ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい 作:匿名希望
――私は自室のベッドの上で、枕を抱きしめながら心の底から湧き上がってくる喜びを噛み締めていた。嬉しさのあまり、口元や頬はだらしなく緩んでしまっている。
あれだけ突き放してきた態度のお姉ちゃんが「ありがとう」と言ってくれたのだ。何に対してのお礼かは分からないけど、お姉ちゃんの方から声をかけてくれた。
それだけでも、私にとっては夢のような出来事だった。この部屋には私以外の人間はいないので、夕食に呼ばれるまで、もう少し熱に浮かされていようと思っていたら、枕元から声が投げかけられる。
「おーい、いつまでニヤついているんだい」
意識外からの声に、私を焦がしていた熱は嘘のように冷めてしまい、逆に嫌な汗が流れそうになる。油の切れた機械人形のように、首を角張った動きで声がした方向に向ける。
その先にいたのは、人間ではなく一匹の上品というか知的な雰囲気を纏った白猫であった。ただの猫だから安心という訳は一切なく、呆れた調子で小さな口を開く。
「……全く、説明を求めてきたのは君の方だったと僕は記憶しているけど」
「ご、ごめんっ……アリアちゃん」
「はあ……」
アリアと自分で名乗った白猫は、その体の大きさに見合わない大きなため息を吐いた。
ちなみにアリアちゃんの飼育許可は、もう既に両親にはもらっている。お母さんは、一目見てアリアちゃんの可愛さにイチコロ。仕事中のお父さんには、メールに写真を添付してから数分後には了解の返事が届いてきた。
後はお姉ちゃんにも紹介したかったのだが、帰宅部であるはずの彼女はまだ帰ってきておらず、心配で携帯で連絡――をする勇気は湧いて出てこない。
同じ家で生活していても疎遠気味で、お姉ちゃんとは碌に連絡を取ったことはなく、私は玄関先でただ漫然と待ち構えるという中途半端な選択肢に落ち着くことになった。
結局は目的は果たせず、私は醜態をアリアちゃんに晒すだけに終わってしまったが。
いや、良いことも一つはあった。それだけで、私にとっては無駄な時間ではなかった。アリアちゃんについては、後でお姉ちゃんに伝えるとしよう。
「……それで、そろそろ話しても構わないかい?」
「うん、大丈夫」
「と言っても、何から話すべきか……そうだね、ヒナは今日あったことをどのくらい理解できているんだい?」
「えーと……」
ほんの数時間前の出来事を振り返る。何度思い返しても、現実味なんてこれっぽっちもない。理解もほとんど追いついていない。
だから可能であれば、一から十全部を説明してほしい。こういうのは最初にきちんと聞かないと、ズルズルと尾を引いて後悔する場面が来てしまう。そんな予感があった。
「……できれば、全部教えてほしいかな?」
「まあ、仕方ないか。ヒナを巻き込んでしまったのは、僕の責任でもある。
今不穏な内容が聞こえた気はしたが、一旦はそれは置いておく。一言一句も聞き逃さないように、アリアちゃんの話に耳を傾ける。
――アリアちゃんと、私が戦った『ラメント』と呼ばれる怪物を使役していた少女は、地球とは別の世界からの来訪者らしい。
始まりは、アリアちゃんの住んでいた世界をあの少女が所属している組織――『ラフ・エンド』が襲ってきたこと。
全ての世界を悲しみに染めて、夢や希望の一切を奪い去った
そんなとち狂った実質的な世界征服を果たしたいという動機。
当然そんなことは受け入れられる訳もなく、アリアちゃん達は『ラフ・エンド』に全力で抵抗したが、その努力は中々実らず、『ラフ・エンド』の狂気は確実に蝕んでいった。
あわやアリアちゃん達の世界は悲しみに覆われて、その毒牙はまた別の世界に向けられるだろう。
本来であれば、そうなるはずだったが、奇跡的に誕生した『魔法少女』と呼ばれる戦士達。彼らの活躍があり、一気に勢いを巻き返し、『ラフ・エンド』はアリアちゃん達の世界から撤退をした。
しかし『ラフ・エンド』が壊滅していないので、その脅威は依然として健在。弱体化しているはずの『ラフ・エンド』を今度こそ滅ぼすべく使命を受け、苦心の果てに開発した『契約システム』を携え、アリアちゃんは『ラフ・エンド』の後を追いかけ続けた。
「……つまり、追いかけてきた先でこの世界にたどり着いて、偶々才能のあった私と『契約』を結んで魔法少女にしたっていう感じで良いのかな? アリアちゃん達の世界にいる魔法少女達じゃ駄目だったの?」
「……言い忘れていたけど、僕達の世界にはまだ『ラフ・エンド』の残党がいて、彼女達を動かすことはできないんだ。……ヒナと勝手に『契約』した件も、きちんと説明をした上でしてもらうつもりだったけど、『ラメント』にされかけていたからね。
言い訳に聞こえるかもしれないが、不可抗力だった。すまない」
そう言葉を締めくくり、頭を下げて謝罪のポーズを取るアリアちゃん。語られたスケールの大きさに戸惑いつつも、彼女が私に頼みたい内容はある程度推測することができた。
「……アリアちゃんさっき言ってた私に協力してほしいことって、私に『ラフ・エンド』と――」
「――戦ってほしい。本当にこちらの都合を押しつけていることは理解しているけど、ヒナにも悪い話ではないはずだよ。
