女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
「ふ、うふふ、うふふふふふ」
一度、もう一度とカッツォが死ぬ度にアイリは身を震わせる。
「そんなに、そんなに……私を、わからせたいのですね……! あぁっ、素敵、ですよ、カッツォ……!」
その姿はいつかのサティアに似ていた。
いや、まさしく同一と言ってもいいだろう。
「さぁ……さぁっ! 早く、速く、疾風く私の下へおいで下さい……! そして、そし、てぇっ! 旦那様と呼ばせてくださいっ!!」
ベッドの上で悶えるアイリが身を弓なりにしならせる。
アイリは今、カツオが何をしているか何を考えているのかなどわからない。
ただただ、カツオが死んで、再び今へと巻き戻ったこと。つまり奇跡が行使された感覚だけを感じることができる。
「っ!? ま、またですかカッツォ……! そんな、私、もう、これ、以上はぁ……っ! もう無理、むりですぅ……許してくださ、いぃっ」
そう、死んでなおまた挑み続けている、続けてくれている。
入念に設置したトラップの数々、悪辣と言える配置、その残酷性。
どれをとっても一度味わってしまえばもう二度とごめんだと考えて当たり前だと思えるくらいだと言うのに。
間違っても
だと言うのに、何度も。
何度も死を乗り越えて、自分を求めてくれている。
自分を、わからせたいと、自分より俺が上だと示そうとしてくれている。
「たまら、ないです……だんな、さまぁ……!」
行使された奇跡の感覚が伝わってくる度に頭が焼ける、魂が震える、心が蕩ける。
そうとも、アイリにとってこの感覚は熱烈にもほどがある求愛だ。
それも、毎分毎秒などではない、20時の
わからせたい、あるいはわからされたいと希うべきかもしれない相手に。
「あー……あ゛っー……」
脳が焼き切れても仕方ない、どころか当たり前だろう。
心の底から愛する相手からずっと、一生進まない時間の中耳元で愛を囁かれ続けているようなものだ。
事実、ベッドに伏せるアイリの表情はだらしなく崩れたまま。
それでも奇跡を行使し続けられているあたり、アイリもまたカッツォ……いや、カツオと比肩する強い精神力の持ち主と言える。
(あぁ、カッツォ様、旦那様っ。はやく、はやくぅ……これ以上は保ちません、もう苦しいんです、胸の奥がお腹の奥が苦しいよ、切ないよって煩いのです、だから、だからぁ……)
諦めるか、辿り着くか、教えて欲しい、と。
アイリにとってご主人様という言葉はサティアを指す言葉であり、唯一にして絶対自分の上位にある存在を指す言葉だ。
もし、もしも。
その唯一を塗り替え、カッツォが自分の上位に存在することができたのなら、自分がそう認められたのなら。
「~~~~~~っ!!」
アイリの脳裏にサティアとカッツォの前にひれ伏す自分の姿が浮かんだ。
浮かんだ瞬間にまた、何かが焼き切れた、ぐずぐずに蕩け落ちてしまった。
「あ……はぁ。なんて、素敵なのです、かぁ……」
設定というある種における呪い。
アイリはサティアのことを心の底から愛している。
敬愛、情愛、友愛、性愛。
あらゆる種の愛情を捧げていると決まっている。
それがゲーム開発者に植え付けられたものであることなどアイリは知らない、知りようがない。
だが、それが揺らぐことなどあり得ないことを本能で、理性で確信していた。
だから。
だからこそ、そのあり得ないを条件とした。
カッツォが作り出した自分の下へ辿り着くことを許可しないという奇跡を行使し、効果を発揮し続けているのだ。
「ふ、ふひっ、ふひゅひゅひゅひゅっ」
これは泡沫の夢だ。
あり得ないから、夢の中だから、あり得ない妄想で悦に浸っても構わないだろう。
80点を取る事に長けたアイリが導き出した、花丸満額百点満点の回答だった。
全ては無くなるのだ。
21時を迎えた瞬間、今抱えている感情も、願いも欲望も露と消えて。
新たに紡ぎだされるのはカッツォに主と呼ばれるようになったアイリであり、そのほかは何も変わらないまま。
そうでなくてはならない。
――だと、言うのに。
「うーわ、キャラブレイクも甚だしい。わし、こんなアイリ見とうなかった」
「へ、ぁ?」
いつだって。
「あ、ごめん嘘。これを見るために頑張ってたんだもんなぁ……感慨深いや」
「う、そ……です」
カッツォは、いやカツオは。
「お待たせっ! わからせしかないけど良いカナ?」
あり得ないを塗り替える、120点を叩き出して現れる。
「っ!!」
「ってうおっ!?」
カッツォが目の前にいる。
そう認識した、認識した瞬間、妄想していたことを現実にするため。
「お待ちしておりました、旦那様っ」
「……えぇ?」
アイリは纏っていた服を全て脱ぎ捨て、カッツォの目の前へと滑り込むように土下座を決めた。
「……ふぅ」
「申し訳ありません、カッツォ様! このような真似はご不快でしたでしょうか?」
「カツオだ」
「っ! 重ねて申し訳ありません
アイリがカッツォではなくカツオと口にした、時計の針が21時を示した。
その瞬間に。
「そう、いい子だアイリ。不快と言えば不快かもしれないな、お前をそうさせるのはこの後だと思っていたから」
「は、ひゃ……」
目の前がぐにゃりと歪んだ。
歪んだ景色が元に戻れば、アイリの中にあった何かが変わった。
「答え合わせは後で良いか、それじゃあアイリ」
「は、はひ。なんなりと、申し付け、ください、ませ」
男に対する嫌悪感は今もなおアイリの胸にある。
あるはずだが、どうだろう、目の前に在る男を男と思えない。
「わからせの時間だ」
故に、ただただ高鳴る胸の内そのままに。
「お、おねがい、いたしましゅ……だんな、さまぁ♡」