女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい   作:ベリーナイスメル/靴下香

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異常者二人

 結局のところアイリは自暴自棄、その一歩手前にいたのだろう。

 正確に言うのならば今もなお手前にいる、だろうが。

 

(ダンジョン、ですか)

 

 用意したのは随分と前なのに、未だ真新しいままの装備をアイリは身に着けていく。

 

 最愛の主より告げられた言葉はアイリの胸に残っている。

 今後、それこそ生涯この胸に刺さったトゲが抜けることはないだろうという確信もある。

 

「いっそのこと、先代様のように……ふふ、カッツォに弄ばれるくらいならそれもまた良いですね」

 

 姥捨て山ではなかろうが、カッツォの誘いへと頭を縦に振ったのはそんな理由からだった。

 今の自分であればたとえ女のダンジョンアタックが推奨されていない(・・・・・・・・)場所であっても構わないと思っている。

 

 カッツォが自分をダンジョンへ連れて行く理由に興味はない。

 ただ、サティアへの忠義を、あるいは愛情を捧げる方法として、カッツォの役に立つことこそがサティアのためになると信じているだけ。

 

「準備は出来たか?」

「ええ。正直に言えば他に何を準備すればいいのかわかりませんので、これで良いか自信はありませんが」

 

 ノックの音と同時に聞こえてきた言葉へとアイリは素直に返事をした。

 返事をした後に、自分がどれだけ自暴自棄になっているのかを改めて自覚する。

 

(何とも普通の返事をしてしまいましたね……まったく)

 

 らしくない、その一言だった。

 

 カッツォへの嫌悪感はいくらでもある。

 遠見の手鏡で見た光景はやはりアイリにとっては裏切りと言える行為に違いなく、許せないことだ。

 にもかかわらず、カッツォの言う事を聞けば何か想像もできない事態へと好転(・・)するのではないかという期待があるが故に、男に対してするべきだろう対応を取れない。

 

「お? んじゃ、確認しても?」

「ダメです、視線が不快です」

「あ、そう。じゃあ、良いわ」

「……10秒以内であれば」

 

 アイリにとっては何よりも、だろうが。

 カッツォは普通ではなかった。男という存在に対して抱く普通からあまりにも逸脱していた。

 

 だから、どうするのが正解なのかがわからない。

 

「も、もういいでしょう? それで? 何処のダンジョンに行くのですか?」

「ん……? あぁ、白亜の教会だよ」

「は?」

「白亜の教会」

 

 あぁ、もう、本当にわからない。

 確かに女のダンジョンアタックを禁止こそされていないが、どうして禁止にしないのか理解できないと言われているダンジョンへ行くことになるなんて。

 

 そんな想いが頭の中で巡る。

 

「私のあられもない姿を見たいと。やはり豚は豚ですね、私がモンスターに種付けされるサマを見たいなら――」

「なんでモンスター如きにアイリをヤらせなきゃならねぇんだよ」

「は? いえ、ですが」

「欲しいものの一つがそこにある。サティアのためになりたいんだろう? 今の俺じゃあ色々足りてないんだ、頼むよ」

 

 カッツォの苦笑いを前にアイリは二の句が継げなくなった。

 

 いや、言うべき言葉を封殺されたと言うべきか。

 

「大丈夫だ。俺が守る、とは言えないけれど。言う通りにしてくれたら、間違いないから」

「……その根拠なき自信は何処からと。いえ、良いでしょうわかりました。元より私に否と言う権利はありません」

 

 どうあがいても、今はカッツォのことを信じる他にないと、わかってはいるのだから。

 

 

 

「――次、右奥の前から三列目にある長イス裏にハイドビッグラット」

「わかりました」

 

(いえまったくわかりませんが)

 

 白亜の教会という、気が狂いそうになるほど白一色に染められた巨大な教会。

 というよりかは神殿と言うべきか、そんなダンジョンへと突入してしばらくが経過した。

 少なくともカッツォが言った大丈夫という言葉に嘘はなかったとアイリは知った、わからされた。

 

