ライオスTS・ダンジョン飯が始まらない   作:マルマル4世

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ある迷宮の始まり

「おいカブルー!おめえ宛てにトーデン村長から手紙が来てるぞ」

 

「はい!」

 

村近くの金鉱山に来てから一ヵ月半が経過。

作業にも慣れて全員の顔も覚えてきた。

 

そんな時期の昼休憩にガルドが俺の事を呼んだ。

 

 

「ほらよ」

 

 

ガルドは手紙が少々小さく見える大きな手で渡ししてくる。

 

村の方から2週間に1回ペースで食料や生活必需品などを乗せた馬車が来る。

それに乗せてトーデン家から手紙が来たということだろうが...なんだろう。

社交辞令的な手紙か?

 

 

「一通の手紙くらいはすぐに返事を返さないとですね」

 

俺はその手紙を受取ろうと手を伸ばした。

 

送り主を推測するに、村長のレオス・トーデンだろう。

少し家に居ただけで俺の勤務先までわざわざ手紙を書くとは律儀だな。

 

 

「いや、三通来てるぞ。全部トーデン村長からだ」

 

 

手紙は重なっていたらしく、ガルドが一番上の手紙をスライドさせると、一通に見えた手紙が三通に増えた。

 

 

「はい?」

 

 

それは俺の予想を大きく外す情報だった。

一通ならともかく三通も手紙が来るなんてどういうことだ。

 

 

「カブルーおめえ...なんかやらかしたな?」

 

「いや、何もしてないですよ」

 

 

ガルドが俺を責めるような眼で見てくる。

特に失礼に当たることが無いように慎重に動いたつもりだが...。

 

 

「ウソこけ。本当に何もしてなかったら、ただの従業員にこんなに手紙が来るもんかよ」

 

 

大事なパトロンの機嫌を損ねるんじゃないと、怒るガルド。

 

 

「本当に心当たりがないんですけど...」

 

 

あれこれ3通も手紙が来た理由を考えるが、確かにそうとしか考えられない。

 

...もしかしたらレオス村長はラティスとの関係で怒ったのか?

でも、もう村にはほとんど立ち寄る機会がない俺に対してそこまで怒る理由がない。

そもそもここに来る前に何か言うはずだし。

 

 

「とりあえず中身を見ましょうか」

 

 

俺はガルドの手紙を受け取って、中身を見ようとした。

あれこれ考えても仕方ない。

 

 

「どれどれ」

 

 

...その横で、さも当然のようにガルドが手紙の内容を覗こうと座る。

 

 

「あの、ガルドさん?」

 

「俺にも見せろよ」

 

「なんでですか、僕あての手紙ですよ」

 

 

ガルドは強引に手紙の内容を覗こうとしてくる。

確かに立場としては目上の人間だが、プライベートなことまで干渉される筋合いはないのだが。

 

 

「いーや、俺たちの仕事は村と協力して行っているんだ、村長からの手紙となれば現場監督の俺が拝見する義務がある」

 

 

もっともらしい理由を言うガルド。

どう考えても実情は好奇心からくるものだろうが。

 

 

「はぁ...分かりましたよ。好きに見て構わないです」

 

「話が分かるじゃねえか」

 

 

まあ、いいか。

女の子からの手紙じゃないんだ、ちょっとした出歯亀くらい許してやるさ。

 

三通の手紙のうち、一つを手に取ってまず表裏を確認する。

...そこには送り主の名前が記載されていた。

記載された文字は【ラティス・トーデン】。

 

 

「違うじゃないですか」

 

「あれ?トーデン家から来た手紙だからレオス村長のはずなんだがな」

 

 

事実と違う送り主の名にガルドはキョトンとした表情になる。

 

村長からの手紙というのはお前の推測だったのかよ。

いや俺もそう思っていたけどさ。

 

 

「まあ...どれかがレオス村長からの手紙なんだろ」

 

 

そう言うと、ガルドは他2通の手紙を手に取って送り主を確認する。

 

 

「ほら、この手紙なんか...ん?」

 

 

他の手紙を見て何かに気づくガルド。

 

いったいなんだ。

 

 

「全部ラティス・トーデンからじゃねえか。ラティスってのは村長の妻か?」

 

「娘さんですよ。...え、3通ともラティスからなんですか」

 

 

俺はガルドの勘違いに突っ込んだ後で、すべてラティスから送られた手紙ということに驚いた。

なんで、わざわざ3通も?

