
この手の転移型迷宮ってやつは正解を覚えていれば一本道と変わらない。
いわば初見殺しダンジョンってやつで、初見でなければ特に困難ではないのだ。
しかもボス討伐にしても、こいつは道中で罠にかかった数だけ能力が強化されるという特性を持っているが、何の罠にもかからないで到達すれば勝手にありえないとかほざいて消滅していくと言うおまけつき。
俺にとっちゃ散歩気分で攻略できるダンジョンだし、俺含めた慣れたプレイヤーたちからは回想部屋呼ばわりされているミラーズハウスである。回想機能を実装しなかった開発が悪いよ開発が。
だが帰還手段がボスドロップアイテムってあたりにいやらしさを感じるのは俺だけじゃないだろう。
初見でトラップに引っかかりながらもなんとかボス部屋に辿り着けば強化されたボスが待っているとか普通に考えて鬼畜の所業である。
「ともあれこれで周回できる。お楽しみタイムの始まりだ」
思わずにんまりと口角が持ち上がるのを止められない。
このダンジョンは重ねてモンスターが登場しない、それすなわち経験値が手に入らないということで、ボスにしても最弱状態で倒せば経験値はゴブリン一匹分程度しか稼げない。
つまりレベルアップに怯えることなくスキル経験値を稼げるということ。
そうとも本番はここからだ、尊厳破壊トラップにハマりまくり、耐性系スキルレベルアップ祭りの開催を宣言する!
「くひひ。さぁてまずは何からやるかなぁ? レベル25だろ? だったらまずはご主人様にアレされちゃう系幻影鑑賞あたりかぁ? 精神干渉系の耐性はマストで上げるべきだよなぁ!」
出てくる幻影がサティアになるかアイリになるかどうなるかね! 踏まれるのならアイリで、罵倒されるならサティアを希望するよ、熱烈に。
ミソと言えるのが本物ではなくあくまでも幻影が故に永続デバフを貰わないところだよな。
ただ、本物にヤられる時ほどスキル経験値は貰えないし、これもまた大体レベル50程度で頭打ちになる。
アイリに言った一週間の期限を考えるなら現実的に耐性レベルをそれぞれ20程度にあげるのがせいぜいだろうが、どうにかできないかね。
「――っと、いかんいかん。キュリオさんの依頼品、疾風シリーズ装備だったかそれも忘れないようにしないとな」
キュリオさんがここでパーティの相方を喪ってしまったって言うのは設定上だけのことでそれにかかわるイベントは実装されていなかった。
つまり何処にあるかはわからないのだ、ついでにどんなトラップでヤられたかも。
「トラップ対応できなきゃ話にならないし、ひとまず耐性あげしつつ罠解除と罠看破スキルも鍛えとかないとな」
どっちみち避けられないだろうサティアによる監禁からの脱出イベントでは必須のスキルだ、丁度いい。
「俺……幻影になんか負けないっ!」
は? 負けてないが? 気持ちよく敗北なんて認めてないが―? はー?
サティアに首輪つけられて全裸四つん這いお散歩でゾクゾクしたり、アイリにゼロッ♡ ゼロッ♡ くらって気持ちよくなったりしてないが―?
「くっ、殺せ」
……いや、まぁなんだ。
「流石に五日間ぶっ通しでトラップ突撃しまくってたらちょっとバグるよね」
アイムわからせマン、おっけー? イエス、オッケー!
時間にして五日間、スキルレベルは見込み通りそれぞれ20付近に揃えられた。
ちょーっともう一回が止められないで、被虐耐性だけ30まで上がっちゃってるのは気にしないで下さい。
とはいえ、だ。
「びみょーに不思議な感覚だったよね」
認めよう、気持ちよかったと。だが負けてない。
そうとも気持ちよかった、少なくともカツオという俺は幻影の繰り出すあはんうふんを気持ちよく感じた。
にもかかわらずこのカツオというキャラクターは設定通り対応しているスキルレベルが上昇したんだよな。
「総じて苦痛とこのキャラクターは
もちろん体力や気力と言った数値にダメージは入っていたし、それぞれがゼロになれば死亡か行動不能になってしまうのはわかる。
だから無敵であってもコイツが根をあげたら意味がないわけだが……いずれなんかに使えそうだよね。
と、図らずともスキルレベルアップ周回しつつ、ミラーズハウスを隅々まで回った結果。
恐らくここだろう、キュリオさんの相棒が死んだ場所ってのを見つけた。
「ふぅむ」
あぁ、うん。
見つけたは良いんだ、見つけたは。
何せこの目の前にある鏡はゲームでやってた時には設置されていなかった鏡だ。
それはつまり、リアル化してキュリオさんの設定を基にしたイベントを引き出したが故に新しく生まれたということであり、言い変えるのであれば。
「俺がイベントを作成した、ということでもある」
言ってしまえば自然な流れを無理やりぶち込まれたというか、整合性を取られたというか。
そこら辺は良いにしても、問題なのはこの先には未知が待っているという部分だ。
今までは知っているという事実が保険であり拠り所だったが、それらが通用しないこの先は否応なしに緊張してしまう。
そうだ、俺は今から未知という名の、設定に基づいたマスクデータの世界に足を踏み入れるのだ。
「最悪、すぐに遠見の鏡で戻ることはできる……と思いたいが」
保証はない。
緊張している? いや、少し見栄を張り過ぎたな、怖いんだ。
けども。
「臆してなるものか。我、わからせという名の勝利を刻みに来た男ぞ。えぇいそこのけそこのけカツオが通るっ!」
んなところでビビってるようじゃ、サティアやアイリをわからせるなんて夢のまた夢だ。
意を決して鏡に触れれば少しの浮遊感があった後。
「――は?」
部屋の中には幻影だろうキュリオさんと相棒らしき女キャラが一人、そして。
「百合カップルの間に挟まらないと出られない部屋?」
控えめに言って死を覚悟しなければならない看板がぶら下がっていた。