女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい   作:ベリーナイスメル/靴下香

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勝利の味はレモン味

 後悔、って言うのはない。

 

「ぐっ!?」

 

 飛びかかって来たサティアを回避しきれるわけもなく、伸ばされた爪が俺の半身を引き裂いた。

 

「はぁあぁぁああぁっ!」

「っ――おいおい、容赦ねぇ、なぁっ!!」

 

 流石お医者様ってか? 急所をよくご存じで。

 けど残念、この世界の仕様っていうのはゲーム、なんだよなぁ!

 

「っ!?」

「ふぃー……おいおい、んな豆鉄砲食らったような顔してんじゃねぇよ、からかい上手なサティアちゃん?」

「バ――かにしてぇえぇええっ!!」

 

 致命傷で助かった、なんて言うべきかね。

 それとも昨晩俺を殺しまくってくれたアイリに感謝をしておくべきか?

 

「甘いっ――わけじゃねぇんだけど。ほら、俺を殺すんじゃあなかったのか?」

「こ、このっ!」

 

 随分と耐久力あがってるよね、HPも桁がおかしいや。

 んでもってそんなヤバイダメージを一瞬で回復できるサティアの魔力も頭おかしい。

 

「出来ねぇことは口にするもんじゃねぇよな。お互いに(・・・・)さぁ?」

 

 わかってる。

 桁外れの耐久力を得ようとも、サティアをどうにかできるわけもなし。

 そして、この程度の桁外れじゃあ本気を出したサティアの一撃で即死してしまうことも。

 

「ぬりぃんだよ、サティア」

「……随分な言葉じゃない。本当にそうだと思うのなら、生かされていることを私に感謝すべきじゃないかしら?」

「その余裕が温いって言ってんだよ。殺すって言ったならしっかり殺しにかかってこい。ちょっと痛めつけた程度で俺が頭を下げるなんて期待してんじゃねぇよ」

「こ、の……!」

 

 そうとも、サティアは全力を出していない。

 そもそも全力を出したのならこの屋敷はとっくに倒壊していておかしくないんだ。

 発生したソニックブームで床や壁がひび割れる程度で済むなんてありえない。

 

「元通りになるかもしれないなんてスケベ心出してんじゃねぇつってんだ。あぁいや? スケベな女だもんな? 悪かったよ、スケベがスケベして悪いことなんてなんもなかったわ」

「――カッツォッ!!」

 

 再び、爪での攻撃を身に浴びる。

 

 痛い、って感覚はあんまりない。

 アドレナリンってのがこの世界でも作用するのならきっとドバドバだろう。

 

「ク、クク……」

 

 ……あぁ、本当に楽しい。

 笑うな、まだ笑うなって思ってても、どうにも止められないんだよ。

 

 この傷を魔力で治療するたびに魔力浸食が進んでいる。

 既に60%は溜まっていたんだ、さっき使った分も含めて治療魔法が使えるのは後、4、5回ってところ。

 

 ギリギリだ、崖っぷちだ。

 ここから逆転を叶えられたのなら、それは。

 

「さいっこーにっ!! ハイッてやつだよなぁああぁっ! サティアッ! わからせてやる! わからせてやるぞっ! お前をっ!! 覚悟の準備をしろっ!!」

「わけ、わからないことを――言っているんじゃあないわよっ!」

 

 徐々に、サティアのタガが外れてきた。

 その証拠に今繰り出された攻撃は、俺の心臓目がけてのモノだった。

 

「あーん? わからねぇの? なら教えてやるよサティア。お前、ビビってんだろ」

「は、はぁっ!? わ、私は何も恐れてなんかないわっ!」

「いーや、ビビってる。俺を殺そうが生かそうがどちらにしても、この後がどうなるかわからなくてビビってる」

 

 サティアは未知を求めている。

 それは設定だ、設定が故に絶対だが、裏を返せば自分で未知を作り出せないということだ。

 

「殺してみろよ、サティア。ないものねだりの駄々こねてんじゃねぇよ。自分で出来ないから誰かにお願いするってのは上に立つものとして当たり前かもしんねぇがなぁ……ここまでお膳立てしてやってこれじゃあ、底が知れるぜ? ご主人様よぉっ!! んなザコメス、愛してなんかやれねぇわ!」

 

 ――あ。

 

「……ふ、ふふ」

 

 空気が、変わった。

 

「わかったわ、カッツォ。よぉく、わかった」

 

 あれ? 俺なんかやっちゃいました?

