女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
パタンとドアが閉まって、アイリの足音と気配が遠ざかっていく。
「いやぁ……やっぱさ。これ、サティアよりもきつくね?」
だがそれが良い、実に良い。
がちゃがちゃと腕にかけられた手錠を鳴らしながら、改めて思う。
「くぅー……! ワクワクして来ましたねぇ!!」
状況は最悪だ、ほぼ詰みと言って良いだろう。
サティア監禁イベントレベルMAXは目の前に本人がいる状態からスタートなんてクソ仕様ではあったが、まだ会話が通じる可能性があるだけマシってもんで。
……そう考えれば、さっきの本音ぶっちゃけは失敗だったかもな、いやでもなぁ。
「いや、ともあれ考えなきゃな。初見イベントクリアに一時間はちょっと厳しい」
アイリの奇跡、その本質は『許可』だ。
だからアイリにゼロッ♡ って言われると気持ちよくなっちゃうんですね。
じゃなくて、白亜の教会でのゾンビアタックで言うのならば、俺は死を許可されなかったから瀕死状態で踏みとどまれていた。
「俺がそうだと信じていたからできた芸当ではあるが……うぅん」
アイリの奇跡には条件という触媒が必要である。
重ねて先の件で言うのであれば、アイリがサティアの意向を踏みにじり、自分の感情を優先してカッツォを殺しなどしないというキャラクターか設定への俺の信頼……あるいは信仰を触媒として瀕死踏みとどまりゾンビアタックを可能としていたわけである。
「まずは、ヒントを探さなきゃ、か」
今の俺はアイリに対して何も願っていない。
いや、わからせてやると思っていることは確かだがこれは同時に己が手で実現してやるという決意であり、願いなんぞではない。
ならば、俺に対して奇跡を行使しているとすれば発現することはないだろう。
「……自分自身に、奇跡をかけている可能性がある、とか?」
魔力操作で手錠を開錠しながら考える。
俺に効果がないとわかっているのに、俺へと使用するなんてことはあり得ないだろうあのアイリちゃんだし。
「ってか、開錠したけど何もなし?」
手首を擦りながら、少し疑問に思う。
ものすごく安易な奇跡の使い方をするのなら、俺が手錠を開錠することを許可しないとすることもできたはずだろうが。
「ふむ」
慎重にベッドから脚を降ろす、特に何か発生する気配は感じない。
「なら、単純に屋敷外へと出ることを許可しないってセンが濃厚だろうが……だとするのなら、何を触媒としているのか」
何を条件として、奇跡を発現しているのか。
その辺りが、この監禁イベントをクリアするためのキーとなるだろう。
「まだ奇跡の行使に及んでいないって可能性もある。とりあえずこの部屋から出るかね」
行動しなきゃ何もわからない。
少なくともいきなり殺されるなんてことはないだろう、この後のわからせあいを考えれば、であるが。
「カギは、かかってねぇな。罠も感知できないし、アイリの狙いは――」
なんなんだ。
そう口から零れそうになった時。
「――え?」
ひゅん、という風切り音が聞こえた。
視界が一段
まっすぐに見れば同じ高さにあった燭台が、目線の高さより少し上にある。
「は?」
唐突過ぎて理解が及ばない。
あぁ、何で? どうしてだ? どうして。
「脚が、そこに、ある?」
ごとりと音を立てて脚が倒れた。
誰の脚だ? そう言えばなんか下半身が熱い。
わからせに期待して下品なんですが、なんてこと言うべきか?
いや。
「おれ、の?」
ぐらりと視界が歪んだ。
歪んだと認識した瞬間、やっぱりもう一度風切り音がして。
「あ――」
俺の意識が掻き消えた。
「っ――!! う、あぁあぁああっ!?」
そしてもう一度意識が浮上した。
同時にがちゃりと音がして、腕と脚に痛みが奔った。
「うぐ――こ、れは……ぐっ、あ、あの野郎……っ!!」
問答無用でわかった、まずは先に、わからされた。
「死ぬ未来を、許可しない、ってか!! やりやがったな!!」
あぁくそ! あんのクレイジーサイコレズめ!!
俺が攻略に失敗するなんてありえない、ってか!? ふざけんな!
「うぷっ――う、ぇえぇっ……」
繋がれたままこみ上げてきた嘔気を堪えられず吐いた。
強制的に仰向けだったせいで吐き切れなかったブツで溺れそうだ。
「うげっ、ぶ、ぶふっ……く、くそ、が……!」
無理くり魔力操作をして手錠を開錠する。
乱暴にしたせいでサティアの魔力侵蝕がぐぐっと進んでしまった感じがした。
「は、ぁっ! はぁ、は、ぁ……ふ、はぁぁぁぁ」
起き上がってまず脚を見る。
見ればちゃんと膝から先は繋がっていた。
そうだ、死ぬことが許可されていないなら、そういうことだ。
「死んだらやり直し……瀕死なんかじゃねぇ、俺はさっき、間違いなく死んだ」
許可されていないのに死んだから、死ぬ前に戻ったんだ。
どこの死にゲーだよ、ジャンル間違ってんじゃねぇよ。
気持ちが悪い、趣味が悪い、流石性悪クソ鉄面皮メイド。
さっきのはあれだ、これからお前を殺し尽くしてやるという宣言に他ならない。
しかも。
「……20時。時間まで、戻ってるか」
アイリをわからせることを諦めなければ、一生ここで殺し続ける、と。
どうりでこの部屋に何も仕掛けられてねぇわけだ。
諦めたのならここで21時まで待てば良い、そうすればアイリに屈したと認められる。
逆に、わからせたいと言うのなら。
「アイリの殺法を、乗り越えてみろ、ってか。はは、笑えねぇ」
無意識に膝を撫でていた。
痛みはなかった、ある意味優しさだろう。
「あの先からはもっと、より強く、死ぬということを生々しく実感させてやる、ね」
それが嫌なら、そこでじっとしていろ、食卓に並ぶため列をなす豚のように、と。
「……く、くくく」
あぁ……なんて、滅茶苦茶だ、理不尽だ。
「たまん、ねぇ……!」
心底、この世界に来れて良かった。
「待ってろよ、アイリ……ぜってぇ、わからせてやる……!」
この苦しさも、痛みも。
全てお前に、倍返しじゃあすまさねぇからな……!