ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい   作:匿名希望

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第十三話

 

 

 ――私の変化した衣装には、学校指定の制服の面影は全くない。燃え上がるような赤色ではなく、鮮やかなルビーレッドで彩られたドレス姿。

 短いフレアスカートと腰の部分で結わえられた大きな赤いリボンが印象的で、腕と脚にはそれぞれ白色のロンググローブやブーツが付けられていた。

 

 

「この格好は一体……!?」

 

 

 あまりの服装の変わりぶりに、私は驚きの声を上げる。その疑問に答えるように、先ほど聞こえてきた中性的な声が耳元でした。

 

 

「――それは魔法少女としての君の戦装束だ」

「……っ!? 貴方は……えっ、あの時の猫ちゃん?」

 

 

 声の方に頭を向けてみれば、いつの間にか私の右肩に一匹の白猫が乗っかっていた。しかも見知らぬ個体ではなく、昨日日奈が拾って彼女の家で育てると決まった猫であった。

 確か性別はメスで、名前はアリアちゃんと名づけたと記憶している。何があったのか、その綺麗であったはずの毛並みからは艶が失われており、薄汚れていた。

 それだけではなく、その小さな体には生傷が絶えず痛々しい。

 

 

 その有様を可哀想と思いつつも、彼女(?)がこの異変の一端を担っていることは明らかであり、色々と問い質したいことがあった。

 しかし、それらよりも先に私が確認したかったのは、友達(日奈)の安否だった。

 

 

「今はそれよりも、日奈はどこに――」

「――ひかりちゃんっ!」

 

 

 慌てて立ち上がり日奈の姿を探そうとした瞬間、一番聞きたかった声とともに、誰かに抱きつかれる。咄嗟に文句の一つでも言ってやろうと、その人物の顔を覗き込んだ――日奈だった。

 

 

「良かったぁ、ひかりちゃんが元に戻って……」

 

 

 日奈は目には涙を浮かべながらも、本当に嬉しそうに何度も「良かった」と繰り返す。その際にちらりと見えたピンク色を基調とした衣装から覗く素肌や顔には、あの白猫――アリアと同じように細かい傷が多く、所々出血していた。

 それが視界に入ると同時に、さっきまでの夢としか思えなかった出来事の全てが。大切な友達(日奈)を私自身が害そうとした事実が現実であったことを認識させられ、罪悪感から彼女を引き剥がすことができず、されるがままだった。

 私の方も日奈の温もりに溺れ、その罪の意識から目を逸らしたかったのでちょうど良かった。そう思ってしまう自分もいて、より自己嫌悪を加速させた。

 

 

 だから、そんなごちゃごちゃとした思考を誤魔化す為に。手段は分からないけれど、私を助けようとしてくれた友達への感謝の意を示す為に、ぽつりと消え入りそうな声ではあるが、しっかりと「……ありがとう」と言葉にして伝える。

 それに対して、日奈は一瞬だけ驚いた様子を見せるも、今までの笑顔の中で一番眩しいものを浮かべてくれた。

 

 

「……どういたしまして。私も頑張った甲斐があったよ。体の方は大丈夫?」

「うん。私は問題ないけど、日奈の方こそ――」

「……いつまで、そうやってイチャついているんだい?」

 

 

 若干不機嫌そうな声が、すぐ傍で聞こえてくる。その声の出どころは、案の定と言うべきかアリアだった。

 日奈が「ご、ごめん……!」と謝りながら、私から離れてしまい、彼女の温もりも遠ざかる。そのことを寂しく思いつつも、アリアの方に改めて視線を向ける。

 彼女は手短に話し始めた。

 

 

「聞きたいことは山ほどあるだろうけど、今はアレを倒すのに集中してくれないかい?」

 

 

 そう言うアリアの目の向ける先にいたのは、数メートル程の体躯を露わにする赤い巨人(私)。ソレは己の武器であるはずの棍棒を放り捨て、両手で頭を押さえ苦しげなうめき声を上げていた。

 だが、その顔に浮かぶ憤怒には一切の陰りは見られない。今も私達――特に私を睨む圧に膝が震えてしまいそうになる。

 何故、お前(私)だけがこの苦痛から解放されている! そう呪詛を叩きつけられているようだった。

 

 

「嘘……二人目の魔法少女? また、あの御方の命令を――何で、私ばっかり……」

 

 

