ライオスTS・ダンジョン飯が始まらない   作:マルマル4世

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終わりの始まり

「構えてくださいセンシさん!」

 

「ああ」

 

森の迷宮の探索中に突然現れた3体の巨大歩き茸に対して、俺はロングソードセンシは斧を構える。

歩き茸のサイズは...3M前後といったところか?カーカブルードで見かけたやつよりは小さい。

 

 

プシュー、プシュー。

 

 

「センシさん!この胞子は吸っちゃダメです」

 

 

毒々しい色をした巨大歩き茸がその分厚い笠から胞子を大量に吐き出した。

カーカブルードで実際に見たが、あの胞子は大量に吸い込んでしまえば意識の混濁を起こす。

 

うかつに近づくのはマズいと一旦距離を取る。

 

 

ズシン、ズシン。

 

 

その動きを見て、歩き茸が菌糸を地面に増殖させながら徐々ににじり寄ってきた。

 

 

「どうしましょうか...」

 

 

何とかしなければいけないが、近寄ればあの胞子でノックアウトだ。

でもこっちに打つ手がない。

 

 

「魔術師がいればよかったんですが、遠距離攻撃や胞子から体を守る手段が無いな」

 

 

浅い層なら不要だと、魔術師であるファリンや幼馴染のリンを連れてこなかったことを内心後悔する。

カナリア隊ではパッタドルというエルフが防御結界を張って胞子を防いでいたが、俺達には何も対策がない。

 

 

「火を起こして追い払うこともできんな」

 

「ここで火なんか使ったら丸焦げですもんね」

 

 

この森で火を起こして歩き茸を燃やしてしまえば、木々に燃え移って大火事になってしまう。

あの巨大キノコを焼ききれるほどの火おこしが間に合うわけないので、無意味な仮定ではあるが。

 

 

「仕方ないですね、いったんここは引きましょう」

 

 

分が悪いなら素直に撤退しよう。

別にここを通らなければいけないというルールはないんだ。

 

 

「...囲まれている」

 

「えっ」

 

 

センシの言葉を聞いて辺りを見渡すと、大きな歩き茸に呼び寄せられたのか、こちらを取り囲むように小さな歩き茸が集まっていた。

 

くそ、逃がさないように退路を塞がれたか。

これでは撤退もままならない...。

 

 

「こうなれば強引に...」

 

 

このままではまずいと、俺は胞子を浴びるのを覚悟で巨大歩き茸に突っ込もうとする。

 

 

「やめておけ」

 

 

センシが俺の肩を掴んでひき止めた。

この場面でなんで引き留める...!?

 

 

「お前が見た巨大歩き茸とは種類がちがう。あの胞子を吸えば体がすぐにしびれて動けなくなる」

 

「ですが、このままでは...」

 

 

あのまま突っ込んでいれば麻痺胞子の餌食だったかもしれないが、手をこまねいてもどうしようもない。

 

 

「考えがある」

 

 

そう言うと、センシは俺が持っていた目印用の赤い布を取って、口に当てる形で結んだ。

 

 

「幸い、あの麻痺胞子は皮膚に触れても無害だが、呼吸で体内に入れると麻痺する種類だ。これをマスク代わりにする」

 

「...気休めにしかならない気もしますが...まあ無いよりはマシだと思いましょう」

 

 

センシのアイデアに習って俺も赤い布を口元に巻いた。

本当に有効かどうかわからないがやるしかない。

 

 

いくぞ...!

 

 

「くっ...」

 

 

「~んんっ」

 

 

センシと俺は胞子が漂う中、別々の巨大歩き茸に突っ込んだ。

呼吸を止めて、なるべく麻痺胞子を吸わないようにしながら。

 

 

巨大歩き茸に近づくと、持っていたロングソードで走り出した勢いそのままにヨコ薙ぎ一閃を浴びせた。

 

 

(...くそっ、デカい上に菌糸の身体が頑丈で刃が通らない)

 

 

俺の攻撃は刃が通りきらずに、巨大歩き茸の大きな体に阻まれた。

 

歩き茸の群れが駆け出しのパーティの壁になる理由として、その菌糸の体が斬撃を阻むということがある。

非力な人間程度の斬撃は小さい個体でも防いでしまうが、大きな個体だとここまで硬いのか...!

 

 

だめだ、息が続かない。

一旦、呼吸をするために離れなければ...。

 

 

「ぷはー...ぐっ、少し吸っただけでこれか...」

 

 

胞子の届かない場所までいったん離れる。

その際にマスクごしにほんのわずかに胞子を吸ったが、その影響で微妙に手足の先が痺れた。

 

ただの歩き茸がここまで厄介だとは。

 

こうしている間にも巨大歩き茸の足元から広がる菌糸が、一刻一刻と退避するスペースを狭めている。

 

何度もこれを繰り返して徐々に削っていくにもいかないだろう。

やっているうちに時間切れだ。

 

 

(センシの方はどうなって...)

 

 

センシの様子が気になってそちらの方に視線を送ると、ズシンと大きな音を立てて巨大歩き茸が倒れていた。

 

嘘だろ。

あの切れ味の悪そうな斧で、絡まったツタのように固い体を切り裂けたのか...!?

 

 

「カブルー!横に切るのではなく縦だ、袈裟切りで足を攻撃しろ」

 

 

少し離れた位置のセンシが、大声で俺にそう伝える。

縦とはいったい...?

