ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
「――さあ、『ラメント』。あの忌々しい魔法少女をぶっ潰しなさい。あの御方の為にも」
『■■■■■■っ!』
「……来るっ!? 構えるんだ、スマイルっ!?」
「う、うんっ!」
レクイエムと名乗った銀髪の少女の指示に従い、『ラメント』が雄叫びを上げながら私達の方に突進をしようとしてくる。
私の右肩に乗っていたアリアちゃんの声により、その予兆の段階で回避行動に移ることができた。変身前とは比べものにならない程に強化された身体能力で、危うげなく避け地面に着地する。
「……スマイル。『ラフ・エンド』の野望を挫く為や『ラメント』にされた子の為にも、一刻も早く浄化してあげるんだ」
「それはもちろんだよ! ……アリアちゃんは巻き込まれないように、少し離れてて!」
「了解だよ……気をつけて、スマイル」
「うん、ありがとう」
そのやり取りの後、アリアちゃんは私の肩から飛び降りると、安全そうな場所へと駆けていった。
レクイエムの方に動きはない。悠然とした態度で、片手で黒色の日傘を閉じた状態で弄んでいる。
(……昨日アリアちゃんの言う通り、幹部の人は戦いに参加しようとはしてこない。確か、世界が悲しみに満ちるまでは『ラメント』の使役や『閉鎖領域』の展開だけで精一杯……だっけ? 本当みたい。
……まあ、前みたいなことが絶対ではないらしいけど、ある程度は『ラメント』だけに集中できる……!)
意識をすぐに、『ラメント』の方に戻す。
『■■■■■■っ!』
一度の攻撃が避けられただけで、相手が諦めてくれる訳もなく、『ラメント』は今度はその棍棒を私に目がけて振りかぶってきた。
強化された反射神経で棍棒の軌跡を読み取り、華麗に回避をもう一度決め、隙を見て『ラメント』を一撃で浄化できる魔法を叩き込む――即興で有効であろう戦術を組み立てる。
――だが、なまじ一度倒したことがあるせいで、根本的な所で油断や慢心があったのかもしれない。
豪腕から振るわれた棍棒の一撃は、想定以上に勢いが凄まじく、歩幅一歩分の距離を見誤ってしまった。
「――危ない、スマイルっ!?」
どこか遠くから、アリアちゃんの声が聞こえてきたが既に遅く、思い上がりの代償を私は支払うことになった。
棍棒は私の腹部に直撃し、そこから肺に溜まった空気が無理やりに吐き出される。
「かはっ!?」
私の軽い体はバットに打ち付けられたボールのように吹き飛ばされ、近くの民家の壁に叩き付けられてしまった。形容し難い激しい痛みが全身を襲う。視界が明滅し、耳もよく聞こえない。
朦朧とする意識の中、私の脳裏には一つの疑問が過った。
(……あれ、この『ラメント』。前の奴よりも強過ぎない……?)