「流石、いいインビジブルスローだった。移動するけど、あの部屋の入口には拘束系の罠が設置されてるからちょっと待ってくれ、解除してくる」

「……では、周囲の警戒をします」

「ああ。可能性があるとすれば、亡霊系モンスターが襲ってくるかもしれないけど」

「ゴースト種であれば、大丈夫でしょう。わかりました気を付けます」

 

 白亜の教会は攻略推奨レベル60のダンジョンだ。

 今のカッツォが突入するには危険どころか無謀と言える場所であり、アイリにとっては自分を性的に狙ってくるモンスター以外なんら脅威とは言えない場所でもある。

 

(だと言うのに。まるで、何度もここを攻略したことがあるかのような)

 

 先にアイリがインビジブルスロー、魔力で作った透明の刃を投擲するというスキルで倒したハイドビッグラットにしてもそうだ。

 本来なら女を見ればその姿を消し背後から強襲、そのまま種付け交尾を狙ってくると言う危険なモンスターで、その気配は男女問わず察知できないと言われているにも関わらずあの指示だ。

 

(本当に、気持ち悪い男です)

 

 少なくともここに至るまで自身の背筋を凍らせる機会は訪れなかった。

 いや、これからもそうだろう。カッツォが意図的に自分を貶めようとしない限り、自分は目隠しをしてでもここを攻略できると思わされる。

 

「――よし、解除成功っと。アイリ、ここから少し進んだところはモンスターハウスになってる。目的地に行くためには避けられない場所だ」

「何か問題が?」

「メインで現れるモンスターの多くが種付け狙ってくるタイプなんだ。もしかしたらちょっとヒヤっとさせてしまうかもしれない」

 

 もしやそこで私を生贄に。

 

 そんな考えは浮かんでこない、何故ならば。

 

「また、ですか。この欲しがりマゾが」

「ありがとうございます! いやまぁ、ゾンビアタックしか解決方法がないんだって」

「大人しく私をモンスターに差し出せばいいでしょうに」

「なんだ? 欲しがりマゾはアイリのほうじゃ――はい冗談! すみません、その目は気持ち良くないです!」

 

 白亜の教会へ来てこれで何度目の溜息か、数えるのもバカらしくなってきたアイリではあるがそれも仕方ない。

 

「重ねて言いますが、私の奇跡はそう万能なものではありません。死を誤魔化し、その一歩前で堪えさせるなど、いつまで出来るか保証はありませんよ?」

「あー……心配してくれてる?」

「もう使いません」

「冗談だって! 奇跡は俺がアイリを信じる心が大切だもんな? けどまぁ安心して欲しい、俺がことこう言う事(・・・・・)に関してのアイリを信じなくなるなんて、死んでもあり得ないから」

 

 澄み切った眼だった、思わずアイリが一歩後ろへたじろいでしまうほどに。

 

 ここまでカッツォが自分のことを信じている理由が理解できないのはそうだが、それ以上に。

 

「……一つ、ようやく理解できました」

「うん?」

 

 そもそも、何度も死ぬとわかっている攻撃に身を晒し続けることがあり得ない。

 正気を保っていられることも、もしかしたら死ぬかもしれないと一瞬でも考えてしまえば本当に死ぬと理解していて尚続けられることも。

 わざわざダンジョン入り口へそれぞれ別に転移した後合流するという、パーティとして認められない抜け道のようなやり方でダンジョンアタックを挑んだことも。

 

 やはり、全てを含めて。

 

「あなたは本当に、私にとっての悪そのものなのだと」

「……はは。その言葉でより安心できたよ、ありがとう」

「まったくもってこれっぽちも褒めてないです、勘違い豚は天国へ出荷しますよ?」

「それは勘弁。んじゃ、行こうか」

 

 簡単に身を翻し前へと進んだあり得ない、あってはならない背中を、アイリは追いかけた。

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