シャアのいない宇宙世紀で   作:ギレンの野望大好きおじさん

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第2話 MSがいない宇宙世紀で

宇宙歴0065年から始まった建艦ラッシュはとある企業の更なる躍進を補助していた。

 

アナハイム・エレクトロニクス。

 

この時期、宇宙歴初期の民間資本強奪による上級市民たちの企業間抗争を終え、月に拠点を置いたAEはコロニー公社の下請けを独占、天下り先として連邦政府と二人三脚でスペースノイドの民需を寡占していた。

 

しかし、軍需においては将来の天下り先を手放したくなかった連邦軍がヤシマ重工などの軍需企業とガッチリ手を組んでおり、特に陸戦兵器と大型艦艇の生産はジャブロー内で行われていた事から、一切の手出しが出来ずにいた。

 

これが各サイドの行政府と駐留軍の要請で大型艦艇建造ドックと、ルナツー以外での艦船整備を可能な巨大な宇宙港の整備が必要とされたのである。

当然、連邦政府はジャブローの要請で当初ヤシマ重工ら旧来の軍産複合体に任せようとしていたが、いかんせん規模が従来の倍以上に膨れ上がる事から断念。

宇宙軍の支援とルナリアンの札束攻勢で見事AEが完全受注することに成功した。

 

この頃、各サイドのGDP成長は平均して15%前後を維持しており、機を見るに敏な地上の資本家貴族の一部が連邦官僚と結託して秘密裏に資本を月へと移転していた。

これがAEとルナリアンが結び付くのは自明の理である。

 

こうして宇宙歴0071年、AE月面ドックにて改マゼラン級一番艦及び改サラミス級一番艦が就航。

その後、各サイドの建造ドックから多数就航していく。

 

さて、65年以降も毎年行われている観艦式。

最優秀艦隊は66年からサイド1、サイド1と3年の連続の後、サイド6が3年連続で受賞している。

艦隊司令は6年連続で、中将に昇進したティアンム将軍その人である。

 

この時、毎年の観艦式で同艦隊に在籍した人員は翌年までに八割が栄転しており、三回以上受賞にありつけた軍人はティアンム本人以外一人もいない。

特に中将昇進以降は毎年半数以上が士官学校卒業の新任と、入隊半年の兵卒が入れ替えで占めるというハンデが有りながら一年で彼らを一人前の軍人に仕上げたのである。

 

軍広報によるトトカルチョでは遂に単勝予想が1倍台に落ち込み、二位を当てるゲームなど揶揄されるが、ここは毎回顔ぶれが変わる事からティアンム艦隊以外は艦隊司令部や各艦の艦長の人事異動に目を光らせるリーカーと軍特捜部との暗闘が噂されている。

 

宇宙歴0073年、サイド3駐留軍に左遷されたヨハン・イブラヒム・レビル中将はサイド3・1バンチ行政府でヤルオ・ソク・ダイクンとの会見で憲兵部隊の順次撤退を約束、かわりにグラナダ基地と同等の乾ドックを備えたコロニーの譲渡を認めさせた。

住民の反発は少ないながらも存在したが、10年以上の内戦で人口が五桁を割ったコロニーの譲渡であり、その住人も郷愁ではなく財政的問題で移住できなかったので、引越し費用を行政府が立て替えたため他バンチに速やかに移住が行われた。

 

このコロニー・マハルの大規模改装は当然AEの手で行われ、この時下請で参加した現地企業のジオニック社などが、後にサイド3を代表する企業郡として活躍する事となる。

 

宇宙歴0075年、過去十回の観艦式にて一度も最優秀艦隊賞を譲らなかったティアンムは大将昇進と同時に教育総監に就任、前線を退く事となった。

この年は連邦軍総司令部がジャブローからフォン・ブラウンに移転され、市の郊外に新設された司令部に順次軍高官が移動していった。

 

この頃地球人口、即ちアースノイドの人口は大きく減少していた。

地球環境保全目的の調査も兼任していた空海軍はエリート層が占める割合が多く、上級市民の箔付け目的もあり予算の裏付けもあったが、低学歴層の受け入れ先である陸軍は仮想敵が反連邦組織であることもあり、機甲軍の減少と歩兵の増加に予算が動いていた。

 

また経済の中心が宇宙に移行しつつあり、反連邦組織を支援していた財閥の多くが各コロニーに拠点を動かし、カラバの上層部もサイド7に秘密裏に移転していた。

結果として締め付けのなくなった泡沫組織が無軌道に暴走し始め、連邦陸軍との終わりなき消耗戦に突入する。

練度の低い前線部隊がゲリラに擦り減らされ、テロで司令部が爆破されると報復で村落ごとビックトレーに吹き飛ばされる。

僅か数年でゲリラごと数千万人の現地民が虐殺され、その十倍の数が飢えと病気で死亡したという。

これを憂う地上の上級市民の人道家はごく僅かで声は小さく、気にするだけの余裕があるスペースノイドは地上の惨劇を知ることもなかった。

 

