シャアのいない宇宙世紀で   作:ギレンの野望大好きおじさん

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第4話 地球から人が消える宇宙世紀で

 

 

右肩上がりで成長を続けるコロニー経済は、石油の代わりに経済の血液となったヘリウム3の安定した供給の為、木星船団公社の支援を年々増加させていた。

 

宇宙歴0078年、サイド3で新型資源採掘船『グワジン』が就航。

全長3000m近いこの船は旧来のジュピトリス級と比べ、新型機関により約一年での往復が可能となり三倍の資源を積載可能としている。

サイド3行政府が主導し、AEとジオニック社の共同開発で完成したこの艦だが、建造費は実に十倍に達しており連邦宇宙軍は眉を顰めたが、輸送効率は十倍を超えており量産が可能であれば木星船団公社は諸手を挙げて購入に前向きである事を示す。

幸いにして生産に必要な期間はジュピトリスの五割増程度とのことで、人員の拡大と同時に順次就航が決定した。

 

これに加え、火星移民船『ドロス』の船体が完成、凡そ一年掛けての艤装作業が開始された。

全長凡そ10000m、コロニーの三分の一にも及ぶこの巨船は最大百万人の移民を十年間生活可能な物資を積載可能と謳っている。

また、内部ユニットの切り替えにより食料生産工場や資源生産工場を備えた船団として、さらに長期の活動が可能だという。

更にこれらの施設は船体から切り離すことで、移住先での建造の手間を省き速やかな生活圏の構築が見込まれるという。

 

こちらは流石に尖鋭過ぎたのかサイド3行政府やAE内でも設計段階から疑問視されていたが、首相肝いりの政策であり他サイドとの違いが明確になる事からサイド3各企業が強力に後押しした為、多くの最新技術が試験運用され一種の移動宇宙港として多くの技術検証が行われる事となった。

 

ここ数年のサイド3の経済発展は、既存勢力の空白地となっていた事に目を付けたルオ商会ら非主流派財閥らが、政府の宇宙移管に手間取る主流派資本家貴族が地盤を築く前に、カラバを通じて多くの資本を投入した為である。

 

ここで得た資本を、サイド3首相に就任していたヤルオ・ソク・ダイクンは超大型艦艇と人型作業ロボットの開発に投入して周囲の失笑をかった。

しかし、宇宙空間での作業工作は宇宙世紀の初期から危険が伴い、ボールタイプの作業ポッドは安価ではあるが小回りが効かないため、今だに宇宙服を着ての作業は健在でその事故発生も少なくなかった。

 

こうして市長就任前からジオニック社と組んで開発していた人型作業ロボット・モビルワーカーは首相就任の翌年、宇宙歴0077年にジオニック社でZI−XA03『クラブマン』が完成。

新型のバッテリー動力を試験運用した為、稼働時間こそ短かったものの高出力で宇宙空間での作業工程はボールを上回る数値を記録し、コロニー内での重機作業も一定の成果を上げ、開発発表時の低評価を見返す結果を出しMW−01の型式番号が与えられ大きく喧伝される事になる。

 

この成功にヤルオ首相はAEと組んでMW開発規格を規定、基礎技術の一般解放にジオニック社は最初反発したが、技術者としては最高峰の首相本人がジオニック以外での設計をしない事を約束した為渋々賛同し、ツイマッド社と並んでMW開発競争を牽引していく事になる。

 

連邦宇宙軍はこの一連の動きに殆ど反応しなかった。

軍内の試験運用でAEの持ち込んだ、クラブマンを改装したAE製MW−03A「ガンダマン」が高評価を得た為、MW運用を兼ねた工作母艦と稼働時間の延長を新型MWに求めたが、その程度であった。

 

