ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
「うぐっ……!? な、何これっ!? 頭が割れるように痛いっ……!?」
私こと、フィナーレ様が運営なさる『ラフ・エンド』の幹部の一人であるレクイエムは、両手で頭を押さえて痛みに悶える少女を薄い笑みを浮かべながら見つめていた。
ただ別にこれは私が加虐趣味がある訳ではない。同僚である、あの
――世界の全てを悲しみで覆い尽くす。それを為すための尖兵『ラメント』。異形の怪物。人間に宿る一定以上の負の感情を意図的に増加させて、『ラメント』に変化させるのが、フィナーレ様から直々に頂いた『魔法』。
その名も『ラメント・コール』。
『とある理由』から振るえる力に制限が設けられた私達に代わり、暴れ回ってくれる手駒を召喚できる力。使うのは初めてだが、成功はしそうだ。
そもそもフィナーレ様から下賜された魔法なのだから、失敗するはずもないが。
良い感じにストレスを溜め込んでいる少女を、『閉鎖領域』――一定空間を異界に切り替える技術――を展開して孤独にして放置。不安を煽ったタイミングで、『魔法』を行使したという経緯となる。
現状は、『ラメント』に変貌しつつある少女を観察している。変化が終わるまで、私にできることは特にない。現地人の営みの音が消え去り、憐れな子羊の苦痛に耐え忍ぶ声だけが響き渡る。
――しかし、一分、五分と経っても少女が『ラメント』に完全に変化する様子はなかった。
(おかしい……!? フィナーレ様から聞いていた兆候は既に出ているはずなのに……!?)
クラウンの話でも、普通の人間であれば溢れ出す負の感情に耐え切れずに、瞬く間に私達に従順な怪物に成り果てると聞いていたのだが。
もしもクラウンに初任務を失敗したと知られたら。もしもフィナーレ様のご期待に応えられなかったら。
私の心の中に、焦燥感が立ち込めていく。あまりスマートなやり方ではないが、物理的な痛みでも与えて無理やりにでも変化を促進させようと思い立った瞬間――本来ではあり得ないはずの『侵入者』の反応が『閉鎖領域』内に現れた。
――『閉鎖領域』。これもまた、フィナーレ様から頂いた魔道具によって構築されている異空間。外部から入って来られるのは、基本的に『ラフ・エンド』の構成員のみ。
だが、他の幹部が来るといった連絡は全く受けておらず、侵入の仕方もどこか力押しのように感じられた。
だとすれば、残された可能性は一つしかない。
「ま、まさか――」
「ちょっと待つんだぁーー!」
私の驚愕の声が、『侵入者』によってかき消される。小さな塊は凄まじいスピードで、突撃をかまそうとしてきた。その対象は私――ではなく、未だに『変化』の激痛に苛まれる少女の方であった。
それと同時に、少女と『侵入者』の姿を覆い隠すように、色彩のなくなった世界に白光が満ちていく。私の視界は塗り潰されていった。
◆
――苦しい、痛い、いたい、イタイ。助けて。どうして、私だけがこんな目に。
胸を発生源とした謎の激痛に苛まれながら、私の心は荒れ狂っていた。呪っていた。恨んでいた。私を理不尽な目に遭わせてくる、この世界の全部に対して。
この衝動に身を任せたら、どれだけ気持ちが良いだろうか。どれだけ多くの道連れを作ることができるだろうか。想像するだけで、多少溜飲は下がる、はずなのに。
私はその愚行を選択することができなかった。
いつものように耐えて、耐えて。呼びかけ続けていれば、昔みたいにお姉ちゃんが助けてくれる。笑顔を向けてくれる。そんな希望とも呼べない、微かな思い込みが私を『最後の一線』を踏み越えさせない。
そして、朦朧とする意識の中で私は改めて自覚する。
(私、どれだけ嫌われていても……お姉ちゃんが大好きなんだ)
だが、限界は近づいてくる。
(最後に何でも良いから……お姉ちゃんとお話したかったな)
私という自我が、別の『何か』に取り込まれようとした瞬間――私の体に小さな衝撃が走る。その事実を正確に認識するよりも先に、私は突然の眩しさに目を細める。
「きゃあ!? もう……何っ……って、あれ? ……痛くない?」
驚いてしまい、思わずを上げてしまう。そこで遅れて、意識がはっきりとして、心が張り裂けそうな激痛が綺麗さっぱりなくなっていた。
その代わりと言うべきか、私の体からモヤモヤとしたエネルギーみたいものが飛び出していく。
その一部始終を困惑しながら見ていた私の頭上から、声がかけられた。
「大丈夫……そうみたいだね。それに僕の目にも狂いはなかったようだ」
「えっと、誰……え、猫さん?」
少年のように中性的な声に釣られて、その方向に私は目をしょぼしょぼとさせながら視線を向けた。その先にいたのは、空中に浮かぶ一匹の白猫。若干丸みを帯びた体型で、首には青いリボンが結びつけられている。
何より目を惹くのが、ふわふわとした尻尾の先端に浮遊する蒼い宝玉。明らかに普通の猫ではない証左であった。
その宝玉と同じ色の瞳が、私を見つめてくる。
「気のせいかな……? 猫さんがさっき喋ってたような――」
