ライオスTS・ダンジョン飯が始まらない   作:マルマル4世

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ある事実の始まり

「はぁ...はぁ...」

 

 

鉱山の中、ただいま俺はセンシと呼ばれる黒ひげのドワーフと一緒に、クズ石を積んだトロッコを押して運んでいる。

 

センシによる細かい説明を受けた後、俺に任せられた主な業務はトロッコの運搬だった。

俺は迷宮で下半身の筋肉が付いているし、専門的な知識がいる仕事ではないからとガルドは言っていた。

実際そうだろう。

 

 

「ふぅ...」

 

 

坑道の中は熱気がこもりやすく、ムワムワして息が詰まりそうだ。

俺の汗が黒髪を伝って、鉄のレールに落ちていく。

気になって軽く汗をぬぐうが、奥からまだまだ噴き出してくる。

 

半袖で作業しているが、それでも全然暑いな。

 

 

ガツッ。

 

 

押していたトロッコが微妙な引っ掛かりで詰まって止まった。

ここら辺は乗せているレールがガタついているのか、トロッコが停止しやすい。

 

 

「むんっ」

 

 

センシが力を入れると、引っかかっていたトロッコが障害を強引に乗り越えて進んだ。

流石はドワーフ、トールマンの俺とは馬力が違うな。

 

 

「レールの掃除を早急にやっておかねばな」

「ですね、それは戻ったら僕がやっておきますよ」

 

 

センシが土ぼこりで茶色に汚れているレールを見てそう言った。

レールの掃除も些細なことに見えるが、交通に関わる以上は大事な仕事だ。

 

 

重いトロッコを押し進めて、出口に到達したら見張りのトールマンのチェックを抜けて今度は指定の場所まで運んでいく。

クズ石を捨てる場所も決められているからだ。

 

そうして指定のクズ石山まで着いたら、今度はシャベルで捨てていく。

これも重労働でやっていくうちに腕が痺れる。

 

 

「はぁ...ふぅ...」

 

 

この作業を何度も繰り返すので、辛いし暇といったら休憩時間しかない。

そんなんだから迷宮の調査も中々進まない。

ままならないものだ。

 

 

「んっ、はぁ...そういえば危険なガスを探知するカナリアはここでは使わないんですね、もしかしてドワーフはガスを見分ける能力があるんですか?」

「ドワーフにそういう力はないぞカブルー。ここは炭鉱ではなく金山だから、炭鉱と違ってそういったガスは発生しにくい。ガスが無ければカナリアも飼う必要が無いというだけだ」

 

 

キツイ作業なので、俺とセンシは雑談をして気を紛らわせていた。

取るに足らない話だが、黙って手を動かし続けるよりはマシだ。

 

 

「炭鉱と金山にそんな違いがあるんですね。それを知っているということは、センシさんは炭鉱と金山両方で働いた経験が?」

「迷宮に来る前は各地を転々としておったからな。若い頃は鉱夫として一攫千金を夢見た鉱夫団にいた時期もあった」

 

 

俺がなんとなく聞いてみると、センシは自身の過去を話した。

 

 

「センシさんにもそんなギラギラした時期があったんですね。ふぅ...僕はこの鉱山に来ましたけど、ちょっとした縁で来ただけなのでそういう夢とかは無いかなって」

 

 

俺はクズ石をシャベルで山に投げながらそう言った。

センシは温厚な人間に見えたが、案外若い頃はヤンチャしてたのか?

いや、他の鉱夫団の人間がそうだっただけなのかも。

 

 

「わしが昔所属していたはぐれ者が集まった小さな鉱夫団と違って、中規模なら鉱夫には一定の給料が支払われるだけだからな。一攫千金とはならないぞ。儲かるのは土地を所持している村と、現場監督のガルドと、あとは鉱主のアダンさんだ」

 

 

欲がなさそうなセンシは、現場で働く俺たちがそんなに儲からない事実を淡々と述べる。

 

 

まあそうだろうな。

全員が金持ちになれるほど儲かったら、事業は成立しない。

 

 

「そう聞くと損してる気持ちになりますね」

 

 

