ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
『……それとも日奈とは仲直りしたのに、私とはできないの?』
――『推し』の活躍を一番傍で彩る
『これで仲直り完了だね、お姉ちゃん。ひかりちゃん』
――『前世』から大大大好きな、この『
ひかりと仲直りして、しばらく経つボクの頭の中で当時の映像とともに何度もリフレインされる。それほどまでにボクは喜んでいる。嬉しいと思っている。
だって、
……もちろん、その『イベント』の当事者として深く関わることに悩み、一瞬は躊躇してしまった。悪影響が出るかもしれないからだ。
だが、そんな葛藤は既に乗り越えている。今さらの問題であり、ボク自身すら『シナリオ』に組み込んでしまえば良いだけ。
どうせボクも含めて、『正史』を知っている人間なんていないのだから――流石に出しゃばりは過ぎないようには注意するけど。
『――ット、サンセット。聞こえていますか?』
「はい、もちろんですよクラウン様。フィナーレ様からの召集の件ですね」
そんなボクの誰に対してか分からない決意表明に水を差すかのように、クラウンの慇懃無礼な口調の声が聞こえてきた。
若干意識がトリップしていたのを誤魔化す為に、すぐに普段通りの『忠実な部下』としての仮面を被り直し、丁寧な返事をした。
その後、ボク視点では業務的な会話を交わし、「では、また後ほど」と立体映像越しに頭を軽く下げてから、キューブ型の魔道具の電源を落とす。
小さくため息を吐きつつも、これもまた
自室に張られている小規模の『閉鎖領域』に綻びがないことを確認し、服の下に隠すように首元から下げられた変身アイテムに魔力を通す。
一秒もかからずに、ボクの可愛いらしさの欠片もない寝間着が漆黒のドレス姿に変化した。
続けて、キューブ型の魔道具を操作し『ゲート』を開き、そのまま闇の渦の中へと体を沈めた。
――ボクの場合、アジトへの『ゲート』の先は基本的にクラウンの自室に設定されている。本音を言えば、敵のお膝元とはいえボクも個室の一つぐらいは欲しい。
外観や内部ともに、ヨーロッパ風の巨城を模しているアジトである。組織の構成員の数から考えたら、無駄に部屋は有り余っているはずだ。我儘の内にも入らないだろう。
……そんな切実で真っ当な願いは、聞き入れてもらえない。意外なことに、この件に関してはフィナーレは何も言ってくることはなかった。
ならば、一体誰が異を唱えるのか。それは、『ゲート』の出入り口の設定場所を見れば一目瞭然だろう。
「――待ってましたよ、
「あのー、私もいるんだけど……」
ボクを出迎えるのは、先ほどまで通信越しに会話をしていたクラウンと名目上の先輩に当たるレクイエム。前者は相変わらずの粘つく視線をこちらに向けてきて、後者は被害者であるボクを心配するような目の色をしていた。
クラウンは平常運転として……ボクがレクイエムに施した洗脳も見破られた様子もない。こうして人目がある時には、以前のように振る舞うように彼女には命じているので、立ち振舞から露見することはないはずだ。
レクイエムはボクと違って任務がなければずっとアジトにいるのだが、現にバレていない。
しかし、ボク以上に魔法の扱いに長けているフィナーレやクラウンが些細な違和感から、レクイエムの身に起きた異変に気づくのではないかと常に気を張り詰めているが……。
「久方ぶりの生の貴女を堪能したい所ですが……今は我慢しましょう。我々『ラフ・エンド』にとって、何よりも優先すべきはフィナーレ様のご意思ですから。
フィナーレ様が玉座の間にて、お待ちになっています。さあ、行きましょう」
――いつかの時のように、クラウンがそっと右手を差し出してきた。普段の戯けた調子ではなく、顔を持ち上げる必要があるくらいの身長差や中性的なボイスが、彼女を一瞬だけ白馬の王子様と錯覚させる。
不気味な道化師モチーフの仮面や、目が痛くなる程に無駄にカラフルな衣装が大いにノイズになるのだが、こういうギャップのせいで完全に嫌いにはなり切れないのだろう。――そもそも嫌悪感一色に染まったら、『ハート・ストリングス』の発動条件を満たせなくなってしまうので論外だが。
後、クラウンの立ち位置からは分からないだろうが、レクイエムの彼女を睨む目つきが今まで見てきた中で一番鋭い。怒気というか殺気が漏れ出ている。何故だろうか? あの二人――レクイエム側からの感情が良いものではないことは理解していたが、ここまで酷くはなかった気がする。
このレクイエムの変化の原因の一つとして考えられるのは、やはりボクとクラウンの洗脳魔法が複雑怪奇に入り混じった悪影響だろうか。
