ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
――日奈達は行ったみたいだね。……ん? クラウンからの通信だ。あー、ゴホンゴホン……はい、サンセットです。
――分かりました。ボクもすぐに向かいますので。ええ、貴女の忠実なる
――ふふっ、待っててね
◆
私――月島しずくは、孤独な人間であった。初っ端から誤解を招くような言い方をしたが、私の周りに全然人がいないという意味ではない。
一般的に普通、良く言えば親子仲が良好な両親がいた。適度な関係性を保てている友人達がいてくれている。
だけど、彼らが見ているのはあくまでも『よい子の月島しずく』という『
他人から見れば、思春期特有のちょっとした面倒くさい
本当は嫌なのに笑顔で了承した。誰かに反論したかったのに飲み込んだ。自分の好きなものを他人に否定されても笑っていた。
取るに足りない、小さな絶望の積み重ねが私の心を蝕んでいく。
――ねえ、誰か。私をこの暗い絶望の底から救って。本当の私を見つけてよ――。
「――ご機嫌よう、お嬢さん。
『空き』があったら、ぜひとも手駒に加えたかったです。実に残念だ」
――あ、貴女は誰?
「貴女の手助けに参りました、しがない道化師です。……ただ一つだけ、『対価』として
――私は一体何をしたら……。
「いえいえ、何も難しいことはありません。貴女が持つその絶望に身を委ね、『
――?
「――笑顔の仮面を剥がしましょう。良い子の自分にはお別れを告げましょう。さあ、お嬢さん。幕を下ろす時間です。偽りの
◆
私――日奈は、ひかりちゃんと一緒に『ラフ・エンド』の魔力反応があった場所へと向かっていた。アリアちゃんとは現地で落ち合う予定だ。
恐らく『閉鎖領域』を展開されたのだろう。先ほど感じていた恐ろしい魔力の気配も、ほとんど感じ取れない。だけど、今回も『ラフ・エンド』の幹部がいるかどうかは分からない。
最近の奴らの動向を考えれば、既に撤退している可能性だってある。それでも、『ラメント』にされてしまった人がいることだけは――心の闇を利用され、怪物にされてしまった人は確実にいる。絶対に助けないと……!
それから、しばらくして私達は目的地へと到着。同じぐらいのタイミングで、アリアちゃんと合流できた。三人の視線が、現実空間と『閉鎖領域』の境目に注がれていた。
魔力を持つ者以外を排斥する結界。このままでも潜ることはできるが、素の姿を見られることにもなるし、何かあった時に咄嗟の対応をすることができない。
よって、いつもの如く魔法少女の状態に変身することにした。
私達は首から提げられている、キーホルダー型のそれぞれの変身アイテムに魔力を通す。抑制されていた魔力が爆発的に増加し、私達の姿を変化させていく。
「――みんなを笑顔に照らす虹の魔法少女、プリズム・スマイル! ここに参上っ!」
「――心に灯る希望の炎、その輝きは決して消えない! プリズムの光よ、私に力を――! 魔法少女、プリズム・フレア!!」
もうすっかりと慣れてしまった華やかなドレスに身を包みながら、決め台詞を高らかに宣言した。全身に魔力が満ちあふれている。準備は万端だ。
「行こう、ひかりちゃん。アリアちゃん」
「ええ」
「そうだね」
二人が頷くのを確認すると、私達は揃って『閉鎖領域』の中へと侵入する。境界線を通り過ぎた瞬間、肌に纏わりつくような嫌な空気に。モノクロの、自分達以外の全てが死んでしまったと錯覚してしまう世界に書き換わる。
(魔法少女に変身するのは慣れたけど、この独特な気持ち悪さは――っ!?)