俺は冗談めかしてそんな事を言う。

金儲けに来たわけじゃないとはいえ、迷宮探しの旅を続けるために俺も金は欲しい。

だから迷宮を探索する頃も、謎の解明だけじゃなくて宝探しもしていたし。

 

──いや待て、センシの話で気になる部分があったな。

 

 

「...センシさんは、はぐれ者の集団に...失礼、一般社会から外れた小規模な鉱夫団に属していたようですが...相当苦労されたのでは?ドワーフは種族間の繋がりが強く、身分階級の外にいるものに対しては厳しいと聞きますし」

 

 

ドワーフという種族は身分が無い同族に容赦がない。

物は買えず、金は借りられず、職にすら就くことはできない。

社会からつまはじきにされて、野垂れ死にするのも珍しくないだろう。

 

元パーティメンバーだったドワーフのダイアも、家を捨てた時にかなり大変だった話を聞いたし。

 

 

「...わしは他の鉱夫と違い身分を失っているわけではないから、故郷にも戻ることは出来た。だが、もう故郷に頼れる親類もいなかったのでな。」

 

「それは...。すみません、辛い話をさせてしまいました」

 

 

しまった。

雑談にしては踏み込み過ぎた。

 

それにしてもセンシが世捨て人になったのは両親の死も原因だったのか。

...そう聞くと、己と境遇が似通っているのかもしれないな。

 

 

「...大丈夫だ。わしがいた迷宮は、少し前に乗り込んできたエルフが内部の人間を捕まえていってな。それから命からがら逃げだしたのだが...そういう事情があったため、故郷に戻るわけにもいかず、どうするか困り果てた。それで一旦、以前生活していた迷宮付近の街で暮らそうかと悩んでいた時にアダンさんに雇われたというわけだ」

 

 

自分は平静だと安心させるために笑ったセンシが、以前話していた自分が雇われた経緯を改めて詳しく話す。

 

あのカナリア隊の騒動の時にセンシもいたのか。

 

 

「はは、僕はその時エルフから逃げきれずに捕まっちゃいましたよ」

 

 

エルフにコネが無いセンシが捕まっていたら...下手をすれば死ぬまで牢屋の中だったろうな。センシは迷宮に何年もいたんだ、事情聴取も長期間になる。

 

 

「なんと。カブルーは同じ迷宮に居たのか」

 

「ええ、記憶はないですけど、もしかしたらどこかで顔をつき合わせていたかもしれませんね」

 

 

俺の情報網にはセンシという人間は引っかからなかったが、知らないうちに会っていたりして。

 

 

「捕まえられた時エルフに妙な黒魔術をかけられたりしなかったか」

 

「そんな事は...いやありましたけど、この場に立っているから大丈夫ですよ」

 

 

エルフに変な事をされていないか俺を心配するセンシ。

 

その言葉で、俺はシスヒスというエルフに眠らされた時の事を思い出す。

 

..ミルシリルがいなかったら一生牢屋で臭い飯を食っていたと思うと、今更シスヒスにムカついてきた。

シスヒスめ...今度見かけたらタダじゃおかないからな。

 

そんな物騒な事を考えていると、トロッコ内のクズ石はいつの間にかなくなっていた。

 

 

「よし、戻りましょうか」

「そうだな」

 

 

トロッコで運んできたクズ石を全て捨て終わったので、置き場にシャベルを置く。

 

そうして石を捨てて軽くなったトロッコを押して坑道まで戻そうとした時に───

 

 

「センシ、ちょっといいか?」

 

 

図面を持ったガルドがセンシを引き止めた。

 

 

「今行く。カブルー、悪いがトロッコは一人で戻しておいてくれ」

「分かりました」

 

 

ガルドについていくセンシを見送って、俺はトロッコを坑道の中に運んでいく。

 

...センシがこうやって作業を中断して呼ばれていくことが妙に多い。

元鉱夫団の知恵を借りるにしても、ドワーフの技術者は他にいるだろうに。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「これはカブルーの分だ、沢山食べなさい」

「ありがとうございます」

 

 