 さらに、赤い巨人の後方でこちらの方を信じられないといった表情で見て、ぶつぶつと何かを呟いている。時折拾える言葉も、全く意味の繋がらないものばかりだった。

 幸いなことに、どちらも精神的に不安定な状態のようで、今すぐにでも襲いかかってくることはなさそうだ。だからと言って、いつまでも悠長にしていられる訳ではないが。

 色々と教えてほしいという気持ちには一旦蓋をして、日奈とアリアの二人(?)に言う。

 

 

「後できちんと説明してよ? ……それよりあんな怪物を倒すって、何か方法でもあるの?」

「う、うん……どう言ったら良いのか分からないけど、体が勝手に動くと言うか……」

「それについては安心してくれて良い。スマイル……ヒナの言う通りに、戦い方や最低限のことは既に君に刻まれている。その証拠に、魔法少女として名前を言えるはずさ」

「私の……魔法少女としての名前……」

 

 

 片手を胸に当てて意識を集中させると、本当にこの姿――魔法少女に関しての知識が一通りインプットされており、その中の一つを拾い上げる。

 自然と口は淀みなく、その台詞通りに動いていく。

 

 

「――守りたい人がいる。だから私は、何度だって立ち上がる! 心に灯る希望の炎、その輝きは決して消えない! プリズムの光よ、私に力を――! 魔法少女、プリズム・フレア!!」

 

 

 

 私の名乗りはモノクロの世界に高らかに響き、それに気恥ずかしさを覚えるも、状況はそれを許してくれない。名乗りを聞いた巨人と銀髪の少女が再起動を果たす。

 

 

「……いや、そもそも相手が一人だろうが、二人だろうが関係ないわ。全員纏めて倒せば良いんだから……! むしろ、その方があの御方は喜ぶはず……! ――今度こそ、確実に潰してやりなさいっ! 『ラメント』っ!」

『■■■■■■っ!』

 

 

 赤い巨人――『ラメント』と呼ばれたソレは、地面に転がっていた棍棒を回収すると、その流れで私達に急速に接近し振るってきた。

 けれど、その一撃はさっきまでの私(・)のものとは違い、勢いは確実に鈍っていた。強化された視力で軌道を捉え、私達は左右別々の方向に避ける。

 

 

 その直後に、棍棒は舗装されている地面に大きな音を立てながら叩きつけられる。粉塵が舞い上がり、『ラメント』の姿や亀裂の入った地面を覆い隠す。

 

 

 攻撃を終えた後の硬直による隙を、日奈は見逃さなかった。どこからか取り出した細剣で、砂埃の中に浮かぶ巨大なシルエットに目がけて鋭い刺突を繰り出した。

 

 

『■■■■■■っ!?』

 

 

 痛みに喘ぐ絶叫が、私の鼓膜を震わせる。『ラメント』から反撃の薙ぎ払いが放たれ、その時の風圧で砂塵が霧散した。

 だが、その攻撃が日奈に当たることはなく、お返しと言わんばかりの連撃を浴びせ返した。

 

 

『■■■■■■っ!?』

 

 

 断続的に、『ラメント』の悲鳴が木霊し続ける。普段の日奈からでは考えられない程の勇猛さだ。

 だが、彼女は一体いつからこんな厄介事に巻き込まれるように――魔法少女だったのだろうか。いつもずっと近くにいたというのに、私は気がつけなかった。

 友達失格だ。アリアの存在の有無を考慮すれば、恐らくは昨日からだろうが、そんなことは言い訳にもならない。してはいけない。

 

 

 その思いに呼応するかのように、私の手には幅広の片手剣が握り込められていた。刀身は赤く輝いており、まるで赤熱しているかのような尋常ではない温度を有している。

 しかし、その熱気が私の掌を焼くことはなかった。

 

 

「これは……?」

 

 

 そんな私の疑問は、一秒もかからずに後付けの『知識』によって解消される。これが私の魔法少女としての――友達(日奈)と一緒に戦う為の武器であると。

 

 

 片手剣を構え、その刀身に体中を巡るエネルギー――魔力を集中させる。刃の煌めきはより一層大きくなり、熱さもまた一段階強くなる。

 急激な魔力の変化にいち早く気づいたのは、日奈であった。私のしようとしていることを察してくれた彼女は、最後に一撃を加えると、急いでその場を離脱した。――これから行われる私の攻撃に巻き込まれないようにする為に。

 

 

 次に状況の推移を理解したのは、銀髪の少女と『ラメント』。だが、もう遅い。既に魔法の発動の準備はもう間もなく完了する。

 