 

 じゃないよね、煽りまくっちゃったよねてへぺろりん。

 

「ねぇ? カッツォ、一つだけ、聞かせて頂戴?」

「カツオです。伺いましょうか」

 

 うん、多分これが終われば殺される。

 

 だってへたり込んだままのアイリが俺に何らかの奇跡を使おうとしたもん。

 あぁもちろん、目で止めろって言った。こんなもんウェルカムなんだわ、俺としちゃあな。

 

「あなたは、私のことを、愛している?」

「ええ、愛していますよ、心の底から」

 

 即答だわんなもん。

 絶対にわからせられねぇヤツをわからせるのは俺の生きる意味そのもので、俺に生きる意味を与えてくれているお前も、アイリも……この世界の女ども全員を、心の底から愛してるよ。

 

「うそ」

「そうかもしれませんね」

「嘘よ」

「だからそうかもって言ってんじゃねーっすか」

 

 そうだとわからせるのはコレが終わってから。

 

 つーか。

 

「うそ、嘘よ。だったら、だったら――」

「メンヘラに付き合う趣味はねぇんだ。ヤンデレならウェルカムだけどな……だが、言ってやる、サティア」

「……嘘」

 

 ったく、俺の愛したサティア様は何処に行ったのやら。

 いいさ、そういうのも含めてこれからしっかりわからせてやるとも。

 

「愛し方もろくすっぽしらねーガキが、他人の愛し方にケチつけてんじゃねぇよ。んの、若作りババァのくせに」

 

 独身貴族な俺が言えた義理じゃ、ねーけどさ。

 

「っ――」

 

 視界から、サティアが消えた。

 

 あぁ、マジだ、本気だ。

 

「旦那様っ!!」

「奇跡、ぜってぇ使うなよ」

「ですが!」

「うるせぇっ! 命令だつってんだろうが!! ――ぐっ!?」

 

 腹に、クソデカ穴が空いた。治療魔法を使う。

 

「はぐっ!?」

 

 顔面の半分が消し飛んだ。治療魔法を使う。

 

「ぶっ――!?」

 

 下半身がなくなった。治療魔法を使う。

 

 あぁ、後、何回だっけとぼんやり考えた瞬間、右半身がねじ切れた。

 

 治療魔法を、使う。

 

「く、クク……はははは」

 

 面白くて、仕方がない。

 カッツォではなくカツオになったんだ、サティアの魔力浸食はもうダイレクトに伝わってくる。

 

 でも。

 

「ははははははははっ!! へぐぅっ!?」

 

 ポロリした。治療魔法を使う。

 

 ついに、サティアのことしか考えられなくなる。

 

 そうだ、でも。

 

「お前を愛している以上にっ!! わからせてぇんだよっ!! こちとらなぁっ!!」

 

 この気持ちが侵食し、植え付けられた愛情以下なんてこと、あり得ない。

 

「ほらっ! どうしたサティア!! 俺は生きている! 生きてるぞ!? 頭ン中はお前でいっぱいだっ! 好き!? んなもん当たり前で前提ですらねぇわ! 愛している!? じゃなきゃこんなことしてねぇ! でもな! でもそれ以上に俺はどうしてもっ!!」

 

 ――お前に言いたいことがある。

 

 わからせたい、ことがある。

 

「っ!?」

「……つーかまーえたー」

 

 腹から一本腕が生えた。

 ご丁寧に真正面から突っ込むからこうなるんだよ、勉強になったかな? サティアちゃん?

 

「は、はな――」

 

 ぐりぃっと腹の中が捻じれたけれど、あと一呼吸、喋ることくらい、よゆーのよっちゃん。

 

 じゃ、わからせよう、伝えよう。

 

「俺はカツオだ」

「――へ?」

 

 そうとも俺はカツオである。

 

「好きな男の名前、間違え続けてんじゃねぇよっ!!」

「んむっ!?」

 

 そのまま、唇を奪う。

 あぁ、そうか、こんな感じか。

 

「ぷ、ぁ……」

「……ごちそーさまでした。レモンの味はしたか?」

 

 これが、そう。

 追い求めていた。

 

「……ふ、ふふ。そう、ね。私の大好きな、血の味がした、わ」

「なら、何よりだ」

 

 勝利の味だ。

 

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