「――ようこそ、可愛らしい魔法少女御一行様」
ここ最近の連勝で緩みかけていた意識の隙間に入り込むように、一つの声が聞こえてくる。慌てて、私達はサッとその方向へと視線を向けた。
いつからいたのか、そこには遊園地やサーカスの舞台上から飛び出してきたようなピエロの格好をした長身の人物が佇んでいた。
素顔を覆い隠す仮面のせいで一瞬だけ性別が分からなかったが、体のシルエットからその人物が女性だと察せられる。奇妙な装いこそしているものの、今まで見てきた『ラメント』のように自らの心の闇に囚われ、発狂・暴走させられているようには感じられない。
――とはいえ、それがイコールで正気であることの証明にはならないのだが。
「……貴女は『ラフ・エンド』の幹部の人ですか?」
一切の油断なく警戒の視線を向けたまま、その女性に誰何する。そんな私達に対して、彼女は呆れた風に肩をすくめる。
「おやおや……酷いですねぇ。そんな風に睨まれるようなことは、
「何を言っているの……!? 私やひかりちゃん、それ以外にもたくさんの人達を――それだけじゃなくて、アリアちゃんの世界の人達にもいっぱい迷惑をかけてるのにっ!?」
「……ああ、そういえばお二人は『ラメント』になり、あの御方の為に役に立てる栄誉を得られる権利を自ら放棄したのですね。
その際は
私の怒りの言葉も届いていないのか、仲間が倒されたという話題を世間話のように口にする。そこには真剣な様子も、憤っている素振りも見られない。その態度を見て、私は確信した。
――この人は、私達やその仲間のことを同じ
「……っと、いつまでも長話をしている訳にはいきませんね。最後に、私の自己紹介を。――『ラフ・エンド』の幹部が一人を務めるクラウンと申します。
この日限りの短い付き合いとなると思いますが、よろしくお願いします」
芝居がかった仕草で、恭しく頭を垂れるクラウン。それに呼応するように、荒々しい暴力的な魔力反応が正面に現れる。
ソレは無機質な人形であった。ソレが何を模しているのかは、一目瞭然だった。私達と同じくらい背丈の少女を生きたまま加工したかのような出来栄え――いや、魔法的にとはいえ事実なのだろう。
見覚えはないが、同じ中学校の制服姿の少女を模した『人形』。その顔には一枚の不可思議な意匠の仮面――左半分は怖気が走るような笑み、右半分は温度を一切感じさせない無表情――が張り付けられていた。
これまでの『ラメント』と同様に――もしかしたらソレら以上の絶望や悲嘆が周囲の空気を侵している。
「……後、一つだけ言い忘れていたことが。貴女方も薄々察していると思いますが、私達が力を振るうには
「はぁ〜い、クラウン様」
「新手っ!?」
コツンッ、と乾いた靴の音が辺りに響く。道化師の格好をした女性――クラウンの隣に、一人の少女が黒と深紅に彩られたドレス姿で現れた。
夕闇を思わせるグラデーションのスカートの裾が、着地した影響でふわりと舞い降りる。
その少女もまた、『ラメント』にされた少女や私達と同年代に見える。『ラメント』のような自我を失った様子はなく、狂気に染まった瞳を爛々と輝かせ、クラウンに甘ったるい視線や声を向けていた。
ひかりちゃんがさらなる敵側の増援に、驚きの声を上げる。アリアちゃんも油断なく見据えている。
けれど、私だけは違った。その少女の言動に目を奪われていた。もちろん、悪い意味で。
「――ボクはご紹介に預かりました『ラフ・エンド』の幹部の一人。……そして、クラウン様の下僕でもあるサンセットと言います」
「よくできましたねぇ。傍に来て下さい。ご褒美として、頭を撫でてあげましょう」
「えへへ……ありがとうございます、クラウン様」
似ても似つかないはずなのに、少女――サンセットの一挙手一投足が私の
しかし、私は勢い良く頭を振ってその妄想をかき消した。
……ついこの間まで仲直りができなかったけど、お姉ちゃんは優しくて、頼りになる私にとってのヒーローみたいな人。
こんな狂人に媚びた表情や声色を作るような
「――フレアっ! 早くあの人達を倒して、『ラメント』にされた人を解放してあげようっ!」
「え、ええ。分かった……行くよ!」
ひかりちゃんは怪訝そうな表情を私に向けるも、すぐに引き締めたものに変わる。私は一振りの細剣を。ひかりちゃんは一本の片手剣を瞬時に出現させた。
魔力を両足部分に集中。硬いアスファルトの地面を蹴り上げ、一気に敵側への接近を試みる。ひかりちゃんは棒立ちの『ラメント』へ。私は生理的に嫌悪感を抱くサンセットへ。
言葉にしなくてもお互いの意思が伝わる阿吽の呼吸。それによる連携こそが、私達の最大の武器である。現に、今までの『ラメント』は問題なく倒せてきた。
――ただし、私達には二つの誤算があった。一つは二対二の構図で挑まなかったことにより、自分達からせっかくの強みを捨てているのを失念していたということ。
そして、もう一つは――。
無防備な隙を晒しているサンセットへと、私が細剣を振るおうとした直前――彼女の口が小さく動き、歪な造形の杖が私に向けられた。
「――
その瞬間、私の身体はピタリと動きを止めてしまう。
――単純に今回の敵は二人がかりであったとしても及ばないぐらいにレベルが違ったという根本的な問題であった。
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