シャアのいない宇宙世紀で   作:ギレンの野望大好きおじさん

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第13話 歴史を振り返る宇宙世紀で

 

 

「では、私から幾つか提案があります」

 

目を回していたファが落ち着いたところで、シャリアが全員を見渡す。

 

「一つ目、この現象、空間について名付けましょう」

 

なんやかんやでNT空間などと呼ばれる正式名称がないこのフワフワ空間、史実ではサイコミュ技術の発展もあり現実空間にも影響をもたらしていたが、この世界では一切発展しないのでNT同士の内緒話にしか使われない。

 

「名前ね」

 

「ええ、恐らく貴方たち三人以外は初めて遭遇しましたが……特に名付けていないのでしょう?」

 

実際、アムロとシロッコが精神的疲労の回復に使う以外は、ララァが瞑想に使うぐらいで、アレとかいつものヤツとか呼ばれている。

 

「確かに、必要がない上、科学的に実証しづらい事から色々後回しにしていたな」

 

シロッコがシャリアに同意する。

 

ここのシロッコは多忙だ。

 

ミノフスキー物理学の代わりにパプテマス粒子の発見者として宇宙世紀の科学発展をリードしなければならない。

その上、ルナチタニウムから発展したガンダリウムも、ジオン公国からアクシズに至る歴史の流れが無い為、シロッコが精製したシロコニウムがそれを代替えしている。

 

史実で戦争が元で発展した技術体系が軒並み遅れ、その遅れをシロッコを酷使する事で取り戻そうとしている。

転生者の知識は基礎工学に一切寄与していないのもそれを後押ししていた。

 

それらの要因がシロッコのNT能力研鑽を後回しにし、リラクゼーション用の技能として活用するに留まらせている。

 

「成程……この名もなき空間の名付けとなると、ふむ……」

 

ハマーンが辺りを見回す。

史実では幼少期からフラナガン機関で実験を受けていたが、ここでは初めてこの空間を認識することになる。

 

ララァはギレンの零したニュータイプの言葉から、ニュータイプ空間とで称するべきとも思うが、嫌な顔をしそうなので黙っている。

ミライは素直に先人の言葉に従うべしと見守り、アムロはどうでも良いので既に明日のことを考えている。

 

カミーユが真面目にウンウン唸りながら思考し、ファがそれを見守る。

 

言い出しっぺのシャリアは既に彼らの言葉に従う方向だ。

 

「キラキラで良いでしょ?」

 

「ハァ!?」

 

アマテがそう言い、反射的にカミーユが反発する。

 

「何? わかりやすくて、いいでしょ?」

 

後に尾を引かないアマテはカミーユの反発に気付かず、首を傾げる。

 

「……ハァ、これじゃあオレが馬鹿みたいじゃないか。まあ、わかりやすいですね」

 

兄貴分に引っ張ってほしいカミーユだが、肝心のアムロは我関せずだ。

反射的に声を上げたが、別に気に触る様な名称でもない。

 

「わかりやすく、外で使っても少し気にされる程度で済むだろう。良いのではないか?」

 

「ええ、学術的な正式名称でもありません。通じる人間にだけ通じる、隠喩として丁度良いかと」

 

「詩的で良い表現だわ」

 

シロッコとシャリアも賛同を示し、ハマーンもアマテの頭を撫でる。

 

アマテは嬉しそうに笑った。

 

「さて、名前も決まりましたので次の提案です」

 

一息つき、辺りを見渡す。

 

「我々、つまりキラキラに来れる人間の行動理念を予め決めておきたいのです」

 

「? 何か決めなきゃいけないの?」

 

シャリアの言葉にアマテが反応する。

 

「何かする気ですか? 俺は嫌なことはしませんよ」

 

シャリアから悪意は感じない為、カミーユも強くは反応しない。

 

「結論から言います。我々のこの力、戦争利用をしないでください」

 

シャリアの言葉に年少組、ハマーン、アマテ、カミーユ、ファが首を傾げる。

 

「そもそもですが、戦争が起きまして?」

 

ミライも疑問に思い、代表して尋ねる。

 

「起きません。少なくとも、ギレン閣下が亡くなられるまでは」

 

一旦否定し、シャリアは続ける。

 

「その後は極めて流動的になるでしょう。十年後には火星圏が人類の生存範囲に組み込まれる見込みです。ギレン閣下亡き後の舵取次第では、四半世紀後に惑星間戦争に発展することもあるでしょう」

 

