ライオスTS・ダンジョン飯が始まらない   作:マルマル4世

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ある準備の始まり

「今までありがとうございました、ガルドさん」

 

 

俺は現場監督のガルドに別れの挨拶を告げた。

 

この鉱山に来てから4か月。

地道な調査の末、迷宮を見つけた俺たちはその探索に専念することを決めて、鉱山での労働を終えることにした。

 

 

「短い期間だったが、世話になった」

 

 

センシも鉱山での労働より、迷宮生活の方が性に合っているようで俺と一緒に迷宮に来るらしい。

なんにせよ迷宮探索の戦力が増えるのはありがたいな。

 

 

「いつでも戻ってきていいからな。これからさらに人員を増やそうと思ってるからよ」

 

 

ガルドは俺たちに温かい言葉を餞別として...いや単に労働力が欲しいだけか。

 

やれやれドワーフってやつは...。

まあ、最後まで利己的な人間だったが、嫌いになれない男だったな。

 

...あーそうだ。

 

 

「そういやセンシさん。ガルドさんには迷宮の事は教えているんですか?」

 

 

気になってセンシに小声で聞く。

 

 

「伝えていない。...下手に迷宮の事を知ると金目当てに迷宮に潜りかねんのでな。アダンさんの知り合いまで死なせては申し訳が立たん」

 

 

センシが少し遠い目をしてそんな事を話す。

“まで”という事は...過去に迷宮で悲劇があったのだろうか、人が死ぬような。

アダンの兄のトタンが亡くなったと聞いていたが...それ絡みの死因なのか?

迷宮に潜る理由はそれが関わっている可能性があるかもしれないな。

 

 

 

 

────────

 

 

 

馬で村の方までセンシと共に駆けると、村の入り口近くに小さな人ごみと大きい馬車が複数見えた。

少し前にラティスが手紙で言っていた通り、商団が村に来ているな。

 

これなら資金も少し溜まったし、迷宮を探索するのに必要なものを買い込めるだろう。

迷宮を見つけてからも半月待ったのは、この商団から準備に必要なものを買うためだ。

 

 

「よし、予定通りだな。センシさんは村の方に来たことありますか?」

 

「挨拶の時に少し立ち寄ったが、すぐに鉱山の方で働くこととなった」

 

 

俺が乗っている馬の後ろに座ったセンシがそう言う。

滞在期間は俺とは違って短かったようで、村の人間とはほとんど面識がないみたいだな。

社会性の無さから考えても、センシが村に立ち寄った商団の人間と交渉するには手間取るだろう。

 

 

「それなら交渉は僕が担当しますからセンシさんは────」

 

「カブルーさん?」

 

 

商団の集まりの方から女の声が聞こえた。

声が聞こえるほうに視線を送ると、元旅の墓守...現迷宮の守衛ファリンがそこにいた。

 

 

「あっファリンさん。お久しぶりです!」

 

 

俺は半年ぶりに逢ったファリンに馬から降りて挨拶をする。

ファリンは少し経って休みを貰えたのか、商団に相乗りして村に来ていたようだ。

 

 

「仕事場から休暇もらえたんですね」

 

「カブルーさんもお休み?」

 

「はは、僕の方は仕事辞めちゃいました。少し近くの場所で用事が出来まして」

 

 

商団の来るタイミングを待っていたので偶然というわけではないが、ここでファリンと会えるなんてな。

 

う~んファリンを誘って迷宮探索メンバーに加えるか?

迷宮に関わるのも姉のラティスのためらしいから、話を出せば仲間に入れるのは容易だろう。

 

...いや、帰郷したばかりの彼女を呼べば、流石に村の人間から不審がられるな。

流石にそれはまずいか。

 

そんな風にファリンの事を考えていたら、村の方にその姉であるラティスの姿が見えた。

こちらに小さく手を振っている。

 

それを見たファリンが、嬉しそうに小走りでラティスの方へと向かった。

 

 

「ただいま、ラティス姉さん」

 

「おかえりファリン」

 

 

