ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
「う、動けないっ……!?」
――私は絶体絶命の状況に陥っていた。『ラフ・エンド』の新しい幹部であるサンセットが杖を向け、短く「止まれ」と言われただけで、細剣を振り上げた状態で制止させられてしまう。
体が自分のものではなくなったような感覚だ。|まるで全身を糸に絡め取られているような錯覚《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。以前にも、どこかで体験したことのあるような気がした。
それは勘違いだとしても、現に指の一本すら動かせない。
そして、どうやら私だけではないらしい。僅かに動かせる眼球が、同じように『ラメント』に斬りかかろうとした姿勢で止められているひかりちゃんの姿を捉える。
彼女の表情にも、驚きや困惑の色が浮かんでいた。必死に正体不明の拘束――金縛りから脱しようとしている。
「――直接貴女の魔法を使用している所を拝見しましたが、予想以上に強力ですねぇ」
サンセットの頭を撫でていたクラウンが、その手を止め私達の無様な姿を見て、ピエロマスクの下から覗かせる口元を大きく歪ませた。
仮面越しの視線が、私達を値踏みするように注がれる。蟲や蛇が肌を這うような不快感が絶えず襲ってくる。
「えへへ、ボクの魔法って凄いですか?」
「それはもちろん。流石は
「最高の褒め言葉ですぅ……」
クラウンとサンセットの二人による、見るに耐えない三文芝居。今すぐにでも彼女達の口を閉じさせたい衝動に駆られる。
だが、自分でもどうしてそんな思いに突き動かされるのか分からない。
それでも、私の体は応えてくれない――その時、アリアちゃんからのテレパシーが私とひかりちゃんに届く。
『――聞こえるかい、二人とも? 敵に気取られない為に、返事はしないで。今、君達を縛っているその魔法……
しかも、そのことに敵は気づいている様子はない。僕が何とかして突破口を作る。二人にはその隙を突いてほしい』
私は動かない首や口の代わりに、心の中でうんと頷き返す。ひかりちゃんも同じ……はずだ。
しかし、どうしてアリアちゃんだけは動けるのだろうか。今も全身を戒める『金縛り』は微塵も緩みを見せない。それほどまでに強い魔法なのに――いや、今はそんな些細なことよりも目の前の状況に集中しないと……!
私達は虎視眈々と、この絶望的な盤面に綻びが生じるのを待ち続ける。
「名残惜しいですが、今はここまでにしておきましょう。続きはアジトに帰った後で……」
「は、はいっ……!」
体が正常に動いていたら、激しく歯ぎしりをして音を立てていただろう。今だけはサンセットの魔法に感謝していた。……誠に不本意で仕方ないけど。
クラウンはそっと視線をサンセットから外し、私達の方へと向き直る。
「……しかし、些か興ざめですねぇ。サンセットの魔法がいくら強力であったとはいえ、ここまで呆気ないとは。多少の抵抗は期待していたのですが……
……やはりあの御方に、レクイエムの処罰を――」
「もうー……クラウン様。その件は蒸し返さないって、約束したじゃないですかぁ」
「そうでしたね、すいませんサンセット。イジワルなことを言ってしまって……それはそれとして……さてさて、一体どう『調理』しようか迷いますねぇ」
再びクラウンから、全身を舐め回すような視線が向けられる。彼女は今晩の献立を考える主婦のように、私達の『絶望的な未来』を口ずさむ。
「『空き』があれば魔法少女を『手駒』に加えるのも
質が低いとはいえ、魔法少女。『ラメント』化すれば、天敵のいない脆弱な異世界など、一瞬にして――」
鼻歌すら聞こえてきそうな程に上機嫌なクラウンと、満面の笑みで――されど
そして、アリアちゃんは『それ』を逃さない――!
『――二人とも、目を閉じてっ!』
――二度目になるアリアちゃんのテレパシーが脳内に響く。彼女の指示に従って、何とか動いた瞼を咄嗟に閉じる。
――次の瞬間、アリアちゃんが使った魔法により、凄まじい閃光が発生する。その強さは、瞼を閉じているはずの私達でさえ、眩しいと感じるほど。
だったら、何の対策もなしにこの閃光を喰らったら一体どうなるだろうか。
「しまった――っ!?」
「め、目が……!?」
「■■■■――っ!?」
クラウンとサンセット、『ラメント』の悲鳴が聞こえてくる。
――答えは簡単で、目は潰れ一時的に視界を失うことになる。それだけではなく、サンセットの魔法は視認した対象を拘束するものなのか、それとも意識を集中させ続けなければ維持できないものなのか――いずれにせよ、彼女が視界を失った瞬間、私達を縛っていた『不可視の力』が消えた。
クラウン達が復帰するまでの数秒間。私達は完全に自由な時間を手に入れた――っ!
数的不利な状況を打開する為に――当初の『ラメント』された人を助けるという目的を果たす為に、私達は標的を無防備な『ラメント』に絞る。
……本音を言えば、サンセットを最優先に
お姉ちゃんだったら、この状況下では真っ先に一番困っている人を助けるはず。だから、私はお姉ちゃんの妹として恥じない選択肢を取るっ!