 

 私は地面を蹴り上げると、一気に『ラメント』との距離を詰め、片手剣を振り下ろす。『ラメント』も負けじと棍棒で迎撃を試み、打ち合いが発生、轟音とともに衝突した。

 力の拮抗は一見互角……に見え、見た目とは真逆に私の方が徐々に押しつつあった。それでも少しでも力を抜けば、たちまちに武器ごと押し返されてしまうだろう。

 

 

「はあああああっ!」

『■■■■■■っ!』

 

 

 私と『ラメント』の鍔迫り合いの均衡に終止符を打ってくれたのは――日奈からの声援だった。

 

 

「いっけええええ、ひかりちゃんっ!」

 

 

 それが後押しになるように、刀身に込められた魔力が爆発的に増加――時は来た。私はその魔法名(必殺技)を力強く宣言した。

 

 

「――『ホープ・ブレイズ』っ!」

『■■■■――』

 

 

 世界が光に包まれると同時に、『ラメント』の断末魔がかき消えていく。あまりの眩しさに、私は不用意にも目を瞑ってしまっていた。

 

 

 ……それから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。私がゆっくりと目を開けた先には、あの怒りと憎悪に囚われた『ラメント』や銀髪の少女の姿はどこにもなく。

 モノクロの世界は、少しずつではあるが色を取り戻しつつあった。

 

 

 ……手応えはあった。私は自分で自分のけじめをつけることが……日奈を傷つけた奴を倒すことができたのだ。そんな感慨に耽っていると、とある違和感が唐突に脳裏を過った。

 

 

(……あれ? そういえば、私が『ラメント』にされている時に動きを止めてくれた『糸』って、何だったんだろう?)

 

 

 あの『糸』は極限状態で見えた単なる幻覚の類か、あるいは日奈かアリアの魔法だったのだろうか。だが、それにしては彼女達から何の言及もなかった。

 やはり私の見間違いだったのだろう。それか――まだ仲直りができていない(したい)もう一人の友達が、助けてくれようとした……と考えるのは、些か都合が良い妄想すぎるか。

 

 

 そこで、また別の変化に気づく。あの『ラメント』と分離をしてからというもの、その友達へのモヤモヤとした黒い感情が大分薄まった気がする。

 そういう意味では、『彼女』も私を苦痛から解放してくれた恩人の一人とも言える。

 

 

(……ありがとうね、夕陽)

 

 

 直接言葉にはしないけれど、胸の内は感謝の念でいっぱいだった。爽やかな風が髪やスカートの裾を揺らす。

 そんな私を現実に戻すように、日奈の騒がしい声が耳に入ってきた。

 

 

◆

 

 

 私――レクイエムは、『ラメント』を二人目の魔法少女に撃破され、その余波により少なくないダメージを負ってしまっていた。

 負傷した体を庇いながら、『閉鎖領域』が完全に崩壊しきる前に魔法少女達から姿を隠し、人目につかないような場所を探し歩き回っていた。

 

 

「クソっ……! 二人目の魔法少女なんて聞いてないわ……!」

 

 

 荒れ狂っていた心境の一部が、暴言として口から吐き出される。そうでもしないと、怒りや恐怖でどうにかなってしまいそうだったから。

 

 

 一度目の失敗を許された上での、今回の失態。しかも、何の成果も得られていない。

 クラウンには死ぬほどに虚仮にされ、せっかく出来た可愛い後輩にも失望されてしまうだろう。それだけには留まらず、フィナーレ様からどんな罰が下されるのか。最悪な場合には見捨てられ、汚名を返上する機会すら与えられない。

 そう考えるだけで恐ろしく、足取りも覚束ない。

 

 

 それでもフィナーレ様に対する忠誠心から、私に逃げるという選択肢は存在しない。適当な物陰に隠れて『ゲート』を開き、アジトへの帰還を果たそうとした瞬間――私が張ったものとは別の『閉鎖領域』が、私を取り囲むような形で小規模で展開される。

 

 

 全く想定していなかった事態に、私の混乱はピークに達していた。

 

 

「は……一体誰が――」

「――せーんぱい。お疲れ様です」

「どうして、あなたがここに……? サンセット……」

 

 

 先輩と呼ばれ、私が振り返った先にいたのは――あのクラウンを彷彿とさせる程に歪んだ笑みを浮かべる後輩(サンセット)の姿があった。

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