走った勢いのまま、トーデン姉妹が抱き合って帰郷の挨拶を交わす。

ファリンは人あたりのいい人間だからこの挨拶に違和感はないが、ラティスがああいう風に抱擁をするなんて...。

話からファリンを溺愛していたのは分かっていたが、それでも少し驚くな。

 

 

「カブルーもおかえり。隣のドワーフの方は...」

 

「わしはイズガンダのセンシだ。カブルーとは先日まで鉱山と一緒に働いていた」

 

「いわゆる職場の先輩ですね」

 

 

疑問に思ったラティスにセンシが自己紹介をする。

一応村の方にセンシは顔見せしたから、村長の娘なら面識があってもおかしくないんだがな。

人間嫌いのラティスなら、センシの事を鉱山に行ってもう関わらない人間だからって、忘れてそうだな...。

 

 

「そう。こんにちは、私はラティス・トーデンです」

 

 

最低限の機械的な挨拶。

 

うわっ、興味なさそう。

本当に過去に会った事あって、その上でセンシの事を忘れてそうだ。

 

そんな再開のやり取りをした後、俺たちは馬を村人に任せてトーデン家に一旦厄介になることに決めたが...。

 

 

「あの女は...妙な物が見えたトーデン家の妹か...」

 

「いなくなったはずなのにまた村に...」

 

 

トーデン家までの道中で村人たちがファリンを見て、不審そうに噂していた。

 

どうやらファリンは俺より歓迎されてないみたいだな。

この村は余所者嫌いなのはそうだが、村を離れたといってもファリンは村長の娘のはずなのだが。

霊媒体質なのがよほど気に障ったのか。

 

 

「...はぁ。」

 

「大丈夫だよ。私はラティス姉さんがいるだけで嬉しいから」

 

 

ため息をつくラティスを安心させるように肩に手を置くファリン。

 

 

「何も変わらないわね、この村は」

 

 

ラティスはうんざりした顔でそう吐き捨てる。

まるで帰郷したのがラティスであるかのような台詞だった。

 

 

────────

 

 

「そう、ドラゴンの絵は一昨日に完成したの」

 

 

トーデン家の少し煌びやかな客間まで来た俺たちにそんなことを言うラティス。

少し自慢げだ。

 

 

「本当ですか?見てみたいですね」

 

「いいわ。この絵を他の人に見せるのは初めてね」

 

 

あの部屋で描いていた絵、ついに完成したのか。

どんなものか途中経過も見せてもらえなかったから、気になる。

 

 

「私も気になる。みたい、みたい」

 

 

余程興味があるのか、ファリンがテーブルに上半身を乗り出した。

実家だからか、いつもの思慮深い感じが吹き飛んでるな。

 

 

「少し待って...」

 

 

そう言うとラティスは絵を描いていた部屋に歩いていく。

少し経ってから布で隠された絵画を抱えて戻ってきた。

 

 

「こんな感じ」

 

 

絵から布を外すと、赤いドラゴンに切りかかる勇者の絵が描かれていた。

この絵には今にも動き出しそうな躍動感があり、重ね塗りした油絵は鎧や鱗の立体感を際立たせていた。

 

 

「わぁ...上手ですね...」

 

「おぉ...」

 

 

俺とセンシが思わず感嘆の声を上げる。

絵の知識は素人だが、大した技巧で描かれていることは俺にでも分かった。

 

 

「すごい、すごい!...あれっ、もしかしてこの剣を持った男の人は」

 

「僕がモデルですね」

 

 

絵の出来に興奮するファリンが、この剣を持った人間が俺を参考にしたことに気が付いた。

こうして言われると俺が勇者みたいで少し気恥ずかしいが。

 

 

「ラティス姉さん、今度は私の絵も描いて」

 

「もう貴方の絵は描いたじゃない、わがまま言わないの」

 

 

俺を羨ましく思ったのかファリンが絵をねだるが、ラティスに拒否される。

確かにファリンの絵はもうラティスの部屋にあったな。

 

 

「ああいうのじゃなくて、こういう、かっこいいのが欲しい!」

 

「...しょうがないな、今度また帰郷するまでに一つだけ描いてあげる」

 