とはいえ、下手な行動はできない。精々ボクにできることは、気づかれないように目線でレクイエムを咎めることぐらいだ。
それが通じたのか、彼女は感情の矛先をしまい込む。ホッと小さく安堵の息を吐く。
「どうかしたのですか、サンセット?」
「……別に何でもないですよ、クラウン様。……ただ、貴女様の姿に見惚れてしまっていただけで……」
「まあ、嬉しいことを言ってくれますねぇ」
僅かばかり心にもあることでクラウンからの好感度を獲得しつつ、何れ来たるべき反逆へ向けて静かに牙を研ぐ。そのことを微塵も感じさせない自然な素振りで、ボクは差し出されたクラウンの右手を恭しく取る。
道化師の笑みがまた深まった。
クラウンとレクイエムの間に挟まれながら、ボクはドナドナと玉座の間の前まで連れて行かれる。そこで衣装に乱れがないかをレクイエムにチェックされ、その一部始終をクラウンは見守って――いや、愉しんでいた。
どういった感情であるかは、ある意味では『同族』であるが故に理解できそう――ではあったが、そこで思考を打ち切る。
ボクにとって大事なものは、世界にただ一つ。
――重々しい音を立てながら扉が開いている間に、体勢を整える。ボク達は淀みない動作で、足音を鳴らさないように御前へと進み出て臣下の礼を取る。
「――フィナーレ様。貴女様の忠実な
「……ふむ、お前達が私の前に全員揃うのは『あの時』以来だな」
最奥に鎮座する玉座の上から、尊大な少女――フィナーレの声がする。
ちなみに、『あの時』というのはレクイエムが二度目の敗走で処罰されようとした時に、半ば無理やりに割り込んだことを指す。
ボクが過去の出来事に暫し思いを馳せていると、フィナーレはクラウンに報告を求める。――観察するような目がボクに向けられていることを、鳥肌が立つことで察する。
「――それで、新人であるサンセットが考案してくれた『作戦』の成果はどうだ?」
――ボクが
幹部は表舞台には立たず、『ラメント』だけを矢面に立たせた威力偵察。
現状の魔法少女の戦力を正確に把握する一方で、こちら側の情報は可能な限り秘匿できるという画期的な戦略的な方針――というのは建前だけど。
本音はさっきも触れた通りに、ボクの考える『最強のシナリオ』通りに状況を動かしたいだけだ。
「はい、成果は上々です。現在確認できている魔法少女の数は二人のみ。以前のように、『ラメント』化させた人間が新たな魔法少女になるような異常事態も発生していません。
そして、肝心の魔法少女達の戦闘能力は二人がかりで、弱体化していない『ラメント』と互角程度。恐るるに足りません」
「……なるほどな」
クラウンからの報告を受けて、顎の下に片手をやり何かを吟味するように呟くフィナーレ。頭を垂れているボクには直接は見えないけれど、フィナーレの視線が幹部達の間を行ったり来たりしているのを感じる。
暫くの間重たい沈黙が、ヤスリのように神経を擦り減らしてくる。
そして、その果てにフィナーレの重々しい口調で宣言した。
「――では、再びこちらから打って出るとしよう。いくら威力偵察とはいえ、こうも黒星が続くと気分も悪い……クラウン、行ってくれるな?」
「はっ、お任せよ。必ずや、フィナーレ様のご期待に応えて魅せましょう」
クラウンの返事を以て、この心身ともに苦痛な時間は終わりを告げ、ボクは
フィナーレのお言葉は、まだ終わっていない――。
「――だが、クラウンよ。お前の有能ぶりは私もよく知っているが、現状ではたとえ私であっても現実空間では『ラメント』と『閉鎖領域』の展開だけで手一杯だ。
影響力を広げるにしても、その尖兵となるはずの『ラメント』は碌に成果を上げられないばかりか、逆に宿敵である魔法少女を増やす結果に終わっている――という訳で、だ。
クラウンの護衛役、前衛としてもう一人同行してもらうとしよう」
その台詞に、ボクを含めた幹部勢が反射的に頭を持ち上げる。
フィナーレは舞台上から観客席を支配する主演のように、大袈裟な動作でその人物を指し示した。
「――サンセット。お前にクラウンの護衛役の任を与える。いつまでも新人気分では困るからな」
(……はあ、ついにボクも敵幹部として出撃か)
フィナーレからの名指しと厳しい言葉に、『過去』のちょっとしたトラウマが蘇りかけるが、それを塗り潰す勢いで歓喜が湧き上がってくる。
(――だって、正体不明の新たな敵幹部として
ボクはニッコリと余所行きの笑顔を浮かべ、「お任せ下さい、フィナーレ様!」と言い放った。
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