ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい   作:匿名希望

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第一話

 

 

 ――ボクは転生してしまった。転生先の世界は前世と大部分は変わり映えのない光景が広がるばかり。

 歴史上の偉人や出来事、国名などの固有名詞はボクの記憶をしているものと違っていたりするものはあるが、些細なことだ。とある二点(・・)を除いて。

 

 

 一つはボクの性別が変わってしまったこと。名前は、朝霧夕陽(あさぎりゆうひ)

 現在の社会的身分は、十三歳のピチピチの女子中学生だ。男である時の違いに記憶が戻った当初は、色々と戸惑うことはあったが、割と早い段階で戻ったので何とかなった。

 

 

 というか、二つ目の方がボクにとっては重大だった。それは、この世界が前世においてフィクションであったこと。

 そのタイトル名は、『スマイル☆プリズムヒロインズ!』。音の響きから分かる通り、日曜日の朝から放送していそうなお子様向けの番組である。

 ストーリーも王道系の、明るい前向きのもの。

 

 

 恥ずかしくて決して人前では口外できないが、前世のボクがこの作品が大好きだった。SNSで話題になっていた『とあるキャラクター』のビジュアルに一目惚れして、そこから沼へズブズブとハマってしまったのだ。

 

 

 リアタイで大団円なエンディングを見届けたはずなのだが……主人公勢を始めとした一部のキャラクターの容姿や簡単な背景しか覚えていない。

 敵組織の最終的な目標やストーリーの流れなど、記憶になかった。

 

 

 だったら、何故この世界をフィクションのものと確信できたのか。それはボクの今世の双子の妹――朝霧日奈(あさぎりひな)が、ボクを『スマイル☆プリズムヒロインズ!』にハマる切っ掛けとなった『とあるキャラクター』その人だったのだから。

 

 

 と言っても、すぐに気づいたのではなく、小さな疑惑が成長するにつれて、自分と日奈の顔に『推し』の面影を見たことで確信に変わったのだが。

 

 

 まあ要するに、ボクは作中には存在しない主人公の双子の姉という立場にいる。つまりは、作中の様々な場面を特等席で見ることができるということであり。

 原作知識が九割吹っ飛んでいるので、新鮮な気分で味わえることを意味している。まさに一石二鳥。

 

 

 しかし、なるべく出しゃばらないようには、気をつけるつもりだ。本編を覚えていないので、本来あったであろう『流れ』を無自覚で破壊したくない。

 原作こそ至高なのだ。そう思っていた。そう信じ込んでいた。

 だから、本編が始まった時に『画面外』にいられるように。モブキャラの一人であれるように、できる限り可愛い妹(日奈)を遠ざけてきた。同年代の友人も作らないようにしてきた。

 

 

 人間関係の化学反応で、どこでどのような原作崩壊が起こるのか、原作知識がほぼないボクには予想すらできないから。

 完全無欠なハッピーエンドを隅っこの方で。原作カプを遠目で見守っていくスタンスを崩すつもりはない――と心の底から誓っていた。あの時までは(・・・・・・)

 

 

 

 

 ――ピピッ。枕元から聞こえてくる遊び心が一切感じられないアラーム音を止めて、ボクは目が覚めた。上半身を起こした状態で、大きく伸びをする。

 欠伸を堪えつつ、ボクは顔を洗う為に洗面所に向かった。だが、そこには既に先客がいた。できれば顔を会わせたくない(大好きな)、双子の妹である日奈が。

 

 

 日奈もボクの存在に気づいたようで、水道の水を止めて、こちらを見てくる。

 

 

「あっ、お姉ちゃん。おはよう……」

 

 

 萎れたような声で、恐る恐る挨拶をしてくる日奈。ボクが記憶を取り戻すようなことがなかったら、ここは普通に挨拶を返すべきなのだろう。

 しかし、原作に不介入を貫きたいと信念を掲げているボクからしてみれば、そうすべき選択肢は始めから存在していない。

 ただでさえボクの存在はイレギュラーなのだから。

 

 

 ボクは無言で踵を返して、自室へとUターンした。顔を洗うのは、日奈がいなくなってからにしよう。

 

 

「……」

 

 

 背後から日奈の視線が痛い程に突き刺さるが、努めて無視をした。胸がチクリと痛んだ気がしたが、それこそ気のせいだろう。そう自分に言い聞かせた。

 

 

 部屋で数分間待機した後、洗顔を済まして自室で制服へと着替えを完了させる。姿見で乱れがないことを確認する。

 

 