「うれしい...ありがとう姉さん」

 

 

ラティスはしょうがないと人差し指を立てて約束し、ファリンはそれを見て少し赤いほっぺを緩ませて喜んだ。

小さい子供がするような、そんな光景。

 

妹には甘いんだな...。

あんなに部外者には冷たいのに、えらい違いだ。

 

 

「ふむ...良く描けておるな。わしも絵描きの真似事はしたことがあるが、ここまでのものは描いたことはない。レッドドラゴンの爪や逆鱗まで精巧だ」

 

 

絵描きの経験があるらしいセンシがレッドドラゴンの絵について具体的な素晴らしさを語った。

 

 

「逆鱗?」

 

「レッドドラゴンの弱点だ。一つだけ逆立った鱗があってな、そこ以外は魔法も剣も歯が立たん」

 

「詳しいですね、レッドドラゴンと戦った経験が?」

 

 

疑問に思った俺に対して、センシがドラゴンの生態を詳しく解説する。

レッドドラゴンまで知っているとは、相当の深度まで潜っていたのか?

 

 

「いや、あくまでレッドドラゴンの知識は書物や他から知った伝聞だ。見たのもつい最近になる。オーク達が深く警戒していた」

 

「ああ、カナリア隊がいた広場にいたドラゴンですね。そこにセンシさんもいたようでしたし」

 

 

確かに、前に俺がカナリア隊と迷宮の主が争った場にいたと言っていたが、それが初めてだったんだな。

その時に迷宮の主がレッドドラゴンを呼び寄せていたのを目撃したのか。

 

 

「オーク...!」

 

 

センシの言葉にラティスが反応した。

急にどうしたんだ。

 

 

「その、セ...セ...セイジさん?」

 

「センシさんです」

 

「センシさんはオークを知っているのね、詳しく聞かせて」

 

 

ラティスはセンシの名前をもう忘れかけていた。

これでよく村長の後継ぎが務まるな。

 

 

「いいとも。わしがオークに世話になっていた頃の話になるが────」

 

 

いやおい待て。

オークは冒険者たちを無差別に襲う島のおたずねものだったんだぞ。それとつるんでたって...。

...もう島はカナリアに制圧されて手配も無くなったとはいえ、最初に俺が考えていた通り相当グレーな人間なんじゃないかセンシは。

まあいいや、突っ込むのもめんどくさい。

 

 

「迷宮に集落を作っていてな、魔物の戦いかたやキノコの見分け方まで教えてもらい──」

 

「「オークと仲良くなれるなんてすごい...」」

 

 

ラティス姉妹が目を輝かせて、センシの話を食い入るように聞いていた。

ラティスは名前を忘れかけていたくらいセンシに興味ゼロだったのに、オークの話が出た途端にこれとは現金だな。

 

人間には興味はないが、異人種のオークは興味があるんだなラティスは。

 

 

...あれ?

 

ラティスはレッドドラゴンについては聞かないんだな。

オークよりそっちの方が興味あると思ったんだが。

 

レッドドラゴンをそらで描けるくらい知識があるから、オークの興味を優先したのか?

なんか前にも感じた違和感があるな...。

 

 

「へえ、センシさんの知識はオーク由来だったんですね。ラティスさんは何から知ったのでしょうか?」

 

「本とかファリンの話ね」

 

 

少し探りを入れた俺の言葉に、ラティスがわずかに視線を動かしてから答える。

視線を動かす仕草はラティスが嘘をつくときの癖だが...

 

本と伝聞以外でレッドドラゴンを知ったという事は、実物を見たのか?

といっても、シェイプシフターのときのように、レッドドラゴンがこの辺にいるわけじゃあるまいし...。

 

いや、迷宮が近くに────

 

 

「ねえ、カブルーは迷宮でどんな魔物を知ったの?詳しく教えて」

 

「私も知りたい」

 

「また藪をつついて蛇を出したか...」

 

 

ピースが繋がりかける前にラティスに邪魔された。

 

興味本位で突っ込むんじゃなかったよ。

ファリンと酒場で話した時のように、嫌いな魔物トークをする羽目になるとは。

 

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