簡雍酔夢   作:高島智明

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第11席 汜水関

敖倉(ごうそう)に到着した公孫賛軍は空いている場所に陣営を設営し始め、白蓮は軍議に出かけていった。

今だ劉備軍の立場は公孫賛軍の中の1軍に過ぎない。だから軍議には出ない。

「お人好し」の桃香本人よりも愛紗辺りが憤慨するかもしれない様な、不愉快な事が起きるかもしれない。

そんな場所へなんか、わざわざ出るまでも無い。

その前に実績と名を上げる方が先だろう。

 

だがしかし北郷一刀は、軍議に出かける前の白蓮に「天の御遣い」のお告げをしっかりと吹き込んだ。

同席する桃香や朱里、雛里たちも加勢した為、白蓮は真剣な態度に成って軍議に出かけて行った。

 

尤(もっと)も、俺こと簡雍は、

(「正史」の董卓なら兎も角(ともかく)『恋姫』の”あの”娘がそんなことするかな)

と思いながらも、一刀たちの好きにさせていたが。

 

先ずは軍議の最初では、現段階で最も名が知られてもおり最も多くの兵を連れても来た、袁紹(真名麗羽)が「総帥」で、決起を呼びかけた曹操(真名華琳)が「参謀」と決まった。

さて、具体的な作戦を検討する段に成って、白蓮の指摘した「董卓軍に取られたら危険な策」というのが麗羽を少しばかり不機嫌にさせた。

だがしかし、華琳が真剣に聞き、

「貴女、意外ね。優秀な軍師でも付いているのかしら」

等と評価した為、真剣に対策が協議された。

俺たちの劉備軍では、一刀が同志たちに警告していた。

そう、この戦いには、やつが出てくる。

 

「俺が知っている話だと、張飛、関羽ともう1人の3人が、まるで走馬灯の如くかかっても結局は逃げられたし、その途中では危なかったかも知れない程の「モンスター」なんだ。

呂布というやつは」

 

「“もんすたあ”って何なのだ」

「俺の国で、怪物とか、化け物とかいった意味だ」

意味が理解出来てしまうから恐ろしい。

そんな相手が居る軍を相手にして、それでも諸侯連合軍を出し抜いて、劉備軍の名を上げる。

課題は小さく無かった。

尤も、愛紗とか鈴々とか星とかは、余計に張り切ってしまったが。

軍議では、董卓軍の「焦土作戦」が真剣に討議された。

公孫賛が最初に指摘した、実は「天の御遣い」の「お告げ」だったのだが、董卓軍は最悪の場合、帝都洛陽を焼き払って、より拠点の涼州に近い古都長安に遷都してしまうかも知れない。

そう成ったら連合軍の負けだ。

 

華琳が白蓮に加勢する形に成った為、麗羽も不機嫌を引っ込めて、対策を検討した。

結論は、速攻で洛陽を包囲する。

その為には、汜水関と虎牢関の2つの関門を速攻で突破する、先ずは手前の汜水関に連合軍に参加している諸侯の波状攻撃を仕掛ける、という結論に成った。

その汜水関で何が起こっていたかは、俺とて『原作』から想像するしか無かったが、後で判明したことに因れば、こうだった。

 

華雄(真名猫(まお))は、汜水関の守りを急ぎ固めようとしていた。

軍師である詠は、この段階に至って霞・恋・音々音や猫たちを集めた。

主君である月(ゆえ)の顔も見せた。そして、詠が知っている限りの「真相」を明かした。

皆が唖然とした。ひと時の詠が他の誰も信じられなかったというのも、納得はしないが理解した。

 

その上で、詠は依頼した。

「こうなったら何としても、月だけは涼州に返したい。

だけど、月を逃がす好機を見つけるだけでも、時間が必要なんだ。

君たちは信じられても、他に誰を信じられるか分からないんだよ。

ボクを憎むなら憎んでいい。月の為に時間を稼いでくれ」

 

この時の猫の心境は、あるいは間も無く対峙するであろう関羽には共感出来たかも知れない。

何れにしろ、彼女はこの関門で命を懸(か)ける積もりだった。

後方の虎牢関より先に、時間稼ぎの捨石に成るだろう。それを承知で戦おうとしていた。

軍議の結果は、結局、無難なところに落ち着いた。

波状攻撃、各軍が1軍ずつ順に攻めかかる。

元々、指揮系統のバラバラな連合軍である。

片や、洛水沿いの限られた平原には全軍を展開はさせられない。

決められたのは攻撃する順番である。

 

軍議で先ず、公孫賛(真名白蓮)が指摘し、参謀である曹操(真名華琳)も納得した「董卓軍の最悪な可能性」華琳にしても、本当に実行されれば最悪であることは理解出来る。

董卓に時間を稼がれない様、華琳は主張した………。

 

……。

 

…連合軍対董卓軍の戦いは、汜水関攻撃の第1陣、呉の孫堅軍の攻撃から始まった。

 

戦況は互角。

もしも孫堅軍の規模が、第2陣の袁術軍ほどもあれば、持ち堪(こた)えられなかったかも知れなかったが、現実には持ち堪えた。

 

