ライオスTS・ダンジョン飯が始まらない   作:マルマル4世

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ある姉妹の始まり②

両親の助けとラティス姉さんの勧めで、魔術学校へと入学することになった私。

 

自分にとって、魔術と村の外の人間というものは全くの未知だった。

最初の頃は故郷宛てに手紙を沢山書くくらい不安だったけれど、マルシルという金髪三つ編みのエルフの女の子とも友達になれて嬉しかった。

 

 

「ファリン、貴女はとても賢いもの、将来良い魔術師になっていい職に就けると思うわ」

 

「マルシルの方が凄いよぉ...」

 

 

マルシルは専門外の召喚術も学んでいるのにいつも成績は一番の優等生。

私の才能をよく褒めてくれるけど、私は個人的に森に作った小さなダンジョンの環境が気になって授業を抜け出すことも多かったから、落第直前になることも少なくなかった。

出席日数の猶予が0日になるほどギリギリで卒業できたという有様。

 

そんなギリギリで卒業した私をノームの先生は大物になると言った。

いや、皮肉が半分以上入っていた気がするけども...。

 

興味をくすぐるような魔術もたくさん学べて、楽しい学園生活だったなあ。

けれど、頭の片隅にはいつもラティス姉さんがいた。

両親と手紙のやり取りはしても、ラティス姉さんは手紙を返してくれない。それどころか姉さんの近況についても伝えてくれなかった。

その事を両親に手紙で聞いても、「ラティスは元気に暮らしています」の一文で終わるだけ。

 

学園を卒業して18歳になり、職に就くことになってもずっと姉さんが気がかり。

姉さんは本当に元気でやっているのかなぁ。

 

私はどうしても疑問を抑えきれなくて、仕事に就く前の大きな暇で故郷に帰ることにした。

姉さんは帰ってきたら家族の縁を切ると言っていたけど、生涯一度も会えないのであればどうせ絶縁されているのと変わらない。

それなら強引にでもラティス姉さんの顔が見てみたいと思った。

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

久しぶりの故郷は、時が止まったように変わっていなかった。

姉さんと一緒に転びながらかけっこをして遊んだ坂も、私が旅立つ切っ掛けとなった村はずれの墓地も、夏に木苺がよくなる草むらもそのまま。

そして、一緒に住んでいた家も変わっていない。

 

 

「...?こんにちは、トーデン村長へのお客さんですかね?ここらでは、見ない顔ですが...」

 

 

実家の近くで、ほうきを掃いて掃除をしている丸顔の若い男の人が私に話しかけてきた。

手紙には書いていなかったけど、お父さんが新しく使用人を雇ったのかな。

 

 

「ファリン・トーデンです。故郷の姉さんを尋ねに来ました」

 

「ああ、ラティスさんの妹さんでしたか!私は、ワーガルと申します。少し待っててください、今ラティスお姉さんを呼んできますから」

 

 

使用人っぽい丸顔の男の人が家のドアを開けて、家の中へ姉さんを呼びに向かっていく。

...村のお手伝いさんかもと思ったけど、本当に使用人みたい。

 

 

...。

 

 

使用人っぽい人が家に入ってから数分が経過しちゃった。

呼び出しにしては変に時間がかかっているなあと思い始めた頃、またドアが開いた。

 

 

「えーっとその...家の中にいると思っていましたが、ははは。うっかりしていました、ラティスさんはちょっと出かけていて...」

 

 

丸顔の男性が頭を掻きながら、誤魔化すように笑う。

嘘をつきなれていないのか、何かを隠しているのは私でも分かった。

 

 

「では、姉さんが家にいる日を教えてください」

 

「え!?えーっと...」

 

「本当はラティス姉さんは家の中にいるの?」

 

「え!あ~...まあ...」

 

「いるんですよね」

 

「...はい」

 

 

やっぱり。

 

 

「その...ラティスさんは君と会いたがってないみたいで...。いや、ご両親からは二人は仲がとても良いと聞いていたから君の事が嫌いというわけじゃないと思うんだけど...」

