ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい   作:匿名希望

10 / 13
第九話

 

 

「はあ……面倒くさ」

 

 

 ボクはクラウンとの通信を一旦切り、大きくため息を吐く。せっかく日奈(『推し』)との距離が縮まり、久々に一緒に食卓を囲むことができて舞い上がっていた内心に、水を差された気分だ。非常に度し難い。

 だが、行かないという選択肢は残念ながら、ボクには初めから存在しない。

 

 

 キューブ型の魔道具を操作し、目の前の空間に『ゲート』と簡易的な『閉鎖領域』を発生させる。これで『ゲート』による魔力的な揺らぎは、同じ屋根の下で暮らす日奈やアリアに感知されることはないだろう。

 嫌なことはさっさと済ませたい。その思いで、ボクは『ゲート』に重たい足取りで飛び込んだ。

 

 

 『ゲート』を抜けて、数時間振りの『ラフ・エンド』のアジトである古城――その正面玄関へと降り立つ。空気が淀んでおり、とても不味く、あの日奈の温かいお日様のような良い匂いが恋しくなってくる。

 

 

「……変身」

 

 

 ボクは首からチェーンで下げられた一振りの杖――を模したキーホルダー。気怠げな手つきでそれを手に取って、魔力を流し込み、ぼそりと最後のキーワードを紡ぐ。

 杖のキーホルダー――変身アイテムが妖しく発光。ボクの全身が暗い闇色の魔力に包まれて、姿が。存在が書き換えられていく。

 全身を覆う魔力が霧散した後、ボクはあの闇堕ち魔法少女と言わんばかりの真っ暗な色のドレス姿に――『ラフ・エンド』の幹部サンセットに変貌していた。

 

 

 軽くその場で衣装に目線を落とし、異常がないことを念の為に確認しておく。魔法による着替えであるので、そうそう乱れがあるはずもないが。

 

 

 黒色のスカートが、深紅に輝く三日月の光を受けて鈍色に反射する。ちょうどそのタイミングを見計らったように、つい少し前まで聞いていた粘つく女性の声が鼓膜を揺らす。

 

 

「――お早い到着ですね、サンセット」

「この程度のこと、クラウン様の(しもべ)たる者、当然の義務です」

「うふふ……本当に貴女は可愛らしい。是非とも、このまま――と、今回はそういう用事で呼び出した訳ではありませんからね。直接顔を見られただけでも満足としましょう」

 

 

 一応上司にあたるクラウンの戯言を適当に聞き流し、彼女の案内の下、古城の中を進んでいく。案内された先は、フィナーレが御わす玉座の間――ではなく、その近くにある一室であった。

 部屋の内装自体は、豪華そうな調度品が何点もあるが、興味もなく感覚が麻痺しているボクにとっては特に語るべきことはない。

 

 

「おや……まだ終わっていなかったのですね」

 

 

 部屋に入ってすぐに誰もいないことを認識したクラウンは、急な独り言を呟く。ただ何もせずに、この変態ピエロと一緒の部屋にいるのは苦痛である為、ボクは先ほどの呟きを取っかかりにして下手に会話を試みる。

 

 

「えっと……失礼だと思いますが、それはどういう意味でしょ――」

 

 

 そんなボクの言葉を遮るように、ガチャリと大きな音が立てられ、一人の少女が荒々しい足取りで入室してきた。

 

 

「――それで何なのよ、クラウン。こんな時間に私を呼び出して」

 

 

 その少女に関しても、ボクは見覚えがあった。虫食いだらけの『原作知識』に該当はないが、つい先刻日奈(主人公)に『ラメント』をけしかけていた場面をしっかりと目撃している。

 と言っても、その時の意識の大半は日奈の勇姿(カッコかわいい姿)に割かれていて、彼女についての印象はほとんど残っていない。

 精々挙げるとしたら、日奈の初勝利に余計な茶々を入れようとした嫌な奴――程度のものだ。

 

 

 改めて、クラウンの後ろから少女へと視線を投げる。

 腰まで届く長い銀髪と、それが映える喪服のようなドレス。そして、何よりも大切な美しく整った容姿。敵キャラとしてのビジュアルとしては文句なし。

 病弱そうな見た目と裏腹に、結構活発というか気の強そうな印象だったが、そのギャップもまた良し。

 

 

 前世で一切の欠落がない『原作知識』を保有していた時のボクでなら、彼女を含めて『スマイル☆プリズムヒロインズ!』という作品を愛していたのだろう。

 そんな確信があった。……もちろん主人公にして、現在は可愛い双子の妹である日奈が、前世から続く最推しであるが。

 

 

(……クラウンが紹介したいって言ってた幹部は、この子のことかな? それなら早く済ませて、さっさと日奈の待つ家に――)

 

 

 ボクの視線に気づいたのか、銀髪の少女は不機嫌そうな目を向けてくる。

 

 

「……さっきから不躾に私を見てきている奴は、一体誰なのよ? あなたが言っていた用件に関係しているの?」

 

 

 自然な動作で、クラウンは銀髪の少女とボクとの間に立ち、その視線を遮る。その行動の裏に秘められた意味は、推測することしかできず、特段興味もないのだが。

 クラウンのことだ、どうせ碌でもない感情に由来するものだろう。

 

 

 そんなボクの内心も知らずに、クラウンは芝居がかった仕草で喋り出す。

 

 

「――待っていましたよ、レクイエム。ええ、そうです。彼女が我らの新しき同胞、サンセット。……さあ、自己紹介を」

「……サンセットと言います。よろしくお願いします、レクイエム先輩!」

 

 

 クラウンに促されて、ボクは幹部名を告げながら頭を下げる。……しかし、果たして先輩呼びは正しい選択だったのか、小さな疑問が脳裏を過ぎる。

 余計に銀髪の少女――レクイエムの機嫌を損ねるかもしれない。そう心配していたら――。

 

