ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
「はあ……今日は色々とあって疲れた」
自室のベッドの上に寝転び、大きくため息を吐く。私――ひかりは、頭の中で今日一日あった出来事を順番に整理していく。
◆
――自分がされかかっていた『ラメント』と呼ばれる怪物を倒し、人前に出るには若干恥ずかしい『魔法少女』の衣装を元の制服に戻した後。私は友達の日奈と実は異世界からやって来たという白猫――アリアに改めて険しい顔で詰め寄った。
何も知らないで厄介事に巻き込まれたのだ。助けてもらったとはいえ、事情を尋ねる権利ぐらいはあってしかるべきだろう。
『……それで、さっき言った通りに教えてくれない?』
『えーと……』
『それは僕が説明する。元々は事前了解を得て行うべきものだったし。まずは――』
聞かされたのは、到底信じられない事実の数々。そして何よりも衝撃だったのは、『ラメント』を操っていた少女――レクイエムが所属する『ラフ・エンド』と対決する使命をいつの間にか背負わされていたこと。
そのことに関してはアリアは謝った上で、『契約を破棄して、何も見なかったことにして日常に戻ってもらって構わないよ』とも言ってくれた。
アニメや漫画だと「実は裏では……」というパターンが多いよなあと、一瞬だけ失礼な考えが過ぎるも、すぐに別の問題に気づく。
『日奈はどうするの……?』
『それは……』
私の問いに目を逸らし、答えに日奈は言い淀む。その態度と幼馴染みとして直感から、彼女の考えが容易に推測できる。
『……一人だけで戦うつもりなんでしょ』
『うぐっ』
図星を突かれたのか、潰れたカエルのようなうめき声を上げる日奈に対して、私は彼女の顔を正面から覗き込めるように移動した。
日奈の不安に揺れる目を見つめながら、私の嘘偽りのない気持ちを真っ直ぐに伝える。
『日奈が戦うんだったら、私も一緒に魔法少女として戦う』
もちろん、つい先ほどまで
……だけど、私の知らない、手の届かない所で友達が傷つき、失ってしまうことの方が何よりも恐ろしい。そんなことに怯えるぐらいなら、戦うことなんてへっちゃらだ。
私のその返答に、日奈だけではなくアリアも大いに驚く。
『ひかりちゃん……考え直した方が良いよ。本当に危ないんだよっ!?』
『それは日奈も同じだよね? どうせ日奈のことだから、アリアの世界が見過ごせない以外にも、私や周りの人間を危険なことに巻き込みたくない……そんな理由でしょ? 確かに優しい日奈らしいけど、貴女が傷ついたら悲しむ人間だっているのよ……!』
『ご、ごめん……ひかりちゃん』
『謝ってほしいんじゃなくて、一人で背負い込んでほしくないの。私にも手伝わせて……それとも邪魔?』
ズルい尋ね方であることは理解しつつも、私は日奈の顔を見つめ続けた。それだけではなく、両手で彼女の右手を掴み取り物理的にも逃げられないようにする。
日奈の温もりや肌の柔らかさが、掌を通じて伝わってくる。
気不味い時間や空気が二人の間に流れ……やがて日奈の方が先に折れた。
『ズルいよ……その言い方は』
『そもそも日奈の方が先に隠し事をしたんじゃない?』
『もう……ひかりちゃんの意地悪。でも……これからも改めてよろしくね!』
『こちらこそ……アリアもね』
『僕の方こそ、願ったり叶ったりだ』
私と日奈が双方に納得し、アリアからの歓迎の言葉をもらって一件落着。二人揃って授業をすっぽかしたり、今後も今回のような戦いが続くという問題が山積みである。
だが、隣に日奈がいてくれればどんな難題も乗り越えられる。そんな自信に満ちあふれていた。
そこで、ふと日奈とは別の、もう一人の……友達であった少女のことが気になり、喜んでいる日奈に声をかけた。
『あの……日奈』
『ん? どうしたの?』
『あの後……夕陽はどうだった?』
『あっ、お姉ちゃんのことが心配なんだねー。ひかりちゃん。ふむふむ……』
