ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
――ひかりちゃんから放たれた拒絶の言葉。それを真正面から聞いてしまったお姉ちゃんは、どこか心あらずといった様子だ。
もちろん、ひかりちゃんがお姉ちゃんに対して怒る気持ちは私もよく分かる。だって、それは私も同じだから。
だけど、それ以上に私はお姉ちゃんのことが大好きなのだ。それを昨日の今日で何度も実感した。
幼い頃からのわだかまりさえ解消できれば、きっとひかりちゃんもお姉ちゃんと仲直りできるはず。これには何の理由や根拠はないけど、あの二人を傍でずっと見続けていた私の直感がそう囁いている。
だったら、私はそれを信じて行動あるのみ……とは言っても、私の身分は学生。学校の授業を疎かにする訳にはいかないので、次の休憩時間にでも別のクラスのお姉ちゃんを無理やりにでも引っ張ってきて、ひかりちゃんと仲直りさせる。そのつもりであった。
しかし朝の通学路で別れて以降、ひかりちゃんの姿はどこにもなく、ついにはホームルームが終わっても教室に来ることはなかった。
担任の先生や他のクラスメイト達から、「今日は一緒に来ていないの?」、「何か知らない?」等と尋ねられたりしたが、「……途中で体調を崩して、帰っちゃってよく分からないや」としか答えることができなかった。
通学路での一件を知っている人がいたら、もっと根掘り葉掘り聞かれて、少々面倒くさいことになっていただろう。
それはそれとして、私はひかりちゃんのことが心配で堪らず、気がつけば無意識の内に横目で誰も座っていない彼女の座席を見ていた。
(……適当な理由で抜け出して、ひかりちゃんを探しに行こう!)
先ほどは学業を優先すると考えていたが、それはあくまでもひかりちゃんが登校していた場合に限る。彼女は「一人にしてほしい」と言っていたけど、精神的に酷い不安定な状態のはずで放置するのが得策とは思えない。
そう結論づけた私は隣の席の子に、「……ちょっと調子が悪いから、保健室にでも行ってくるから」と担任の先生に伝えてもらおうとした瞬間――脳内に焦った風な声が響いてきた。
『――ナっ!? ヒナっ!? 緊急事態だっ!?』
「えっ、アリアちゃん!?」
その中性的な声は新しく家族の一員となり、大いなる使命を果たす為の同士――アリアちゃんのものであった。だが、彼女(?)は家で留守番をしていて、この場にいるはずがない。
どこから声がするのか、思わずキョロキョロと周囲を見渡してしまう。けれど、当たり前のようにアリアちゃんの姿は影も形もなく、話していた隣の席の子に怪訝そうな表情を向けられるだけに終わる。
その時点で、ようやく今のアリアちゃんの声が『契約システム』による念話の類であることに気づいた。
「えっと……朝霧さん、本当に大丈夫?」
「あ、う、うんっ! ちょっと目眩がしただけだからっ! じゃあ、保健室に行ってくるね!」
「気をつけてね……」
何とか誤魔化すことに成功しつつ、私は教室を飛び出し、人の流れが疎らな廊下を駆けていく。
(もう……いきなりどうしたの、アリアちゃん? これからしたいことがあったのに)
『……それはすまなかった。だけど、さっきも言ったように事態は一刻を争う』
(それって、もしかして……)
『ああ、ヒナの懸念は当たりだよ……『ラフ・エンド』の連中だ。『ラメント』と『閉鎖領域』の出現を検知した。場所はヒナの学校の近くみたい』
嫌な予感はどうやら的中してしまったらしい。私はひかりちゃんのことが脳裏を過ぎりながらも、『ラフ・エンド』関連の問題を無視することはできない。
今この瞬間にも、無理やりに『ラメント』にされて、負の感情を暴走させられ苦しんでいる被害者がいるのだから。
あの胸が張り裂けそうな程の苦痛を僅かな間とはいえ、実際に味わったことがある私にはその事実は許容できるものではなかった。
アリアちゃんの案内の下、私は『ラメント』の反応があったという場所に全速力で向かう。
『……念押ししておくけど、僕と合流するまで絶対に『閉鎖領域』の中に入らないで。僕が傍にいないと、ヒナは変身できないんだから』
(分かってるって)
口酸っぱく忠告を受けながら、私は指示された付近にたどり着く。変身していない私にでも感じ取れる程に、その辺り一帯は不気味な気配――淀んだ魔力に満ちている。
そして奇しくもそこは、私達の通学路から少し外れた道――朝にひかりちゃんが走り去っていた方向と一致していた。
胸騒ぎを落ち着ける為やアリアちゃんが到着するまでの間に、携帯電話を取り出して家族の次にかけ慣れた番号をプッシュした。
――プルルルっ。無機質なコール音が何度か鳴った後、スピーカーから流れてきたのは、『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入って――』と無情な通告であった。
それでも、私は自分に言い聞かせる。これは単なる思い過ごしであり、ひかりちゃんはただ携帯電話の電源を切っているだけで、きっと無事であると。