 

...なんだかすごく嫌な予感がしてきたぞ。

 

 

「中見確認しようぜ、中身」

 

 

ガルドは他人事で自分には関係ないからと、それはそれは面白そうに笑う。

 

 

「やれやれ...」

 

 

村長ではなくその娘の手紙なので、ガルドに手紙を見せる必要はないが見る気満々すぎる雰囲気だな。

そんなガルドが脇から視線を注がせる中、俺はもう仕方ないと恐る恐る手紙の封を開けた。

 

その手紙の内容は...

 

 

【カブルーへ。風が心地よい季節になりましたね。あの人達(両親)にカブルーへ手紙を送ることをようやく許可してもらったので、一か月以上経った今ようやく手紙を送ることができました。鉱山の仕事の調子はどうでしょうか。大変な重労働かと思いますから、身体を壊さないように気を付けて。少しでもあなたの負担を軽減できるように、村からの支援はなるべく私が────】

 

 

内容を見ると思ったより普通の手紙っぽい書き出しだ。

俺の余計な心配だったか?

 

 

「おめえも隅に置けねえじゃねえか。村長の娘をかどわかすなんてよ。よっ色男」

 

 

ガルドがニヤニヤしながら肘で俺の腹をつついてくる。

やかましい。

 

そんな馬鹿は無視して目線を手紙の後半部分に送ると...。

 

 

【──カブルーは、絵のモデルになっていた時、ずっとドキドキしてくれたかな。こんなに人間に興味を持てたのは初めて。カブルーとはもっと外国の話も聞きたかったな。出会いが違えばもしかしたら、カブルーとはもっと深い仲になれたのかな。前にカブルーは空を飛ぶ魔物になりたいって言ってくれたけど、カブルーはグリフィンが似合うと思う。翼竜にするかどうか悩んだけど、やっぱりカブルーは雄大なグリフィンがいい。いや、両方の特性を持たせるのもありかな。魔物の頭は複数つけてもいいよね。でもカブルーはどこか寄生バチっぽい感じがしてるからもしかしたらそっちの方が良────】

 

 

「.........。」

 

「.........。」

 

 

あまりの内容に沈黙する俺とガルド。

 

物凄い見なかったことにしたい。

 

...しかもあとこれが二通あるの?

 

 

「よし、そろそろ昼飯ができるころだ、今日のメニューは何かなと...」

 

「置いてかないでください」

 

 

無理やり内容を見たくせに、そそくさと立ち去って俺を見捨てようとするガルド。

俺一人じゃ受け止めきれないぞこんなもの。

 

 

「いやぁ...その、お幸せにな!」

 

 

ガルドは薄情にもピューっと走って逃げだした。

そもそもラティスは既婚者だから、俺と付き合う未来もないのだが。

 

 

「昼飯を持ってきたぞカブルー」

 

 

センシはそれと入れ替わるように昼飯の器を両手に一つずつ持って登場してきた。

 

 

「あ~~...センシ、任せた」

 

 

ガルドはすれ違ったセンシの肩を叩いて、選手交代とばかりにこの地獄を任せた。

なんて奴だ。

 

 

「む?」

 

「その、何でもないです」

 

センシは何があったのかと疑問に思ったが、俺はさっさとその手紙を懐にしまい込んだ。

もう内容は読んだことにして、後で返信の手紙は一応書いておこう。

 

 

「今日はサソリ汁だ。わしが今回の当番だったが、中々味付けがうまく行ったと自負している」

 

