ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
「……では、もう一度言いますが、定期連絡の他に、
発言内容にさえ目を瞑れば、まるで過保護な母親かのような口振りで、口酸っぱく念押ししてくるクラウン。そんな厄介な上司に対して、ボクは従順な振りをしつつ、彼女の独占欲を満たせそうな。ボクが彼女の所有物であることを自覚しているような台詞をつけ足しながら答える。
「もちろんです、クラウン様。ボクはフィナーレ様の忠実な
その言葉に、クラウンは満足そうに頷く。
「それでは、今晩の定期連絡に」
「承知しました」
そのやり取りを最後に、ボクはクラウンから渡されたキューブ型の魔道具で『ゲート』を形成し、振り返ることなく虚空に発生した『穴』に飛び込んだ。
宙を飛んでいたボクの両足が、移動先のコンクリートの地面につき、乾いた音を立てる。その直後に『ゲート』が閉じたのか、背後から纏わりつくような粘つく視線を感じなくなる。
「ふう……何とか無事に乗り切ったぁ……」
緊張や恐怖からガチガチに固まっていた体を解しながら、ボクは思いっきり深く息を吸い込んだ後、それを吐き出した。
決して綺麗な空気とは言い難いが、あの息が詰まるような古城のものよりは美味いと断言できる。
『ゲート』で移動した先は、ボクが普段利用している中学校への通学路。その一角の、人気が無い横道である。
『ゲート』での移動を一般人に見られる危険性を少しでも減らす為だ。それでも心配で、ボクは辺りをさっと見渡す。ひと一人すらいない。目撃者を消す必要はないようで、一安心だ。
そのまま上空を見上げる。空は茜色から、徐々に濃い闇に塗り替わりつつあった。ほぼ確定で、普段帰っている時間帯を過ぎている。
これ以上遅くなるのは事前に知らせていない学生の身分では不味い――と一瞬思ったが、ボクと今世の家族の中は冷え冷えである。
素直で可愛い妹の日奈であればいざ知らず、ボクの帰りが少し遅くなったぐらいで両親は心配することはないだろう。
それでも帰る必要はある。ボクは横道から出ようとする直前に、今の自分がどんな格好をしていたのかを思い出し、何とかその場に踏みとどまる。
「あ、危ない……」
そう言いながら、ボクは自分の服装を見下ろす。学校指定の制服の面影が一切見られない、黒色を基調とした闇堕ちドレス。
とてもではないが、こんな格好でこの辺りをぶらつくことはできない。そんな当然の結論を出して、ボクは変身を解除しようとした時に、クラウンによって覚醒させられた五感が何かを捉えて、フィナーレによって植え付けられた『魔法』が共鳴した。
今この瞬間、そう遠くない場所で、『閉鎖領域』が展開されていることに気づくことができた。
『閉鎖領域』とは、ざっくりと言えばニチアサ系でお馴染みの『ご都合主義空間』。解除すれば、一般人に目撃される恐れも、周囲の建物や環境に一切の被害を出すことのない便利な代物である。
しかし、これを張ることが可能なのは『ラフ・エンド』のメンバーのみ。ボクは当然として、クラウンやフィナーレも今回は違う。
クラウンと
そして
大半の『原作知識』を思い出せない現状、絶対にそうであるとは言えない。だが、一ファンとしての直感がボクに囁きかけてくる。
確実に、『物語』は動き出していると。
ボクは変身を解くことすらせずに、そのまま駆け出していた。誰かに見られるといった危険性があったのに。
けれど結果論で言えば、その判断は正しかった。変身していない状態での速度では、『劇的な瞬間』に完全に間に合わなかっただろうから。
――運が良いことに、常人の数倍以上の速度で建物の屋根伝いに移動していたボクの姿が目撃されるということはなかった。
ただし往来のど真ん中で展開されている『閉鎖領域』に、ボクは突入することはできない。そんなことをすれば、ボクの侵入が
後者は変身機能にデフォルトで搭載されている認識阻害で、変身するタイミングを直接見られない限りは、ボクの正体が露見することはないので、まあ良しとしよう。
だが、前者は絶対に避けなければならない。不審な、利敵行為を取ったとして、クラウンの『マリオネット』で洗脳し直されるのが一番最悪な末路だ。
抵抗という選択肢も、『マリオネット』を一度解除されたら、変身能力自体を消失してしまうので取ることはできない。
という訳で、観察するにしても、干渉するにしても『閉鎖領域』と現実世界との境界線ギリギリから試みるしかないのだ。
じっと目を凝らして、ただの住宅街の風景にしか見えない『閉鎖領域』の中を見透そうとする。初めての作業に少々手間取りながらも、内側の観測に成功した。目に映し出される光景は、砂嵐が混じったような荒いものではあったが。
しかし、そんなことが気にならない程に、ボクは見えてきたものに目を奪われていた。
――白と桃色を基調とし、胸元の七色の宝玉やリボンが印象的な華やかなドレス姿の日奈が、傍に喋る綺麗な毛並みの白猫を侍らせて。どこか彼女自身の面影が感じられる異形を相手に、レイピア一本で互角に渡り合っていた。
いや、むしろ多少衣装や肌に傷があるように見えるが、日奈の方が優勢に立ち回っている。
まさにその姿は、僅かに残った『原作知識』だけで思い描いていた『主人公』そのもの。アニメの一場面を切り取ったら、きっとこんな感じなのだろう。
ボクはその様子を、両手を火照った頬に添え、恍惚な表情で見守っていた。