しかし、サイド3内戦を経験していないスペースノイドたちには戦争は縁遠く、今この場にいるララァ以外の人間には実感しずらい話だ。

シャリア自身も戦場の様な木星間航行は経験しているが、剣弾飛び交う実戦の空気は味わっていない。

 

「二十年は長いが、我々の寿命が訪れる程でもない。むしろ、我らが社会の主役となる年頃だろうな」

 

シロッコはシャリアの危惧を概ね理解する。

 

この先、自分たちの様な超能力者は増えていくだろう。

これは人類が宇宙に適応したとかそういう話ではない。

純粋に総人口の増加で、能力者も増えるという単純な話だ。

 

そしてこの力は時代が時代であれば、国を興せる力だ。

人心掌握に徹すれば、宗教すら立ち上げられただろう。

 

「一種の不戦同盟か? しかし私は兎も角、他の者に政治が出来るとは思えんが?」

 

ハマーンはシロッコを科学者としてしか知らないので、超能力で世界を動かせるのは自分ぐらいと考える。

さて、二十年後の自分は何をしているだろう? 軍は怪しいが、政治の世界に身を置けば首相ぐらいはなれるだろうか?

 

──多分、太陽系連邦の初代大統領とかになれると思いますよ。

 

「ええ、唯の兵士の自分も無理でしょう。ですが、この力を権力者に売ることはできます。なので、それをしないでほしというお願いですね」

 

いまだにピンときていない年少組の三人を見る。

 

「そんなに世界を変えられますか? この力がそんなに良いものとは思えませんよ」

 

現在進行形で能力に振り回されているカミーユが疑問の声を上げる。

 

「ギレン閣下が我々の事を知りつつ放置しておられるのは、恐らく戦争が起きていないからです。ララァ嬢に地上の経緯を語った事から、戦争で我々がどう扱われるか知っているのでしょう」

 

シャリアの予想では、ギレンはララァを超える能力者だ。

高精度の予知で、今の状況を創り上げたと思っている。

 

酷い勘違いだが、転生者もある意味で能力者と言えなくもない。

 

「そうね。言われてみると、あの人からはある種の憐憫が向けられていた気がするわ」

 

成程、己の末路を知っていればあの視線も理解できる。

 

「そうなると、私に接触したのは歴史を変えるためか!」

 

シロッコは持ち前の頭脳で改変前の歴史を思考する。

 

本来、自分とララァは出会わなかったはずだ。

しかし、そこで一旦思考が止まる。

流石のパプテマス・シロッコといえど、自身が生まれる以前の時代の空気は分からない。

ギレンが不戦に拘ることから、史実では戦争が起きたのだろう。

だが、何処と何処が戦争をしたのだろうか?

 

軍備を持たぬコロニー間はあり得ない。

そうなると、宇宙軍が分裂するぐらいしか戦争は成り立たないだろう。

ギレンが見逃している地上の非対称戦は含まないものとする。

 

「……コロニーの独立戦争? いや、どうやって?」

 

「サイド3内戦の波及を恐れたのでは? 連邦政府のあの様をみると各サイドの行政指導を上手く舵取りできたとは思いません」

 

思考が堂々巡りのシロッコに、ハマーンが口を挟む。

 

カーン家だけでなく、多くの裕福層があの内戦でサイド3を離れた。

ハマーンが生まれる前の事だが、たまに大人たちの愚痴の話題に上がる。

 

「……ゲリラ兵が超能力者の行き着く先か。ギレン閣下が変えたのは地獄コロニー内戦か」

 

流石にジオン独立戦争というウルトラCは予測もできず、シロッコはサイド3内戦が他のコロニーにも波及し、そこで能力者が使い潰されたと判断した。

この世界のジオン・ズム・ダイクンは鳶が鷹を産んだ、ヤルオ・ソク・ダイクンの父親としての知名度しかない。

ジオン公国成立までの流れは転生者しか分からないだろう。

 

そして、変えた結果がジャミトフの台頭に繋がったのだ。

そう、シャリアたちは想像し、その先は口を結ぶ。

 

「取り敢えず、そのギレンって人が歴史を変えたってことにしましょう。サイド3の内戦って、確か二十年以上前ですよね? そこは変えられなかったんですか?」

 

カミーユが疑問の声を上げる。

やたら戦争は嫌がる割に、そこを変えなかったのは気にかかった。

 

「内戦開始時は閣下は少佐かそこらの筈です。そもそもサイド3出身ですから、内戦から離れるのが当初の目的だったのでは?」

 

シャリアがギレンの経歴を思い起こし答える。

結果から逆算し、他コロニーに波及する前に宇宙軍に強い影響力を得て、連邦政府から宇宙軍を切り離したと想像する。

 