局地戦に向かない機甲部隊は削減されたが、敵拠点殲滅に戦果を挙げた高級士官が籠る要塞を兼ね備えた動く司令部『ビックトレー』は増産された。

遺族年金の存在しない歩兵は大量に増やされたが、明日をも知れぬアースノイドの入隊は増加傾向で連邦総軍五千万のうち九割が陸軍である。

尚、地球連邦の年度予算の二割強を占める軍事費(宇宙軍は独自予算)の半数に満たず、しかもその大半が陸戦艇が占めている。

 

70年代も後半に入るとアースノイド人口は十億人を割り込み、とある連邦軍高官は今後10年で一億人以下になると予測している。

エリート層の地球脱出に伴い、地球文明が十九世紀前半まで後退しているのだ。

この10年で食料・資源のほぼ九割をコロニー生産に依存するに至っていた。

多くの都市圏がゴーストタウン化し、人類文明の保全は地球環境の優先から古代から中世時期のものが優先され、上級市民たちのリゾート先として細々と生き残っていくだろう。

 

残るアースノイドは他の三軍からマンハンターと揶揄される陸軍が、テロとの戦いを掲げながら現地民をテロリストとして殺戮する限り未来はなかった。

アフリカ方面軍を率いるジャミトフ・ハイマン少将などテロリスト掃討に精力を注ぐ陸軍将校は多く、カラバの支援も近年は減りつつあった。

 

百年遅れで人類の宇宙移民は成されつつあり、ガイアギアに至らない未来が訪れようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やり過ぎだ……」

 

眼前の巨漢、バスク・オム少佐にジャミトフ・ハイマンは軽く叱責する。

 

「そうでしょうか?」

 

対するバスクは首を傾げる。

今朝、爆弾テロで兵士が五名殉職した為、報復で関係のありそうな集落を五つ、ビックトレーで吹き飛ばして帰還し、現在報告中である。

 

「連絡を受けた集落の内、三カ所が無関係だと情報部から報告を受けた。やるのは構わんが、事前に情報部と連携を取れ」

 

この丸眼鏡の巨漢は温和な風貌に似なず、こういった凶行を平然と出来るから重宝しているが、独断専行しがちなのが玉に瑕だ。

 

「ですが、連中は……ッ‼︎ 失礼しましたっ!」

 

ジャミトフの雰囲気が変わった事を察したバスクが慌てて敬礼する。

 

「貴様には期待しているのだ。その期待を、裏切るなよ?」

 

「ハッ!」

 

ジャミトフが退室を促し、バスクが脱兎の如く部屋を出た。

 

「手駒が少ない……致し方のない事だが」

 

バスクの去った部屋で、ジャミトフが溜息をつく。

 

ジャブローでゴップ大将に呼び出されてから早十年、地球に蠢くアースノイドはようやく半減した。

 

ガチガチの保守であるゴップに呼び出された時は何事かと思ったが、いざ話を聞けば地球環境保全について。

移民についての意見を求められ、内心を探りながらも当たり障りなくコロニー経済の進捗に合せ、新サイドの設立と宇宙移民事業の再開を提言する。

 

しかし、返ってきたのは宇宙移民の再開は永遠に無いとの否定だった。

思わず激昂しかけ、何とか冷静に反論するが、資産は兎も角、教養問題を持ち出されると言葉に詰まる。

現在のアースノイドが、連中だけでコロニーの運用を出来るはずもなく。

かと言って、人口比通り4:1でコロニー毎に再配分もスペースノイドから更なる反発を受けるのは間違いない。

これからお宅で浮浪者を一人引き取ってくれと言われれば、いい顔をする人間など余程の聖人以外いないだろう。

 

アースノイド全てを宇宙に上げる法案は通らない。

 

この事実に改めて怒りを覚える。

半世紀前に比べ、確実に地球上のモラルは低下した。

貴族化した上級市民。公共事業が低下し、同じように品性が低下していくアースノイド。

怒りのあまり、目眩がしそうだ。

 

と、差し出されたのが地球圏治安特別法案。

サイド3の治安回復に伴い、地球圏のテロ組織の一斉撲滅を目的とした非対称戦の特別法案、これが審議中だという。

これをここで見せられるという事は、おそらく談合済みということだろう。

 

気象観測隊と化した連邦空軍、海洋清掃隊と化した連邦海軍。

唯陸軍のみが脅威の存在により宇宙軍に次ぐ予算が割与えられている。

これを使ってアースノイドを減らす。

 

──手段は問わない。

 

出来るかね? と、視線で問われる。

 

ジャミトフはそれに、敬礼で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ! 陸の殺し屋どもめっ‼︎」

 

部下の報告書を一目通し、ステファニー・ルオは吐き捨てる。

 

ここ十年ですっかりと閑散したニューホンコンで、彼女はルオ商会の痕跡始末を行なっている。

同時に連邦の追及を遅らせるべく、最後のカラバ支援を各テロ組織へ行っていた。

 

