ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
――サンセット。クラウンが勧誘してきたという『ラフ・エンド』の幹部の一人であり、加入時期の関係で私の後輩にもあたる少女。
初めて出会った時の第一印象は、どこか庇護欲を感じさせる人物というものだった。
だって、私が見ていた範囲だけでも、あの
多分、本人は隠しているつもりだっただろうが。
だから、彼女に「先輩」と呼ばれた時に決めたのだ。クラウンの魔の手から、この子を庇ってあげないと。後輩のモチベーションの低下が、フィナーレ様の野望の実現に陰りを落とす……かもしれない。少しでもその可能性があるのなら、先輩として導く必要がある。
その為の一環として、今回の作戦で何かしらの成果をあげる。そう意気込んできたのだが――結果的に失敗に終わり、無様な姿をたった今サンセット本人に見られてしまった。
先輩として不甲斐なく、穴があったら入りたい気分だった。
しかし、それよりも先ずはどういう理由で、私の所へ来たのか。その確認をすべきだろう。
フィナーレ様かクラウンから命令を受けて、私の
たとえ、この後フィナーレ様に如何様な処罰を下されたとしても。
そう気持ちの整理をし、何故かクラウンとダブって見えるサンセットに問いかけようとした瞬間――不意に一つの疑問が浮かんでくる。
(――あれ、そういえば私はどうして
今まで疑問に思うことすらなかった私にとっての常識、世界にとっての真理。……そうであるはずなのに、先ほどから脳内でノイズが鳴り止まない。
(私も……クラウンに勧誘され――え、違う。フィナーレ様直々に誘われ……どっちだったのかしら? 普通忘れるはずがないのに……。そもそも『ラフ・エンド』に入る前の私って――っ!?)
頭痛がより一層強くなる。耐え切れずに、両手で頭を押さえ込んでしまう。そんな頼りない私の姿を見て、サンセットは失望や侮蔑を向ける訳でもなく、顎に片手を添えて何やらぶつぶつと呟いていた。
「うーん……日奈達の魔法が掠って、クラウンの洗脳魔法の効力が少し弱まった? 自己認識が曖昧になってる? これって『原作』にある展開……? でも、こんな序盤に敵幹部の脱落か光堕ちフラグってあるものなのかな?」
しかし、その内容のほとんどが私には理解できなかった。激しい頭痛による判断力の低下のせいではなく、まるで未知の言語で話されているような致命的なズレ。それが、私と彼女の間にあった。
「――まあ、良いか。その方がボクにとっては都合が良いか。言葉だけである程度は相乗りできそうだし」
「……あなたは何を言っているの? さっき言ってたクラウンが私に洗脳魔法をかけたっていう話は本当の――」
だが、その溝を放置してはいけない。本能的にそう悟った私は一番重要な話題に突っ込もうとした――そのタイミングで、瞬きの間に急接近してきたサンセットに口を塞がれる。
「しー」と囁きながら宛がわれた彼女の右手の人差し指によって。気弱そうな第一印象とは真逆な蠱惑的な仕草に対し、思わず心臓をドキッとさせられる。
ひとまず静かになった私を見て満足したのか、そっと私の口から右手を離す。それを名残惜しいと感じてしまう今の私は、やはりどこかおかしいのだろう。
きっとこの頭痛が原因に違いない。私は壊れていないし、自らの意思や選択肢でこの場に立っている。そう内心で自分に言い聞かせた。
そんな私の心情を知ってか知らずか、サンセットは妖しく微笑みながら、間近に顔を寄せたまま、その瑞々しい小さな唇を開く。
「……一つだけ質問があります、先輩。正直に答えてもらっても良いですか?」
纏う雰囲気だけは変わらずに、サンセットの口調は後輩然としたものに戻る。けれど、私はとっくに異様な空気に当てられており、コクリと素直に頷く。
先輩としての威厳を保つほどの余裕は既になかった。
「それは良かったです! ……先輩は、
サンセットのその言葉が。甘い囁き声が、脳髄に遅効性の毒のように染み渡っていくような
先ほどまで脳みそにこびりついていたノイズや、フィナーレ様と『ラフ・エンド』への不信感が上書きされ、どうでも良くなってきた。
今の自分の気持ちを嘘偽りなく伝える為に、深呼吸をした後口を開く。
「私も好き……までかは自信を持って言えないけど、可愛い後輩として大切に思っているわ。守ってあげたい、これからもそうありたいとも」
私の返答に、きっとサンセットも嬉しいと喜んでくれるはず。私はそう期待に満ちた視線を向けた所――同じ気持ちを共有していると思っていた彼女の顔に浮かんでいたのは、若干不満そうな表情だった。
「……会ったばかりで、これだけ好かれてたら充分か。どうやら発動条件は満たせているみたいだし」
「ねえ、さっきの答えに何か気に食わない箇所でもあった!? それとも、あの魔法少女達に負けたから――」
「あっ、そこは勘違いしないでよね」
いつの間にか、サンセットの言葉遣いは砕けたものにまた変わっていた。
「ついさっきだけど、ボクはちゃんと先輩が好きになれたよ?