『ラメント』が棍棒を地面に引きずりながら、迫ってくる様子を何もできずに見ていると、レクイエムの嘲るような、失望したような調子の声が途切れ途切れに聞こえてくる。
「――やっぱり、前回のあれはマグレね。完全体の『ラメント』が、あの御方の御業によって生み出された存在が、魔法少女になり立ての小娘如きに――」
主人のご機嫌な独り言の合間も、『ラメント』はゆっくりと私に止めを刺そうと近づいてくる。アスファルトをも砕くその足音は、私に死の気配を予感させる。
「――スマイルっ!? 僕が時間を稼ぐから、今の内に――」
――しかし、それを阻む小さな影が一つ割り込んできた。アリアちゃんだった。彼女(?)は何かしらの魔法を使って、必死に『ラメント』の進行を食い止めようとしている。
その献身に応えるべく、私は民家の瓦礫――『閉鎖領域』内での破壊跡は現実空間には反映されないらしいので、そこは安全――に埋まった体を動かそうとする。
けれど、打ちどころが悪かったのか、指先一本すら満足に動かせそうになかった。
やがてアリアちゃんも、『ラメント』が羽虫を払うように雑に振るわれた棍棒によって殴り飛ばされ、私の霞む視界から消え失せてしまった。
『■■■■■■……!』
苛立ちの込められた低い唸り声が、静寂なモノクロ世界に響く。
今になって、心の中には僅かばかりの死への恐怖や、『ラメント』された人やアリアちゃんに対する謝罪。他には――。
(……お姉ちゃんとひかりちゃんにもう会えなくなるの嫌だな。それに仲直りさせてあげられなくて、ごめんなさい……)
段々と、『ラメント』との距離が縮まっていく。滝のような涙を流しながらも、憤怒を張り付けた表情で私を見下ろし、緩慢な動作で棍棒を振り下ろそうとしてくる。
私は覚悟を決めて、目をぎゅっと瞑った所――いつまで経っても頭が潰れる痛みが襲ってくることはなかった。
「一体、何をしているの……!? さっさと止めを刺しなさいっ!」
先ほどまでの余裕そうな様子からは考えられない、レクイエムの不機嫌そうな声が聞こえてくる。
(何が起きて――)
訳も分からずに、私は恐る恐る閉じていた瞼を持ち上げる。何と、『ラメント』は棍棒を振り上げた状態で硬直していた――いや、よく見てみれば棍棒を振り下ろそうとする手を、もう片方の手で掴んで止めようとしている。
まるで一つの体に、二つの相反する意識が混在しているかのような。
何はともあれ、隙は隙だ。仕切り直し、とりあえずはアリアちゃんの無事を確認しないと。そう思考を巡らし、何とか体に力を入れて立ち上がろうとした瞬間――それまでの理性の欠片も感じられない怒声ではなく、片言の言葉が耳に届いてきた。
『■■ヒ、■……にゲ■』
「……え?」
思わず、巨人の如き体躯の『ラメント』を見上げる。ノイズ混じりの雑音にしか聞こえなかった台詞の中に、聞き逃してはいけない単語があったような気がしたから。
(……今この『ラメント』、「ヒナ」って私の名前を呼ばなかった?)
単なる聞き間違い、そう一蹴することができたら、どれだけ心が楽だっただろうか。しかし、追い打ちをかけるように、学校に登校していなかったひかりちゃんの存在が頭を掠める。
バラバラの点と点が繋がり、一本の線となる。
「……もしかして、ひかりちゃん?」
私は無意識の内にそう口にしていた。とは言っても、何の確証もない。全くの見当違いであった場合、ひかりちゃんにも、『ラメント』にされてしまった子にも、とても失礼にあたる。
そもそも、ひかりちゃんが『ラメント』になっているのだとしたら、それは私のせいに他ならない。今朝のあの出来事さえなければ、彼女がレクイエムに目を付けられることはなかったはず。
だから、この嫌な予感はただの想像に過ぎない。
その時、『ラメント』の口が言葉を紡ぐ。今度は、しっかりと聞き取れてしまう。
『ヒ、ナ』
――私の体は、完全に固まってしまった。
◆
中途半端に、意識が覚醒する。けれど手足の感覚は一切なく、肝心の思考も靄がかかったようにはっきりとしない。
(……あれ? 何があったんだっけ?)
