ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
――フィナーレから直々の有り難い命令を賜った後、ボク達は再びクラウンの自室にて、今後の作戦会議という名の話し合い()が行われていた。
主に話しているのはクラウンであり、ボクは疑問点があれば尋ね、レクイエムは部屋の端で壁に体を預け、ボク達のやり取りを見守るような形で参加していた。
万が一のクラウンの暴走に対して、いつでも介入できるように。
「……では、最後の確認を。『ラメント』用の素体の確保、『閉鎖領域』の展開・維持は
クラウンが最終確認を、ボクの方に問いかけてくる。内容自体は非常にシンプルで、実行中に特大のイレギュラーが起きない限り、その場で臨機応変に対応できる良い作戦だろう。
実行者の片割れがボクでなければだが――。
そのことを理解しているレクイエムが、横から声を割り込ませる。
「……ねえ、クラウン。フィナーレ様の命令っていうのは分かっているし、あなたの組むのは凄く嫌だけど、前衛を任せるのなら、私の方が良いんじゃない?」
「ああ、そのことですか。貴女はサンセットの魔法は知っていますか?」
その問いに、レクイエムは視線を一瞬だけ彷徨わせると口ごもりながらも答える。
「……いいえ、聞いたことはないわ。どこぞの変態ピエロが常に張り付いて、可愛い後輩と二人っきりで話せる機会なんてほとんどなかったもの」
「お褒めのお言葉、ありがとうございます。……せっかくですので、私の口から説明しましょう。サンセットも不安に思っていることがありそうですので、その解消も含めて……ね」
レクイエムの皮肉にも手慣れた様子で受け流し、再びクラウンは口元を歪めながら朗々と語り始める。
「私が聞いているサンセットの魔法は、『敵対者の行動を一定範囲で制限する』というもの……で間違いないですよね?」
「は、はいっ! ……相手によって、効果の強弱は出ますけど」
「ふふっ、ありがとうございます」
そう礼を告げながら微笑むクラウンに、今ボクが吐いた『嘘』がバレた様子はないようで一安心する。
その『嘘』とは、もちろんボクの魔法についてだ。『ハート・ストリングス』は、ボクと被対象者との互いの好意の高さによって効果が左右される洗脳魔法。
ボクの唯一にして、最大の武器。なので後から矛盾が発生しないように、内容の大半を偽って伝えている。
得られる結果だけを見れば、この『嘘』は全部が嘘という訳ではない。
(……とはいえ、がっつり戦闘を任せられると些細な違和感から芋づる式にレクイエムのことまでバレる可能性がある。だから、全然気が抜けないよぉ……現状魔法で操れるのなんて、レクイエムの他に日奈とひかりだけ。
……しかも、一時的なものなら我慢するけど、永続的な洗脳は
「――簡単なことですよ。お二人とも、『前衛』という単語に縛られ過ぎです。魔法少女達と率先して戦うのは、あくまでも『ラメント』。サンセットにはそのサポートをお願いします。
貴女の魔法であれば、そのぐらいは充分に可能でしょう? ……ただし、絶対に前に出過ぎないように。貴女はどちらかと言えば、私と同じ後衛型なのですから」
「はいっ!」
そこで先の会話以降、沈黙していたレクイエムが口を挟む。
「……それにしても意外ねえ」
「何がでしょうか?」
「サンセットに過保護なクラウンのことだから、フィナーレ様の命令に多少屁理屈をつけてでもサンセットを置いていくと思ったわ」
「私のことを良く理解しているようで、実に嬉しいですねぇ」
「……気持ち悪いこと言わないでよ」
クラウンの軽口に、全身に粟立つ鳥肌を擦るような仕草をするレクイエム。そんな彼女を見て、ますます笑みを深め、次はこちらに顔を向けてくる。
「……可愛いからこそ、その活躍も見たいという欲求もありますので。
次の任務はよろしくお願いしますねぇ? サンセット」
「はい、もちろんです……! クラウン様」
クラウンの甘い、こちらを誘惑してくるような問いかけに、ボクは外受けの良い返事で答えることしかできなかった。
◆
私――日奈の耳に、目覚まし時計のアラームが遠くから聞こえてくる。寝ぼけ眼のまま、手探りでアラームを止めた。微睡みのまま、緩やかに意識の覚醒を促そうと何とか努力を試みる。
二度寝という堕落へ誘う睡魔との戦いに挑むも、情けなくも負けてしまいそうになった瞬間――枕元から呆れた風の声が投げかけられる。
「……一体いつまで寝ているつもりなんだい、ヒナ。このままじゃあ、遅刻しちゃうよ?」
「――っ!? ……あ、アリアちゃんか……ありがとう、起こしてくれて」
「別にいつものことだから構わないさ。……それにヒナ達には迷惑もかけているしね」
世にも珍しい喋る白猫――実は異世界人であるアリアちゃんに、お礼を言いつつ私は固まった体を解す為に思いっ切り伸びをする。
けれど、一晩ぐっすりと眠ったはずなのに溜まっていた疲労感は完全に解消されていない。
(……昨日も大変だったからね)
手足を動かし感覚を確認しながら、ここ最近の出来事について思い返す。『ラフ・エンド』との戦いは、相変わらず続いている。
ひかりちゃんという秘密を共有できるだけではなく、共に戦える仲間が増えたお陰で、精神的にもぐっと楽になりはした。
けれど、『ラフ・エンド』の襲撃は突発的に起こるせいで、日常生活のリズムを狂わされることが多々あり、今日のような寝不足気味に繋がる。