 

...気持ちの整理がつかないうちに次の試練がやってきた。

最近は飯抜きになるの覚悟でセンシの当番の日はさも食ったふりをして凌いでいたのだが、こうなっては回避は不可能だ。

食うしかない。

 

 

「うげっ...あ、ありがとうございます」

 

 

俺はイヤイヤ器を受け取った。

どうして迷宮から離れたのに、迷宮に隠れて魔物を食って凌ぐ犯罪者のような食生活をしなけれなばならないのだろうか。

 

 

「今日は更に上下逆に育つ木の幹も入れてある」

 

 

嬉しいサプライズみたいに言わないで欲しい。

珍妙な物ばかり入れやがって...。

 

「ゆっくりでいいからちゃんと噛んで食べなさい。腹ごしらえが済んだら───」

 

「ええ分かってますよ、これを食べ終わったらいつもの迷宮探しですね」

 

 

...気持ちを切り替えてなんとか胃の中に魔物食をねじ込んでいく。

今日は流し込みやすい汁物なだけましだと思うことにして。

 

 

 

────────────────

 

 

 

「今日はこの辺りを探してみましょう」

 

 

俺とセンシは昼の休憩時間を利用して、迷宮探しに鉱山付近の森に移動した。

昨日は雨だったので微妙に土がぬかるんで、木々の間からしずくが落ちていく。

 

迷宮は必ず入り口を作らなければ存在できない以上、必ず入り口がある。

だから、俺たちは迷宮の存在を知ってからずっと探していた。

休憩時間は僅かしかないが、地道に探していけばいずれは見つかると信じたい。

 

鉱山で掘って迷宮にぶち当たるのが一番好都合で本命だが、それは普段の作業で出来るし。

 

 

「湿気で少し冷えるな」

 

 

センシが舌で空気の湿気を感じてポツリとつぶやく。

確かに雨の影響か微妙に肌寒い。

 

 

「せいっ」

 

 

身体を動かせば寒くないだろうと、俺は運動がてら視界を通すのに邪魔な枝を短剣で切断した。

 

野生生物や迷宮から出てくる魔物の襲撃に備えて俺は短剣、センシはボロボロの斧を持っている。

迷宮付近だから魔物の数が増えていたのもそういう事だったんだろうな。

 

う~ん、でも地域で全く見かけない魔物が増えていたわけじゃないのはどういう...。

 

 

「やめんかカブルー!闇雲に植物を切ってはいかん。邪魔な枝は掻き分けて進め!」

 

 

この付近の変化について考えていた俺の思考をセンシが大声で遮った。

枝を切る行為が気に障ったらしい。

 

 

「あ~すみません。以後、気をつけます。今そうすると少し濡れそうですが...」

 

「よろしい」

 

 

やれやれ...この森の生態系を考えるのはいいが、一刻も早く迷宮を見つけないとそこから出てくる魔物(外来種)こそ生態系を破壊するだろうに。

いや、魔物は既存の種類が少し増えただけか。

 

そう考えると迷宮の主はこの地域に現れる魔物だけで迷宮内の浅層の生態系を作って、付近の生態系を破壊しないようにしているのか?

 

────違う。

 

どのみち最終的にウタヤのようにあらゆる魔物が外に出てくるんだ、生態系を考えるのは無意味だろう。

という事は別の理由がある。

 

 

「理由は一体...」

 

 

森の中を歩きながら、俺は思考をフル回転させる。

俺には魔物の事は分からない。だから人間である迷宮の主の思考を捉えるんだ。

 

それが迷宮の入り口探しにもつながってくると信じて。

 

 

「う~む...」

 

 

俺が熟考する横で、センシも顎に手をあてて俺のように何か考えていた。

 

 

「何か見つかりましたか」

 

 

その様子が気になって、何を唸っていたのかセンシに聞いてみる。

もしかしたら俺のように手掛かりになりそうなことを何か考えているのか?