『何よ、その顔』
意地の悪そうな表情でニヤニヤと笑む日奈。微笑ましいものを見るような生暖かい視線に耐え切れず、今度は私の方から顔を背けてしまった。
完全に、攻めと受けが逆転してしまう。
何かを言いたそうにしていた日奈に、その状態のまま発言を促した。
『……ひかりちゃんも、お姉ちゃんと仲直りしてみる?』
『はあっ!?』
想像の斜め右上の提案に、思わず素っ頓狂な声が口から漏れてしまう。挙動不審な私に構わず、日奈は言葉を続ける。
『大丈夫、大丈夫。何でか分からないけど、最近お姉ちゃんも雰囲気が柔らかくなっているから』
◆
「……今さらの上に、今朝あんな酷いことを言った私の方から仲直りしたいだなんて……」
明日夕陽と顔を会わせることを考えるだけで、胃が痛くなってしまう。
当時の私達の方にも問題が一切なかった――とは言えないが、そもそも私達は夕陽が拒絶してきた原因を知らない。その態度が最近になって急に軟化した理由も。
昔のようにまた友人関係に戻りたいと思っているが、こんな状態で果たして仲直り自体は成功するのか。暴言を吐いてしまった私を許してくれるのか。私達を遠ざけた理由を知って、私はそれを許せるのか。
どうしても一人でいると、色々と余計なことを考え込んでしまう。このままでは思考の迷路に迷い込むだけだ。
「良し……もう寝ましょう」
幸いなことに入浴や歯磨き、明日の授業に関する準備は済んでおり後は寝るだけ。目覚まし時計のアラームがきちんと設定されているのを確認し、ベッドの中に潜り込む。掛け布団を肩まで被り、目を閉じて私の意識は夢の世界へゆっくりと誘われる――ことはなく、結局碌に眠ることはできなかった。
何も考えないようにしても、嫌でも夕陽のことばかり浮かんでくる。初めて彼女と日奈で出会い、友達となった時。三人一緒に、かくれんぼや鬼ごっこ、おままごと等の遊びに没頭していた時。……突然理由も分からずに夕陽に突き放され、涙を流す日奈が見ていられず、夕陽に憤慨した時。一度拒絶されたからと言って、それ以上歩み寄る努力を怠り、一方的に暴言を浴びせてしまった今朝のこと。
楽しい思い出や辛かった記憶、恥ずかしくて消え去ってしまいたい黒歴史。それらが閉じた瞼の裏側で、延々と走馬灯のようにリピートされてしまったから。
いつの間にか設定された時刻通りに目覚まし時計は鳴り、朝が訪れていた。カーテンの隙間から差し込んでくる朝日が眩しく、反射的に目を細める。
「……全然眠れなかった」
目元に小さな隈作りながらも、重たい体を引きずるようにして私は身支度と朝食を終える。普段よりも少し早い時間帯に家を出る為に。
「いってきます」
「いってらっしゃーい……って、今日は随分と早いのね。部活か何か?」
「まあ……うん、そんな所」
見送りの挨拶をしてくれた母親に対し、曖昧で濁した返事しかすることができなかった。
家を出発した後、私が向かった先は学校――ではなく、日奈と……夕陽の家。思いの外想定よりも早く着いてしまい、門の近くで手持ち無沙汰な時間を過ごすことになった。
時折通りかかる朝のジョギングを行う人や犬の散歩をしているご老人、スーツ姿のサラリーマン、OLの姿を視界の端に捉えつつ、私は昨晩の続き――仲直りの際のシミュレーションに全神経を集中させ、時間を潰していた。
そんな私の意識を現実に引き戻したのは、日奈達の家の玄関が開く音だった。
思ったよりも意識がトリップしていたのか、反射的に肩がびくりと跳ねてしまう。手筈としては、最初に日奈が出て来て夕陽を連れ出すようになっている。
ソワソワしながら待っていると、玄関から日奈――と容姿がそっくりな、けれど太陽のように明るい性格の彼女とは違う、真反対の温度差がありつつも優しさを内包した瞳の少女、夕陽が姿を現した。
事前に聞いていた話と違い、私の思考はフリーズしてしまう。それは夕陽の方も同じだったようで、彼女の方も私には向いたまま固まっている。