 

「通して下さい」

 

「えっ」

 

「姉さんのことを本当に思っているならそこを通して下さい」

 

 

元々姉さんからの絶縁覚悟で会いに来た。

姉さんが私に会いたくないくらい辛い状態でも無理やり助けると心に誓った。

 

 

「君は...本当に君なら...心を開いてくれるかもしれないね」

 

 

私の強引さに押し負けたのか、それとも何か私に期待したのか遮っていたドアを開けて掃除に戻った。

 

教えてくれたことに感謝の一礼をしてから、8年ぶりでも見慣れた玄関を超えて、居間へと向かう。

いない。

 

暖炉がある部屋。

いない。

 

カタカタカタ。

 

台所から調理をしている音がする。料理をしているのは母さんだろうか。

...向かってみよう。

 

鉄の鍋に入ったスープをかき混ぜている女性の後ろ姿が私の目に映った。

背丈も私と同じくらい大きくなってかなり雰囲気も変わっているけど、この綺麗なサイドアップの金髪は間違いなくラティス姉さんだ。

 

 

「.........」

 

 

もう既に来客がいることは気づいていると思うけども姉さんは振り返らない。

私の事など気にしないふりで、包丁を持ち野菜を切って調理を続けている。

 

 

「ラティス姉さ───」

 

「来ないで」

 

 

姉さんは振り返らないまま、私を拒絶した。

 

 

「ファリン、帰ってきたら姉妹の縁を切るって言ったよね」

 

「分かってるよ、ラティス姉さん。それでも姉さんの顔を一目見ておきたかったの。困ってないか、苦しんでないか」

 

「私は、困ってないし今に満足してるよ」

 

 

平然と話しているが、そんなわけがないと思った。

それなら普通に手紙のやり取りもしているはずだよ。

 

 

「...聞きたかったことはそれだけ?」

 

「まだ話は済んでない、成長した姉さんの顔を見せて」

 

「............」

 

 

気まずい沈黙が場を支配する中、野菜を切る包丁の音だけがする。

 

 

「姉さん、話を──」

 

「家の前の人ね、私の夫。ワーガルって言うの。優しいけどつまらない人だったでしょう?村長の娘婿になったのに未だにペコペコして小間使いみたい。父さんは良縁って言ってたけどね」

 

 

姉さんは木のまな板から野菜を鉄なべに投入する。決して振り返らず、話す言葉は止めないまま。

 

手紙には書いていなかったけど...父さんの紹介で姉さんはもう結婚していたんだ。

でも、二人の間には距離があって夫婦としてやっていけるようにはとても思えないよ...。

 

 

「家を継ぐためにファリンを差別した村の人達への付き合い方も学んで、その人たちにも事情があるってことも知った。母さんから料理と化粧の仕方を教わった。性格の良くて金持ちの名家の人とも結婚もした。普通の人ならこれが人生のゴールで満足するよね。でも、なんでかな...とっても毎日がつまらないの」

 

 

やっぱり姉さんは苦しんでいた。

私が旅立ったあの日からずっと。

 

 

「本当はね、私は才能のある貴女の事を自慢に思うと同時に心底嫉妬してた。なんでファリンだけ自由になれて、私はかごの鳥で一生こんなさびれた村に閉じ込められなきゃいけないんだって。戻ってくるなって言ったのは、私のこんな姿を見られたくなかったの...ホント情けないお姉ちゃんでごめんね...」

 

 

私が旅立つ日、遠ざかっていく私に対してずっと手を振っていた姉さんはどんなに複雑な気持ちでいたんだろう。

精いっぱいの笑顔の裏にどんなくらい感情を隠していたんだろう。

 

 

「どんな姿でも私は姉さんが好き、見捨てない。それに嫉妬しているだけならあの時に旅に誘ったりしないよ、姉さんは立派だよ」

 

 

