女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
「あらあら、滑稽ですわねぇ?」
「無様、と言うべきでしょうか。まったくもって情けない姿ですわ」
「オトコというだけで雑魚ですもの、仕方ありませんわ」
モニタクリスタルに映る光景を前にクスクスと笑う女たちがいた。
映っている内容と言えば現在カツオが参加している奴隷品評会だ。
女たちの言う通りと言ってもいいだろう、彼女たちであれば指先一つで駆除できるゴブリン一匹を、わざわざ一人の男を囮にし、必死の形相で突破している光景は確かに情けなく映る。
「ですが、だからこそ」
「ええ、愛らしいと言うべきでしょうか? わたくしたちのペットに相応しい」
だがこれも彼女たちの言う通り、だからこそではあった。
まだ姿も見えぬ主のために、あるいは主と仰ぐ存在を得るために必死になるサマは彼女たちの自尊心のようなものを満たす。
そうとも、モニタの中で奮戦している男たちはダンジョンに直接入ってアイテムを収集できないがため代わりにダンジョンアタックを行っているのだ。
当然その能力が高い、あるいは将来性があると見込まれたのなら地位の高い女に声を掛けられる。
うちに、奴隷としておいでなさい、と。
(……まったく、良いご身分ね)
そしてそんな不健全に色めき立つ女たちを、周りの者たちより一際上質な椅子に座って眺める女がいた。
「サティア様、そう露骨な顔をされるものではありませんよ」
「……そうね」
傍に控えていた澄まし顔のメイドにそうたしなめられるがサティアと呼ばれた女の表情は動かない。
むしろより一層退屈だと示すかのように椅子へと深くもたれかけ、深いスリットから覗く美しい足を組み替えた。
「サティア様」
「わかっていると言ったわ。けど、仕方ないでしょう? 何処を見ても退屈なのだから」
ハラメントス家を継いでからこれで何度目の品評会か。
別に時を巻き戻しているわけでもないのに、代り映えのしない光景に辟易している。
将来性なんて感じない男たち、そのサマを見てクスクスと嘲笑する女たち。
全てがサティアにとっては退屈で、面白い男も女もいないと言って自暴自棄にダンジョンへ自ら突入し行方不明となった母の気持ちが良くわかるというものだ。
「まぁ、出遅れでしょうか?」
「人間種? 純血とは珍しいですが……ぷっ」
「石を投げ始めましたわよ!? あ、あははっ! 非力な男とはこうも――ぷ、ふふふふっ!」
そんな中、少しだけ空気が変わった。
変わった空気にいつの間にか瞑っていた瞼を持ち上げサティアがモニタへと目を向けてみれば。
「……へぇ?」
ゴブリン相手に何度も何度も周囲に落ちている石を投げ続ける人間種の男が映っていた。
確かに滑稽と言えばそうだ、石礫をいくら投げたとて道を塞ぐゴブリンにダメージらしきものは与えられないだろう、それくらいどれだけ愚かであっても理解しているはず。
だと言うのに黙々と、ひたすらにどういうわけか何事もなかったかのように定位置へ戻るゴブリンに向けて石を投げ続けている。
「打倒、しようとしているのでしょうか?」
「かもね」
そこでようやくサティアは背もたれから背中を離し、少しだけ前のめりになった。
打倒できるかどうかが問題ではないのだ、打倒しようとしている事が重要なのだ。
雑魚も雑魚モンスターではあるが、何の力もない男が倒すには手こずる相手に立ち向かっているかどうかが大切なのだ。
「バカではない、わね」
「と、言いますと?」
「逃げる、避けるだけじゃ何も得られないということよ、効果のあるなしが問題じゃないわ。意図してかはわからないけど、長期的に見れば間違いなくこの行動はあの男の糧となる」
「はぁ。私にはただ臆病風に吹かれて遠間からちょっかいを出し続けているようにしか見えませんが」
そういう見方もあるだろう、むしろそう考える方が自然だ。
自然だが、あの男だけが唯一参加している男の中で逃げ以外の手を打ったことは事実でもある。
「アイリ、よく覚えておきなさい」
「何を、でしょうか」
自分の買い被りかもしれないことは重々承知しているサティアだったが、ひとまず期待の意味を込めて。
「成長しない者などいないわ」
「成長、ですか」
「ええ、そうよ。私も、あなたもね」
「……ご教授、感謝いたします」
期待以外に込められた意味にアイリと呼ばれたメイドは気づいた。
すなわち、自分に対してもそうだと言う事で、成長しなければメイド長である自分であっても遠ざけると主は言ったのだと。
「あの男の名は?」
「カッツォ、との事です」
「そう。ありがとう」
口の中で小さくカッツォと反芻して。
「できれば直接名を呼んであげたいものね」
「アレが、品評会を生き残ると?」
「生き残れば、とは思っているわよ。後はあの男次第ね」
アイリは心の中でカッツォに対する過分と言える評価に口を閉ざす。
たかが石をゴブリン如きに投げ続けるだけでこれほどの評価を与えられるなんてありえないと思う。
先代当主から続き、今もなおハラメントス家を支えているという自分に対しての言葉があれだったこともある。
だからこそ。
「……しくじれば、良いのに」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何も。失礼いたしました」
「そう。あぁほら見なさい? あの男、ついに石を投げるのを止めたわよ? 次は何をするのかしらね」
目に見えてわくわくしだした主の隣で無表情を貫きながら、アイリは初めて男に対して嫉妬した。