女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
豪華絢爛……ってのは趣味じゃない。
こういう時はサティアのセンスに全面同意したくなる、落ち着いた感じの調度品が誂えられた部屋へと入って。
「……クソが」
情けなさと苛立ちが混ざった気持ちを吐き出した。
凌いだ、捌き切ったと安堵した。
予期せぬイベントを前にして、これまでと同じように対処できたと自分を誇った。
心の中で上手くやったと自分を褒めて、少ししてから酷い違和感で気持ち悪くなった。
一歩進む度にイラついた、一つ呼吸する度に自分を殴りたくなった。
何処が今までと同じように、だ。
「逃げちゃあ、ダメだろうが……!」
あぁそうだ、俺はさっき逃げたのだ。
動揺が酷かったってのはわかってる、目の前にいた解釈違いだらけのサティアって現実から逃避していたとも認めよう。
だがしかし、しかしだ。
「そんなあり得ねぇヤツを、わからせに俺は今、いるんだろうが……っ!」
なんだよありゃ、出来の悪い全肯定マシーンか? それとも売れっ子ホストにでもなったつもりか?
気色が悪い、何反射的に自分へ負けてんだよこの負け犬負け癖変態豚野郎が。
わけがわからない? んなもん当たり前だろう、未知の中に逆転の道筋を探してんだよ俺はっ!! 棚ボタ勝利を受け入れようとしてんじゃねぇよ!!
「ふ、ぅ……!」
落ち着こう、落ち着きたまへ。
そうともゲームじゃない、セーブもロードもあり得ないんだ今は。
ならばやり直しは出来ない、二周目なんてものも存在しないのだ。
このまま俺の知らないところで何かをわかったサティアを放置なんかできない。
わからせるのは俺であり、わからせたいのは俺のことを全力で監禁するわ拘束するわそれでもこれは愛の試練だと不条理なことをぬかすサティアである。
断じて、わからされることを自ら期待しているサティアなんかじゃあない。
「ったく、俺はイージーモードでゲームスタートした覚えはねぇんだっての」
我、勝利する男、カツオ。
この程度で抱える飢えを満たせるわけもない。
ならば、だ。
「……まぁ、うん」
目の前に居る、これ以上主の不興を買わぬようにと固く口を結ぶ、鉄面皮メイドさんをどうにかするべきだ。
「アイリ」
「はい。お食事になさいますか? お風呂にされますか? それとも私に致しますか?」
あいや、そうじゃない。ちょっと早すぎる。
そういう言葉は是非とも。
「……どしたん? 話しよか」
「は?」
俺がお前をわからせた後、目にハートを浮かべながら言ってくれ。
「何があった、ってのは聞かないさ。どういう思考回路をしたのかはわからないけど、原因は分かってるから」
「……ならば、何をお話すれば?」
俺がキュリオを弄んでいたのを遠見の鏡で見たのが事の発端、原因だろう。
むしろそれ以外に何かあるならその辺りを聞かせてもらいたいが、十中八九アレだ。
「いや、違うな。ひとまず、何より先に。俺に畏まるのはやめてくれ。アイリの言葉を借りるなら敬いの気持ちもないのにされるのは気分が悪い」
「……」
「安心しろよ。遠見の鏡は光景だけだ、声は聞こえない。逆鱗に怯えるのなら立ち振る舞いにだけさえ気を付けていればいい」
一緒にアレを見たのか、見ていないのか。
見たのなら音声が聞こえないのは知っているはずだし、見ていないのかも。
なら、サティアが一人で見てその結果至った考えをアイリに押し付けたのならパワハラもいいところ。
や、そういう人ではあるんだけどね。サティアハラスメントだよ、サティハラ止めて下さい。
「であれば」
「うん」
俯き加減だった顔が真っすぐに俺へと向けられた。
サティアからの贈り物である前髪留めがないから、鉄面皮メカクレメイドなアイリは未だにちょっと違和感があるよね。
「お前を殺したい」
「ひえっ」
いやいやよぉく知ってるアイリ様だったよ、アイリちゃんなんて言ってらんねぇよ笑顔でとんでもないこと言うなっての。
「お前のせいでサティア様は壊れました。返してください」
「あー……まぁ、うん」
「絶対に許さない」
「ごめんやて……」
お前を殺して私も死ぬって言われないことを喜ぶべきだろうか? 喜んだらダメだろ人として。
「謝罪なんて要らないです、返してください」
ニコニコとまぁほんと……あるあるネタを言うなら笑顔ってホントは相手を威圧するためのものなんだってのがよぉくわかるよ。
けど、そうだな。
「俺ならどうにかできるって、思ってんだな」
「っ……」
じゃなきゃ恨み言をぶつけたりしないだろう。
「さもありなん、かね。確かに俺は言ったからな、アイリが出来ないことを俺がやるって」
「……ちっ」
「なんだ、恨み言いってちょっとは元気出たか? 何よりだよ」
舌打ちありがとうございます、ってな。
イヤイヤな顔しながらコかれるのも悪くはないさ。
「寝言戯言は聞き飽きました。私があなたの口臭体臭に耐えられている間に所信を述べなさい。くっさぁ、もうそろそろ無理です」
「早すぎな? ってか、所信、ねぇ?」
抱負を述べよってか。
わからんでもない、アイリとしてはまず聞いておきたいところだろう。
恐らくどころか間違いなく、だが。
じゃあサティアのお言葉に甘えてアイリで思う存分スキル経験値稼ぐわ、とか言ったら終わりだろう。
その場合心の底から軽蔑されて身体を差し出してくるんだろうが……趣があるとはいえ趣味ではないな。
「どうしました? 早く」
「ちょっと待てっての」
「カウントダウンしましょうか? じゅう、きゅう――いーち」
「だから早いっての! 条件反射で暴発するからやめてくれ!」
ほんと、多少は元気になったようで何よりだよ。
しっかし、どうするか、ね。
サティアがいつ帰ってくるかは不明だが、その間に何ができるだろうか?
いっそのことサティアと戦える位にまで強くなって、物理的わからせバトルってのは……現実的じゃねぇな。
「カッツォ」
「カツオだよ。で、何? カウントダウンは止めろよ?」
「どうすれば私は、またサティア様の隣にいられるようになりますか?」
「……なんだ、言えたじゃねぇか」
どうすれば、か。
前と同じようにと言わないあたりに愛情の深さを感じるよね、どっかのダウナー系尻軽レズビッチとは格が違ったわ。
そりゃつまり。
「前と同じように、じゃなくていいのか?」
「終わってしまいましたから。ですが、想い続けることを止めろと言われていません」
「……なるほど、良い着地点だ」
「あなたに褒められてもうれしくありません、ぺっ」
そげなこといわんと。
や、でもおかげさまでちょっと見えたよね。
「アイリ」
「はい」
ようするに、だ。
「ちょっと俺と一緒にダンジョン潜ろうか」
「は?」
ちゃんと失恋させてやればいい、ってことだ。
お前の恋は終わったんだって、わからせたらいいってこと。