酒寄さんちの次男くん   作:へそ天ペロリスト

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ツクヨミにて

 

 10月も半ば。

 

 初めてツクヨミに潜ってからおおよそ半月以上が経過した。

 

 その間に大きく変わったこともなく、日常生活にちょっとツクヨミに訪れる時間が増えた程度……のはずだった。

 

 

「バズってますね」

 

「九千代の歌声良いもんな」

 

「曲が良いから、です」

 

 

 なんかSNSでちょっとバズった。

 

 生配信の事故とか炎上とかそう言うものでは無い。

 

 九千代としても生配信などは気恥ずかしいということで専ら動画投稿だけである。

 

 半月の内に3本の動画を投稿しただけなのだが、なんというか再生数がすごいのだ。

 

 日向と九千代はPC画面を見ながら見ている数値がおかしいのかと思わんでもないくらいには再生数の数字が現在進行形で増えていくのを観測している。

 

 

「収益化も通ってますし、現時点でもこれくらい今月入りそうなんですけど」

 

 

 そう言って九千代は視線を少し動かし、カーソルを操作する。

 

 スマコンの拡張機能の一つとして視線操作が存在するのでおそらくそれだ。

 

 

「これ、投稿時に音楽配信アプリとの連携だのにチェックを入れた結果……なのか?」

 

「ツクヨミは色々なSNSやアプリケーションと連携してますから、おそらく」

 

 

 九千代が気合を入れて作っていた2DMVとはとは別にサブスクの様な音楽配信アプリでの再生数も加味されているらしい。

 

 にしても再生数。

 

 

「なんか自分に音楽の才能があるのではと勘違いしそうで怖い」

 

「十分にあると思いますが」

 

 

 半月、正確には17日間の間で3本ともにミリオン(100万再生)を突破している。

 

 何らなら200万再生に届きそうなほど。

 

 

「2月程前から彩葉さんが作詞作曲した楽曲以上のペースの伸びですよ」

 

「……あれだ、なんかみんな音楽に飢えてたとかそう言うのがあったんだろ多分。そんな気がして来た」

 

 

 前世BGMの類いは引くほど作らされていたが、歌として歌詞の入っているものを作る様になったのは今世からである。

 

 その道のプロである父に幼少期の頃に手ほどきを彩葉と共に少しばかり受けていたとは言え、こうもバズるとは日向の予想とはかけ離れており人生何が起きるかほんとに分らんとなっていた。

 

 

「こちらの収益は結婚式費用やその後の生活のために投資に回して数倍にしておきますね」

 

 

 税金とかも一切心配しないでくださいね、と笑顔で答えられた。

 

 

「やろうと思えばいつでもFIRE(不労生活)する位に稼ぐことはできますから、控えめに稼ぐってやつです」

 

「控えめとは????」

 

億り人(年収一億円)を越えない程度ですね」

 

 

 九千代曰く馬やボートやサイクルに掛けるくらいなら株のチャートを眺めて売り買いする方がよっぽど楽とのこと。

 

 ……ちょっと何を言っているのか分からない。

 

 正直日向は彼女の資産の全貌を聞くのがちょっと怖いので聞かないことにしている。

 

 

「さて、そんなことはどうでもいいのです」

 

「そんなことで流す規模観じゃなくないか?」

 

「その程度いくらでも稼ぎますから」

 

「あ、はい」

 

「お約束、忘れていませんよね?」

 

 

 残念。うやむやにできなかった。

 

 日向は九千代のおねだりに負け、一度だけステージで伴奏をした。

 

 ツクヨミ内でも特に制限なくライブが出来るエリアだったため、ゲリラでやって立ち止まる人がそこそこいたくらいの物。

 

 

 あの時はおねだりに負けてしまったが二度はせんと日向は強硬の姿勢を取ったのだが九千代は条件付きで今後も一緒にステージに立ってほしいと申し出てきたのだ。

 

 その条件と言うのがひと月の間に動画の再生数が500万を突破することであった。

 

 まぁ、500万再生などする訳がないと高をくくっていたのだが、結果がこれである。

 

 まさか半月過ぎないうちに191万+166万+151万の合計で508万再生。

 

 

「気合入れて動画作った甲斐がありました」

 

 

 ムフー、とでも効果音の付きそうなほどの見事などや顔に日向は完全に負けた。

 

 

「……男に二言はない、多分」

 

「そこはかっこよく断言してくださいよ」

 

