シャアのいない宇宙世紀で   作:ギレンの野望大好きおじさん

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第6話 MW開発史を語る宇宙世紀で

 

 

史実ではミノフスキー粒子を利用した有視界戦闘を制するべく開発されたモビルスーツ。

しかし、一年戦争──ひいてはジオン公国が成立しなかったこの世界では原型機たるクラフトマンの製造も大きく遅れる事となる。

 

宇宙歴0070年、ヤルオ・ソク・ダイクンはジオニック社の4バンチ工場を元祖ムンゾ解放戦線から解放。

この時、作業アームを利用した野戦砲はランバ・ラルが警戒する程度には危険であった。

ヤルオはこれの発展がMSに至るのかなと、少し考え──記憶の奥にしまい込んだ。

 

彼は連邦と戦争する気は一ミリも無かった。

 

かつて、ザビ家を排除し弟と共にスペースノイドの真の独立を目指すというロードマップは、黒歴史として記憶の底に封じ込めた。

テロ屋の教祖と化した父の名誉を取り戻すぐらいはする気はあるが、それ以上を求めるのにこの世界でのダイクンの名は軽すぎる。

 

美人の母親と兄貴分のランバだけが幼少期の光であった。

ジンバはランバの父でなければ殺していただろう。

そのぐらいには苛つく無能であった。

その後は割愛するが、色々あって十五歳で正統ムンゾ解放戦線を掌握。

ランバの他に名の知れた人物は、彼の知識ではガデムとドレンぐらいであったが、有能には違いない。

 

いつの間にか四十以上に膨れ上がった解放戦線・分派を撃滅、吸収してサイド3内戦を収拾していった。

 

そんな中、渡航規制前にサイド1から移住してきた変人のエリオット・レムと友誼を結び、原作知識を元にしたロボット談議を肴に盛り上がったのはいい思い出だ。

 

代替わり後、現地徴用をやめたヤルオはゲリラから解放された各バンチの支持を受け、更に当時グラナダ基地に所属していたワッケイン少佐とコンタクトに成功。

密かにサイド3駐留軍との間に共闘関係を結んだ。

 

こうして71年までにサイド3解放に勤むのだが、この時期にはMWの基礎部分は完成していたと思う。

ともかく、仕事の合間にストレス解消のため、思いつく限りの初期MS設計をエリオットに投げた。

 

この後、1バンチ市長、サイド3首相をこなす中、いつの間にかジオニック社の技術主任であったエリオットと共にクラフトマンの開発に邁進、77年の発表に到るのである。

 

この時発表されたクラフトマンの全長は8m。

 

戦闘要素を排する為、小型核融合炉内蔵のための冗長性は一切確保しなかった。

その後、ミノフスキーが小型核融合炉開発前に頓死したことを聞き喝采を上げ、一瞬で我に返り黙祷を捧げた。

 

戦争をしたくない彼は、しかしMSは作りたかったので大きさを妥協した。

 

途中、アナハイムが割り込んできたが金が無いので素直にこれを受け入れる。

ジオニックはいい顔をしなかったが、資金不足は市政を握った後でも付き纏い、そもそものサイド3経済が破綻していてはどうにもならない。

 

幸い、ルオ商会の資金提供がアナハイムの代わりとなったが、果たして何が違うのだろうか?

 

紆余曲折はあったが何はともあれクラフトマンは完成した。

バッテリー式の為、稼働時間こそ短かったがコロニー外壁作業ではボールをはるかに上回る結果を出した。

また、有線にすることで行動範囲と引き換えに、機関出力と稼働時間の向上を示した。

 

とにかく単独行動のしにくさを仕様に組み込んだ。

 

絶対に戦争をしたく無い、彼の足掻きであった。

 

この後、ドロス級の失敗で政権を飛ばしかけ、窮余の策としたMW基礎技術の拡散は幸運にも戦争を遠ざけることに繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙歴0084年、サイド3──。

 

「パプテマス粒子って何だお!」

 

ヤルオ・ソク・ダイクン前首相、現ジオニック社専務兼技術開発部主任は新型のパプテマス・テム型融合炉の設計図を見て叫んだ。

 

「最近、といっても五年ほど前らしいですが発見されたという新物質ですよ」

 

ダンディーなヒゲのおっさん、エリオット・レム部長が資料を見ながら答える。

 

パプテマス粒子とは放射線を封じ込める力場を作る不思議な粒子で、大量生産も可能という夢の物質だ。

要はミノフスキー粒子か、ヤルオはミノフスキーが頓死していたのを思い出した。

 