一秒、一秒がとてつもなく長く、私の神経はまるでヤスリで削られていくような不快感に苛まれ続けた。今すぐにでも、『閉鎖領域』――『ラフ・エンド』が扱う限定的に異空間を展開する技術らしい――に飛び込みたい衝動に駆られるも、何とかその場に踏み止まり続けた。
私の身勝手な行動が、却って余計な事態を招くことを理解しているからだ。
ほどなくして、アリアちゃんが軽く息を切らせながら現れた。
「す、すまないヒナ……遅くなって」
「気にしないで、それよりも早く――」
「いや、その前に変身していこう。不測の事態に対応できるように。それに変身前の姿を、なるべく『ラフ・エンド』の前で晒さない方が良い」
「……でも、昨日はがっつり見られていたような気がするけど」
「それは、多分大丈夫。あの時は敵も動揺していたから、認識阻害の力が上手く働いてヒナの変身前と後の姿は一致していないはずだ」
「流石に楽観的すぎない……?」
「現にヒナが襲撃を受けていないのが、何よりの証拠だよ。僕が知っている『ラフ・エンド』の奴らだったら、変身前に闇討ちしてきたって不思議じゃない」
「こ、怖いこと言わないでよ……」
等と会話を交えつつも、首から下げている細剣を模したキーホルダー――変身アイテムに右手を添える。
「準備は良いかな、ヒナ?」
「うんっ! ――変身っ!」
右手から魔力を変身アイテムへと流し込み、その機能を励起させる。すると、体内に秘められていた魔力が一気に活性化し、全身を覆う光となり、戦装束と変化していく。
閃光が収まった後には、無力な女子中学生の姿はなく――白色と桃色を基調とした華やかなドレスに身を包んだ魔法少女の姿へと変身が完了していた。
「――みんなを笑顔に照らす虹の魔法少女、プリズム・スマイル! ここに参上っ! ……って、これ口が勝手に動くんだけど、毎回言わないと駄目なの? ……ちょっと恥ずかしい」
「うん……『契約システム』の弊害のようで、仕様として割り切ってくれないかい?」
庇護欲を誘う猫の状態で、アリアちゃんに頼まれたらよほどの内容でない限り、首を縦に振らざるを得ない。そう自分を納得させて、私は『閉鎖領域』の中へと足を踏み入れた。
望まずに『ラメント』にされた被害者を助ける為に……その彼ないし彼女が私の友達でないことを祈りながら。
魔力によって現実世界と隔てられた異空間へと侵入した瞬間、服を着たまま生温い水の中に飛び込んだような不快感に襲われる。
あの時と同じように、視界は色彩が失われたモノクロの世界でいっぱいになった。……いや、異変はそれだけではない。
――ふと視線を向けた先には、余裕そうな笑みを浮かべる『ラフ・エンド』の幹部と思わしき銀髪の喪服に似たドレス姿の少女と、一体の異形がいた。
軽く数メートルはありそうな、巨大な体躯。血のように真っ赤な肌、滂沱の涙を流しながらも憤怒に染まった表情、右手に握られた人間一人分はありそうな鉄の棍棒。
――泣いた赤鬼。幼い頃に、お母さんやお姉ちゃんに読み聞かされてもらっていた童話の一つが不思議と連想された。
恐らくはこの異形が今回の『ラメント』なのだろう。私の時とは違って、元となった人間の面影は一見には全く感じられない。
……だというのに、何だろう。この拭い切れない違和感は。
「……あら、遅いお出ましね魔法少女。もう『ラメント』は生まれたわよ」
『■■■■■■っ!』
『ラメント』の咆哮が、静寂なモノクロの世界に響き渡る。その様子を満足そうに観察していた銀髪の少女は、以前の狼狽ぶりが信じられない程に落ち着いていた。
私達が警戒の視線を送る中、彼女は一歩前に出る。
「……この前はそんな暇がなかったので、改めて自己紹介を。――私は『ラフ・エンド』の幹部にして、偉大なる御方に仕える忠実な
今度こそは、きっちりと倒してあげる。」
◆
――ボクは日奈と一旦別れた後、教室に行き自分の座席で突っ伏していた。つい先ほどの出来事を切っ掛けにして、生じてしまった心の迷いに整理をつけようと躍起になっていた。
傍から見たら不気味なことこの上ないだろうが、元から学校では孤立している。大した問題ではない。
ボクの心を惑わせているのは、日奈とそれ以外の彼女を取り巻く環境との向き合い方について。今朝のひかりの反応から考えるに、今まで突き放していた日奈と距離を縮めようとするのは、『原作』の流れを壊してしまうことに繋がり――いや、待て。
そもそもボクの保有している『原作知識』は不完全なもので、正しい『原作』の展開を把握している訳ではなく、テンプレでそれっぽい展開をなぞりつつ、『理想のエンディング』を目指すという結論を出している。
だから、日奈とひかりの関係性が悪化は『友達との喧嘩イベント』として前向きに捉えて、ボクはあるがままの結果を受け入れれば良いのだ。
……と言っても、ひかりには後できちんと昔のことを謝っておかないと。――だって、彼女との好感度を上げておけば、ボクの魔法で操りやすくなるからねぇ。来たるべき『運命の日』に、少しずつ備えておかないと。
そう自分が納得できる答えを出せたボクは、うつ伏せていた状態から頭を上げて、机の上に一限目の準備に取りかかろうとした――その瞬間、少し遠く離れた場所で空間の揺らぎ、『閉鎖領域』が展開されるのを感知した。
開き直ったボクの口角は僅かに歪み、一限目の授業をサボることが決定した。