シビレをきたしたか、袁術軍が替わろうとし、しばし混乱する。

無理も無い。

元々この規模の軍同士を入れ替えながらの波状攻撃となれば、同じ指揮系統の軍同士でも簡単では無い。

そこにきて連合軍だ。

(劉備軍もとい公孫賛軍は、5番手だったな。多分其処で此処の決着は付くだろうけど)

劉備軍の補給部隊を采配しながら、俺は自分の「知識」を思い返して、目前の戦況と照らし合わせていた。

 

「そろそろ出番なのだ―」

「出来れば速攻で決めたいんだけど、朱里か雛里に策は無いかな」

洛陽を燃やされる前に決着をつけたい一刀が尋ねてみた。

桃香も付け加える。

「それと、出来れば犠牲が少ない様に出来ないかな」

「あうぅ…「上」「中」「下」の3つの策ぐらいならありますが」

(確か、鳳統がこう言った時だったら)

と、思いながらも一刀が助言した。

「多分、中策が桃香の気に入ると思うけど」

「では、桃香様が陣頭に出て、敵を挑発して下さい」

「え?私が」

「大丈夫です。敵の主将である“魔王董卓”の罪を唱えれば好いです。

今回の連合軍の大義名分でもありますし、数えれば10位はあります。

その辺りで挑発の効果は出ます。

そうしたら、愛紗さんとの1騎打ちに持ち込んで下さい。

多分、それで片が付きます」

「う―っ。鈴々ではダメなのか―」

朱里が指摘した。

「鈴々ちゃんでは、芝居っ気の点で敵が乗らないかも知れませんので」

 

念の為、確かめてみたが「上」は汜水関だけでは無く虎牢関も無視して、帝都を目指す。

現在の劉備軍程度の小勢なら抜けられる道ぐらいは在る。

「下」は適当に戦ったら交代して後曲に下がり、後は高見の見物だった。やっぱり………。

 

……。

 

…5番手の公孫賛軍が汜水関の前に出ると、桃香が陣頭に進み出た。

「わが名は劉備玄徳。

漢の中山靖王の末裔(まつえい)にして、上は国家に報い、下は民を安んずることを誓った身。

好く聴け。現在の地上に“魔王董卓”程、悪逆非道の者が居ようか」

 

先ず1つ……

帝都における涼州兵の略奪暴行と、それを放置、いや、けしかけるが如き董卓軍の振る舞いを糾弾した。

2つ目には民衆の虐殺、例として「車裂」事件を挙げた。

さらには、皇宮の占拠。先帝と母后にたいする大逆。

その結果、生き残った現在の幼帝を押し立てて置いて、自分は「相国」などに成り、朝廷の人事を独占した其の人事。

更に、大逆を犯しておいて「大葬」すら行わず、それどころか歴代の御陵に対する盗掘……

等々と並べた末、10番目には今ひと度、帝都の民衆が現在如何に苦しんでいるかを繰り返す……

こうして10の罪を並べ立てたうえで、こう締めくくる。

 

この連合軍は正義の軍である。

だが、かくの如き罪人を討つのに、いわんや“魔王の使い魔”如きに、漢王朝の末裔たるこの身が、わざわざ手を汚すまでもない。

わが部下をして相手をさせれば、それで足りる。

 

ここで選手交代。

右手に青龍偃月刀、左手に杯を持って、愛紗もとい関羽が進み出る。

「この酒が未だ温かな間位、わが青龍偃月刀と打ち合って見せたならば“使い魔”風情(ふぜい)にしては、中々位にはみてやろう」

 

「うわ~ん」

本陣に帰って来た桃香は、一刀にしがみついて泣き出した。

真っ赤になっているのは、どの時点からだろう。

少なくとも「芝居」の間は持ったらしく、効果は出た。いや、出過ぎた。

 

関城の門が開くというより跳ね上がって、守将の猫が飛び出して来た。ところが、

「何も…何も知らないくせに!月は…月は悪くない!!あの子を貶(おとし)めるなあ!!!」

半泣きどころか、ほとんど全泣きとでも、言うべき状態だった。

とてもじゃ無いが、愛紗の相手が出来るどころじゃ無い。

愛紗には、半ばあきれつつミネウチにする余裕すら在った。

 

この後の攻防戦は、呆気無(あっけな)く終わった。

袁術軍に後を任せて待機中と見せていた孫堅軍が両軍が唖然とする中でいち早く立ち直り、未だ立ち直っていない汜水関に突入したのである………。

 

……。

 

…だがしかし、劉備軍の同志達には第1関門を突破出来た勝利感よりも、あの敵将の反応に対する違和感が在った。

こちらの策通り挑発に乗った、だけでは説明がつかない違和感が。

 

愛紗に気絶させられた華雄は、曹操軍に連行されていった。

それをどうこう言える立場には、今の劉備軍は無い。

だがしかし、尋問の結果はどう成ったのだろう。この違和感の答えは出たのだろうか。

 

実は、俺だけが『原作』の知識から違和感の「正体」に思い至っていたが。

 

北郷一刀は「大問題」の方へ意識を移していた。

洛陽を燃やされる前に虎牢関を突破しないとな。

あの「モンスター」が待ち構える関門を。




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