この時期の宇宙軍は見栄えの良いバーミンガム級の就航と、改サミラス改級とも言うべき高機動巡洋艦の設計にかかりきりであった。

各サイドの威信と化した駐留艦隊は観艦式の艦隊機動という祭に特化した祭典宇宙軍とも言うべき存在に変遷していた。

この動きに一部の将官は嘆いていたが、本質的なコロニー間戦争が遠退いたと参謀本部はこの動きを歓迎していた。

ほぼスポーツ化したことでコロニー間の対立もファン抗争に近く、なによりも駐留軍の人員は流動的で個々人が各サイドと結び付くことは難しかった。

 

地球上で繰り広げられる連邦軍と反連邦組の血みどろの抗争は、こと宇宙では起こり得なかった。

何せスペースノイド自体が反連邦思想で、宇宙軍はそれに寄り添うことで実質連邦から独立した存在に近かった。

これを観艦式というイベントでスペースノイド全体のまとまりを阻害し、軍の人事を握る事で連邦軍総司令部は宇宙での平穏を維持する事に成功していた。

 

これに加え、連邦の政府機能の月移転の鈍化も宇宙軍の専横を招いていた。

月最大の都市フォン・ブラウンを先に抑えられた為、移転先に苦慮していた。

規模的には発展を続けるグラナダがあるが、月の裏側のため位置が悪い。

そのほかの都市は政府機能の全てを吸収するには足らず、都市拡大か政府機能の分散のどちらかしかないが、前者は月面都市間の誘致合戦で上級市民の分裂が進みつつあり、後者は連邦官僚の抵抗で益々連邦政府の影響が宇宙で低下しつつあった。

 

既に宇宙軍の人員の九割はスペースノイドで、残り一割も宇宙軍設立時に三軍から異動した面々である。

未だに連邦議会への参政権はなく、行政府に自治はなかったが各サイド内に限った政治活動は活発で、大枠としての連邦市民を受け入れたスペースノイドは、しかし宇宙移民としての纏りはすでに欠いていた。

宇宙で生まれた世代がもう過半を占め、宇宙軍が連邦政府のコントロールを失い各サイド行政府が月の連邦軍総司令部で擬似連邦議会を開催している以上、血を流してまで得る自治独立は自己満足以外のものは無かった。

 

かつてのソビエト連邦で書記局が実質的な権限を握った様に、軍が宇宙での権限を握り、各サイドの行政府が統治を敷いている以上、連邦政府各省庁はその追認をするだけの存在になりつつあった。

しかし、名目上の地位だけはあったため名目上の役職が多数作られる事となる。

例えば、サイド1・1バンチ担当大臣。

名目上一千万都市の同市市長を超える権限を持つが、実効権限は一切ない名誉職である。

これら名誉職が大量生産され、実力のない非エリート上級市民に与えられた事で連動して連邦政府の影響力が益々低下していった。

なにせ、連邦議会の議員より大臣の数が多いのだ。

これにはスペースノイドより、当の地球在住エリート層の空海軍の反発を買い、陸軍の暴走を加速させた。

 

 

 

 

 

宇宙歴0079年、艤装を終えたドロスが改めてスペースノイドの前に姿を現し、サイド3が大々的にその性能を喧伝している。

 

「火星移民船、ね」

 

フォン・ブラウン市長、ブレックス・フォーラはモニタに映る巨艦を見て呟く。

 

「これがもう少し早ければ……いや、繰り言か」

 

今地球上で行われている空前の虐殺行為、その対策を考えては捨て、考えては捨ててため息をつく。

 

アースノイドが食料・資源を宇宙に依存するようになって数年、地上の各種産業は事実上崩壊した。

 

コロニー経済が上向いた時は宇宙移民事業の再開を期待したが、連邦軍総司令部からの伝手で考えを改めざるを得なかった。

移民再開は四人家族が一人の浮浪者を受け入れる事と同義であると。

 

ある意味、棄民である事を受け入れたスペースノイドは、市民としての義務を果たす事を拒否するだろう。

それを強制させる筈であった軍事力は、既に連邦政府の手を離れコロニーと共にある。

 

ブレックスとしても地上の虐殺を止めたいのは、人道上の理由以上のものはない。

 