一種の陰謀論だが、歴史改変は事実なので割りかしピースが嵌まることもある。

シャリア、シロッコとハマーンはあーだこーだと改変について議論する。

ララァは話が脱線した段階で瞑想を開始し、アムロは変わらず明日のセットアップを思考中だ。

 

ミライ、アマテ、ファの三人は自己紹介から雑談を始めている。

 

カミーユだけが真面目に議論に付き合っていた。

 

「65年の観艦式が内戦波及の阻止に強く影響したのはわかりますよ。その後、なんで移民計画の再開をしなかったんです? 俺も詳しく知りませんが、コロニー経済が発展して新造コロニーも相当増えてるじゃないですか。話を聞くに、ジャミトフって人はガチガチの地球至上主義者なんでしょう?」

 

続けて、地上の争乱を防げたはずでは? とカミーユが質問する。

 

「恐らく閣下も知らなかったのです。地上の残存住民の格差社会の実態を……」

 

それにシャリアが答える。

 

「私たちからして見れば信じられませんが、その時期の地上では初等教育を受けることができたのは半数以下です。初期の移民事業で中流層を根こそぎ宇宙に上げたことで、当時の社会を維持できなくなりました」

 

当時のアースノイドの大半が義務教育から解放され、文明レベルが大幅に後退していたという事実に。

 

「……私が地上で高等教育を受けた人と会ったのは、お客を除けば片手に収まるかしら」

 

今一しっくりこないカミーユに、瞑想を中断しララァが軽いイメージを送る。

 

「うぇ……大分、いえ、すみません」

 

想像を超える惨状に、少し気分が悪くなったカミーユが謝るが、ララァは済んだことと微笑む。

 

「つまり、移民計画は再開しなかったのではなく、できなかったが正しいでしょう。間違いなくアースノイド単独でのコロニー運営は不可能で、スペースノイドが難民を抱え込む形で二十億の人口を養う必要がありました」

 

単純計算で四人家族に難民一人の割合だ。

恐らくコロニーの人道家も口では美辞麗句を吐きながら、反対票を入れるに違いない。

カミーユとしても感情面で賛成できない。

 

「結果として、地上で二十億の人命が失われましたが、記録では地上軍との戦いでの戦死者は五千万を超えません。地上軍四千五百万の内三千万が死傷し、士気は崩壊寸前だったとも聞きます」

 

「ちょっと! 残り十九億は何処から、あっ! ごめん、言わなくていい……」

 

続くシャリアの言葉に、アマテが思わずツッコミを入れるが、先ほどちょっと流れてきたイメージで先が想像できた。

 

「はい。コロニーからの食料供給を独占した都市部の富裕層、崩壊した医療体制により、地上では空前の疫病と餓死が蔓延しました」

 

言わなくていいと言ったのに、とアマテがシャリアを恨めしげにみる。

 

当時の地上軍の仕事は前線は地獄の非対称戦で、後方は悪夢の死体処理であった。

徹底した疫病対策が取られ、軍内での疾患は阻止しているが、多くの軍人が精神を病みエリート出身者の多くが退役している。

 

あのバスクが少し根を上げた戦場である。

 

あそこで平然としていたのはガンギマリのジャミトフと、ジャマイカンぐらいのものであった。

幸い、ジャマイカンは味方に撃たれることなく、ゲリラ掃討戦で殉職している。

この時、一連の戦いで唯一陸戦艇が失われた例となり、貴重な戦訓となっていた。

 

「結果として、我らは二十億の犠牲の上で平和を享受しているという事か……」

 

「いや、疫病も餓死も連邦政府の責任じゃん! なんで関税もかけずにコロニー産通しちゃったの? サイド間貿易でも関税ガーって、よくニュースになってるじゃん!」

 

地上が酷いことになっている、以上のことを知らなかったハマーンの声が少し落ち込む。

対するアマテはハマーンは関係ないと、酷いことになった原因に文句を言う。

 

アースノイドの飢餓は、連邦政府が宇宙からの食料輸入に関税を掛けず一次産業が壊滅した後、コロニーからの人道支援の食糧を都市部が独占したせいだ。

 

勿論、彼らの言い分もある。

ゴップが早々に月に移ったため、食料輸送の為のインフラが機能してなかったのが原因である。

 

海軍の基地もある海に面した大都市に、空軍基地を内接した空港の近接都市を繋ぐ交通網が死にかけていた。

鉄道を動かす人員も道路を維持する工員も全て宇宙に上げた結果だ。

陸軍の戦車以外がホバーなのは都市部以外の道路が不整地化しているのも一因である。

 

