ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい   作:匿名希望

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第二話

 

 

 ――『ラフ・エンド』。フィナーレ、クラウン。それらの単語は、前世のボクにとって大変聞き馴染みのあるものだった。

 それもそうだろう。なにせ上から順番に『スマイル☆プリズムヒロインズ!』の敵組織、その首魁と幹部の名前なのだから。

 それ一部だけとはいえ、たった今(・・・・)思い出した。恐らくは、目の前の道化師風の衣装の女性――クラウンの魔法『マリオネット』で脳を弄くられたのが原因だろう。

 クラウンの毒牙にかかってしまった少女(ボク)は、一生飼い殺しにされるか、飽きたら使い潰される。そんな碌でもない末路をたどることになるに違いない――本来であれば、だが。

 

 

 ボクが転生者であることが幸いした。ボクの中には、二人分の記憶や自我がある。前世の男であるボクと、記憶を取り戻す前の『私』。

 洗脳を受ける過程で、差し出しても、なくなっても問題ない部分を切り分けていき。『マリオネット』が無事にかかったと誤認させることができた。咄嗟の出来事だったとはいえ、我ながら上手くいったものだ。

 お陰で、クラウンは間抜けなことにボクのことを従順なお人形さんだと勘違いしている。

 

 

 ただ一つ問題点を挙げるとするならば、洗脳の身代わりに差し出したモノについて、調整が効かなかったこと。善悪のバランスを整える倫理観。または、それらにまつわる記憶等がごっそりとボクと『私』の中から抜け落ちてしまった。

 それでも、一個人の人間として生きていく分には問題ない程度の知識や経験は残っている。だが、善悪のブレーキが取り払われたことで、別の問題が発生した。

 

 

 ――大好きな『スマイル☆プリズムヒロインズ!』の世界に転生したけど、その原作を壊したくないから、登場人物達にはなるべく関わらない。たとえ、それが最愛の双子の妹(『推し』)相手であったとしても。

 

 

 その絶対不変のものと定めたはずの信念が、暴走してしまいそうになっている。心の中のストッパーが壊れたことによって。

 今すぐにでも、妹の――日奈の所に駆け出して、抱きしめてあげたかった。記憶を取り戻してから、身勝手な理由で邪険にしてしまった分を埋め合わせる為にも。

 いや、それだけじゃ物足りない(・・・・・・・・・・・・・・)。ずっと、永遠に。他の誰にも渡したくない。他の人間と関わるとしても、ボクが

用意した者限定で、何か間違いがないように間近で監視したい。

 

 

 この狂った情動が、胸の内で渦巻いてしまっている。これも全部、目の前のクラウンの奴のせいだ。

 自分に素直になれたことに対する感謝はあるが、ボクを滅茶苦茶にしてくれたことへの責任はクラウンに。その主人であるフィナーレには、きちんと取ってもらうとしよう。

 具体的に言えば、このまま『ラフ・エンド』の幹部という立場を存分に利用させてもらい、日奈(『推し』)達の活躍を間近で鑑賞し。それだけではなく、その裏側で日奈を中心としたボクにとっての『理想郷』の作成――『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指させてもらおう。

 

 

 運が良いことに、クラウンの『マリオネット』の副次効果で発現したボクの魔法は、それの実現に適している。『原作』の流れは相変わらず思い出せないが、それっぽいものを踏襲しつつ、暗躍していく予定だ。

 

 

 ――そんな風に、楽しい、愉しい未来へ思いを馳せていると、数歩先にいるクラウンがボクの方に振り返り、道化師モチーフの仮面越しに視線と声を投げかけてくる。

 

 

「――良し、到着しました。ここが我が組織のアジトです」

 

 

 内部が黒色と灰色の中間のような配色の次元の隙間、『ゲート』――作中で敵味方が利用する異次元を渡る為の技術――を数分間かけて通ってきたボクの視界に広がる光景は、一変していた。

 

 

 地平線が見えるぐらいに開けた草原に佇む、白色と黒色を基調とした西洋風の城。星屑の一つすらも存在しない漆黒の夜空に、ただ孤独に浮かぶ真っ赤な三日月の光が、アジトである城の不気味さをより増長していた。

 

 

 その圧倒的な雰囲気に、一応外観を知識として知っていたボクでも呑み込まれてしまいそうになる。

 

 

 呆然としているボクを他所に、巨大な門が独りでに勝手に開く。クラウンは慣れているのか、特に驚いた様子を見せない。それはそうか、どれだけ不気味であっても、この狂った城はクラウン達のアジトなのだから。

 

 

 クラウンが立ち止まっていたこちらの方に振り返り、ボクの体を上から順番に検分していく。

 

 

「……フィナーレ様と謁見するというのに、その格好では些か失礼にあたってしまいますね。はてさて、どのような衣装がよろしいでしょうか? ……何か、ご希望はありますか?

