女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
目を覚ませばそこは異世界でした。いやもう知ってるが?
「目が覚めましたか」
「あー……流石にそういう奇跡の使い方は、想定してなかったかな。まーさか致死攻撃を堪えさせて問答無用の意識消失をかましてくるとは思わなかった」
「少し、思い切りやりたかったもので。ですがあなたの想定を上回れたことを嬉しく思いますよ、カッツォ」
「……そりゃ、何よりだ」
色々ツッコミたいがよろしいか? あ、ダメみたいですね、アイリの目がヤバイ。
「豚は豚らしく、もっと慌てふためいてくれた方がなお良かったのですが」
「生憎ブタってのは卒業したつもりなんでね」
どうにも、ベッドに寝たまま繋がれているらしい。
動こうとしてみれば万歳させられてる腕、手首のあたりからじゃりっと鎖の音がした。
……監禁イベントは、サティアだけのはずなんだけどなぁ。
「ええ、ええ。それでこそ、と言って差し上げましょうカッツォ」
「カツオです。んでまぁ、ありがとうさん」
「はい。では先に確認致します、正直に真実をお話しなさい」
さっきまで目の前にあったアイリの顔が離れて行って、少しの間が生まれた。
そりゃあモノによるってもんだが、とりあえず頷いておこうか。
さりげなく足を動かそうとしてみればこちらも同じく繋がれているらしい。
こりゃあ、サティア様監禁イベントレベルで言うところの3相当ってところかね。
だったら。
「あなたは、先までダンジョンに行っていた」
「イエスだ」
「ダンジョンを攻略した」
「納得いっていない部分はあるが、概ねイエスだ」
答えたのなら、小さくよろしいというアイリの返事が聞こえた。
この感じじゃ使い魔出してたな? 嘘言ってたらどうなってたことやら。
なんてことを考えていれば、ベッドの足元がぎしりと少し軋む音が聞こえてきた。
「ならば、そう。わかって、ますね?」
「……まぁ、そう言う事になっても、おかしくないわな」
スケスケネグリジェ姿のアイリが、ニタリと口元を歪めた。
その笑みに、雰囲気に。
俺の背筋へとゾクゾクと何かが迸ったことで、理解した。
「ご褒美の、時間です」
このままじゃ、
「ふー……さぁて、アイリ」
「話さなくて結構です。あなたはその粗末なモノをおった――」
「サティア様に純潔を捧げるのはダメって言われてただろう? それはダメなんじゃないか?」
とりあえず、である。
はっきり言ってとんでもなく混乱してる、サティア監禁イベントの成り代わりをアイリがしていることもそうだし、色々段階をすっ飛ばし過ぎだろうどうしてモノの上へと跨ろうとしているのかとか。
「あら? まともに狂えと言ったのはあなたではありませんか」
「そうだな言った。けど重ねて言うがまともにって言ったぞ?」
「ええそうですね、だからまともに狂ったのです。だって、要するに。こちらを使わなければいいという事でしょう?」
……おーまいガッデム。
確かにそりゃあサティアルールの外側にある事だろう、実に盲点をついた良い着眼点だ。見習わなければならないね、俺も。
「ふー……ふー……っ」
ひとまず、断言できるとすればアイリは止まらない。
発情的な熱に浮かされているわけじゃなかろうて、恐らく自分の判断に陶酔している。
この判断こそが、80ではなく100点満点満額花丸回答だと、信じ込んでいる。
さーって? 絶体絶命なんだが? はー? これって全部俺のせいか? そうだが?