 

 

「っ...考えている暇もないか」

 

 

考えている間にも巨大歩き茸はにじり寄ってくる。

俺は意を決してその懐へと飛び込んだ。

 

 

(食らえ...!)

 

 

俺はロングソードを上段に大きく構えて、巨大歩き茸の足に振り下ろす。

手ごたえは先ほどとは真逆で、サックリと刃が入って足を切り裂くことができた。

 

足を割かれた巨大歩き茸は、そのバランスを崩して小さい歩き茸を巻き込みながら横方向に倒れこむ。

 

 

なるほど...。

歩き茸の菌糸は縦に割けやすいのか。

しっかし縦に割けるキノコは毒が無く食べられるなんて俗説があるが、普通のキノコどころか歩き茸にすら全くアテにならないな。

この歩き茸痺れ毒持ってたし。

 

 

「これで───」

 

 

うっかり声を出しそうになった口元を閉じる。

 

おっと。

足を切って行動を封じ込めたとはいえ死んではいないんだ。

声を出すのは麻痺胞子の外に出てからじゃないとな。

 

 

「センシさん!あれ...?」

 

 

俺は麻痺胞子外に出てセンシに声を掛けようとしたが、もう一体の歩き茸ごとどこかに消えていた。

センシは単独行動をする節があるが、流石にこんな時までやらない性格のはず...。

 

 

「センシさーん!」

 

 

センシに呼びかけながら、森に覆われた周囲を見渡す。

 

 

 

 

...。

 

 

 

 

 

木々がガサガサを音を立てるだけで、返事がないな。

歩き茸にでも攫われたのか...?

 

いや、流石に歩き茸はそんな知性は無いと思うが...カーカブルードのように迷宮の主に命令されない限り。

そういや、カーカブルードの時と違って、こいつらはその体で踏みつぶすような攻撃をしてこなかったな...。

 

普通の歩き茸ですら、体当たりくらいはしてくるんだが。

まるで麻痺胞子で行動不能にさせて、俺たちを攫う事が目的のようだった。

 

待てよ...そもそもこんな数の巨大歩き茸が襲ってくるなんて1階層じゃ稀だ。

 

まさか、迷宮の主が俺たちを狙っているのか。

そう考えれば今の不自然なことが全て説明が付く。

 

 

「まずい...!」

 

 

急いでセンシを探さないと。

下手をすれば強大な力を持った迷宮の主が直接ここに来るかもしれない。

俺たちが死ねば、この迷宮の事を知る人間がいなくなって終わりだ。

 

そう思って、センシが最後にいた場所近くのガサガサと揺らめく木々へと走り出す。

が、俺はその直前で足を止めた。

 

うるさいくらいに森が音を立てていた理由が分かったからだ。

 

 

(迷宮が変動している...!)

 

 

木々がうごめいて、1階の地形がどんどん変わっていた。

センシが急に消えた理由もこれだろう。

 

こんなことが出来るのは迷宮の主しかいない。

迷宮の主が直接巨大歩き茸を送り付けてきた疑いが確信になった。

 

 

「くそ...!閉じ込める気か!」

 

 

地形が変わってしまえば、木に縛り付けた赤い布の目印も役に立たない。

この森林の迷宮の中で遭難して、餓死する可能性だってあるぞ。

 

 

(待て落ち着け、カブルー)

 

 

闇雲に動いてもどこか分からず状況を悪化させるだけだと、己を律する。

何が最善か考えてから行動するんだ。

 

合流を優先するべきか、脱出して地上で救助要請を優先するべきか...。

 

 

合流を考えた場合、この森の中でお互いを探しあうことになるだろうが、それができるかは怪しい。

目印ゼロで迷宮の主の妨害を何とかしながら捜索するわけだからな。

 

脱出を考えた場合、当然入ってきた入り口に戻るわけだが...。

コンパスで迷宮の入り口の方向は分かっている。

さらに言えば迷宮には地上とのつながりが必要な以上、迷宮の主であってもそう簡単に入り口の位置までは変えられない。

 

そしてセンシは1週間分の食料とあの魔物知識がある。

そうそう死ぬとは思えない。

 

うん、センシには悪いが脱出を優先しよう。

センシの捜索は、腕の立つ人員を確保してからだ。

なるべく迷宮の事を知る人間を増やしたくないが、ファリンさえいれば────

 

 

(...今、人の気配がしたな)

 

 

「センシさん!」

 

 

俺はセンシが何とか戻ってきたのだろうと気配をする方に駆け寄る。

 

いや────違う。

この気配はセンシじゃない!

 

 

「誰だ!」

 

 

そう呼びかけると木の陰から女が姿を現した。

たなびく金の髪と琥珀色の眼、美しく整ったツリ目の顔立ち。

こいつは────

 

 

「...カブルー?」

 

 

マスクをしていたことで確信が持てていなかったのか、少し当惑したような声で俺の名前を呼んだ。

左手には...カーカブルードの迷宮を支配していた狂乱の魔術師と似たような本を持っている。

 

魔物に詳しくなければ作れない迷宮、睨んだだけで怯んだシェイプシフター、正確すぎる魔物の絵、レッドドラゴンに対する知識、隠れて迷宮を制御するには好都合な鍵のかかった部屋。

全てが繋がっていく。

 

 

────ラティスが迷宮の主だ。




次で恐らく完結します。
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