「ちょっと現実の想定離れが激しすぎて理解が追い付いていないだけなんだよ」

 

 

 ちょっと前世基準で物事を考えているとそれ以上の速度で今世はSNSが強いらしい。

 

 この感覚、おそらくあれだ。

 

 おっさんが最近の技術についていけなくなってるやつ。

 

 

「これが加齢か」

 

「合計で200歳にも言ってない人が何か言ってますね」

 

 

 ちょっと彼女を言い負かすのは難しいらしい。

 

 日向はおとなしく白旗上げてステージで伴奏することにした。

 

 

「とりあえず着ぐるみか何か装備するのは許してくれ」

 

「………それくらいは妥協してあげましょう」

 

 

 九千代の脳内で一瞬にして色々な思考が巡ったらしく、秒単位で百面相の様に表情が切り替わりながらもどうにか了承はもらえた。

 

 ……何を考えたんだろうか。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

 日向がツクヨミ上で顔バレ回避に固執したのは過去一度だけ行ったゲリラライブに由来する。

 

 

「……ちゃんといろPとは別なアバターになっただろうに」

 

 

 ツクヨミ初ログイン時のプリセット指定事件後、再度アバターの設定を行ってからライブを行ったというのに、ツクヨミユーザーは日向にいろPの姿をどこか重ねたらしく『いろPですよね』なんて声をかけられたりもした。

 

 大本のベースはそれなりに近いとはいえ、アバターもそれなりに弄っているはずだ。

 

 背丈は拳一個分はデカいし、狐耳ではなく狸耳にしたし、デコのマーキングもない。

 

 アイメイク部分だっていろPに比べて随分とおとなしい部類で、髪型だって露骨に違うと分かる程度にはセミロングにしたうえで色合いも変えている。

 

 なのに何故なんだ。

 

 原因は一向に分からないが客観的に間違えられる要素は存在するということだ。

 

 身内に面倒をかけるのは日向の本意ではないため、アバターの印象をゴロっと変える何かを探しすために頭を抱えたい気持ちになりながらもツクヨミを歩いていた。

 

 

「KASSENなる戦闘ゲーをする訳ではないし」

 

 

 [かぐやいろPチャンネル]にて彩葉がバトルゲームをしていた際に狐の着ぐるみがネックになっていたのは知っている。

 

 その余波で実兄がなんか色物キャラをやっているのも知ってしまったのだが。

 

 でもなんやかんやで九千代のフットワーク的にそうならないとは言い切れない。

 

 ある種彩葉の後追い状態になっていることは理解しているため、そこで見えてきた改善点は改善しておきたい。

 

 となると着ぐるみの中の装備にグラサンとかそう言う類のものでも装備しておくか。

 

 幸いツクヨミ公式NPCショップであろうとプレイヤーメイドショップであろうと基本的に困ることのないくらいのふじゅ~が日向の手元にはあった。

 

 露店を流し見。

 

 表現者の都と言うことで結構多種多様なアイテムがツクヨミ内には存在している。

 

 

「ん、能面なんていいんじゃないだろうか」

 

 

 だいぶ古典的ではあるが顔を隠すお面と言えば王道中の王道である能面。

 

 日本の伝統芸能である能の役者が付けているお面のことである。

 

 有名どころで言えば怨霊面の般若だろう。

 

 

「でも楽曲のイメージと合わないな」

 

 

 小面でも不気味さが増してしまう。

 

 3曲共にジャンルはずらしたが、ホラー的な要素はないのだ。

 

 一発ネタとしてはありなのかもしれないけれど、ステージと言う世界観をぶち壊しかねないので却下。

 

 

 そう考えるとシンプルなデザインの目元を隠すようなものの方がいいだろうか。

 

 

「……わからん」

 

 

 やはり九千代に見繕ってもらった方がいい気がして来た。

 

 だが九千代と真正面からやり合うと着飾る方向に持っていかれるのが目に見えていた。

 

 

「やあやあ、何かお困りかな」

 

「うおビックリした」

 

 

 露店から離れ、いっそ自分で何か作ってしまえばいいのでは?