そもそも命の危険を伴うということもあり、少なからずストレスが蓄積してしまう。……それでも、私には戦うことを止めるという選択肢は存在しない。
お姉ちゃんや両親を始めとした大事な人達の安全を守る為に……ひかりちゃんを巻き込んでしまったのは僅かに心残りだけど。
……他にも、懸念点がある。二度目以降、『ラフ・エンド』の構成員との戦闘どころか遭遇すらしていない。
接敵するのは、『ラメント』にされた人達だけ。アリアちゃんが言うには、相手に出張る余裕がない程の混乱が生じているらしいと。
確かに、レクイエムと名乗った『ラフ・エンド』の少女は、私やひかりちゃんが魔法少女に成ったことに非常に驚いていたが……何だろう、この胸に何かがつっかえるような違和感は。
そんな私の心の迷いを切り払うように、部屋の扉を軽く叩く音と同時に、大好きなお姉ちゃんの声が聞こえてくる。
「おーい、日奈。早く起きなさいよー」
「う、うんっ!」
考えごとに没頭していたせいで、少しだけ驚き声が上擦ってしまう。だけど、お姉ちゃんは特に気にしていないのか、足音はすぐに遠ざかっていった。
それから静かになった後、アリアちゃんが小声を溢す。
「……僕が起こさなくても大丈夫だったみたい」
「そ、そんなことないよ……! 朝はその数分間が貴重なんだから!」
若干落ちこんだ風のアリアちゃんが、次の瞬間にはケロッとした様子でこんなことを宣う。
「……それにしても良かったよ。ヒナがお姉さんとの仲が良好そうで。僕が来た時には改善方向に向かっていたとはいえ、君達姉妹とヒカリの溝は深そうだったしね」
「ある意味ではアリアちゃんのお陰でもあるよ。……魔法少女になるようなことがなかったら、きっと私達仲直りできなかったと思うから」
「……そんなことはないはずさ。まだまだ短い間しか付き合いはないけど、ヒナ達がどれだけ強い子であるかは僕が保証する」
「ありがとうね、アリアちゃん……って、せっかく起こしてもらったのに、これじゃあ意味がない……!? 急がないと……!?」
私は慌ててベッドから飛び起きた。そんな私の後に追従するように、アリアちゃんは軽やかな動作で床に着地すると駆けていく。
身支度をいつもよりも早めに済ませて、一階のリビングへと向かう。扉を開けた瞬間、焼きたてのトーストとベーコンの香りが鼻腔をくすぐり、腹の虫を鳴かせてくる。
四人がけのテーブルには、既に両親とお姉ちゃんが席に座っており、楽しそうに、何のわだかまりもなく会話に花を咲かせていた。昔のように。
もう二度と手に入らないと思っていた、温もりのある家族団らんの光景に自然と私の口元は綻んでいた。
「いってきます」
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい、二人とも」
朝食を食べ終えた私は、お母さんと朝の挨拶を交わしお姉ちゃんと一緒に家を出て、通学路の途中で待ち合わせていたひかりちゃんと合流する。
「おはよう、日奈、夕陽」
お姉ちゃんを真ん中に左右で挟み込むような形で、話しながらゆっくりと歩く。
先日、数年以来の仲直りをしてから私達の関係性は、以前みたいに――いや、それ以上に深まっていると断言できる。
……ちょっと大変なこともあるけど、この平穏な日常を守る為だと思えば俄然やる気が湧いて出てくる。隣には、ひかりちゃんもいてくれるしね。
尊いものを見るような目で、小突き合う二人を見ていると彼女達には怪訝そうな表情を向けられてしまったが、その反応すらも眩いものにしか映らない。
――こんな時間が、ずっと続きますように。
目を伏せて、心の中でそっと祈る。その敬虔なる純粋な思いは――直後に遠くから発せられた異質な魔力の気配によって踏みにじられる。
(この魔力は『ラフ・エンド』の――っ!?)
もう何度も肌で味わっている、こちらの世界を汚すようなこの不快感を間違える訳がない。それはひかりちゃんや、家で留守番中のアリアちゃんも同じだったらしい。
ひかりちゃんの表情は険しいものに変わり、アリアちゃんからも「僕は先に反応があった場所に向かっておくよっ!」とテレパシーが脳内に響いてくる。
それを聞き届けた私達は、この場における唯一の部外者のお姉ちゃんに最早手慣れつつある尤もらしい嘘を吐く。……全く罪悪感がない訳ではなく、心苦しい。
だが、これもお姉ちゃんの為! そう自分に言い聞かせ、私は「あっ」と声を上げて何かに気づいた風を装う。
「私、忘れ物しちゃったみたい……!?」
「……大丈夫、日奈? 良かったら、『私』もついて行くけど――」
「わ、私も課題を忘れたみたいだから、夕陽は先に行ってて……!」
取り乱した演技をする私に向かって、お姉ちゃんが心配からか付き添いを申し出てくれるが、食い気味にひかりちゃんが言葉を被せてくる。
そして、そのままの勢いに任せて私とひかりちゃんは来た道を逆走し始めた。お姉ちゃんを置き去りにする形で。
◆
――全てが『手遅れ』になった未来の私は、この時の行動を永遠に後悔することになる。
ほんの少しでも、あの一瞬にお姉ちゃんの方を振り返る心の余裕があれば。
本作品をここまでお読み下さり、ありがとうございます。
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