ライオスTS・ダンジョン飯が始まらない   作:マルマル4世

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初投稿です。


ある迷宮の終わり

俺はカブルー、とある迷宮を探索“していた”冒険者だ。

 

冒険者と言っても、一攫千金目当てでダンジョンを攻略しているわけではない。

迷宮を探索することで謎を解明するためだ。

 

なぜ俺の故郷のウタヤは迷宮で滅んだのか。

なぜ黒魔術は隠匿されているのか。

なぜ普通のエルフが狂乱の魔術師...この迷宮の主になれたのか。

 

それを知るためにパーティを組み、幾度となく迷宮に挑んだが...全滅を繰り返すだけだった。

...自分で言うのもなんだが、俺にはあまり迷宮を探索する能力は無い。

迷宮に巣くう魔物の事を考えたくないからだ。

 

ウタヤのトラウマのせいで魔物の事を考えるだけでもゾッとする。理解したいとも思わない。

中には魔物を食う人間もいるらしいが、それは頭がおかしい奴だけだ。

 

...もちろん、自分が駄目なら他の人間を支援しようと腕の立つ冒険者は探した。

だが、日銭を稼ぐだけのごろつきばかりで真に迷宮攻略を考える人間は見つからなかった。

 

その有力な冒険者を探す過程でエルフの魔術師マルシルと旅の除霊師をやっているファリンという女2人PTも誘ったが、空振りだった。

ファリンがたびたび故郷の村に戻って姉に魔物の話を聞かせているせいで、深層までは到達していないらしい。引き入れてもこんな途中で抜け出すメンバーを抱えていては迷宮探索もはかどらないだろう。

腕は立つらしいので顔はつないでおいたが。

 

そんなこんなで迷宮探索に手間取っているうちにカナリア隊が来てしまった。

 

カナリア隊は迷宮の脅威を潰すために生まれたエルフ族の罪人が多く在籍する武闘派集団。

迷宮攻略なぞ手慣れた様子で、狂乱の魔術師を十全に能力をふるうことができない迷宮の浅層におびき出した。

狂乱の魔術師がお供に連れてきたレッドドラゴンも魔力が薄い浅層では役に立たない。

 

だが、このままカナリア隊に攻略されてしまえば迷宮のことなぞ何も分からず僕たち人間...トールマンはいつまでも子ども扱いで、エルフ達長命種族に秘密を独占されるだけだ。

だから俺も止めようと、狂乱の魔術師にとどめを刺そうとするカナリア隊男リーダーのミスルンを羽交い締めにしたが──

 

 

「放せ。お前に迷宮は攻略できるのか?それとも...他に誰か出来るやつでもいるのか?」

 

「それは...」

 

 

迷宮の攻略どころか、深層に進んでいる冒険者などまだ一人も“いなかった”。

ここで狂乱の魔術師を逃がせば最悪ウタヤの二の舞...いやこの規模の迷宮ならもっと無残なことが起きるだろう。

 

そうした場合...俺のような境遇のトールマンが何人生まれるだろうか。何のあてもなく逃がしてしまっていいのだろうか。

そんな思考が拘束する腕を緩めてしまった。

 

スルリ。

 

 

「あっ」

 

「終わりだ」

 

 

拘束が甘くなった腕の間をミスルンがすり抜けて手ごろな石を転移させた。転移先は迷宮深層へと逃れようとした狂乱の魔術師の頭部。

命中精度が悪く戦闘中何度も外していたが、調整が効きやすい近距離で発動したため今度は直撃だった。

 

狂乱の魔術師の白い髪に赤い花が咲く。ドサリと力無く地面に倒れ伏し、迷宮の石畳の隙間をドクドクと血が流れて広がっていく。

完全に即死だ。

 

そんな...こんなあっさり...。

 

 

「よーし、やりぃ!」

 

「リシオン、迷宮の主が持っていた“本”の回収を」

 

「はいはい」

 

「貴様!隊長への返事は一度でいいと何度言えば──」

 

「思ったより早かったな~」

 

 

