女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからせとハクスラが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
重ねて言えばサティアという上位存在は退屈の中を生きてきた。
長命種である事も災いしただろう、彼女はハラメントス家の当主となる前から多くの退屈ばかりを目の当たりにしてきた。
故に彼女が重要視する部分はいつだって面白いか面白くないかである。
望めば、いや望まなくても欲しいものが簡単に手に入る中唯一手に入らなかったものが人生を彩る楽しみそのものだから。
「サティア様っ! 一体どういうことですかっ!」
「どういうことも何も、こういうことよ」
「ですからっ!」
「早速アイリが声を荒げるなんて面白いことをカッツォは生み出した。そういうことよ」
屋敷に戻り、カツオ改めカッツォが部屋へと運ばれた後、アイリは爆発した。
決して怒りの導火線が短いわけではなかったが、我慢の限界を迎えてしまったのだ。
だが、そのお気持ち表明ですらサティアは面白いと微笑んで受け流す。
「サティア様が退屈凌ぎを常より強く求められていることは存じております。ですが、それをあの汚らわしい男を使うことによってなど、私は認めたくありません」
「なら、代わりに私の渇きを癒してくれる?」
「あらゆる手を使ってでも」
そのあらゆる手を使った結果が今だった、すなわち退屈に変わりはないということ。
アイリとて理解はしている、自分ではどうしようもないことくらい。だがそれ以上にカッツォの存在を認められず見てみないフリをしているのだ。
「何度目かしらね、そのセリフは」
「っ……です、がっ!」
「良いわ、構わない。私だって、カッツォ一人でこの飢えを満たすことができるなんて思ってもないもの」
「……と、言いますと?」
そしてアイリの心境とてサティアは理解している。
伊達に先代より自分の傍仕えを許しているわけではないし、何よりそんなアイリの愚かさとでも言うべきものを愛しくも思っているのだ。
故に、サティアは妖しく笑みを浮かべ、アイリの顎をくいっと持ち上げ。
「あなたが、カッツォを使って私の退屈を、飢えを癒しなさい」
「わた、しが……アレを、使って?」
「そう。カッツォを使いなさい、部下の失態は上司の責任とは言うけれど、部下の成功もまた上司の成功……あなたがアレを使い私の退屈を解消させれば、それはあなたが私の退屈を解消させたも同然のこと」
アイリは自覚なく口元を歪ませ、腰を震わせ――
「そうすれば……そうできれば、ベッドに呼んであげてもいいわ」
「っ……!」
下腹部に熱を、灯らせた。
去っていくサティアの指をうっとりした目で見送りながら夢想の時を甘受し、カッツォへの嫌悪感を封じ込める。
「これを見なさい」
「こりぇ、でしゅか?」
「うふふ。蕩けた顔も素敵だけど、しっかり御覧なさい?」
「はぅっ、はぁ……失礼しましたって、これは!?」
アイリへ見せつけるようにしてサティアの形良く大きな双丘の間から取り出されたものは小型のステータスクリスタルだった。
「レベル、15……!?」
「面白いでしょう? 私の足を舐めまわすことがカッツォにとってのご褒美になることも面白いけど……あの程度の低い品評会をクリアしただけで、この域に辿り着いているのよ」
くすくすと、妖しさを消して心底面白いとサティアは破顔する。
その笑みの質に嫉妬を覚える余裕はアイリにはなかった、目を奪われるという表現は認めたくないだろうが、それでも奪われたのだ、カッツォのステータスに。
「カッツォは選択したわ。従者でもなく奴隷でもない第三の選択肢を。これを私は自由を求めたと捉えている」
「自由、ですか?」
「ええ、籠の中の鳥はイヤみたいね。けど、折角手に入れた
「……」
どうするべきか。
ただでさえハラメントス家は今まで従者を迎え入れることはあっても奴隷を迎え入れることはなかった。
故に奴隷ですらどうやって扱えばいいのかもわからないのに、自由を求める男をどうすればいいのかなど簡単に答えは出ない。
だが。
「お望みのままに」
「ありがとう。よろしくお願いするわね? 愛しいアイリ」
「はいっ! お任せくださいっ!」
愛する主の期待は裏切れない、裏切りたくない。
決意を秘めたと言うには少しだらしなすぎる顔をしたまま、アイリはサティアの前から去っていく。
「その返事自体が、私の退屈を募らせるだけなのだけれどね? それとも、本当にベッドの上でなら少しは楽しませてくれるのかしら」
再び一人になった部屋で、サティアは笑う。
「あぁ、カッツォ……あなたは私を裏切らないでね? 期待してるわ」
笑いながら、カッツォの名前を呼ぶことで少しだけ灯った熱を抱えて静かに目を閉じた。