私は痛ましい姿にいてもたってもいられなくなりラティス姉さんの手を取った。手に握っていた調理器具が地面にカランカランと落ちる。

その行動に驚いた姉さんは振り返って私の顔を見てくれた。

 

 

「...綺麗になったねファリン」

 

「姉さんも」

 

 

成長した姉さんは、目元が涼し気で凛として研ぎ澄まされた美人に成長していた。

幼い頃はおっとりした顔の私と姉さんが間違われることもあるくらい似ていたけど、もう間違われることもないだろうか。

 

 

「我慢してたけど、もうほっとけない。引きずってでも姉さんを連れていくね」

 

「旅に出ても私は何の特別な才能もない普通の女の子で、旅の仕事なんて何にもできないよ?もう結婚もして夫がいるんだよ?」

 

「何もできなくても、私が姉さんを養うよ。あの人も私が説得すれば納得してくれると思うから」

 

「あはは。嬉しいなぁ、絶縁するって言っても、こんな情けない姿を見せてもファリンは私の事をお姉ちゃんと思ってくれるんだ......でも、もう遅いかな」

 

 

姉さんは憂いた瞳を閉じて自分のお腹を優しくさすった。

もしかして...。

 

 

「妊娠してるんだ、もう。1か月目」

 

「姉さん...」

 

 

もう、何もかも手遅れだった。

 

 

「それなら...旅の途中でも何度も故郷に戻って遠い国の話を姉さんにする。姉さんが好きな魔物の話もたくさん」

 

「魔物の話...うれしいなぁ、ふふっ。」

 

 

嬉し気に、悲しげに笑うラティス姉さん。

国や魔物の話を聞いても、実際に見ることはかなわないと分かっているからかな。

 

 

「ファリン...ありがとう。そうだ、ご飯はもう食べちゃった?ファリンの分も今から作ろうと思ったんだけど...」

 

 

落とした調理器具を拾う姉さん。

その表情は少しだけ、昔の姉さんに戻っていた。

でも、もう...完全には戻らないという確信があった。

 

 

────────────────────────────────

 

 

始めて帰郷した日から6年が経過した。私は24歳になって、姉さんは26歳に。

姉さんに魔物の話を聞かせるつもりでダンジョンの研究をしているマルシルとあれからずっと迷宮に潜っていた。

 

けど、噂を聞き付けたエルフの人達によって迷宮は封鎖されて、冒険者の出入りが禁じられちゃったの。

 

それでも何とか近くに居られないかと、迷宮の出入り口近くで霊媒師の仕事をするように。

エルフの人曰く、迷宮が封鎖された後でも残った魔物や魂が外へ漏れ出してパニックになることがあるみたい。

その管理役を現地の人が手伝うことがあるそうで、私はそれに参加した。流石に迷宮内部の出入りまでは許されなかったけれど。

 

そんなことがあって魔物に会える機会が減った。

魔物の話をする機会が少なくなっちゃうかもって姉さんにその事を伝えたけれど、姉さんは「ファリンと話せるなら、魔物のことを知れなくても問題ないよ」って伏し目がちに苦笑してた。

 

村でずっと人と関わり合ってきたからかなぁ、ラティス姉さんは上手になっていた。

夫のワーガルさんくらい下手だったのに。

 

嘘が。

 

分かりにくくなっていたけど、目を逸らすのは姉さんが嘘をつくときのサインだ。

私が帰郷した頃みたいに暗い表情に戻ることは無かったから、思ったよりこの事が辛くなさそうで良かったけれども。

 

 

「話すことが無くても帰ってきていいからね、ファリン。」

 

「うん...」

 

 

ひとしきり姉さんに迷宮と魔物の話をしたら、故郷の村を離れてまた迷宮近くの街へと一旦戻る。

少し心に不穏な物を抱えたままだけど、気のせいと思うことにした。

 

話の上手なカブルーさんが街で私と会いたいみたいだったから、それで姉さんの気晴らしになりそうな話を聞けるといいなあ。




過去編はこれで終わります。
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