この夢の物質を発見した天才発明家パプテマス・シロッコは他分野にも色々手を出す天才で、変形機能を備えたモビル・ボールやルナチタニウムの剛性強化と軽量化に成功したシロコニウムを精製するなど、いくつもの分野で名を馳せていた。

最近は民間に放出されたジュピトリス級を買い取り、木星旅行を始めたという噂だ。

 

それを聞いたヤルオは自分を棚に上げ、自由な奴だと思った。

 

昨年、サイド3をあらゆる面で立て直したヤルオは三期目の選挙を前に政治の場から引退すると電撃発表した。

 

サイド3の人口は二億の大台に乗り、住民の平均所得は他コロニーに追いついた。

MW特需がサイド3経済を牽引し、基礎技術だけでは追いつけない先進技術アドバンテージが、ジオニック社らサイド3企業のMW販売を後押しした。

所謂ベンチャー要素が他サイドからの人材の流入に繋がった。

 

──やり切った。

 

そう思った。

そうなると、四半世紀前が頭を過ぎる。

 

……ジオン・ズム・ダイクンは過労で死んだ。

 

辞めどきは、ここしかない。

誰にも相談しなかった。

このままでは親父のように死ぬまで政治に縛られると思ったからだ。

 

結果、ムンゾ自由党は爆散。

シーマ・ガラハウを党首とする労働党と、ウォン・リーが党首を務める自由経済党の二つに割れるが、両党共に過半数は握れず複数の少数党がキャスティングボートを握る政治的混乱が発生していた。

 

これに対し、ヤルオは自身の不在が原因なら、死んでも同じことが起きる。

これを乗り越えることがサイド3住民の命題と発言し、現状を放置。

ジオン死後の混乱期を共にした無所属重鎮のランバ・ラルがこれに同意したことから、ヤルオの帰還を望む声は次第に消えていった。

 

こうしてジオニック社に役員待遇で入社した彼は、新たにMW開発部を立ち上げ主任に就任。

高性能試作機をジオニックのマッド達と日々開発していた。

 

そんな、シロッコが聞いたら、お前が言うなと言いそうな毎日を送っているヤルオが今開発しているのは、フランクリン・ビダンが考案したムーバブルフレームを応用した新機軸MW。

史実におけるガンダムマークIIに相応する機体の研究開発である。

 

話は少し脱線して、MW開発史に少し触れる。

 

ジオニック社が開発した傑作MW『ザク』。

アナハイム・エレクトロニクスが設計し、十五回却下された後、連邦宇宙軍で正式採用されたMW『ガンダム・マスプロダクションタイプ』略してGM(ジム)。

この二大MWを頂点に、各社が様々なMWを設計開発していたのがこの時代。

ザクを超える高級MWとして開発されたものの、事故が多発し回収問題になったツィマッド社の『ヅダ』、アナハイムが初期設計通りに開発し、大爆死した『ガンダム・プロトタイプ 一号機(GP01)』、ジオニックがコロニー内作業の必要性から特化させたら思ったように売れなかった『グフ』、ツィマッドが前回から一転して開発した安価な重MWが個人配達業者に受け、人気シリーズとなる『ドム』などMW界隈は百花繚乱の様相を示していた。

 

そして遡る事数年前──。

 

フランクリンは激怒した。

 

MW自主開発に乗り気で無い連邦軍に、フランクリン・ビダンは大いに憤り人事部に辞表を叩きつける。

妻は息子と出て行ったが後悔はない。

幸い、噂を聞きつけたレイ先輩がアナハイムへの伝手をくれた。

有難い。

無一文おじさんだったので先輩の家で飲み会兼愚痴大会。

息子さんに五月蝿いと怒鳴られた、大いに反省。

先輩も自主開発は結構拘りがあるようだが、MW事業は民間需要が大きい。

軍がここを突くとバランスが、と愚痴る。

成程、だから先輩は軍用の強化パーツ開発に携わっているのか。

 

しかし私はそこで我慢できる男ではない。

歴史に名を残すようなMWを作りたいのだ。

 

こうして、アナハイムでMW開発に携わる事となったフランクリン。

最近、冶金関連でブレイクスルーが発生し、彼の脳内の設計図が俄かに実現の可能性が帯びてきた。

 

しかし、アナハイムに彼に理解を示す上司は不幸にも居なかった。

やむなく先輩を頼り、ジオニックのエリオット・レム博士に連絡をとるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は戻って、現在──。