「アイリ」
「黙って、いなさい。そうすれば、直ぐに――」
「俺如きに痛い思いをするのか?」
「は?」
ひとまず時間を作ろうか、打開策なんぞ直ぐに思いつかない。
「初めて、なんだろう?」
「そ、れが何か? 誰であれ、初めては痛いものだと――」
「違う。そっちを使うのが、だ。良いのか? いずれサティアに捧げる場所で覚えることになるだろう痛みよりも、こっちのほうが痛くて」
「っ……」
あいや、ぶっちゃけアイリさんってばソッチのが弱点なんで多分最初っからげふんげふん。
「俺だって男だ、ご褒美はウェルカム。つーか望む望まないは別にここまでされちゃどうにもできない」
「何が、言いたいのです」
「なぁに簡単だ。ちゃんとするべき準備をして来いって話だ。俺はここから動けない、そうだろう?」
「……」
あ、ちょっと訝しまれた。正解だよ、準備している間にどうかしてやる。
……はぁ、通用しなさそうだね、どうも。
「わかったわかった。じゃあ、本音で話そうか」
「本音……?」
状況は詰んでいる。
何をどう思って、どういう思考回路を辿ってこの結論に辿り着いたかはまったくもって理解できないが、少なくともアイリはここで格付けをすると決めたらしい。
「わからされてたまるかよ」
「っ!?」
「俺はな、ここに勝利する為生きているんだ」
「しょう、り……?」
負けない、負けたくない。
相手が圧倒的な上位存在であろうともだ。
「たとえここでこのままお前にわからされたとしても。俺は絶対に逆転の芽を探す、抵抗する」
「無駄な抵抗になるとしか思えませんね」
「そうだな。だがお前はこうも思うだろう、俺ならばあるいはと」
「……何が、言いたいのです」
お前の常識外に在る俺だ、ここで徹底的に俺をわからせても、もしかしたらという疑念がずっと付きまとったままになる。
「勝負をしよう」
「勝負?」
「そう、勝負だアイリ。もしもお前が勝てば、俺は今後抵抗を止めると誓おう。お前が、お前こそが俺の至上で最愛の主だと、認めて、己を捧げよう」
「……」
俺が差し出せるのは、賭けのチップにできるのはそれだけ。
何よりも重く、俺の生きる意味と言えるものを、賭けようじゃないか。
「ふ、ふふ……」
「……」
「い、いえ、そうですね、決して矮小で醜い豚が何を言っているんだ。などと思って笑ったのではありません。ようやくサティア様があなたのことを気に入った理由が……少しだけ、わかったもので、つい嬉しくて」
「そうかい」
そりゃあなんとも、嬉しくないお言葉だ。
そうだと認めさせることこそが、俺の楽しみだってのにな。
「ふぅ……ルールは? まさか、私と直接文字通り戦うなんてものではないでしょう?」
「それでも勝つ自信があると言ったら?」
「嫌ですよ、少なくともフェアではなく正義でもない。考えている勝負の方法が、あるのでしょう?」
「……まったく。わかってくれてるのがうれしいやら悔しいやらだよ」
あぁ、その通りだ、お前のその目だ、わからせたいのは。
傲慢で、男を侮蔑していて、どんなことでも私を超えられるなんてありえないと確信しているお前だ。
「この状況から、俺は屋敷の敷地外を目指す」
「なるほど? それを阻止出来たら私の勝利だと。あなたが私のモノになる、と。あなたが勝った時は?」
「さっきの続きを願おうか、
もはやこれは俺の知るサティア監禁イベントじゃあない、攻略方法なんてまったくわからない。
だが、これだ。
これこそが、俺の望んでいた圧倒的な敗北を背に負っている状況だ。
ここからの逆転こそが、俺の求めているものだ。
「良いでしょう。ですが」
「手加減なんていらねぇよ」
「良い度胸です、そしてそれでこそと言っておきましょう。では、制限時間は一時間あたりで如何ですか?」
「……わかった」
了承すればにんまりと笑みを深められた。
流石にそれくらいは知ってるよ、お前の奇跡がどんなものかくらいはさ。
「楽しみですよ、カッツォ。あなたが私の足元にひれ伏す姿が」
「言ってろ」
最後に、思わず目を奪われそうになる妖しい笑みをアイリは浮かべて。
「それでは。勝負、開始です」
俺をその場にそのまま残して、去っていった。