 姿見に映るのは、日奈(『推し』)とよく酷似した淡い栗色の髪を持った少女が一人いた。髪の長さは肩甲骨あたりまでで、背の高さは百五十センチ前後と小柄。

 

 

 ここまでの特徴の羅列するだけなら、双子ということもあり、外見はそっくりそのままと思われるだろう。

 それはある意味で正しい――ある部分を除いて。

 

 

 鏡の中の無表情な少女が、若干濁った琥珀色の瞳でボクを見つめ返してくる。柔らかい笑みがよく似合う日奈(『推し』)のものとは、似ても似つかない。

 

 

 感傷は程々に、その場で軽く一回転。スカートが風で僅かにたなびく。異常はないようだ。

 

 

「……良し」

 

 

 念の為に、机の横に吊ってある鞄の中身もチェック。今日の時間割に必要な教科書やノート類は、過不足なく入っていた。

 

 

 一階のリビングへと向かい、「……おはよう」と短く一言。それに対して、今世の母親が挨拶を返してくれる。父親はもう仕事に行っているので、当然いない。

 もう一人の家族――日奈も食べ終わっているので、リビングに姿はなかった。

 ここが『スマイル☆プリズムヒロインズ!』の世界であると確信を持ってから、今のように意図的に日奈(登場キャラクター)とは生活リズムをズラすようにしている。

 

 

 当たり前だが、両親には随分と昔から何度も注意はされた。「何故妹を無視するような真似をするのか」、「理由があるのなら、私達が聞いてあげるから」。

 普通以上に良い両親だろう――ボクにとっては勿体ないぐらいには。だけど、その度にボクは何でもないと言い続けた。一切の感情の揺るぎを見せることなく。

 

 

 両親との間にも決して小さくはない溝を作ってしまったが、これも必要なことも既に割り切っている。

 

 

 ボクは朝食を手早く済ませると、「……ごちそうさま」と小さく言った。食器を流しに持っていき、日奈が出かけるのを確認してから、ボクも遅れて学校へと出発した。

 

 

 

 

 日奈とは別々のクラスなので、自分の方から避けていれば、廊下で偶に顔を会わせる程度で済む。

 今日は運が良いことに、日奈と一度も学校ですれ違うこともなかった。きっと普段の行いが良いのだろう。

 

 

 友人らしい人間もおらず、部活にも所属していないボクは、帰りのショートホームルームが終われば自宅まで直行だ。

 日奈は友人達――彼女達も原作キャラクター――と寄り道をしながら帰ってくるので、帰路でばったりと出会うということはほぼない。

 

 

 万が一会ったとしても、いつも通りの態度で拒絶すれば良いだけ。虫食いだらけの原作知識によれば、もういつ本編が始まってもおかしくないのだから。

 

 

 待ち遠しい気持ちが体に反映されたのか、無意識の内に早歩きになっていた。それでも、モブキャラとしての。イレギュラーとしての自覚を忘れてはいけないと、心の中で反芻していると――。

 

 

「――おやおや、そこのお嬢さん。ちょっと良いでしょうか?」

「……はい?」

 

 

 ――声をかけられた。人を小馬鹿にした、神経を逆撫でしてくるような不快な声色。そして、直感的に抱いた印象はどうやら間違っていなかったらしい。

 

 

 振り返った先には、一人の長身の女性がいた。そこだけを切り取れば、何もおかしくはないだろう。

 しかし、その女性は明らかに『普通』ではなかった。まずは服装。彼女が着ていたのは、道化師を思わせる目が痛くなるような色彩の衣装。

 その顔もそれに因んだ仮面で覆われていて、表情を伺うことはできない。

 

 

 どこからどう見ても不審者でしかない姿に、何故か『既視感』を覚える。当たり前だが、こんな知り合いいるはずもないのに。

 ボクはその女性を怪訝そうに、食い入るように見つめてしまう。目が離せなかった。

 

 

「そんなに熱心に見つめられると、流石の(わたくし)でも照れてしまいそうになりそうですねぇ……っと、そろそろ本題に入っても?」

 

 

 そうこちらに尋ねてくる女性に対して、ボクはゆっくりとではあるが頷く。この『既視感』の正体を明らかにしたいという欲求はもちろんのこと、周囲から通行人の姿がいつの間にかいなくなっていて、助け等が期待できそうになかったから。

 

 

 この不可思議な状況や謎の『既視感』から、目の前の女性の所属は大方予想はできる。しかし、そうなると一体何故ボクなんかに声をかけてきた理由が分からなくなる。

 

 