私とひかりちゃんはそれぞれの武器を構え直して、その切っ先に魔力を収束させていく。その状態を維持しながら、未だに顔にあたる部分を両手で押さえている『ラメント』に急いで近づいていく。
「――『プリズム・スマイルシャイン』っ!」
「――『ホープ・ブレイズ』っ!」
急激な魔力量の変化に、『ラメント』が身構えようとするも、それよりも先に私達が技名を宣言し、『浄化』の力を叩き込む。
「■■■■……」
流石の『ラメント』であっても、厳しかったのだろう。二人分の『浄化』の力をその身に受けた『ラメント』は、大した抵抗もなくあっさり崩れていく――その途中で異形の『仮面』も剥がれ落ちていき、私達と変わらないただの少女が姿を現す。
私は細剣を魔力に分解しながら放り出すと、彼女が地面に倒れ込まないように優しく両手で受け止めた。
「スマイルっ! 『ラメント』にされてた子は?」
ひかりちゃんとアリアちゃんが私の方へと駆けて寄ってくる――当然ながら、完全に意識をクラウン達からは外しておらず、警戒は続けている。
私は二人に少女の安否を伝える為に、顔を覗き込む。
決して安らかとは言えないけれど、少なくとも彼女の表情は終わりのない苦痛からは解放されていた。
だから、私は二人に「大丈夫そうだよ」と短く伝え、少女を少し離れた位置に移動させる。塀を背にして、彼女を寝かせる。
本当はもっとちゃんとした場所で介抱してあげるべきなのだが、状況はそれを許してはくれない。『
――ようやく視界を取り戻したクラウン達と、再度対峙する。クラウンは私達の後方に寝かされている少女を見て――あるいは事前に『繋がり』で察知していたかもしれないが――『ラメント』の消失を認識し、口角を悔しげに歪ませた。
――しかし、それも一瞬でクラウンは喜悦に満ちた声色で私達を称賛し始めた。芝居がかった拍手とともに。
「ははっ、まさかあの状態から『ラメント』を倒すとは……少々見縊っていました。……サンセット、今度はあそこの『猫モドキ』の動きも止められますか?」
クラウンからの問いに、サンセットは申し訳なさそうに――お姉ちゃんはあんな
「何でか……あの『猫』だけ上手く止められなくて……ごめんなさい、クラウン様」
「いえいえ、怒っている訳ではありません。むしろ、貴女のことをまた一つ深く知れたのですから」
悠長に語り合うクラウン達を前にして、アリアちゃんを含めた私達は仕掛けることができなかった。
確かに『ラメント』の呪縛から少女を解放することはでき、敵の頭数は減らせた。
けれど、私とひかりちゃん単体ではサンセットの魔法による拘束は破ることはできず、唯一の対抗策であるアリアちゃんも警戒はされている。同じ手段は二度も通用しない。
それもあちら側も理解しているからの態度なのだろう。
「……ねえ、クラウン様。ちょっとお耳を貸してくれませんか?」
サンセットがつま先立ちで背伸びをし、逆にクラウンは膝を屈め耳打ちをされる。その内容は声が小さく、盗み聞くことはできそうにない。
「……ふむふむ、なるほど。確かに、このまま続けても私達の勝ちは揺るがないでしょうが、それでは少々面白みに欠けますからねぇ。良いでしょう。サンセットの『案』を採用するとしましょう」
内緒話の体勢を止め、クラウンがもう何度目になるか分からない捕食者としての視線を向けてきた。
「『閉鎖領域』の維持は問題ないので。――さあ、サンセット。お願いします」
「了解しましたっ! ――
サンセットの歪な造形の杖が振り上げられる――次の瞬間に、私達の体は再度その場に縫い止められる。一歩も動くことができなくしまい、アリアちゃんは意識外から放たれたクラウンの魔力弾によって、その小さな体を弾き飛ばされてしまう。
アリアちゃんが地面に叩きつけられる音を最後に、モノクロの世界には不気味な静寂が訪れ、サンセットの足音だけが木霊する。
サンセットが私とひかりちゃんとの、ちょうど真ん中の位置に立つ。
「うーん……どーれーにーしーよーかーなぁ?」
わざとらしく悩んだ素振りをし――私を『どこかで見たことある瞳』で見てきた後、己の杖でひかりちゃんを指し示した。
サンセットは悠然とひかりちゃんの前に移動すると、軽く杖を一振り――すると、ひかりちゃんは意識を失い、サンセットの方へと倒れ込み、壊れ物を扱うかのように抱きとめられた。
その一連の様子を、まるで意趣返しのように見せつけてきたサンセットは口を開いた。
「――君の大切なお友達は預からせてもらうよ? もしも返してほしかったら、ボク達が指定する場所に来てくれる? 月並みの台詞になるけど、時間は有限だから……あんまり遅くなると、『元』のお友達に会えなくなっちゃうかも……ね」
ひかりちゃんを取り返さないと。アリアちゃんは無事を確認しないと。様々な考えが過ぎる中――私を嘲笑するサンセットの表情に釘付けになってしまう。目を奪われてしまう。
その理由は――本能が告げてきた。これ以上は考えるなと。それに従い、この絶望的な状況から私は思考を一時的にとはいえ、放棄してしまった――。
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