女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
当たり前と言うべきか自明の理と言うべきか。
もはやお気に入りという言葉で済まない域にある配下が貢いできたアイテムを使わないという選択肢はサティアになかった。
カッツォの治療が終わり、経過に問題がないことを確認し、何ならまた何処かへ出かけていった背中を笑顔で見送りもした。
思ったものだ、もしかするのならばこれが良妻賢母のあるべき姿なのかもしれないと。
そう思ったことにすら言葉にならない温かみというか、幸福感を覚えもした。
ずっと感じていたこの世界の歪さ。
上位と呼ばれる女という存在の醜さ。
そして世界に違和感を覚えながらも、退屈という言葉で誤魔化し檻に閉じこもっていた己の愚かさ。
上位だ下位だなんてくだらない。
地位こそ二人の間に差をつけるものとして存在するかもしれないが、心は同じ高さにあってもいいのではないかと。
故にこそどうにかしちゃいそうだった。
愚かしい発想であると自覚しつつも、カッツォは自分をこの退屈という檻から解き放ってくれる翼のように思えたのだ。
ならばその翼を見守ろう、出来るのであればより高く遠くへ羽ばたけるよう力を授けよう、導こう。
そのために必要な手段と許可なら、他ならぬ彼自身が授けてくれたじゃないか。俺を見ろ、と。
できるはずだ、私なら。応えられるはずだ、私なら。
何のための私の生か、それは全て彼のために注ぐ必要があるのではないか。
そうとも、カッツォとはいつか夢見たかもしれない白馬の王子様なのだと。
そんな思いで、サティアは遠見の鏡へと魔力を込めた。
「か、っつおぉ……!!」
そうして映った光景に対して、アイリは憎しみだけを煮詰め抜いて残った呪いのような声を絞り出した。
裏切り、という言葉は適切ではないだろうが、それでもアイリは裏切りに似たかのような感情を抱いた。
何がことサティア様に尽くすということにおいては、だ。どの口が言うのかと。
「っ!! サティア様っ! すぐにでも私が――」
排除しに行く。
続けようとした言葉は。
「黙りなさい」
「っ!?」
他ならぬ最愛の主によって遮られた。
「お、お言葉ですがサティア様! これは裏切りであり不義理ですっ! こ、このような何処の馬ともしれないメスの秘所を舐めたくるような――ひっ」
「私は、黙りなさいと、言ったわ」
サティアの紅い瞳が強く煌めいた。
さもすれば無様にも失禁してしまっていたかもしれない迫力を前に、アイリは腰を抜かして床へと座り込む。
ただ、アイリを圧した空気は直ぐに霧散された。
「――あぁ、カッツォ……あなたは、なんて、なんて……愛おしいのぉ……!」
他ならぬ、蕩けたようにうっとりと映されている光景を見つめるサティアによって。
「さ、てぃあ、様?」
「はぁ……。アイリ、あなたにはわからないの? あのカッツォの苦しそうな顔が、辛そうな心が」
「は、はい?」
確かに、確かにだ。
流石のサティアとて映った光景を前に一瞬思考を止めてしまった、良からぬことを考えてしまった。
「カッツォはね? 私をただ楽しませるために……私に捧げるために、このような苦行へと身を置いているの」
「は、は?」
だが違う、あり得ない、断じてあり得ない、そうでなくては計算が合わない、道理が、辻褄が合わない。
「いいのよカッツォ、そんなことをせずとも私はあなたを愛しく思っているわ……本当に、いじらしい」
そうだ、そうに違いない。
だって越えていない、唇も、その純潔も捧げていない。
ただただ指を、女を悦ばせるためにはどうすればいいかのみを考えて動かしているだけだ。
それも全ては。
「あ、ぅんっ」
「さ、サティア様っ!?」
ビクンと大きくサティアの身体が震えた。
「あぁ……あぁっ! 私なら、あなたに何をされても! もう既にっ! 全てが至高の快楽で幸福だというのにっ!」
「う、ぁ……」
痺れが迸った身体を抱きながら、サティアは愛を紡ぐ。
もはや疑いようはない。
カッツォは己の全てをサティアのために使おうとしているのだ。
より高めた自分を、期待を超えられる自分を作り上げ、磨き上げ。
完成された自分を捧げようとしてくれているのだ。
「ふ、ふふふ。うふふふふふふっ」
ならば、私も。
私の持てる全てを使って尽くさなければならない。
己が宿す理想と夢想に殉じるため。
「いいの、いいのよカッツォ。そんな塵芥を使わずとも……あぁ、そうね、そうよね。カッツォ、私が悪かったわ、ごめんなさいね? 許してちょうだい」
不意に。
晴れ渡った空から、いきなり雫が零れてきて。
「アイリ。あなたがカッツォの練習台になりなさい」
「――は、ぃ?」
「ごめんなさいね? 私が早々に許さなかったから、味わうべきではなかった苦痛をカッツォに与えてしまったの。でも、あなたなら大丈夫。私の信頼厚い従者だもの、大丈夫よね?」
「あ、の……仰る意味が、よく」
強かに、アイリの額を撃ち抜いた。
「求められれば応じなさい、尽くしなさい。カッツォがより高みに至るためにあらゆる努力をしなさい」
「サティア、様……?」
「もちろん唇はダメよ? 純潔も捧げてはダメ。あれは全て、私にこそ捧げられるものなんだもの」
「あ、あぁ……」
次いで降り注いできたのは愛という狂気。
もはや止まらない、止められない。
「わかった?」
「は、ぃ」
サティアの瞳はもはや、もはやカッツォしか映らない。
そうだと理解した、わからされた。
つまり、アイリの恋路は。
(おわ、っちゃった)
奇しくもと言うべきか、見事にというべきかはわからない。
ただ、カッツォという男は、二人の女の脳を焼き尽くした。
本話にて第一章に相当する部分は完結ですー。
ここまで付き合ってくれた読者の方々、ありがとうございます、好きねぇアンタも。
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んでは二章からもわからせロードを一緒にたのしみませう。