食料と医者の不足も公共施設を廃止した政府の責任で、義務教育の停止と一次産業への補助打ち切りも議会が決めたことだ。

絶対民主主義なので選んだ市民にも本来責任はあるが、上級市民以外に被選挙権は無いのでそもそも選択肢がない。

投票率はいつだって100%、白紙投票は無し、議席もほぼ世襲だ。

官僚は大学経由で上級市民が独占している。

一年戦争を経由しない宇宙世紀に、公民権などないのだ。

 

何せ、一連の戦いで死んだ地球連邦市民は十万人に満たない。

二十億の殆どが市民権を破棄されている。

失った市民権を回復するため従軍し、得る前に戦死した兵士には遺族年金も出ない。

まあ、得てからも戦死したら無かったことになるから、結局遺族に年金が支給されることなどないのだが。

故に裏切り者も多かったが、歴戦兵を中心にギリギリで士気は維持されていた。

生きている限り、市民権は回復しているので、歴戦兵の士気はまあまあ高い。

この市民権を得た歴戦兵をジャミトフは手懐け、消耗したティターンズの中核軍に据えている。

 

斯くしてジャミトフ・ハイマンは地上軍を掌握し、ダカールの連邦議会を制圧した。

上級市民の住む都市部は特別管区として、特権を維持したためジャミトフは彼らの支持のもと地球環境保全計画を行っていることになっている。

 

「話を戻します、申し訳ありません。……ギレン閣下と我々の目指す先は近い筈です。永遠の平和など人類史を省みれば難しい事は承知の上で、出来る限り平和な世界を維持するために協力してほしいのです」

 

まだまだ社会的な影響力など無いに等しい身ではありますが、とシャリアは苦笑する。

 

「いいんじゃないか? 俺も戦争は嫌だしな」

 

アムロが真っ先の賛同した。

直前まで別の事を考えていたが、シャリアの考えは悪くないと思う。

とは言え、アムロ個人に何かできるとは考えてもいない。

 

「俺もいいと思います。何か協力できる事はありますか?」

 

反対にカミーユは活動に協力的だ。

こういった特別に憧れるのは若者の特権だろう。

 

「貴方はこの後、過敏な受信体質の抑制の修行よ。そして、その経験を後輩たちに伝えて行くのが仕事になるわ」

 

ララァが早速冷水を浴びせ、カミーユは一瞬顔を顰めるが、確かにここの面子でそれができるのは自分だけだと納得する。

 

たまたまめがあったアマテには無理だ。

 

「はぁ〜? そのくらい私にも出来ますがー」

 

「あら? マチュは私の補佐をしてくれるのではなくて?」

 

思念を受けて、アマテが反応するがすぐにハマーンが揶揄し、勿論だとじゃれつき始めた。

 

「貴方も参加するのでしょう?」

 

ミライが考え込むシロッコに声をかける。

 

「……うむ。参加は問題ない。だが、それだけだな。正直、こちらに重点を置きたいのだが……」

 

そう言って、ため息をつく。

 

現在、シロッコの酷使無双で宇宙世紀の科学技術ツリーを開放中である。

この宇宙で一番忙しい男に脇目を振る余裕はなかった。




・特に書くこともないあとがき

連邦政府を過度に無能に書いていると思われるかもしれませんが、原作に有能な政治家は居ません。
政局を左右する政治屋は多いと思います。

作者の解釈では一年戦争の結果、ルナリアンの議会参加と現役軍人の議席獲得を許し、
グリプス戦役後のゴタゴタでコロニー住民が大金で議席を買うことが可能になったと考えています。

でないと一年戦争は起きない。

スペースノイドの連邦軍入りは戦前に可能で、そこから政治参加が出来るのならジオンがコロニーで政治活動する必要がない。
ハウゼリー以外のコロニー議員が居ないのは、議席の購入に大金が必要だからでしょう。

で、ハウゼリーがやべえヤツなのは事実ですが、よりによって暗殺してしまう。
これで武力以外での改革が不可能な事を内外に示してしまった。

ここが地球連邦の分水嶺ですね。
既に資源をコロニーに依存している以上軍事力以外で統制は取れない。
なのに軍縮。
宇宙戦国時代は残念ながら当然の結果になります。

各サイドは連邦が動かない以上、独立に動くしかない。
そもそもインフラは自費で、連邦軍は守ってくれないのだ。

やる気だけはあった室町幕府末期の方がまだマシかもしれない。
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