地上のルオ商会は、現在流通業を残すのみで本体の資本を含め殆どを宇宙へと移行している。

そんな中で彼女がいまだに地上にいるのは過去の暗部を完全に隠蔽する為だ。

事業を宇宙に移すに当たって最大の問題は、アナハイムでもビストでもなく連邦軍。

ジャブローの総司令部を月に移して以降、連邦政府はほぼコントロールを失っている。

表立って議会と対立はしていないが、各コロニーへの権限は完全に喪失している。

年々増加するスペースノイドの人頭税が、今の連邦政府の生命線だ。

既に連邦総軍の予算はコロニーが直接出している。

ここに連邦軍総司令部を頂点に各コロニー行政府が代表をだす地球圏統合会議が月に開かれ、結果を地上の連邦議会に提出する象徴制地球連邦が爆誕していた。

 

ルオ商会も使えない連邦議員と心中する気は一ミリも無い。

現在、政治経済両面で空白地に近いサイド3に接近し、じわじわと独自経済圏を構築中だ。

サイド7に移行した商会中枢は、新造コロニー群であるから上手く潜り込んだが、新造だからこそ宇宙軍も精鋭の度合いが強く、暗闘は不可能だった。

故に、カオスの極みのサイド3に活路を求めたのだ。

幸い、嘗てのカラバによる支援で現行政府は商会に協力的だ。

アナハイムがデカいツラをしているのは癪だが、いかんせん宇宙では後発だ。

 

臥薪嘗胆の時だろう。

 

閑話休題──。

 

「それで、誰が死んだの?」

 

ステファニーの質問に部下が答える。

 

「幸い商会に死者はでていません。合流点は包囲網の外でしたので」

 

その言葉に、彼女はジャミトフからのメッセージを感じた。

 

さっさと地球から出て行け、今なら見逃してやる──と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、命令ですか?」

 

眼前の小男が、いつもの様に尋ねる。

 

「勿論、命令だ」

 

そして、いつもの様にイーサン・ライヤー少将が頷く。

恒例の儀式となった、何時ものやり取りだ。

 

「それとも、話し合いでもしてみるかね?」

 

ライヤーの問いに、コジマ中佐が無言で敬礼する。

 

「結構、あと三つのポイントからテロリストを排除すればこの地区は終わりだ。次の地区の掃除を終えれば、我々の役目は終わりだ」

 

それでジャブローに帰れる。

五年前、レビルの左遷を笑った我が身が、この様だ。

陸軍のポストに固執しすぎた。

 

コリニー大将が宇宙に上がった時、ジャミトフが残ったことに疑問を覚え地上に残ったのが運の尽きだ。

 

気がつけば、陸軍はマンハンターの巣窟で、他の三軍への異動には功績が必要になっていた。

空と海は耳の早い異動組と差別主義者のエリート達の集まりだ。

此処での功績は勲章にならない。

 

月の本部は逃げ遅れた我々に同情的だ。

ノロマと言われても、そこに逃げ込むしかない。

 

たとえ窓際でも、ここよりマシだ。

 

「ッ!」

 

ビックトレーの個室が僅かに揺れる。

 

地雷か、それとも自爆特攻か。

 

既に地上の武器工廠はジャブロー以外存在しない。

宇宙からの支援は宇宙軍の目を潜る必要がある。

 

砲は有っても、弾がなかった。

 

弓矢と槍で反抗するものは、原住民として捨て置かれた。

 

小火器と爆弾で反抗するテロリストを、ビックトレーで蹂躙する。

 

これが一番安全で、それ以外は危険だった。

 

今の兵隊は簡単に裏切る。

反連邦組織が最後っ屁にばら撒いた芥子と大麻が最悪だった。

 

こちらが出せるのがタバコとガム。

 

「話にならんな……」

 

いつの間にか、コジマは退室していた。

 

そう、あのコジマが此処から離れない。

それだけ前線は危険だった。

 

手持ちはビックトレー二台と、五個大隊。

 

これにジャマイカン・ダニンガン少佐が率いる督戦隊。

黒いボディアーマーに包まれた重装歩兵とここだけに配備された61式戦車。

コレを運んで来たミデアは上空へ退避している。

 

「ジャミトフの私兵……確か、ティターンズだったか?」

 

ライヤーの呟きと同時に、また部屋がわずかに揺れた。

 




・あとがきという名の補足

ちょっと不穏な終わりですがライヤーは無事です、多分もう出ないので。

アナハイムは原作よりマシです、戦争がないので。

バスクは拷問を受けていないキレイな奴です、つぶらな瞳を目を細めて隠しています。

史実のティターンズのパイロット組は多分空軍か宇宙軍所属。

ブランはスードリで地上観測しながら眉を顰めているでしょう。

08小隊組は宇宙組以外はちょっと怪しいかも、いかんせん非対称戦なので。
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