 

「……私が先輩?」

 

 

 予想とは全く違う声色が、レクイエムから発せられる。恐る恐る声の方向に目線を向けてみれば、彼女の顔には虚を突かれたような表情が浮かんでいた。

 だが、それも一瞬であり、嬉しさを噛み締めるようなものに変わる。一体何が彼女の琴線に触れたのだろうか。

 

 

「……そうね、私が先輩。私は頼りになる先輩」

 

 

 まるで自分に言い聞かせるように、レクイエムは同じ言葉を小声で繰り返す。

 

 

「何か分からないことや困ったことをどっかのピエロにされたら(・・・・)、この私にいつでも相談しにきなさい」

「は、はい……」

 

 

 想定外の反応ではあるが、これはこれでボクにとっては都合の良い。向こうからの好感度が高ければ、こちら側からの魔法――『ハート・ストリングス』による洗脳がしやすくなるので。

 まあ術者であるボクがレクイエムに対して、日奈に向けるよりはマシとはいえ、一定以上の好意を心の底から抱く必要があるのだが……現状では難しそうだ。

 当然、クラウンやフィナーレも含めて。

 

 

 ぐいぐいとボクの方に来ようとするレクイエムに、クラウンは仮面の下から覗く口角を歪ませながら毒を吐く。

 

 

「変に先輩風を吹かせるのは構いませんが、そういうのはきちんとフィナーレ様のお役に立ってからではないでしょうか?」

「そ、それは……」

 

 

 言い淀むレクイエムとそれを愉快そうに弄るクラウン。しかし、彼女達のやり取りにふとした違和感を覚える。

 クラウンの魔法はボクのものと同系統――洗脳の類。その詳細は把握できていないが、薄っすらと残っている『原作知識』にはクラウン以外の他の幹部は彼女の魔法によって傀儡になっていたような気がする。

 だというのに、何故レクイエムには若干とはいえ反抗的な態度を許しているのだろうか。正直に言って羨ましい。

 

 

 それはそれとして、口ごもっていたレクイエムがようやく続きを話し始めた。

 

 

「アイツらが――魔法少女が現れたのよっ!?」

「……それは本当ですか?」

 

 

 ――魔法少女。その単語を聞いた瞬間に、クラウンの口元の歪みが消え、声のトーンが一段階低くなる。

 

 

「そのことはフィナーレ様に報告を?」

「それは当然でしょう……! ただ成り立てで、そこまで脅威にはなりそうになかったわよ」

「その成り立てに無様に敗北したのは、一体どこの誰でしょうか?」

「くっ……!?」

 

 

 レクイエムは苦虫を噛み潰したように、表情を歪めた。

 

 

「でも、フィナーレ様からはこの世界の人間達の『ラメント』化を進めるように仰っしゃられたわ……この私に! 魔法少女に関しては、もしもまた邪魔するようであれば排除しろと」

「……フィナーレ様の命令であれば、(わたくし)共は従うしかありませんね」

 

 

 そこで、クラウンは渋々といった感じで矛を収める。と思っていたら、今度はボクの方に振り返ってきた。

 

 

「……サンセット。貴女が出撃することは今の所はないでしょうが、その魔法少女には気をつけるように。もしも会敵したとしても、くれぐれも単独では戦わず、すぐに離脱をするか、(わたくし)か別の幹部に救援を求めること。良いですね? ……それとも不安でしたら、いつでもアジトに帰ってきても構いませんよ?」

 

 

 ボクのことを慮るような発言をしてくるクラウンではあるが、最後の問いに頷いたら一切の自由はない――そんな予感があった。

 まるでゲームのバッドエンドに直行しかねない選択肢を前にした気分である。

 

 

「い、いえ、お気持ちだけで充分です!?」

「……そうですか。それは残念」

「では、もう夜も遅いですので、ボクはこの辺りで失礼します……クラウン様とレクイエム先輩もお元気で!」

 

 

 なるべく失礼に当たらないように、そそくさと部屋から退出し、適当な廊下の死角へと移動。深く呼吸を吐き出した後、行きと同じ手順で『ゲート』を生成する。出口はボクの自室。

 小規模の『閉鎖領域』はまだ展開中であった為、『ゲート』による転移と変身の解除は気兼ねなく実行することができた。

 

 

 どす黒い光に包まれつつ、黒色のドレスが着慣れた寝間着姿に戻る。緊張やら何やらで強張っていた体を解しながら、ボクはベッドへと向かう。

 枕元に置いてある携帯電話のアラームがきちんと設定されていることを確認し、その隣のリモコンを操作して部屋の明かり落とす。

 視界が真っ暗闇に包まれる。掛け布団を被り、ようやく一息が吐けると思った瞬間、今日一日の出来事が走馬灯のように脳内を駆け巡った。

 

 

「はあ……今日は色々と疲れた」

 

 

 『ラフ・エンド』、クラウン、フィナーレ、レクイエム。昨日までなかった面倒なしがらみが一気に増えてしまった。

 一つのミスが致命的なものとなり、そのままクラウンの手によって完全な傀儡にされてしまうだろう。これほどの変化は、前世での『記憶』が蘇って日奈との距離感が分からなくなった時以来だ。

 

 

 だが、悪いことばかりではない。その日奈ともまた昔のように仲良くなれるかもしれない芽が出てきた。――いや、それ以上(・・・・)の未来を目指したいという自分の『本音』を自覚し。その為の力も手に入れることができた。

 まさに、運命的な出会いのあった一日と言っても過言ではない。疲労感を満足感が上回り、多幸感に酔いしれながらボクは眠りへと誘われていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。