もし、市外にアースノイド用の難民施設を建てようとすれば、一発で市長の座を追われるだろう。

ルナリアンからもアースノイドへの憚りは少なくない、ここに潜り込んだ地球の上級市民は地位をひけらかせないだけの自制心は持ち合わせていた。

 

「結局、私も地上の実状を理解していたわけではない、か」

 

ブレックス自身もアースノイドの殆どが、平均的スペースノイド以下の貧困層であると知ったのは70年代に入ってからだ。

それまでは、ふんわりと宇宙から搾取して優雅に暮らすアースノイドを想像していたぐらいだ。

 

成程、連邦政府が宇宙と地球のネットワークを繋がないわけだ。

 

移民事業が頓挫した時点で、残されたアースノイドと宇宙に上げたスペースノイドを物理的にも情報的にも切り離した。

理念なき組織と化した政府が、両者を対立させ軍事力確立までの時間稼ぎとしたのだ。

 

結果として、政府が軍事力を整備するまでの時間稼ぎはいまだに続く両者の対立となり、支配確立の為の宇宙軍は莫大な軍事費として政府予算を食い尽くさんとしていた。

これをコロニーに背負わせ、共倒れを狙ったが裏目に出る。

人口八十億を擁しながら、依然経済停滞を続けるスペースノイドの潜在力を見誤った。

 

これにはブレックスも含まれるので批判しずらい。

実質的な軍縮で、宇宙軍にもしっかり首輪が嵌ったと認識したのだ。

 

「ジャミトフとティターンズの暴走、私が軍にいれば止められたか? いや、彼のジャブロー占拠は抵抗なく進んだ。……総司令部は、アースノイドを見捨てたのか」

 

実際、政権崩壊に繋がる大反乱に派生する事を恐れたゴップがジャミトフを唆し、陸軍の軍権を渡した事が大虐殺に繋がった。

 

74年のティアンム艦隊に所属し、観艦式後に少将へと昇進したブレックスは勇退の形で退役し、その名声でもって月の行政に参加。

こうしてフォン・ブラウン市長選に勝利し、月の評議会への影響力も少なくないだけの力を得た。

 

だが、それだけだ。

 

宇宙に軍事力を持つのは、唯一宇宙軍のみ。

その宇宙軍は、アースノイドを見捨てた。

いや、その殆どは見捨てた事に気づいてすらいない。

 

「どうにもならんか。だが、他のアースノイドは誰もジャミトフを止めないのか?」

 

地上の上級市民とそれ以外が完全に分断されている事を知らないブレックスの疑問は、答える者もなく部屋に消えた。

 

こうして『エゥーゴ』は、ただ二人が知る単語として存在するだけのものになった。

 

なお、火星移住計画は時期尚早としてスペースノイドからの支持を得れず、計画は凍結。

宙に浮いたドロスは、宇宙軍が実験艦として足が出ないギリギリで購入し、ジオニックらサイド3企業群は色々な意味で滂沱する。

ヤルオ首相は支持率を大きく落とし、行政府はドロス級火星移民船の二番艦以降の建造計画を無制限延期に決定した。

 

 

 

 

 

 

 

「やっちまったお」

 

ヤルオ・ソク・ダイクンは首相邸の自室で頭を抱えていた。

 

グワジンが成功したから、調子に乗ってドロスをあれこれ弄って機能を追加していたバチが当たった。

ワッケイン大佐が渋い顔をしながら、査定を甘くしてなければ政権ごと吹っ飛んでいた。

 

「……多分、ダイクンの血のせいだお。シャアに比べれば可愛いもんだ──いや、反省するお」

 

一瞬、血のせいにしかけるが、赤いアイツの顔を思い出して考え直す。

 

「アナハイムにも借りができたお。ジオニックには悪いけど、MW技術は全部共有するお」

 

今、設計中のMW『ザク』のデータは首相兼設計者としてアナハイムに渡す事に決める。

変人のエリオット・レムはともかく、ジオニックの上層部は大変嫌な顔をするだろう。

 