 

 なんて考えていると突然声をかけられた。

 

 振り返ればそこにはツクヨミの管理人である月見ヤチヨその人がいた。

 

 ただしちょっと小さいサイズのヤチヨである。

 

 

「何やら身に覚えのある人が困ってるみたいだったから来ちゃった☆」

 

「何やってんですか管理人」

 

「ヘーキヘーキ、今ここを観測している人いないから」

 

「管理人強い」

 

 

 月見ヤチヨ。

 

 妹の談では“大切な人”と称し、ちょっと映画一本分……どころではないあれやこれやがあって価値観を塗り替えた張本人。

 

 で、恋人らしい。

 

 日向としては妹が元気にやってて幸せになれるのならちょっと種族が違うくらいは許容の範疇である。

 

 あんな惚気交じりの経緯説明を受ければすぐにでもブラックコーヒーを口に含みたくもなる。

 

 

「それでそれで、どうしたのかニャー」

 

「あーちょっと顔を隠すものを探していて」

 

 

 何かを探る様に半強制的に上目使いで迫られてうっとなりながらもその目的をゲロってしまう。

 

 おそらくうちの双子はたれ目に弱いッ!

 

 

「顔を……?」

 

「なんか妹と誤認されやすいらしくて。ほら、いろP有名人だから」

 

「ほうほう」

 

「流石に妹に迷惑かけるような遊び方をしたい訳じゃないし」

 

「なるほどなるほど、そう言う事ならヤッチョにおまかせあ~れ~!」

 

 

 そんなことを口に出せば某奉行のCMの様に応えたヤチヨが何か助けてくれるようだ。

 

 

「じゃっじゃーん!狸の着ぐるみ!」

 

「たぬきだ」

 

 

 何やら軽く手を振った所手元に顔までしっかり隠れるデフォルメされた狸の着ぐるみが登場した。

 

 葉っぱが頭に乗ってるタイプでちょっと丸い感じの。

 

 カラーリング的にもなんかいろPが装備していたものに極めて類似している。

 

 

「これをあなたにプレゼント!」

 

「運営としてあかんくない?」

 

「細かい事は気にしなーい」

 

 

 半ば押し付けられるようにその着ぐるみを譲渡される。

 

 

「これはご迷惑をおかけしてしまったお詫びなのです」

 

「それに関して再度メイキングさせて貰ったし」

 

「それじゃあヤッチョの気が済まない。受け取って?」

 

「……はい」

 

「ならヨシ、ばいび~」

 

 

 日向はちょっと幼子からの行為を無下にできないようにそれを受け取った。

 

 だって130㎝ちょっとくらいの幼いたれ目な美少女が一生懸命腕を伸ばして身の丈御を超えるサイズ感の着ぐるみを手渡そうとしてくるんですよ?

 

 こんなん誰だって受け取ってしまう。

 

 何か目的を果たしたかのように宙に浮いて去っていくその背を見つつ日向は誰に言い訳する間でもなく心の中で呟いた。

 

 

 

 これで着ぐるみ入手したので一応二重の対策として狸の着ぐるみから再度狸面と言うネタを仕込むべく狸の面を探しに再度露店を見て回ることにした。




・酒寄日向

 妹と月見ヤチヨの関係を聞いた際に“姪っ子or甥っ子を可愛がれない可能性……?”とちょっとしょんぼりしかけるが、そのマインドは今世誰とも結婚する気が当初全くなかったが故に生まれたものである。

 実子確定、孫まで残して大往生させると突撃してきたぶっ飛びガールによりだいぶその思考は緩和されている。

 それに自身の彼女の数奇な運命についても聞いているのでそう言った可能性はあるとは思っている。

 後に実兄の恋人情報で酒寄兄弟のたれ目弱点説に補強が入る。

 実父がたれ目なので恐らく母の遺伝であると確信を得ると何とも言えない表情を浮かべることとなる。


・月夜野九千代

 うちの旦那凄いでしょ、と一人PC画面にいるときはその再生数を見てドヤ顔するタイプのお嬢様。

 ちょっと以前の世界線では聞かなかったタイプの楽曲も聞けてうれしい模様。

 一番の目的は日向に歌ってもらうことなのだが、心理的防波堤を崩すためゆっくり段階を取っている最中。

 それはそれとして歌うことも素直に好きである。

「ツクヨミの一部乗っ取って『私は月より来たダークかぐや』で登場が一番おもしろいかな~。あんまり人が多い所だとめんどくさいから天守閣にいるとき辺りがいいかも……?」

 彩葉らの前に登場する時のプランを構築中。

 根っこはわりかし悪童。


・ヤッチョ

 初対面から印象悪い事しちゃったんじゃ?と内心はちょっぴり慌て気味。

 お助けヤッチョで挽回しないと……!と張り切ってみるが後にその張り切りが娘()から問い詰められることになることはまだ知らない。
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