私が取り乱している隙に、顔面に突きつけられていたのは一振りの杖。その先端に乱雑に巻き付けられた、ひび割れた宝玉がどす黒い光を放ったと思った次には、無数の細い『糸』が流出。
それらはまるで操り人形を吊るす糸のように、私の体を絡め取っていく。しかもそれだけではなく、その内の何本かは胸元に到達すると――衣服や肌をすり抜け、心臓に直接絡みついた。
どくどくと鼓動を上げ続ける心臓が『糸』によって動きが制限され、鈍い痛みを発する。だが、それすらも心地よいものに感じられてくる。
フィナーレ様に『ラフ・エンド』への入団を許された時以上の歓喜が胸の中に満ちる。荒い呼吸のまま、重たい頭を持ち上げた。
霞む視界の先には、怯えて身を震わせる後輩の皮を完全に脱ぎ捨てた
体中に絡みつく『糸』に、力を抜いて主導権を委ねる。流れる動作で、私は臣下の礼を取った。
「――よろしくお願いしますわ、サンセット
「ああ、うん。こちらこそ、よろしくねレクイエム」
◆
――先までとは打って変わって、後輩でしかないボクに改まって傅く
(――ああ、やったよ日奈。またボクの『理想のエンディング』へと一歩近づいたよ)
……とはいえ、まだまだゴールまでの道のりはほど遠い。レクイエムの洗脳に成功したとはいえ、完全にボクの支配下に置けた訳ではない。
クラウンの魔法による影響は未だに強く残っており、少しでもボクの『ハート・ストリングス』の効力が増減すれば、その違和感からクラウンに逆探知を仕掛けられ暗躍が露呈してしまうだろう。
今は奇跡的なバランスの上で成り立っているだけに過ぎず、大っぴらにレクイエムを動かすことも不可能。
それにフィナーレとクラウン、顔や名前すらも未知の幹部が一人。彼らを何とか籠絡するか無力化しないと、スタートラインにすら立てはしない。
また今回の戦闘時のように、『ラメント』化したひかりの動きに気づかれない程度に干渉する――日奈の時と同じで魔法が効くとは思わなかったが――ような暗躍は、今後も回数は増えてくるだろう。
依然として、前途多難である。だが、立ちはだかる壁が大きければ大きい程に、やる気は無尽蔵に湧き出してくる。
――全ては、可愛い
その為であるならば、ボクは自分にできることは何だってやってやるから。まだどのくらい時間がかかるか分からないけど、待っててね。ボクの愛しの
◆
――その後、ボクはレクイエムと少しタイミングをずらしアジトへと帰還。レクイエムとフィナーレが謁見している玉座の間へ、なるべく失礼にならない自然な形で乱入。レクイエムへの処罰を軽くしてほしいと懇願しに行った。
クラウンも半ば道連れにするような形で。他にも、魔法少女達の戦力を正確に見極める必要があるという建前で、何回か『ラメント』だけを送り込む作戦を提示してみせた。
もちろん純粋な心配や好意から、レクイエムを庇った訳ではない。せっかく手に入れた『手駒』を使う間もなく、処理されたくはないからだ。
それに加えて、まだ『原作』は序盤のはず。ハイペースで幹部が出張り、三人目以降の加入が早まり全体的な流れが前倒しになるのは個人的によろしくない。正確な本来の『原作』の展開など、今のボクに観測する術はないのだが。
そうだとしても、日常回における
結果的にボクの提案は受け入れられたものの、話している最中にフィナーレやクラウンから注がれてきた視線に、ずっと鳥肌が立って仕方がなかった。
ボクの何が彼女達の琴線に触れたのか分からないが、いつかは下剋上してやるまでの我慢だと自分に納得させ、レクイエムの安全と多少のモラトリアムを確保することができた。
成果としては上々だろう。
陰でレクイエムには疑われるような行動はしないようにと軽い命令を下しつつ、クラウンに適当なおべっかを使い機嫌が良くなった瞬間にそそくさと『ゲート』を開き、その中へと飛び込んだ。
――次の日、いつも通りに朝の支度をしていると、日奈は「今日はちょっと早く学校へ行こうよ!」と急かされる。台詞もどこか棒読みのように感じる。
この十数年、日奈の姉として生きてきて研ぎ澄まされた直感が、彼女が何かを企んでいることを察した。
(……と言っても当たり前だけど、日奈から悪意を感じる訳でもないしわざと乗せられてあげるか)
「はいはい、今行くからもう少しだけ待ってちょうだい」
「早くー!」
手早く身支度と朝食を済ませ、玄関で靴を履く。
「いってきます」
「いってきまーす!」
「ええ、いってらっしゃい」
数日前と比べて、ボクに向ける表情が幾分か柔らかくなった母親の声を聞き、日奈に背中を押されるように玄関を出た。何があるかを、年甲斐もなく楽しみにしながら。
そう心を弾ませ、家の門の近くには居心地が悪そうにモジモジとした少女――橘ひかりの姿があった。
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