ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい   作:匿名希望

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第七話

 

 

 ――眩い閃光が収まった後、『ラメント』と呼ばれた巨大な影法師の姿は文字通りに影も形もなかった。いや、異変はそれだけではない。

 『ラメント』を操っていた謎の少女の姿もなく、色が失われていた世界は元通りの夕方の住宅街に戻っていた。

 

 

 残された異物は、空中をふわふわと漂う白猫と――コスプレでしか見ないような衣装姿の私だけ。慌てて周囲を見渡す。幸いなことに、通行人はいないようだ。

 しかし強化された五感が、そう遠くない位置に人の気配を拾っていた。

 

 

「最後は危なっかしかったけど、『ラメント』の撃破おめでとう。君には――」

「ちょっと黙っててっ!?」

 

 

 白猫を掴んで、急いで路地裏に身を隠す。ここでなら、すぐに誰かに見つかるようなことは――私の社会的な名誉が地に落ちることはないはずだ。

 声を抑えながらも語気を荒げるという、雑なのか器用なのかよく分からない技術を無意識の内に披露してしまう。こういう場面でしか役に立ちそうにないが。

 

 

 そんな私に一切構わずに、白猫は変わらない平坦な調子のまま、喋り続けようとしてくる。

 

 

「……いきなり何をするだい? せっかく僕が労いの言葉をかけようとしたのに、それを遮ったりするなんて……」

「そういうのはいいから、さっきの怪物や女の子はあなたはどういう存在なの? 早く説明……いや、それよりも服を元に戻してくれない!?」

「……注文の多い子だな。その衣装は君の魔力で構成されている。君が元に戻れと念じれば、思いのままさ」

「本当だよね……?」

 

 

 やれやれといった雰囲気を醸し出す白猫に対して、懐疑的な視線を向ける。

 と言っても信じるしかないので、目を閉じ言われた通りに心の中で「元に戻れっ!」と強く念じる。何かのスイッチがオフに切り替わるような感覚がし、恐る恐る瞼を開けて目線を下に落とす。

 そこには見慣れた中学校の制服があった。私は安堵の息を吐く。

 

 

「ああー、良かった……いつもの制服だ」

「せっかく似合っていたのに」

「だから、そういう問題じゃなくて……!」

 

 

 今度こそ色々と問い詰めようとしたタイミングで、聞き覚えのある少女の声が背後から聞こえてきた。

 

 

「もうー日奈、いきなりどこに行ってたの! 全然探して見つからなかったし、電話にも全然出ないから心配してたんだから」

 

 

 白猫を背中側に隠すようにしつつ、私は慌てて振り返る。やはりいたのは、友達であるひかりちゃんであった。

 しかし、その表情は少し怒っていることを主張するかのように、頬が膨らんでいた。それに気づいた瞬間に、私は頭を下げる。

 

 

「ご、ごめんね、ひかりちゃん!?」

「まあ無事みたいだし、それはいいとして、どうしてこんな所に? 何かあったの?」

「それはえーとね……」

 

 

 私は目を泳がせて、答えに言い淀む。あの不可思議な出来事を正直に話したとしても、ひかりちゃんは信じてくれないだろう。

 むしろ余計に隠し事を疑われて、心配させるか怒りを深めるだけだ。

 

 

 口ごもっている私に向けるひかりちゃんの視線が、段々と疑わしいものになっていく。そして、遂には私の背中にある『何か』に注がれた。

 ひかりちゃんの目がスッと細められる。

 

 

「……日奈、私に何か隠しているでしょ? その背中にある奴、見せてくれない?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!? ひか――」

 

 

 ひかりちゃんが強引に迫ってきて、その『何か』の正体を暴こうとしてきた。それに抵抗を試みるも、先ほどまでの疲労も合わさり、あっさりと私が隠そうとしていた『秘密』が今白日の元に晒されようと――。

 

 

 だが、ひかりちゃんの反応は私の予想とは異なっていた。

 

 

「あっ、猫ちゃん……ふーん、なるほど。猫ちゃんを見つけた時に、この子の可愛いさの魔力にやられちゃったのねー。日奈も可愛いらしい所あるじゃない」

 

 

 このこのと肘で軽く私を突いてくるひかりちゃん。私は彼女の勘違いを天からの助けだと信じて、全力で乗っかることにした。

 

 

「あははっ、バレちゃったか……」

「ねー、その猫ちゃん私にも見せてくれない?」

「べ、別に構わないよ」

 

 

 本当は嫌ではあったが、話の流れ的には断る訳にもいかない。私は引きつった笑みを浮かべながら、白猫を差し出す。

 伝わるか分からないが、ひかりちゃんには気づかれないように、白猫に目線で合図を送る。絶対に彼女の前では喋らないようにと。

 というか、伝わってくれないと非常に困る。そんな必死の思いが通じたのか、ひかりちゃんに話しかけられたり、首や頭を撫でられたりしても、さっきまでのように人間の言葉で話すことはなかった。

 それに明らかに異様であった、尻尾の先で浮遊していた蒼色の宝玉が無くなっている。

 

 

 その様子に安心しつつも、何の拍子に喋り出すのかと内心ずっとハラハラしていた。そんな私の葛藤を知らずに、ひかりちゃんは表情筋をダラシなく緩めながら、私に尋ねてくる。

 

 

「この子ってどこかの飼い猫かな? 随分と人懐っこいけど」

「んー、どうだろう? 首輪は嵌めてないけど、リボンが巻いてあるからそうなのカモ……」

「急に片言になったけど……まあ、それは良いとして。このままお持ち帰りしたいけど、そういう訳にはいかないよね。ここでお別れか……」

 

 