 あっ、そういえばお嬢さんのお名前はまだお聞きしていませんでした。後ほど、フィナーレ様から新しい名前を魔法とともに下賜されると思いますが、(わたくし)にだけ教えて頂けませんか?」

 

 

 相変わらず、こちらの理性を溶かしてくるクラウンの甘い毒のような声音。そんな同僚に対して、洗脳が実はちゃんとかかっていないことを悟られないように、頬を意識して紅潮させ、瞳を期待で潤ませる。語気は甘えるように。ねだるように。

 

 

「わた……ボクの名前は、ユウヒ。朝霧夕陽です」

「……ボク? ああ、そちらの方が本来の貴女なのですね! うふふ、(わたくし)は今の貴女の方が好ましいですよ」

「ありがとうございます……!」

「それで、衣装のデザインの要望等は?」

 

 

 改めて、そう尋ねてくるクラウン。ボクは若干悩むような素振りを見せた後、一つの案を伝える。語彙力が豊富ではなく、たどたどしく。それでいて、多少の早口で決して分かりやすい話し方ではなかったのに。

 クラウンは嫌な表情を一つも見せずに――そもそも仮面のせいで見えないけど――、ただ黙って聞いてくれていた。

 

 

 日奈(『推し』)の存在がなかったら、洗脳を抜きにしても、クラウンという泥沼にハマっていたかもしれない。そんな不思議な魅力が、狂気と同居していた。

 

 

「……ふむふむ、なるほど。では、こんな感じで――」

 

 

 そう言いつつ、クラウンは芝居がかった動作で、パチンと大きく指を鳴らす。それと同時に、ボクの視界が黒一色に染められる。一瞬だけ、洗脳を再度かけられたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 

 

 ボクを覆っていた靄はすぐに霧散して、新生した姿をクラウンの前に。世界に晒す。クラウンが小さく、感嘆の吐息を漏らした。

 

 

「おお……素晴らしい。想定以上です……あっ、失敬。鏡代わりに、どうぞこちらを」

 

 

 再びクラウンは指を鳴らすと、ボクの目の前に一つの水晶板が出現した。クラウンの言葉通りに、その表面は鏡のように今のボクの姿を映し出す。

 

 

 ボクの身を包んでいた中学校の制服は消え去り、代わりに現れたのは、これまたボクに由来し、見覚えのある衣装――どこか『スマイル☆プリズムヒロインズ!』の主人公達を連想させるものであった。

 

 

 それもそうだろう。ボクがクラウンに伝えたのは、前世の時にインターネットで見かけた、ファンが手がけた二次創作のとあるイラスト――日奈(『推し』)の闇堕ちIFの姿そのものだから。

 

 

 基調となる色は、黒と深紅。胸元には割れた太陽を模したブローチが輝き、スカートの裾は夕闇のグラデーションで彩られている。

 色彩に目を瞑りさえすれば、正義の魔法少女を思わせる可憐なデザインと言えるだろう。しかし、肝心の着用者であるボクから垂れ流される、おどろおどろしい魔力の気配がそれを否定していた。

 

 

 まるで希望と絶望を無理やり一つに縫い合わせたような姿。そして、ボクの右手には一振りの杖。先端には、これまたひび割れた宝玉が、極細の糸で厳重に巻きつけられている。

 まるで、誰かを操る為の糸のように。今のボクの現状や、発現した魔法を象徴しているようにも感じられた。

 

 

「ふふっ」

 

 

 クラウンを騙す為のものではなく、自然と笑みが浮かぶ。それに合わせて、鏡合わせの少女(ボク)も小さく笑う。

 そういえば、普通に笑うのですら随分と久しぶりのような気がする。前世の記憶――特に『原作』の知識を思い出してから、この世界自体から一歩引いていた。

 だけど、これからは積極的に関わって良いと。もっと自分に正直になって良いと思えるようになった。

 改めて、こんな機会をくれたクラウンには感謝の意を示そう。

 

 

「ありがとうございます……クラウン様!」

 

 

 ――このお礼は、ボクの『理想郷』の実現の為に、大いに有効活躍することで返してあげる。フィナーレ共々、ね。

 

 

 そんなボクの思惑も知らずに、クラウンはそっと手を差し伸ばてきた。仮面の下部分から覗かせる口元には、優しげな笑み(亀裂)が浮かんでいる。

 ボクもまたそれに応えるように、クラウンの手を取り笑ってみせた。

 

 

「――さあ、行きましょう。ユウヒ。(わたくし)の可愛い、可愛いお人形さん(マリオネット)。我らの主人――フィナーレ様の下へ」

「はい……クラウン様っ!」

 

 

 

 

 ――それからボクはクラウンの先導の下、西洋風の不気味な古城――『ラフ・エンド』のアジトの内部を歩いていた。内装は外観から想像ができるものと一致している。

 

 

 豪奢な調度品や、城内の壁に無数に張り付けられた悪趣味な仮面群。仄暗い明かりを灯すシャンデリア。ボクが持つ『原作』の知識の一部と合致する人物が、精巧に描かれた絵画。

 

 

 実に、『らしい』内装であった。ボクは興味深げに、不審に思われない程度に視線だけをキョロキョロとさせる。だが、クラウンにはバレていたのか、くすくすと小さな笑い声が聞こえてきた。

 子供っぽい行動による恥ずかしさを誤魔化すように、ボクはわざとらしく「素敵なアジトですね!」とクラウンに称賛の声を告げる。

 

 

「ええ、そうでしょう! これもフィナーレ様のお力の一端。特に、この――」

 

 

 しかし、別の意味で地雷を踏んでしまったのか、自分の主人について饒舌に語り出すクラウン。ボクは興味がある振りをしつつ、話半分に聞き流していた。

 

 

 静寂な古城の廊下に、クラウンの上機嫌な声とボクの相づちだけが響く。

 

 

 そうこうしている内に、ボク達は城の最奥に位置する玉座の間――『ラフ・エンド』の首領にして、『スマイル☆プリズムヒロインズ!』のラスボスであるフィナーレがいる場所。その扉の前へと到着した。

 

 

 クラウンが道化師風の衣装とは真反対の行動を、姿勢を正す。そのよく通る声で、玉座の間の主に呼びかける。

 

 

「――貴女様の忠実な(しもべ)たるクラウン。ただ今、帰還しました。フィナーレ様」

 

 

 それに応えるように、玉座の間の巨大な扉がゆっくりと開いた。

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