 そんな風に混乱しているボクの内心を知ってか知らずか、女性は距離を保ったまま話しを続ける。

 

 

「……では了承も得ましたので、さっそく本題に入りましょう。(わたくし)の名は、クラウン。『ラフ・エンド』の幹部をしています。

 素晴らしい『歪み』をお持ちのお嬢さんを、最後に空いている幹部の席への勧誘へとやって参りました」

 

 

 

 

 ――(わたくし)の名は、クラウン。世界を悲しみで染めることを目的とした組織『ラフ・エンド』に所属する幹部の一人であり、首領のフィナーレ様に絶対の忠誠を誓う者。

 

 

 等と言いつつ、『ラフ・エンド』はフィナーレ様と私だけで構成されている組織と言っても過言ではない。一応私以外にも他に幹部がいるけれど、フィナーレ様から与えられた私の魔法で操っているだけに過ぎない。

 

 

 しかも私の魔法『マリオネット』は、洗脳効果や対象に固有魔法を発現させられるというのは強いのだが、一度に操れるのは三人のみ。

 その枠は既に二つ埋まってしまっているので、残りの一枠はよく吟味をしてから使いたかった。だけど――。

 

 

『――機は熟した。これより、『ラフ・エンド』としての活動を本格的に始める』

 

 

 フィナーレ様がそうおっしゃったので、急遽手駒を見繕う必要が出てきた。まあ適当な奴でも、『マリオネット』による固有魔法の覚醒と、フィナーレ様から直々に下賜される共通の魔法を合わせれば、目的の達成も余裕だろう。

 この世界には、あの忌々しい連中はいないのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 第一回目の作戦が決行されるまで後数日。その間で『マリオネット』の残り一枠を埋めるのに、相応しいターゲットを探している最中に私は見つけた。

 『普通』でありながら、最愛の人間をわざと遠ざけようとする、『歪み』を抱えた少女を。

 

 

 フィナーレ様以外に、私が一目惚れをするなんて初めての経験だった。この少女をずっと手元に置いておきたい。そんな衝動を堪えつつ、人払いを行使。一人っきりになった少女に声をかける。

 

 

「――素晴らしい『歪み』をお持ちのお嬢さんを、最後に空いている幹部の席への勧誘へとやって参りました」

 

 

 もちろん幹部という待遇は、この少女を一生私の支配下に置く為の建前に過ぎない。だから断られても問題なく、その場合は無理やりに魔法を使うだけだ。

 

 

「人知を超えた力――魔法も授けてあげます。もしかしたら、願いが叶うかもしれませんねぇ。……その代わりに、組織の命令には従ってもらいますが。悪い話ではないでしょう?」

「わ、私は……」

 

 

 少女は私の異様な雰囲気に呑まれかけているのか、舌が上手く回らないらしい。その怯える小動物のような様子に、静かな興奮を覚える。益々欲しくなってしまう。

 道化師を模した仮面の下の口角が、歪んでいくのが実感できる。

 

 

 逃さないように、少女との距離を一息に詰める。

 

 

「――ねえ、どうしますか?」

 

 

 憐れな獲物(少女)の瞳を、仮面越しにじっと見つめる。この年齢の少女には似つかわしくない『歪み』を内包した、私達側の瞳を。

 

 

「私は……」

 

 

 少女がその小さな唇を震わせながら、何かを紡ぐ前に『マリオネット』を発動させた。絶対にYESと言わせたかったから。

 

 

 私の魔力で侵されていく――私の傀儡に作り変えられていく感覚に、不快感を覚えたのか少女の表情が苦痛に染まる。

 だが、それは一瞬。すぐに、恍惚としてものに変わる。

 

 

 私は少女に、改めて問いかける。

 

 

「――私と一緒に、フィナーレ様のお役に立ちましょう。きっと楽しい日々に、刺激的な時間になるはずです。さあ、私の手を取ってください」

「……はい! クラウン様!」

 

 

 少女が嬉しそうに返事をし、私の手を握ってくる。私の『傀儡』へと変貌したのだ。しっかりと『繋がり』も感じられる。

 

 

(……うふふ、良い拾い物をしました。まずは、フィナーレ様にお目通りをして――)

 

 

 とりあえずは少女を連れて、私は『ラフ・エンド』のアジトに繋がる『ゲート』を開き、この世界から(・・・・・・)離脱した。

 

 

 

 

 ――ふふっ、上手く騙されてくれてご苦労さまなこと。

 

 

 ボクはクラウンにバレないように、切り替わった(・・・・・・)思考を巡らし始めた。

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