女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい   作:ベリーナイスメル/靴下香

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アイリというキャラクター

「何が、何が――! 何も、知らない豚の分際でっ!!」

 

 屋敷の中をどう歩いたか、どう駆けたか。

 落ち着けるわけもないが、アイリは今屋敷の廊下で慟哭している。

 

「く、う、ううぅううううっ!」

 

 どうして逃げた、どうして何もできないままで終わったのか。

 

 口から何も知らないくせにと言葉は出たが、少なくともカッツォはサティアが何を望んでいるのかを誰よりも、アイリよりも熟知していることをアイリは知っている。

 

 だからでもあるのだ、何もできなかったのは。

 カッとなった頭の中で、カッツォを失えばサティアにとって大きな損失になるという80点の答えが彼女を止めた。

 

「何が……まともに狂え、ですか……っ! そんな、そんな……正解を、私に、言わないで……!」

 

 そうとも、80点を常に導き出せる彼女だから、カッツォの言葉が100点の正解だとわかってしまった。

 同時に、どうやっても、どうあってもそれができないだろうということも、だ。

 

「サティア、様……私は、どうすればいい、のでしょうか」

 

 壁に背中を預けてずるずると崩れ落ちそうな自分を支えた。

 

 答えは見えた。だが、その答えをどうやっても掴めない。

 狂えと言われて狂えるほど、彼女の培ってきた……いや、設定はやわではないのだ。

 

 そして、設定から述べるのであれば。

 

「ふ、んぅ……」

 

 慟哭することで誤魔化していた下腹部の熱がアイリを焼く。

 気づけば膝が笑っていた、内腿が何かを期待するかのように震えていた。

 

「どう、し、てぇ……あ、ぅ」

 

 アイリはサティアのことを愛している。

 それは本能に刻まれた設定という何かのせいではあるが同時に、自身を超える圧倒的な何かに支配されたいという願望を持ち合わせているが故にでもあった。

 

 自分を簡単にどうとでもできる存在の言う事に間違いはない。

 間違わないということは、こんな矮小な自分であっても完璧な存在であれるという事で。

 

「は、ぁあ……ん、く、ぅうん」

 

 もしも、カッツォの言う事に従ったのならば。

 男という卑しく救いようがない低能な豚へと、博くことを許せたのなら。

 

「は、ぁ……あ、つぅ……」

 

 完璧であると自身が認めた存在すらも、超えてしまえるのではないか。

 

「んぁっ!? ふ、ぐぅううっ!? や、やだ、やだっ、サティア、さまぁあぁあっ!」

 

 アイリは大きく頭を振った。

 そんな想像を許さない、許してはならない。

 

 だが許さないことを身体の熱が許さなかった。

 

「ひ、っぐ、う、にぃいっ……!」

 

 なんて理不尽(バグ)か。

 設定と設定に追い詰められたアイリはその苦しみすら悦びと認識してしまう。

 

「っ、あ――」

 

 ついに堪えきれず、ずるずるとアイリは床に座り込んでしまって。

 

「あ、はは……あはは、は……」

 

 受け入れたくなかった現実が、廊下に敷かれていた絨毯に広がっていることを認めてしまった。

 

 

 

 ゆるゆると倦怠感が残る身体を持ち上げて、ぼんやりとしたまま自身の犯した粗相を片付ける。

 

「……私は」

 

 幾分か冷静になれたからだろう、少なくともカッツォに対して従いたくなっている自分というものを受け入れることができた。

 

 未だにアイリの持つ倫理観や常識はあり得ないと訴えていた。

 しかし、焼き付いて離れないカッツォの前でひれ伏している自分の光景を思えば再び身体が熱くなる。

 

「どうする、べきなのでしょうね」

 

 今であれば、サティアの命令をこなしているだけだと自分に言い訳もつく状況だ。

 最低限サティアの言いつけを守りさえすれば、裏切りにも値しないと思える。

 

「……あら?」

 

 答えの出ない問題から目を背けるように窓の外を見ればそこにはカッツォがいた。

 

「何処に? ……もしや、ダンジョンへ? 先程白亜の教会であんな目にあったばかりでしょうに」

 

 アイリの顔に苦笑いが浮かんだ。

 嫌悪感は浮かんでこない、もはやそういう生き物なのだとアイリは薄らと思っていたし、何よりも無事に帰ってくることに疑いはなかったから。

 

「行っておいでなさい。助けはいらないと思いますが、私の目にはなってくださいね」

 

 窓を開けながら、アイリは使い魔を飛ばした。

 これもまた80点の行動だろう、せめて監視はしなければならないという義務を放棄できない彼女が故の。

 

「そういえば、欲しいアイテムの一つと言っていましたか」

 

 白亜の教会へ行くのは欲しいものの一つがあるからと言っていたことを思い出す。

 

 白亜の教会から持ち帰ったのはメモリースフィアという映像記録アイテムだったが、今度は何を何処へ取りに行くのだろうか。

 

 掃除の手を一旦止めて、使い魔の視界を覗いていれば、カッツォが向かったのはまず家畜のエサ箱だった。

 

「……む」

 

 当然ながらそこにはキュリオがいて、何処となく熱っぽい期待感のような眼差しを以てカッツォの対応を行っている。

 

 不思議とそれをアイリは面白くないと感じた。

 感じた理由はアイリに思い浮かばなかったが、言うまでもなくそれは嫉妬である。

 

「さっきまで私にご褒美を無様にも強請ってきていたくせに」

 

 まさかあのメス豚に強請るつもりだろうか? だとするのなら程度が知れるというもの。

 

 そんな風にもおもったが、そもそもあの場で快く……は無理だろうが、ご褒美を上げていたのならこうはならなかっただろうと思いなおし、少し強めに奥歯をアイリは嚙み締めた。

 

「おや?」

 

 が、そもそも杞憂であった。

 カッツォはキュリオに片手を上げて悪いとジェスチャーをし、そのままダンジョンポータルが設置されている部屋へと足を運び。

 

「え?」

 

 淫魔の園という、男を誘惑する為だけに存在しているかのようなモンスターひしめくダンジョンへと突入していった。

 

「……ふ、ふふ」

 

 なるほど、と。

 

「私は、この身は、モンスター以下、と。サキュバス、でしたか? あのような塵芥にすら届かない、と」

 

 沸々と湧き上がる怒りのような感情と共に、アイリは理解した。

 

「ええ、わかりました、わからされましたよカッツォ。どうやら、あなたには――」

 

 ――わからせが、必要なようですね?




R-17.9で収まってるな! ヨシッ!!
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