『ラフ・エンド』の奴らは、この世界を次のターゲットに定めている。君にしようとしたことを、これからもっと多くの人間にするはずだ。自分達が過ごしやすい――全力で力を振るえる世界を作る為に。その未来の犠牲者の中には、ヒナの大切な人達も含まれるだろうね。
その人達を守れる力を得られたんだ。メリットはあるだろう? ……もしも戦うのが怖いって言うんだったら、ここで『契約』を解除してもらっても――」
「――ううん、私やるよ、魔法少女」
アリアちゃんの発言を遮り、決意の言葉を続ける。
「アリアちゃんの話を聞いて、はいそうですかって無関係な顔できないよ。……それに、私の大事な人達にあんな痛くて、苦しい思いはしてほしくはないから」
私の覚悟を聞いて、アリアちゃんは安心した表情を浮かべる。
「……それは良かった。ヒナが協力してくれるのだったら、僕も心強いよ。だけど、いくら弱体化しているとはいえ、『ラフ・エンド』は手強い組織だ。できれば、仲間を見つけてほしい」
「仲間って言っても誰でも良い訳じゃないんでしょ? こういうのって」
私の疑問に答えるように、アリアちゃんは頷く。
「そうだね、魔法少女になる為にはある才能が必要になってくる。『誰かを幸せにしたい』という純粋な思いや願い。
それを強く宿している女の子が、魔法少女になる資格を有するんだ。……まあ、一目見て分かる類のものではないんだけど。ヒナを見つけられたのも、ほとんど偶然さ。
……これで大体は説明したけど、何か分からないことでもあるかな?」
「……ううん。教えてくれて、ありがとう。これからもよろしくね?」
「こちらこそ頼むよ、ヒナ」
そう言って私は右手で、アリアちゃんは右前脚で握手を行う。また新しい絆や繋がりが、私達の間に芽生える。
(……だけど、魔法少女の仲間かぁ)
その一方で、私は魔法少女として一緒に戦ってくれそうな――あるいは戦ってほしい人達を頭に思い浮かべてしまう。
(ひかりちゃんと……お姉ちゃん。魔法少女になったら、どんな格好になるんだろう? きっと二人とも、私よりもかっこよくて可愛いだろうなぁ……)
だが、頭を振ってその考えを振り払う。だって、その人達こそ、私が守りたい大事なものであるから。
◆
――学校から帰宅し、しばらくして夕食を
むしろ、良い変化として受け止めてくれたのではないのだろうか。日奈が嬉しそうにしていたから。
ボクの方も心境の変化があり、積極的に――とまでは言えないが、今まで疎遠にしていた分、少しずつ日奈に歩み寄ろうとしている。
もちろん、なるべく『原作』らしい展開を壊さずに終盤まで静観する。そのスタンスに変わりはないが。
静かな、ぎこちない会話が飛び交い、決して心穏やかな食事風景とは言えないだろう。しかしボクも両親と同じく――いや、それ以上に
前世とは勝手が違い、今の体は食べた量がそのままダイレクトに反映される傾向があるので。
話題の一環として、日奈からニチアサお約束のマスコット枠であるアリアについての情報を得つつ、ボクは食事を終える。本猫を見せてもらったが、魔力を帯びている以外は普通の猫にしか見えない。
ボクの方も魔力を隠しているし、変身した姿に付与されている認識阻害の魔法もあるので、正体が露見する心配はまずないだろう。直接、変身するタイミングを目撃されない限りは。
後は残った生活での習慣を片づけて、眠りに就くだけ――という訳にはいかない。
今のボクの肩書きは、ただの女子中学生ではなく、世界征服を企む悪の組織『ラフ・エンド』の幹部の一人。上司の命令には従う必要がある。……まあ一日の複数回の定期連絡は、クラウン自身の所有欲を満たす為のものであろうが。
クラウンから貸し与えられた『ゲート』を開くのにも使ったキューブ型の魔道具を起動させる。そこから紫色の光が照射され、空中に一つの立体映像が現れる。
そこに映し出されていたのは、当然の如く道化師をモチーフとした衣装と仮面に身を包む女性――クラウンであった。
私は寝間着姿であるものの、表情や雰囲気だけは引き締めて、畏まった態度を取る。
「――定期連絡の時間です、クラウン様」
『
そう満足そうに口元を歪める一方で、高性能なマイクがクラウンのボソッとした小さな呟きを拾ってしまう。
『……残念ですね、一秒でも約束の時間に遅れれば、それを大義名分にサンセットを連れ戻せていたのですが……』
何か物騒な内容が聞こえた気はしたが、聞こえない振りをするとしよう。
クラウンからボクへの執着に内心辟易させながらも、淡々と。時にはクラウンやフィナーレを賛美するような言葉を添えつつ簡単な報告を終える。そもそもクラウンの認識では、ボクはアジトから自宅へと帰っただけなのだから、話すべきことは皆無に等しい。
最後に「失礼します」と言って、クラウンとの通信を切ろうとした瞬間に待ったがかけられた。
『……やっぱり我慢できそうにない。――ああ、サンセット。今からでも少しアジトの方に寄って頂けませんか? 貴女も同僚との顔見せは必要でしょう』
「別にそれは急ぎの用では……」
『――
「……承知しました」
クラウンの言外に滲ませた圧力に負けてしまい、ボクは素直に首を縦に振ることしかできなかった。
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