終わった終わったとカナリア隊に緩んだ空気が漏れ出す。

もうこの迷宮の物語は完結したと。

 

 

「待ってくれ!まだ何も────」

 

「お静かに。面倒だしもう貴方は眠っちゃいなさいな」

 

 

チリーン。

褐色肌の女エルフが持っていた鈴の音を鳴らす。

後で知ったのだが、これは鈴を媒介にした催眠魔法というらしい。聞いた生物の意識を朦朧とさせ、人間や動物などに強制的に命令をきかせることができるようだ。

 

つまり...俺の意識はそこで消えた。

 

 

────────────────────────────────

 

 

「ここは...」

 

「おっと、お目覚めかい」

 

 

目覚めると迷宮内のような石の湿った匂いが充満した鉄格子の中だった。

牢屋の外を見ると、腕に入れ墨を入れているサイドダウンの女エルフがタバコをふかしている。

元罪人なのか耳は欠けているがこのエルフは看守だろう。

えっと、確か俺は迷宮で...。

 

 

「やれやれ、シスヒスの催眠魔法も困ったもんだよな...効きすぎて24時間もぐっすりだなんてよ。やっと起きたんなら義務だし説明しとく。えーっと」

 

 

めんどくさそうにタバコをふかしたまま羊皮紙をめくった。

シスヒス?催眠魔法?なんのことだ...。

なんで俺はこんなところに...。

 

 

「カナリア隊はあいかわらず仕事がアレだな、罪人あがりはやることなすこと適当過ぎんだよな...アタシも人のこと言えないけど」

 

 

カナリア隊...。

そうだ、カナリア隊が迷宮に来て俺は...。

 

 

「迷宮の職務妨害の罪と迷宮について少し知ってそうだから御用だってさ。えーっとまあ重要参考人って程じゃなさそうだから取り調べするのは────」

 

「待ってください、あの迷宮はどうなったんですか!?島の状況は!?」

 

「───取り調べするのは半年後ね、うっし、義務終わり」

 

 

俺は鉄格子を飛びついて掴み、外の看守に今の状況を知らせてくれるよう訴えた。

だが、面倒な用事は手短に済ませたいと言わんばかりに、コイツは羊皮紙に書かれていたことを読み上げてそそくさと立ち去ろうとする。

 

だめだ、コイツは聞く耳を持たない!

何を言っても右から左で聞き流して去ってしまうだろう。

このままではエルフ特有の時間感覚で長い取り調べを受けて、一生とはいかないまでも数十年牢屋で過ごすことになりかねない。

ここは...。

 

 

「この宝石をお渡しするので、話を聞いてくれませんか!」

 

「えっ、マジ?よく没収されてなかったな。いいよ、30秒だけね」

 

髪の中に入れていた宝石を鉄格子の間から差し出す。

前に死んだ時、死体回収屋に蘇生される前に持っていた蘇生代を他の冒険者に盗まれたことがあった。その反省で髪の中に小さな宝石を隠していたのだが、それが功を奏した。

武器防具ごと接収されていても、これだけは何とか残っていたようだ。

 

 

「ありがとうございます、その、元カナリア隊のミルシリルさんに取り次いでいただけないでしょうか」

 

 

気の遠くなる長い取り調べも元カナリア隊のミルシリルの口添えがあればある程度免除されるだろう。

ミルシリルは元カナリア隊ではあるが、罪人ではなく由緒正しい軍人一家の生まれでもあるし。

 

 

「ミルシリル?あの陰気なやつ?なんで短命種が引退したやつのこと知ってんだ?」

 

 

俺の言葉に驚いたのかその悪い目つきを大きく見開いた。

 

 

「その...。僕は子供の頃に迷宮の被害に遭い、あなた方エルフに故郷を救われたことがありまして。ミルシリルさんとはその縁で知り合い、母親を亡くした僕の親代わりになってくれました」

「里親なんかやってるんだアイツ...。」

 

 

渡した宝石のおかげで話がちゃんと通るようになった。

 

この口ぶりだと、どうやらこのエルフはミルシリルの知り合いらしい...。

 