――確か、謎の声が耳元で聞こえたと思った次の瞬間には直前の記憶は終わっている。まずは状況を把握しようと、重たい頭を働かせようと――すぐにその軽率な行動を悔いる羽目に陥った。
「――っあ、頭が割れ、る」
――日奈への執着、夕陽への怒りや悔恨、その他諸々の感情が雑多にブレンドされた闇鍋の如き思念。それらが一気に脳みそに流し込まれた。
尋常ではない激痛が断続的に走り、五感がないというのに無茶苦茶にのたうち回り。その過程で、柔らかいモノを二つほど殴り飛ばした――と思う。
苦痛や深い悲しみ、夕陽への増幅させられた
――どうして私だけが、こんなに苦しい目に遭わないといけないのだろうか。そんな理不尽なことがあって良いはずがない。
だったら、一人でも多くの道連れにしてやる。
狂気的な思考に支配された私は、壊し損ねたモノの片方に向かおうとする。相変わらず体の感覚は戻らず、自分で動かしている実感は湧かないが。
右手に握られているであろう硬い棒で、足元にあるモノを次こそはミンチにしてやろうと振り上げた――そのタイミングで、体の動きが強制的に縫い止められた。
そして、その糸から声が伝わってきた。あの謎の――私を道具としてしか見ていなかった冷たい声ではなく、歪で不器用ながらも、どこか温もりのある声であった。
それが切っ掛けとなったのか、胸の中であれだけざわめいていた感情の波が落ち着き、いくらか冷静な思考と五感の一部が戻ってくる。
暗闇一色だった世界に、モノクロとはいえ色が蘇り、足元に転がっているモノ――ではなく、何よりも大切な友人の一人の姿を見た。
それから、どういう経緯か分からないが、
彼女の服装や私の肉体がやや奇妙なものに変化していることなんて、些細なものだ。
あまりの残酷な現実に、私は再び狂いそうになってしまう。その自罰的な衝動を、『糸』の助けもあり抑え込む。
『■■ヒ、■……にゲ■』
――日奈、逃げて。ただ、それだけすらも満足に伝えることができない。
でも、日奈は一向に逃げる素振りを見せてくれない。挙句の果てには、私に問いを投げる始末。
「……もしかして、ひかりちゃん?」
『ヒ、ナ』
もう一度日奈の名前を呼ぶと、何故か彼女は動きを止めてしまう。『糸』や私の理性がいつまで保つかも不明だから、早く逃げてほしいのに……この分からず屋!
「――さっきから何をやっているのかしら、『ラメント』。さっさと、そこの魔法少女に止めを刺しなさい」
少し離れた場所から、聞き覚えのある傲慢そうな声がした。ちらりと振り返ってみれば、黒色の日傘を持った銀髪の少女がいた。
間違いなく、私が意識を失う前に聞いた声の持ち主なのだろう。――つまりは、日奈に危害を加えた相手も同然ということ。
そう判断した結果、さらに思考が明瞭になり、『糸』の補助がなくとも、
私のいきなりの行動に、背後の日奈や銀髪の少女の両者が驚きと困惑の表情を見せる。いや、後者はそれだけではなく、怒りが混じったものであった。
「ちっ……! 何度言ったら分かるのかしら? 私の命令に従いなさい!」
『■■■■っ!?』
銀髪の少女の言霊には何か不思議な力が含まれているのか、油の切れた機械人形のようなぎこちない動きで、日奈の方に再び棍棒を振り上げようとしてしまう。
必死に抵抗しようとしても、『糸』の助けがあっても、それらが無意味と言わんばかりに、私の魔の手は日奈に牙を剥こうとしていた。
その命綱に等しい『糸』も、今にも引き千切れようとしている……!? 凪いでいたはずの淀んだ感情の波に、また呑み込まれそうになってしまう。
(い、嫌だ!? 私は日奈を傷つけたくなんか――)
「――仕方ない、この方法しか――」
中性的な声が間近で聞こえ――体にコツンと軽い何かが当たる。それをワンテンポ遅れて、認識した瞬間に――私の体は弾き飛ばされた。
硬いアスファルトの地面に、無様にも転がり落ちる。
「いたた……って、あれ!?」
地面に打ち付けられた際の痛みにうめいていると、複数の違和感に気づく。一つ目は、体が元のサイズや外見に戻っていたこと。
二つ目は、さっきまでの私の体(?)――赤い巨人が別にあること。そして、三つ目は私の服装が日奈のようなおかしな格好に変わっていたことだった。
「な、何これ……!?」
私の驚愕の声が、辺りに響き渡った。
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