坑道外の居住スペースで、俺は晩飯のスープの器をセンシから受け取る。

自分で持ってきても良かったが、こうやってセンシはひたすら俺に親切にしてくれる。

 

長命種特有の子ども扱い気味なのがちょっと気になるが。

 

 

「中身は鶏とキノコのスープでしたか」

 

 

あったかいスープにスライスされたキノコと鳥のもも肉が入っている。

 

 

「うん、中々美味しいですね。今日はアタリの日だ」

 

 

スプーンでスープをひとくち飲むと、キノコの香りと鶏肉の旨味が舌に広がってうまい。

少ししょっぱめだが、労働で流した汗で失われた塩分を考えると塩加減も完璧だ。

 

料理当番は交代制なので、当然味も担当した人間の料理スキルに左右される。

今日は美味しいが、一昨日の白身魚のクリーム煮なんか生臭くてすごいマズかった。

恐らく下ごしらえを全く行っていなかったのだろう。

 

 

「そうか。今日の料理はわしが作ったが、出来を褒められると嬉しいものがあるな」

 

「今日晩飯を作ったのはセンシさんだったんですね」

 

 

センシが褒める俺の言葉で嬉しそうに笑った。

 

今日はセンシだったのか。

この出来が毎日食べられるなら、ずっとセンシが料理当番でいいんだけどな。

 

センシの料理能力は迷宮で魔物を調理して食っていくうちに成長していったんだろうか。

 

魔物...。

 

 

 

 

......。

 

 

 

まさか。

 

 

 

 

「センシさん?このスープって何が入っているんですか?」

 

 

俺はもしやと思いセンシに問いかけた。

 

 

「...?カブルーが言った通り、鶏とキノコのスープだ。もっと正確に言えば村の人間から貰った鶏肉と“歩き茸”だが」

 

「~~~~~っ!!!」

 

 

センシの爆弾発言で俺の顔は真っ青になっていく。

 

歩き茸は俺でも知っている。動くキノコの魔物じゃないか。

なんてものを食わせてくれたんだこの男は!

 

 

「本来は鶏肉だけのシンプルなスープだったが、それでは栄養バランスが偏る。だから休憩時間に森の中で探し物をしていたら、歩き茸を偶然見つけたので加えた」

 

 

どうやらセンシは、栄養を考えて要らない気を回したらしい。

料理に魔物が入っているなんて、アタリの日どころか大ハズレの日じゃないか。

 

そんなものを食した気持ち悪さで吐き気がする...スープが食道を戻って逆流しそうだ。

 

 

「う、うっぷ。えっとその...次からは歩き茸は遠慮してもらえると...」

 

「好き嫌いはいかんぞ、食生活が乱れれば体の調子も乱れる」

 

 

好き嫌いとかそういう話ではない。

今まで上げてきた好感度を下げるのは承知で、センシにハッキリやめてほしい事を言うか...?

 

いやこの悪気の無さだ、ハッキリ言ったとしても当番が回るたびに良かれと思って魔物を食わされるだろう。

 

 

......ああもういっそ刺し殺したくなってきた。

遺体は探しても見つからない森林の中にでも...。

 

 

あれ。

 

さっきセンシは森で探し物をしていた時に歩き茸を見つけたと言ってたな。

探し物とはてっきり料理に加える食材かと思っていたが、それならば【歩き茸を偶然見つけた】という本命の探し物ではないような言い方はしないはずだ。

 

 

「分かりました、我慢して食べます」

 

「よろしい」

 

 

俺の言葉にセンシは満足げな表情。

魔物をいきなり食わせたセンシが全面的に悪いと思うけどガマンガマン。

 

 

「その代わりに少し聞きたいことがあるのですが、センシさんは森で何を探していたのですか?」

 

 

子供っぽい少し恥ずかしい言い分だが、俺は好奇心を優先した。

 

 

「...まあ、ちょっとした食材を探していた」

 

 

俺の質問に対して、微妙に声が上ずった。

嘘は言っていないが、本当の事も言っていないな。

 

 

「センシさんはガルドさんに作業を中断してまで呼ばれることが、この数週間で何度もありましたよね。いくら鉱夫団として活躍していた過去があったとはいえ、回数が多すぎる。それにドワーフの技術者は他にもいるはずだから、何も作業中のセンシさんに頼り切る必要はない。...何か隠していませんか?」