小鳥の囀りや遠くで聞こえる車の走行音、互いの息遣いだけが世界に満ちた全てだった。……そんな静寂も長くは続かなかったが。
石像と化している夕陽の背後から、日奈がひょっこりと顔を出す。夕陽と私の様子を順番に見比べて、頬を膨らませムスっとした表情を浮かべる。
「もうー、二人揃って何で固まってるの! ひかりちゃんはお姉ちゃんに話があるんでしょ? お姉ちゃんも、もっと近く寄ってあげて」
「ちょ、ちょっと待って……日奈。一体何が――」
日奈に背中を押され困惑しながら、夕陽が私の前までやって来る。それだけではなく、日奈はがっちりと夕陽の肩を後ろから掴み、逃げられないようにしている。
まるで昨日の自分達を見ているようだ。
(……というか、私が一緒に戦うって言ってから強かになってない? いや、前からこんな感じだったか日奈は……)
呆れると同時に、くよくよしてもしょうがないと自分を叱咤する。夕陽へのモヤモヤとした黒い感情は、それを原材料としたらしいあの『ラメント』を倒して、大部分は解消されている。
後は、私側から歩み寄るだけだ。この際、夕陽が抱えている事情なんて関係ない。……気にならないと言ったら嘘にはなるが、彼女の方から話してくれるのを待てば良い。仲直りさえできれば、いつでも相談に乗れるのだから。
心理的だけではなく、物理的な距離を詰める。未だに状況を呑み込めずに、揺れ動く夕陽の瞳を見つめる。
(こうして近くで見てると、本当に日奈に似てる……双子なんだから当たり前だけど。そんなことよりも――)
「――ねえ、夕陽。今日、私が何の為に朝早くから会いに来たか分かる?」
「……分からない。『私』に何か用? もしかして昨日だけじゃ言いたりなかった? それはそれで構わない。……『私』は日奈と貴女にそれだけのことはしたつもりだから。学校で日奈に近づくなって要求するなら、それも呑むつもり」
私の先制攻撃に一瞬だけたじろぐも、すぐにあの冷徹な仮面を被り直す夕陽。やはり最後の一線は越えさせないようにさせているが、どこか自罰的に見える。昔の明るかった時とはまた違う、弱々しい一面が仮面の隙間から顔を覗かせる。
しかし、そんな態度を一秒足りとも見たくなく、私はどストレートに要求を伝える。
「私とも前みたいに……また友達になってくれない? 夕陽」
「――え?」
私の言っていることが理解できなかったのか、夕陽はせっかく被った仮面があっという間に剥げ落ちてしまった。
「昨日は私も言い過ぎたし……過去のことは過去。いつまでも喧嘩したままなのは嫌なの。何があったのかも詮索しないって、約束する」
「それはその……」
「……それとも日奈とは仲直りしたのに、私とはできないの?」
歯切れが悪くなった夕陽は、目線をあちこちに所在なさげに泳がせ始める。まるで難しい計算式を暗算で解いているかのような感じで。
……そんな状態がいつまで続いたのだろうか。夕陽の彷徨っていた視線は定まり、無駄に力んでいた肩や足から力が抜けたのか自然体となる。
呆れたように、息を吐かれた。非常に遺憾だ。
「……『私』もひかりとは仲直りしたかった」
そう言って、夕陽は恐る恐る右手を差し出してきた。それを感慨深げに見つめてしまう。
だが、もうその手を拒む理由はない。二度と離さないように、がっしりと夕陽の手を掴む。日奈よりも少しだけ低い温度が伝わってくる――と味わっていると、その温もりは二倍以上になる。
気がつけば、夕陽の後ろにいたはずの日奈は私と夕陽の横に回り込み、二人分の手をその掌で包み込んでいた。
「これで仲直り完了だね、お姉ちゃん。ひかりちゃん」
そうニッコリと大輪の花が咲いたかのような日奈の笑顔に、目を焼かれてしまいそうになり、私はさっと顔を逸らした。きっと夕陽も同じような反応をしているだろう。……友達としての直感だ。
私もまた、口角が自然に綻ぶのを自覚できた。
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