 そう言って、ひかりちゃんは名残惜しそうに白猫を地面へと降ろす。この状況は私にとって有り難い反面、何の説明も受けれていない点が非常に不安だった。

 さっきのような怪物や少女が、またいつ襲ってくるかも不明であるから。そこで、私は一つの妙案を思いつく。

 

 

「ねえ、もしも迷い猫だったら飼い主さんが困っちゃうだろうし、私達で一時的に面倒を見ない? 飼い主さんには、チラシとか作って呼びかけたりして。……どうかな?」

 

 

 同意を求めるように、ひかりちゃんの顔を窺う。反対されるかもと一瞬過ぎるが、そんな想像とは裏腹にひかりちゃんはこの提案に乗り気だった。

 

 

「良いじゃん、そのアイデア! 合法的にこの子と一緒にいられるし、万が一のことを心配する必要もないじゃん」

「う、うん……それで私が預かっても良い? 私が言い出しっぺだから。もしも両親に聞いて駄目だったら、ひかりちゃんに頼むことになるけど……」

「うん、私はそれで構わないよ。そもそも日奈がこの子を見つけてくれたから、保護ができたんだし」

「ありがとうね……」

 

 

 逃げ出すこともなく、大人しく座っていた白猫を私は両手で優しく抱きかかえる。その際にも、白猫は暴れる素振りは一切見せない。首をこちらに向けて、知性を感じさせる蒼色の瞳で私を見つめてくる。

 それがより一層、先ほどまでの出来事が夢ではなく、実際に起きたことである実感を深めさせた。

 

 

 

 

 ――『ラメント』が倒されて、レクイエムが撤退し『閉鎖領域』が解除されるタイミングで、ボクも急いで距離を取って電柱の陰に隠れ、変身を解いた。

 これで日奈達にボクの姿を見られたとしても、偶然通りかかった風を装えば良いだけだ。

 

 

 ボクは胸の内に溜まっていた余熱を噛み締めながら、熱い吐息を吐く。脳裏で繰り返し再生されるのは、さっきまでの光景――魔法少女に変身した日奈と怪物の一戦。

 特にプリズム・スマイル(日奈)の必殺技である『プリズム・スマイルシャイン』が炸裂する瞬間は、生きていて良かったと心の底から言える程に素晴らしいものだった。

 

 

 ……ただし、ちょっとだけ棘が喉に引っかかたような心残りや罪悪感がある。それは状況的に仕方なかったとはいえ、こんな序盤にボクが多少干渉してしまったことだ。

 

 

 先ほどの『ラメント』の日奈を庇うような行動。あれはボクの魔法『ハート・ストリングス』によって引き起こされた現象だ。

 その効果は、ボクと互いに好意を抱いている相手を自由自在に操れるというもの。その洗脳度合いは、好意の大きさに比例する。

 あの『ラメント』は、ボクの大事で可愛い日奈から生み出された個体である。当然、ボクが愛する対象だ。

 肝心の日奈の方から、ボクに対しての愛情の有無。そこだけが心配であったが、ボクの魔法は無事に発動した(・・・・・・・・・・・・・)。つまりは、『記憶』が戻ってからあんな接し方ばかりをしていたボクを、日奈も彼女なりに好いてくれていたということになる。

 

 

 その衝撃の事実のあまり、暗い喜びが湧き上がってきて、魔法の制御を誤りそうになった。だが、不自然にならない程度に、ボクはあの『ラメント』を操りレクイエムの邪魔をして、日奈の活躍を御膳立てしたということになる。……本音を言えば、ボクが介入しない日奈(主人公)の戦いを見てみたかったが、まだまだ『本編』は始まったばかり。

 今後もいっぱい、日奈のカッコいい勇姿は見られる機会はあるだろう。そう自分を納得させて、ボクも家に帰ることにした。

 

 

 帰っている最中、「日奈がボクのことを嫌っていなかった」という事実を何度も脳内で反芻し、歪みそうになる口角も御するのに多大な労力を要した。

 しかし、その努力も実り、我が家の前にたどり着く頃には、いつもの無愛想な無表情に戻っていた……と思う。玄関を潜る前に、念の為にもう一度表情筋を手で触って確認。異常なし。

 

 

「……ただいま」

 

 

 扉を開けて、帰宅を告げる挨拶の言葉を口にした。普段であったら、応えてくれる人間は悲しいながら存在しない。

 まあ自業自得と言えばそうなので、今日もそうなのだと漠然と考えていた。けれど、今のボクに一抹の寂しさも存在しない。

 だって、日奈(『推し』)がボクのことを認知して、見限っていないから。その事実と何れ達成すべき『目標』がある限り、ボクは今までのように――いや、今まで以上に頑張れる。そう豪語できる自信があった。

 

 

 ――だけど、この世界はボクに優しいものであったらしい。

 

 

「お、お姉ちゃん……お帰りなさい」

 

 

 玄関先では、日奈が制服姿のままでボクを待っていてくれた。それだけではなく、「おかえり」まで言ってくれるなんて……嬉しすぎて、また歪んだ笑みを浮かべそうになってしまう。

 それを我慢しつつも、一歩ではあるが歩み寄りの姿勢を見せる。本当はもっとぐいぐい行きたいが、いきなり距離を一気に詰めては違和感しかないだろう。

 そう自分に言い聞かせながら、ボクは努めて無表情のまま、こう言った。

 

 

「……ありがとうね、日奈」

 

 

 そのボクの言葉に、日奈が驚いた様子で目を見開く。その珍しい顔を脳内フォルダに焼きつける。今晩はこの表情で、ご飯は三杯はいけるなぁと考えながら、返事を待たずに日奈の横を通り過ぎた。




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