しかし、現状ヤルオとジオニックはほぼ一連托生だ。

民衆の支持以外の後ろ盾はジオニックだけだ。

 

サイドは軍を持てない。

 

故に、解放戦線の戦友の多くは市井に戻り、残った幹部はヤルオが党首のムンゾ自由党の一員だ。

ランバを筆頭に、初期メンバーのガデムにドレン。

内戦時に加入した黒い三連星にシーマら海兵隊の面々、月からわざわざやって来たウォンなど原作のネームドが連なる。

 

市政に参入した後に加わった政治家を含め、皆有権者に支えられた同盟者だ。

仲間ではあるが、ヤルオに死ぬまで付き合ってくれるのはランバ・ラルただ一人だろう。

 

故にMW技術は独占しない。

 

基礎技術を自由化する事で、コロニー全体にMW産業を伝播する。

ジオニックを含めサイド3企業は独占したがるだろうが、販路を拡大してサイド3経済を回さないと政権を失ってしまう。

 

──まだ、やり切っていない。

 

内戦終了時のサイド3人口は五千万人。

他サイドは7を除いて十億から二十億、そのサイド7ですら既に三億人を超えている。

 

市政に入ってから全力で働いた。

アナハイムを誘致し、産業を立て直し、軍需をカンフル剤にした。

技術者を好遇で家族ごと受け入れ、各種生活保障を厚くする。

経済を回すために減税政策で消費を促し、不足した予算はルオ商会から引っ張ってきた。

 

首相になって四年、人口は一億を超え実質GDPはおよそ2倍まで回復した。

ここまでやってコロニー最貧国。

十年を超える内戦がこのサイドを焼け野原にした。

 

二期目、もう何年かは続けたかった。

 

「アナハイムに繋いでくれお」

 

ジオニックの反発を覚悟し、ヤルオは秘書に連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙歴0080年、サイド3のジオニック社がMW『ザク』を製造・販売を開始。

 

 全長:9メートル

 重量:5トン

 バッテリー駆動・連続稼働時間:10時間

 

史実から比べれば小さく武装もない。

面影も頭部構造とモノアイ・カメラに残るのみだ。

 

所有、操縦には専用免許が必要であり、宇宙ではこれに加え作業ポッドを動かすのに必要な航宙免許が加わる。

講習は各バンチの民間施設で、受講は軍の港湾センターで行う。

販売直後は芳しい反応は多くなかった。

しかし、ボールより僅かに安く作業性能は遥かに上回るザクは、港湾業社での大量受注を皮切りに広く知られてゆく。

 

のちに、始まりの名機と謳われる全世界で一千万台をセールスしたMWが、世に誕生した瞬間であった。

 

これと同時にMW基礎技術自由協定機構が発足。

軍の安全基準を基にした各種補償に同意し加入すれば、MW技術の無償提供を受けられるこの組織が、コロニー世界にMWが広く拡散する嚆矢となった。

 

なお、ザクが軍に納入されなかったのは受注先のアナハイムが自社開発にこだわった為。

一応共同開発なので、軍の担当者から打診されたがこれを拒否。

 

G計画と名付けられたMW開発はアナハイムの悪癖を発生させ大いに難航、実に十五回のリテイクを受ける。

試作機『ガンダム』は実にザクのお値段十倍。

これを色々簡略化して出来上がったのがガンダム・マスプロダクションタイプ、略して『GM(ジム)』が宇宙軍の正式採用機となり、運用母艦となる工作艦『ペガサス』と共に納入された。

 




・編集完了のあとがき

エンター連打で投稿ミスです、大変申し訳ない。

基本オリジナルのMS名や艦船名は出さない方向でいくつもりです。

今回はグリプス戦役が不発する説明会。

アナハイムがガンダム開発していますが、今回連邦軍は内製はしないので。

私のガンダム言う人がいるので問題ない筈。

多分、テムが駄目だし担当でしょう。
あくまで作業用の機体だから、ボールより安価なラインは譲らない筈です。
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