この状況に至るまでの前後の流れは、残念ながら見ることは叶わなかったが、それを差し引いても生で
その一方で、冷静に現状を分析している理性的なボクもいる。
そして、その怪物を使役している黒い喪服のような衣装姿の、銀髪の少女が
銀髪の少女は、『ラメント』が押されている現実を受け入れ難いのか、罵声を飛ばしながら喚いている。普通に考えれば、『ラメント』に加勢して数の利で押せば良いと思うかもしれないが、『とある条件』をクリアしない限り、ボク達は全力を出せない。
現状では、『ラメント』の維持だけで精一杯なのだ。
(まあ……物語のお約束としても、今の状況から日奈が負けることはないと思うけど。精々、ボクの可愛い妹の踏み台になってちょうだい)
日奈の振るうレイピアが、巨人の如き影法師を象った『ラメント』の右手、両足を切り飛ばす。もちろん小さなお子様が安心して視聴できるように、血が噴き出すようなこともなく、切られた部位は霧散して消えた。
バランスを保つことが不可能になった『ラメント』が、地面に倒れ込む。より一層、銀髪の少女の怒り声が大きくなる。
日奈はその隙を見逃さなかった。レイピアを構え直して、『ラメント』に止めを刺そうとする。その後の展開も『お約束』で、日奈は華麗な初陣を勝利で飾る――はずだった。
何と喚いていただけの銀髪の少女が、怒りに身を任せて持っていた日傘を折り畳み、その先端部分から雑に魔力弾を放つ。万全の状態であれば、狙いも碌に定まっていない攻撃など、日奈はあっさりと避けてしまっていただろう。
だが、意識を完全に隙だらけの『ラメント』に集中していたせいか、魔力弾が着弾しようとする寸前まで日奈はその存在に気づいている様子はない。
それが日奈の負けに繋がるのか、そんなこともお構いなしに勝利をもぎ取るのか。それとも、元々の決まりきった流れなのか。『原作知識』の大半が欠落しているボクには分からない。
ただ、このままでは日奈の初勝利にケチがついてしまう。何れボクの掌中に収めるとしても。いや、だからこそ『推し』には最後の瞬間まで、ずっと輝いていてほしいから。一ファンとしての厄介な部分が、そう思ってしまった。
「――『ハート・ストリングス』っ!」
そうなったら、自分でも体を止めることはできず、咄嗟に『ラメント・コール』とは別のもう一つの魔法を発動していた。ボクの右手に握られている一振りの杖、その先に括りつけられたひび割れた宝玉から、魔力で練られた不可視の『糸』が伸びる。
獲物に絡みつこうとする蛇のように。その対象は――。
◆
理不尽に襲われて、訳の分からないまま喋る白猫に『魔法少女』に変身させられる。
まさにアニメや漫画のような異常事態に巻き込まれてしまったが、発現した力は凄まじく、戦闘経験が一切ない私が『ラメント』と呼ばれる怪物相手に有利に立ち回れていた。
だから、油断していなかったと言ったら嘘になる。さっさと怪物を倒して、お姉ちゃんと今度こそお話をする。どれだけ拒絶されようとも、無視されようとも、その真意を問いただす。
もしも私に原因があるのなら、それを頑張って改善するつもりだ。終わった後のことに意識を割きすぎたのも一因だったのだろう。
私が魔法少女プリズム・スマイルに変身し、名乗りを上げてから、全く戦闘に割って入ってこなかった銀髪の少女が放った攻撃。
直撃しそうになるタイミングまで、私は認識できなかった。
(後もうちょっとで、倒せそうだったのに……それよりも痛いのは嫌だな)
その思考の後に訪れるであろう痛みに備えて、ぎゅっと目を瞑る。なるべく恐怖や混乱を抑えて、すぐに反撃に移れるように。
しかし、一秒、二秒経っても衝撃や痛みがやって来ることはない。恐る恐る瞼を持ち上げてみると、『ラメント』が両足が欠けたとは思えない挙動で、魔力弾の射線上に踊り出ていた。
『ラメント』の背中部分で、小さくない爆発が起きる。痛みに堪えるようなうめき声が漏れ出た。
(え、まさか私を庇ったの?)
「な、何で『ラメント』が魔法少女を……!?」
そのあり得ない光景に、私の思考が別の意味で止まりかける。それは銀髪の少女も同じような反応を示す。
だが、私を庇ったというのは勘違いだったらしい。『ラメント』は残った左腕を振り上げて、私を叩き潰そうとしてくる。
不可解な現象の真相が分かり、私は一足先に混乱から脱した。そんな私の背に、あの白猫から声がかけられる。
「――プリズムスマイルっ! さっきみたいなことがないように、一撃で仕留めるんだ!」
私は「どうやったらいいの!?」と聞き返すことをしなかった。その時間すら惜しかったのもあるが、実際には必要なさそうだからだ。
覚悟を決めてから、この力の使い方が手に取るように振るえるから。
不格好ながら急接近してくる『ラメント』を前にして、私は再びレイピアを構え直した。意識を研ぎ澄まし、刹那の時間で魔力を洗練させる。
それに呼応するように、構えたレイピアが七色の光を纏う。空気が一変した。そのことに私以上に敏感であろう『ラメント』は、より必死さを増す。
――その全てが、今の私にはとても遅く感じられたが。
地を蹴り、私の方からも『ラメント』に近づき――影法師の胸に当たる箇所に、レイピアの切っ先を差し込む。
「――『プリズム・スマイルシャイン』っ!」
技名を唱えると同時に、私の魔力が『ラメント』に注ぎ込まれ――モノクロの世界を光で満たした。
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