 

 

センシの言動は妙に気になるところが多い。

この質問でまた踏み込み過ぎてしまうかもしれないが、ここは飛び込む。

 

 

「...う~む。そこまで隠すような事でもないし、若者の健康生活のためだ、教えよう。」

 

 

センシが俺の歩き茸を食う交換条件のためならと、話す姿勢になる。

つくづく親切というか...おせっかい焼きだな。

 

 

「...わしがガルドにたびたび呼ばれるのは、ここの鉱脈には不自然な部分があるからだ。それで鉱山での経験があるわしを頼った」

 

「不自然とはいったい何でしょうか」

 

 

そう聞くとセンシは自分の荷物を漁っていく。

人が覆えるくらい大きい大鍋、悪魔のような角のついた兜、使い込まれてボロボロになった斧。

それらを除けて、何か入っている瓶を取り出した。

 

 

「これは...鉱山のクズ石?」

 

 

瓶の中身に入っていたのは、何の変哲もないクズ石だ。

瓶に入れておくようなものでもなく、これからの話に関係なさそうなものだが。

 

 

「いや、クズ石ではない」

 

 

センシが俺の言葉を否定する。

 

その後に石の反対側が見えるように瓶を裏返した。

反対側の岩肌には灰色の岩肌に紛れて、いくつもの黄色の線が走っていた。

 

 

「...金鉱石じゃないですか」

 

「ああ」

 

 

金鉱石を持ってきた事を悪びれる様子もなくセンシはそう言った。

 

 

「いや、まずいですよこれ。金鉱石なんか勝手に持ち出したら、クビどころか捕まりますよ。」

 

 

俺は犯罪行為を働いたセンシを咎めた。

 

鉱山では鉱夫の金鉱石の持ち出しを防ぐために見張りを置いているくらいだ。

この事が露見すればただでは済まない。

 

 

「鉱山から持ち出したのはクズ石だ」

 

「いやこれどう見てもクズ石じゃなくて金鉱石じゃ...」

 

「岩をよく見てみなさい」

 

 

見るほうが早いとセンシが金鉱石の入った瓶を手渡してくる。

 

 

...じっくり見てもただの金鉱石なんだが。

いやまて、岩肌に小さいものが何か動いて...。

 

 

「ひっ、キモチ悪っ」

 

 

おぞましい光景に思わず瓶から手を離す。

中身をよく見ると、小さなナメクジかウジ虫のような生物十数匹が点在していた。

 

 

「おっと」

 

 

離した瓶が床に落ちる前にセンシがキャッチして割れないように止めた。

 

 

「なんですか、これ」

 

「坑道でわしが見つけたダンジョンクリーナーという魔物だ」

 

「ダンジョンクリーナー...?」

 

 

聞きなれない魔物の名前で俺は思わず聞き返した。

そんな魔物は聞いたことがない。

 

 

「迷宮を修復したり邪魔なものを溶かす生物だ。といってもこのダンジョンクリーナーは岩層の中で岩を食べて金を生む亜種のようだがな。ガルドが疑問に思って何度もわしに相談するような、不自然な金鉱脈をこいつが作っていたようだ。」

 

 

嘘を言っている雰囲気じゃない。

本当にこの金鉱石は元々クズ石で、金鉱石に変えたのはその魔物の仕業だったのか...。

 

ガルドと何度も相談していたのも、それが理由だったわけだ。

この街付近で金鉱石が突然発生した謎も解けたな。

 

───いや、そうじゃない。

迷宮を修繕する生物と言ったな、今。

 

 

「待ってください。そのダンジョンクリーナーって生物は迷宮の修繕に関わっているようですけど、こんなものがいるという事は───」

 

「そうだ、ダンジョンクリーナーは自然発生する生物ではない。つまり、迷宮が確実に近くに存在する。その事を知ったわしは森で迷宮を探していたのだ」

 

 

センシは淡々とそう告げた。

 

どうやら、俺は早くも“アタリ”を引いたらしい。

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