 

「これは夢かお?」

 

ここ、コロニー・マハルの連邦宇宙軍特別工房に集まった人員に唖然とする。

 

ジオニック社専務取締役兼技術開発部主任、ヤルオ・ソク・ダイクン。

同じくジオニック社MW開発部長、エリオット・レム。

 

ツィマッド社MW開発事業部主任、ジャン・リュック・デュバル。

 

サイド6行政府技術庁開発部所属、モスク・ハン博士。

 

アナハイム・エレクトロニクスMWデザイナー、ニナ・ガトー。

同じくA・Eグラナダ開発部主任、フランクリン・ビダン。

 

そして、連邦宇宙軍次期正式採用機開発計画主任、テム・レイ技術大佐。

これに工学アドバイザーのパプテマス・シロッコ博士が続く。

 

史実では絶対にあり得ない夢の共演にヤルオは慄く。

 

そも、何でシロッコがここにおんねん。

木星に旅行に行ったって話だろ?

 

「シロコニウムについての知見をレイ博士に求められましたので。それにジュピトリスは払い下げで中身は空っぽでしてね、艤装のための資金稼ぎも兼ねております」

 

そう言って、シロッコがこちらに微笑む。

 

──こいつ、直接脳内をッ⁉︎

 

まさに思考を読むのはニュータイプ、実にシロッコらしい。

 

「シロッコ君は実に勘がよくてね。今回、ダメ元で訪ねてみたが、快く参加してもらっているよ」

 

テム・レイがそう微笑むと、シロッコが照れくさそうに笑う。

 

──マジか! こいつ⁉︎

 

温和なシロッコに慄くヤルオ。

あのシロッコにも尊敬できる人物は居るらしい。

 

「今回、皆様に集まっていただいたのは、10G機動に耐えうる高級量産機の設計、そのパーツ流用が可能な拡張性が広い、ハイローミックスのローに位置する機体の設計が依頼になります」

 

こう言って、テムは皆に頭を下げた。

 

こうして連邦軍主導の次世代MW開発が複数の企業を巻き込んでスタートする。

 

こうなったのはフランクリンの持ち込んだMWの共同開発案が、ジオニック社の持つ技術では難しかったことにある。

ムーバブルフレームに使われる金属に、ルナチタリウムは重くて高い。

新開発のシロコニウムはまだ加工技術が出回っていない。

MW設計では負けない自信があったが、基礎技術の集積は未だアナハイムに劣る。

サイド6のサナリィ(戦略戦術研究所の一般販売部門)は半官半民の強みと、サイド最大の経済力を先端技術に注ぎ込んでいる。

百年先のMS設計をもつヤルオも宇宙世紀の基礎工学は専門外だ。

 

こうしてジオニックでもNOを突き付けられたフランクリンは、再びテムに救援を求めた。

 

運良くテムにとってもこの話は渡りに船であった。

 

この時期、ドムシリーズの個人配送ブームと、個人端末の隆盛によりMWの宙間機動映像配信が爆発的な人気を集めていた。

これの問題が、個人配送事業者は航宙免許を取得していたが、大半の配信勢は通常のMW免許しか取得していない為、幾つかの重大事故未遂が発生していた事にある。

 

この為、軍と行政府は共同で違法配信者の取締りと、免許に関わる注意喚起を行うことになる。

そして現行機のジムだと、最新鋭の高機動機に追いつけないという問題が発生していた。

幸い、テムが開発した高機動ユニットにより速度問題は一旦解決したものの、機体の剛性不安と対処療法に過ぎないことから、次期正式採用機の開発計画をスタート。

 

これがフランクリンからの求めと重なり、この際、次の基準となる機体を先に示してしまおうと、テムはハイ&ローを計画にミックスし、この先十年追いつけない機体と十年使い続ける機体を同時に造る野心的な考えに、この分野の最先端の人材を召集。

 

こうして史実ではありえない、勢力と時代を跨いだ共演が始まるのである。

 

「この内蔵フレームの存在が、この繊細な動作の肝ですな」

 

「ローの機体はこのフレームは重要部分に限定採用が限界だな、手腕部分を優先すべきか」

 

「しかし、サイズを考えると新型ボールに搭載された全天周囲モニタは入りませんね」

 

「でも、これならもっと全体的にスマートに出来そうね。コクピットを縦にして立ち乗りにすれば……長時間運用? でも無重力空間でしょう?」

 