 

 

「食材になりそうなものがないな」

 

 

おい。

 

生態系と食材の事ばかり考えられても困るのだが。

昨日なんか、捕まえてた金鉱石を作るダンジョンクリーナーを逃がしていたし。

 

...ずっと飼っておけばいい資金源になったのになあ。

普通の迷宮でもあんな生物がいるのだろうか。

 

まあ迷宮内で金が生まれるんだ、いても不思議じゃないだろうな。

 

 

「待てよ...」

 

 

でも、迷宮内で生成されるのは金だ。この付近で作られているような金鉱石じゃない。

ということはこの近くに住む迷宮の主は、わざわざこんな金鉱石を生む生物を望んで作ったことになる。

金ではなく金鉱石を作るダンジョンクリーナーを。

しかも金鉱脈を作ったのは迷宮内ではなく迷宮外で、それも不自然な形になっている。

 

 

いったい、なぜ。

 

 

「センシさん、一つお聞きしていいですか?」

 

「む?」

 

 

俺は疑問が頭の中に生まれたので、センシに声を掛けた。

 

 

「以前、不自然に金鉱脈が作られていたと言っていましたが、具体的にはどういう風に不自然だったんですか?」

 

「奥に伸びるように金鉱脈が出来ていた。丁度、村と正反対に進むようにな」

 

センシが村の正反対の方向を指を指す。

 

不自然な金鉱脈と言っていたが、具体的には村と逆の方向に伸びていたのか。

それはいかにも不自然な...。

 

 

「ここは...うむ、深く調べるのはやめておくか」

 

 

そうやって考えていると、雨の影響か倒れた木の空洞を覗いたセンシが、すぐに立ち上がって見るのを止めた。

 

 

「なんでですか?」

 

「動物が巣を作っていた。勝手に家を荒らすのは忍びない」

 

 

俺も首を傾けてその木の空洞を覗いたが、確かに小さい獣が何匹か寄り集まっていた。

この獣たちはまだ外は雨が降っていると思っているのだろうか。

 

 

「ああそれは探さなくてもいいですね」

 

 

相変わらずの生態系重視だが、まあ今回はどうでもいい。

こんな変なところに迷宮の出入口があるわけな──

 

 

「あっ待てよ、違う。なんで俺はこんなことに気づかなかったんだ!」

 

「どうしたカブルー」

 

閃きが頭に走って思わず俺は大声の独り言を出した。

そんな一人納得する俺を心配するセンシ。

 

わざわざ金鉱石を周りに生み出すなんて回りくどいことをして、なるべく溢れる魔物も外の生態系と合わせた理由なんてよく考えればすぐにわかるじゃないか。

 

それは迷宮の存在を分かりにくくして、世間に存在がバレるのを遅らせるためだ。

 

迷宮の成長には欲望を持った人間がもっと集まる必要があるが、人が増えればカーカブルードのようにカナリア隊に目をつけられて制圧されてしまう。

 

だが、迷宮外に金鉱石を作り出せば、欲深な人間を効率的かつ自然に集められる。

不自然な金鉱脈は、その人間たちが掘った穴で迷宮に繋がらないようしたってところだろう。

 

坑道と迷宮が繋がらないように金鉱脈で誘導した以上、迷宮の位置はその反対方向だろう。村と鉱山の間の森だ。

 

 

「センシさん、今迷宮の場所に見当がつきました」

 

「本当か!カブルー」

 

 

そこまで見つからないように迷宮を作ったというなら、入口も非常に分かりにくい場所に設置している。

森の中で分かりにくい場所と言えば───

 

 

 

────────

 

 

「ついに見つけましたね...」

 

「おお...カブルーの言った通りだったな。荒らさないように探すのには一苦労したが...」

 

 

鉱山に来てから三か月。

俺たちはようやく迷宮に繋がる地面の穴を見つけることができた。

 

そう、森の中で見つかりにくく、かつスペースを確保できる場所と言えば動物が作った巣穴だ。

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