簡雍酔夢   作:高島智明

10 / 20
第10席 反董卓連合

悪逆非道なる董卓を討つべし!

袁紹と曹操が発した檄文は、劉備軍の拠点である幽州平原県にも届いた。

 

同志たちが集まって、協議が開かれる。

「やっぱり来たか。”魔王”董卓に対する連合軍への参加の檄文が」

北郷一刀は、やや興奮気味だ。

だがしかし、俺はあることを心中秘かに思っていた。

 

「御遣い様の「天のお告げ」にも、今度ばかりは何か在るのでは無いですかな」

「どういう意味だ?簡雍」

「ご主人様が天の国で聞いた話にも、時には此の国での実際と少しズレがあったりするかも知れない、ということですよ。

例えば、張3姉妹が妖術使いというよりも「天の国」でいう処の”あいどる”とかだったとか」

「それを言われると弱いけれど」

「ですから、ご主人様はまるで董卓が此の檄文に在る通りの悪逆非道と思い込まれていませんか」

 

そう、一刀は『三国志演技』に書かれている通りの”魔王董卓”を前提にしている。

だがしかし、俺は知っている。

『恋姫』の『原作』に表現されている通りの、真名を月(ゆえ)という乙女の知識を。

 

「それに、朱里、雛里。お前たち何かを焦って居ないか?」

「はわっ、どういう意味でしょうか」

「お前達程の軍師が、まるで此の檄文に何の疑いも持っていないかの様だ、ってことさ。

何時ものお前達なら、独自に情報を取ったり自分で考えたりして、この檄文の裏を取るくらい簡単だろう」

 

軍師コンビは、暫し顔を見合わせてから真剣な表情に成った。

「確かに、焦っているかも知れません」

「今の桃香様は、まだ出遅れておられます。袁紹さんや袁術さん、曹操さんや呉の孫堅さんにも」

「この様な檄文が罷(まか)り通り、諸侯の連合軍が兎も角(ともかく)帝都の「相国」を攻める等と言う時勢に成れば、来るのは群雄割拠の時代です」

「その中から桃香様が勝ち上がり、天下を3分程にもする其の1人に成し上がる為には、ここで出遅れる訳には行きません」

「桃香様の理想を実現する為にも」

本音を遂に吐いた。

実の処『原作』を知っていても疑問だった。

伏竜鳳雛程の軍師が付いていて、この実は出鱈目な檄文に「義」の軍の筈の劉備軍が乗ったことが。

幾つかの2次創作などでは、アンチ桃香のネタにされている位だ。

 

「朱里ちゃん、雛里ちゃん。有り難う。でも、私は間違ってはいないよね」

「桃香。あえて幼馴染みの言い方をさせてもらう。桃香はどうしたいんだ」

「(簡雍の真名)君。今日はどうしたの?」

「何、酔っ払いの戯言とでも思えば好いさ。だけど、桃香には後悔して欲しくない」

そこへ、幽州北平群太守である公孫賛からの呼出が届いた、との報告が在った。

 

「白蓮ちゃんが何の用かしら」

「はわっ、おそらくは此の檄文についてでしょう」

「あうっ、今の私たちは、公孫瓚軍旗下の1軍という立場ですから、公孫賛さんが参加すると言えば、断るのは難しいです」

「分かったわ、白蓮ちゃんに会って来る。

でも、本当に帝都の人たちが苦しんでいたのなら見捨てられない」

公孫賛(真名白蓮)の用件は、想像通りだった………。

 

……。

 

…その夜。

俺が1人酒にしている処へ、一刀がやって来た。

「どうされました。確か、ご主人様は「天の国」では、未だ酒は禁じられていた筈ですが」

「簡雍。お前は何を知っているんだ?」

俺は迷った。俺の知っていることをぶちまけるべきか。

『恋姫』というゲームのこと。

そもそも北郷一刀の「天の国」は『恋姫』の姉妹作に当たる恋愛ゲームの世界だったこと。

そして俺は”ゲーム”の存在した「正史」の世界から転生して来たこと。

だがしかし、今はぶちまける時では無い様に思えた。

 

「何、酔っ払いの戯言でしょう。只、桃香には後悔して欲しくないのです」

何だか無理がありそうだが、何とか俺は一刀を誤魔化した。

黄河と遠く長江まで続く運河とが合流する、その至近に位置する「敖倉(ごうそう)」

ここは「秦」帝国以来の“物流ターミナル”だ。

産業革命以前の陸上交通の事情、黄河や長江といった大河に恵まれた地勢、当然ながら物流における水運の地位は高い。

 

帝都洛陽の南を流れ黄河に合流する洛水。

その合流点から、少しばかり(あくまで中国的スケールで)下流に敖倉は位置する。

この敖倉に帝国各地で租税として取り立てられた穀物は集められて蓄えられる。

「現代」日本でも見覚えのある石油とかの「備蓄基地」そのままの光景。

立ち並ぶ半地下式の「穀物タンク」が、中華帝国のスケールというものを視覚からも納得させる光景。

帝都の様な城壁都市の城内にあるような町並みの代わりに、そうした「タンク」が城壁の中1杯に立ち並んでいた。

 

結局の処、下流側から帝都に攻め上る軍は敖倉を集結点とし、洛水沿いに進軍するしか無い。

少なくとも、今回の連合軍ほどの規模になってしまえば兵站ラインからもそうなる。

その結果として洛水沿いの街道を封鎖し要塞化された関門が決戦場となるのも、ある程度の必然性を持っていた。

 

かくて、連合軍は敖倉に集結しつつあった。

敖倉へ進軍する公孫賛軍を追走する劉備軍の軍中。

 

この進軍の途中で珍客、と言うのは本人に失礼な訪問者が在った。

 

「我が主君を求めて参った」

そう主張する甲冑姿の少女の容姿は『恋姫』とは別の「美少女ゲーム」のヒロインの1人だった海賊貴族を、鈴々や朱里、雛里程度に幼くした様だ。

 

「私は荊州襄陽城にて「三顧の礼」を目撃いたし、我が「真名」を捧げる御方はただ1人と定めました」

続けての名乗りには、内心で驚かされる。

「我が姓は黄、名は権、字は公衡。そして、真名は霧花と申します。

この真名をただ1人のご主君に捧げます」

「黄権だって?!」

 

一刀だけでは無い。俺だって内心はビックリだ。

「正史」では”黄権”は劉備が蜀の王に成ってから仕えた蜀の地元出身者だ。

無論、劉備とは互いに信義で結び合っていたが。

 

「黄権」なら多分は信頼出来る、と一刀が弁護したことも手伝って、黄権真名は霧花という同志が又1人加わった。




今話のラストに登場した霧花は、外伝的作品『黄権伝』のヒロインです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。