「勘違いじゃないよ。僕が君に話しかけているんだ、僕と共に戦ってくれる魔法少女候補である君と」
「……魔法少女候補? それって、どういう意味――っ!? 何、この服っ!?」
連続する異常事態に、追いつかなかった思考がさらなる『変化』を認識する。学校指定のセーラー服が、全く異なる衣装にすげ替わっていた。
代わりに身を包んでいたのは、白と桃色を基調とした華やかなドレス。胸元には七色に輝く宝玉と、そこから伸びる虹色のリボンが風に揺られている。
幾重にも重なったスカートは、花弁のように華麗に広がる。両腕には白い長手袋が嵌められて、両足には薄いピンク色のブーツが履かされていた。
まるで御伽噺に出てくるようなお姫様に。テレビの画面から飛び出してきた華麗な戦士のような出で立ちであった。
「どうして、いつの間に……!?」
「もちろん格好だけじゃないよ。君には魔法少女候補として相応しい力が宿って――」
私の疑問に対して、何かしらの答えを示そうとしていた白猫。だが、彼(?)の言葉を遮るように、この場にいたもう一人の――私に何かをしたであろう少女が話に割り込んできた。
「な、何なよ……その猫!? どうして『閉鎖領域』の中に……! それよりも何で『ラメント・コール』の発動が中断されているのよっ!? フィナーレ様から頂いた『魔法』なのよ……!?」
少女の憎悪の込められた視線が私を射抜く。
「それに貴女のその格好と魔力……それじゃ、
混乱と困惑、憎しみ。八つ当たりがごちゃ混ぜになった複雑な感情が吐露。私に向かって吐き出された。それに対して無視を決め込んだ白猫は、横目で私に話しかける。
「おっと、あの様子だと君に悠長に説明している暇はなさそうだ」
「いや何が起きているか、さっぱり何だけど……!?」
「『アレ』を見て、そんなことが言えるかい?」
白猫が前足で、そっと喚く少女の傍を指し示す。私から飛び出した霧の塊のようなエネルギー体。それが少しずつ、ゆっくりとではあるが実体化しつつあった。
そのことに、少女の方も気づく。
「あははっ、流石はあの御方の『魔法』っ! 失敗するはずがないわっ!」
先ほどとは打って変わった少女の嬌笑に応えるように、エネルギー体はこの世界へと完全に顕現した。
全長が十メートル程はありそうな、巨大な影法師。柔らかなシルエットから、ソレが女性を模した存在であることが伺える。
しかし、何故だろうか。影法師の纏う衣服らしき『影』に、私は見覚えがあった。というか、ついさっき見たばかり――見下ろした自分の衣装のラインと、目の前の巨躯の輪郭が、最悪な形で一致していることに気づいた。これでは、まるで――。
私の疑問に先回るようにして、白猫は口を開く。
「――薄々君も察しがついていると思うけど、『アレ』は君の負の感情が具現化した怪物だよ。『ラメント』って、連中は呼んでるね。
普通の人間であったら、太刀打ちはできないだろうけど、今の君なら問題なく勝てるはずだよ。それに僕の見立てでは、
「そんなことを言われたって、一体どうしたら良いの!?」
白猫に慌てて問いかけるも、それを『敵』は待ってくれる訳もなく――少女が傍に立つ異形『ラメント』に指示を下す。
「――『ラメント』っ! 忌々しい
『■■■■ーーーーっ!』
少女の高らかな声が、無人の住宅街に木霊する。それに呼応し、『ラメント』もノイズのような咆哮を上げる。
その音量と悍ましさに、圧倒されて足が縮こまり、腰が抜けてしまいそうになる。無意識の内に、一歩後ずさっていた。
それが合図となったのか、『ラメント』はその巨体に見合わない速度で私に接近してくる。その際に蹴り上げられた地面には、大きな亀裂ができていた。
粉塵が舞い上がる中、『ラメント』は岩ほどの質量を持つであろう拳を私に目がけて振り下ろしてきた。
しかし不思議なことに、私はその一連の動きをスローモーションのように見ることができた。近くで浮いたままの白猫を両手で抱え込み、地面を転がることで拳による一撃を回避してみせた。
空気を切る音がして、さっきまで私達がいた空間には大きな破壊跡が作られる。もしも、その場に留まっていたとしたら、地面の染みの一つになっていただろう。
その当たり前の事実を突きつけられて、私の顔からさっと血の気が引く。『ラメント』はそんな私に構わず、次の攻撃の予備動作に移行していた。
腕の中の白猫が、あくまでも冷静に私に語りかける。
「何度も言っているだろう。『アレ』は君の敵に足り得ない。その胸の内に宿る力に身を任せるんだ――まだやり残したことがあるんじゃないのかい?」
まるで私の心を見透かすような言葉がやけに響く。私はそれに対して、大きく頷いた。
(――そうだ、私はまだお姉ちゃんときちんとお話しできていない!)
そんな私の決意に共鳴するかのように、私の右手には一本の細身の剣、レイピアが握られていた。柄の部分には、七色の宝玉が埋め込まれている。
そのレイピアの切っ先を『ラメント』に向けつつ、私は胸に刻まれた新たな『己の名』を高らかに宣言した。
「――みんなを笑顔に照らす虹の魔法少女、プリズム・スマイル! 行くよっ!」