待てよ、この粗暴な言動、元罪人を示す欠けた耳、陰気なミルシリルという養母のあだ名を知っていることも総合して考えると...。

 

 

「元カナリア隊の縁として、ミルシリルさんの養子である僕を助けていただけないでしょうか。もちろん、ここを出られた暁には宝石とは別にちゃんと礼もさせていただきます」

 

「...あー分かった分かった、いいよ、特別に上に話は通しといてやるよ。知らんぷりしたことをなんかのはずみでアイツに知られたら地味で嫌な報復されかねないし...」

 

 

やはり、ミルシリルがカナリア隊に在籍していた頃の同僚だったか。

迷宮絡みの罪人には迷宮に詳しい罪人に任せておけばいいということでカナリア隊出身の元罪人が看守をやっているのかもしれない。

 

まったく...雑な考えだ。

まあ、そのおかげでワイロを受け取るような規範意識の薄い看守が生まれて俺が助かったわけだが。

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

「僕の髪を吸おうとするのはやめて下さい。子供の頃とは違って、もう僕は分別のきく大人なんですから」

 

 

俺の養母ミルシリルが可哀そうな目に遭った犬猫を扱うような眼で、髪を吸おうと近づいたところを腕でブロック。

ミルシリルはピンク髪のロングをいくつか束ねたような髪型で、ゆったりとした青のドレスを着ている。

トールマン基準で言えば見た目は美しい30代の女性といったところだが、実のところ189歳である。

幼い頃にウタヤで被災した俺を拾って、対人戦闘術のイロハを教えてくれた。

その頃の親心なのか、あるいは違う種族同士の価値観のすれ違いなのか、いつまでもペットか子供のような扱いをしているところがある。

善意からくるもので悪意は無いのだが。

 

 

「だって、手紙にカブルーが牢屋に入れられたなんて話が書いてあったら、居ても立っても居られなくなって...」

 

「それとこれとは話が別ですよ、鉄格子の中から僕を連れ出してくれたことには感謝していますけど」

 

 

あの看守の適当さでちゃんと行動してくれるか不安だったが、俺の養母ミルシリルの元へと滞りなく連絡が届いた。

ミルシリルのコネと俺が幸か不幸か迷宮の真相に全く関われていなかったということで、数か月で解放された。

久々に浴びる日光がまぶしいことこの上ない。

まったく早めの行動で数か月なのだからエルフ社会の鈍さは恐ろしい。

 

 

「ヘルキにも礼はしておいたし、カブルーから取り上げられた物は利用している宿に送り届けるように指示しておいたから」

 

「ヘルキ...ああ、あの看守ですか、そこまでしたんですね...」

 

 

俺が個人的な約束をした看守への礼から押収物までも手を回すとは...。

つくづく過保護だ。

 

 

「資金と武器防具を失ってどうしようかと思いましたが、何とかなりそうで助かりました」

 

「こんな目に遭っても、まだ迷宮の真相を追おうとするのね...」

 

「はい」

 

「今度は私が庇ってあげられないような事態になるかもしれないのに?」

 

「分かっていますよ、この行為の危険性くらいは」

 

 

ミルシリルは不安そうにしているが、あのいつでもケーキを食べられる暖かい部屋に戻ろうとは思わない。

俺は自分の意志でこの道を選んだんだ。

たとえ最後が魔物の腹の中でも、一生牢屋の中であっても後悔はない。

 

...............。

だが、これからどうしようか。

 

とりあえず宿として利用している酒場には戻るが、肝心の迷宮はもうエルフによって封鎖されているか、迷宮の管理者を失って崩壊しているに違いない。

いずれにせよもう迷宮に関しての手掛かりはゼロになって振り出しだ。

 

しかたない、地道な情報収集を行って新しい迷宮を見つけるしかないか。

迷宮の情報を聞くなら旅をして色んな場所を知っているような人間が良いのだが...迷宮にいた者にそういう流れ者は多い。しらみつぶしに探していくことになるだろう。

 

まぁ、まずは...旅の除霊師をやっていたファリンという女から情報を聞き出すことにするか。

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