「割と足に自由がないのはストレスがかかるものだ。昨今の無免許連中の取締りが目的だろう? パトロール艦隊配属なら待機時間を考えねば」

 

「パイロット視点から言わせて貰えば、コクピットは可能な限り共通にしてもらいたい」

 

「ええ、ローの機体は順次現行機との入れ替えが。ハイの方は教導隊に優先的に回す予定です」

 

「このマグネット・コーティングで関節部分の強度問題は解決できそうだおー」

 

「こう、脚を畳んでスラスターを……ああ、そうするとフレーム強度の再計算が──フム、今回はやめるか」

 

「しかし、これでは稼働時間が半減だぞ?」

 

「でも稼働の邪魔をしない構造が必要な以上、倍の稼働時間は不可能よ。

いっそ、シロッコ博士の新型融合炉を外付けしませんか?」

 

「あー、融合炉のMW搭載はダメです。現在、月の評議会で規制法案が制定中です。近日中に発表されますよ」

 

「……じゃあ、こんなのはどうですかお? こう、こうやってMWを2機乗せて数人乗りサイズの輸送艇にするんですお」

 

「成程。では、ハイ用にはこう、この様な形で接続させ支援機として同行できる様に……」

 

こうして開発されたMWが、マグネット・コーティングにより反応速度が向上し、ムーバブルフレーム構造からあらゆる追随性が向上、シロコニウムによる機体の剛性と軽量化を実現。

現行の全てのMWを過去のものにしたと言えるだろう。

これを綺麗に機能美にまとめたデザインにより、見るものを惹きつける美しさすら備えていた。

このデザインで失われた稼働時間は、小型核融合炉搭載の外部スラスターユニット『コア・ブースター』と接続する事でサイド間移動すら可能とする長距離移動が実現した。

 

多目的MW『ガンダムMK -Ⅱ』略してGM(ジム)Ⅱの誕生である。

 

そして、次期正式採用機『ガンダム・マスプロダクション・ネオモデル』略してネモが順次生産されるであろう。

これとセットとなるのが支援スラスターユニット『ドダイ』で、2機のMWを搭載しての長距離移動と充電ベースとしての機能を兼ね備えたものになる。

 

宇宙歴0085年、MW基本法が制定。

違法取締のため、宇宙軍はMW運用を中心とする艦隊を警備部隊として駐留艦隊から独立させ、コロニー・パトロール艦隊が発足する。

 

この動きに、MW映像配信は順法のコロニー内MW格闘配信に移行し、コロニー内作業に特化したグフが俄かに注目され、カスタムタイプが人気を集める。

更に、他のコロニー企業で開発された、『サク』シリーズと『シム』シリーズはその低価格を武器にザクに次ぐセールスを記録。

グフ人気に肖り、『クフ』シリーズが発売されるが、コロニー内での行動が安易であったため犯罪にも用いられ社会問題にもなっていく。

 

このMW犯罪に対応する為、CP艦隊はコロニー内MW部隊を特設、モビル・ワーカー・コロニー内パトロール仕様ネモが各バンチに配備され、モビパトの愛称で呼ばれることとなる。




・設定補足のためのあとがき

ヤルオの転生特典はMS設計、150年代までの設計技能を持っています。
ただ、基礎工学は無いのでミノフスキー関連技術やサイコミュ技術、ガンダニウム関連などは作れません。

この世界では小型核融合炉開発はかなり遅れ、80年代にシロッコとテムが協力して開発しました。

シロッコはギレンとテムと会うことで天狗にならず、ちょっと尊大な雰囲気のスカした天才キャラに落ち着きました。

フランクリンが変なおっさん化していますが、テムの影響でしょう。

フランクリンは復縁を嫌がっており、テムはこの件での助言は出来ない人間なのでカミーユは無事グレます。

レイ家に家出したカミーユは、ここで三角関係中(ストーカーは一応除外)のアムロとララァ、なんか居着いているシロッコと出会います。

ハマーンは何処にいるだろう?
デギンがマハラジャを呼ぶからサイド6かな?

ああ、アナベルはパープルトンに食われました。
月で同僚のケリィと一緒にMWのテストパイロットをしているでしょう。

ウラキ君は普通に何処かの艦隊勤務。
第4小隊は……バスクの部下かも、いやパイロット出身なら空軍かな?
それでも地上でジャミトフの元、地球環境保全に従事中──ブラン辺りの部下かな。

……戦争が起きないからパトレイバーが始まってしまった。
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