簡雍酔夢   作:高島智明

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第16席 遥か蜀の天地に希望を抱く

帝都洛陽の皇宮、その城内の部屋の1つでは今日も会議が続いていた。

逆賊“董卓”を討つ名目で連合軍に参加した諸侯が「後始末」を協議していたのである。

 

まず現状だが、董卓と軍師の賈駆は「生き恥」を晒した以上「公人」としては、もはや死んでいるのも同然だ。

もはや没落王族に仕える只の“めいど”に過ぎない。

張遼・華雄は曹操軍に捕らえられ、呂布・陳宮は何処へ落ちのびたか行方不明。

彼女たちを棚に上げて涼州軍を乗っ取ろうとしていた李傕(りかく)とか郭汜(かくし)とかいった中級幹部は「首」に成っている。

尤(もっと)も、その首謀者だった成済とやらは、何処へ逃げたか行方不明だったが。

 

涼州に在った元の勢力圏も、近隣の他の涼州軍閥である馬騰とか韓遂とかに因って現状は「切り取り次第」に成っている。

馬騰は此処まで連合軍に参加してきたが、この為に帰国したがっていた。

 

あれやこれやからして、もはや「旧」董卓軍は壊滅したと見て好かった。

 

「だから、もう連合軍が帝都に留まる理由は無いわ」

最初に決起を呼びかけ、最終的に帝都から涼州軍を追い出し皇帝を救い出した曹操(真名華琳)にそう主張されては、表立って反対も出来ない。

それぞれに思惑を交叉させている諸侯が寄り集まっていれば尚更だった。

 

それに、そろそろ留守にしてきた勢力圏が気にかかるのは馬騰だけでも無い。

 

本来、黄巾や其の類(たぐい)の「賊」とか「蛮族」と呼んでいる外敵とか、それやこれやの「討伐」に対して認められてきた軍事権を名目として、軍閥化して来た。

ということは、現実にそうした脅威が存在するということである。

 

それでも連合軍に参加するにあたっては、目的もあれば思惑も在った。

それが或る程度達まで成されないうちは、帰れない気もするのである。

だがしかし、最も多くを主張出来る立場の曹操が率先して拠点に引き揚げると言い出したのだから、それぞれに思惑を交叉させているだけに今後は居座り辛(づら)くなりそうだった。

無論、華琳は拠点に引き揚げる途上で、側近たちには思惑を明かしている。

 

旧「董卓」軍は壊滅、連合軍も引き揚げれば現在の帝都洛陽は軍事的に空白と成る。

天下太平の治世ならばむしろ正しい形だろうが、今の乱世では直ぐに耐えられなく成る。

そう成った時…

 

もしも、居座るものが出たなら、第2の“董卓”として討つか。

それとも、その留守の勢力圏を攻めるか。思うが儘だ。

とは言え、華琳が率先して引き揚げた為に誰かが居座る可能性はそう高くないし、華琳自身が攻撃される危険性は取り敢えず回避出来た。

 

「それに貰(もら)うものは、貰って来たわ。

おそらく近い内に陛下と大義名分を迎えられる、その時の為に今すぐすべき事に役立つものをね」

 

『鎮東将軍』

これまでの拠点である陳留郡のある兗州から隣(となり)の予州そして青洲にかけて治安を回復すべしという「大義名分」である。

これに因って拠点と勢力の拡大を正当化出来る。

 

既にして、軍師に迎えていた荀彧(真名桂花)郭嘉(真名稟)程昱(真名風)といった、予州潁川郡の「名士」たちの声望に乗る形で、潁川郡の郡城「許昌(きょしょう)」に新たなる拠点を移す用意を進めていた。

尚、陳留郡の後任の太守には、旧友の張孟卓を推薦して於いた。

北郷一刀の知る「正史」における張孟卓は、曹操や袁紹が「花嫁泥棒」なんかをしでかした頃からの親友だった。

 

おそらく、他の諸侯もこうしたものは持って帰ろうとするだろう。

だがしかし、同じ事なら既に先手を取ったのはこちらだ………。

 

……。

 

…時間は数日遡(さかのぼ)る。曹魏軍の出立に先立って洛陽城内の旧「董卓」時代の呂布邸。

そこを、今は曹操軍の武将と成った霞(しあ)が訪れていた。

 

恋という少女は、無口で人とのコミュニケーションが音々音や月たちといった身近な少数以外は苦手で、何かと誤解され易かった。

例えば、恩賞を金銭で貰いたがるとか。

そのせいか動物に「友だち」を求めがちだった。

この邸には、あの「汗血馬」となぜか同名のコーギー犬をはじめ、数10の「友だち」が暮らしていた。

音々音と一緒にやって来たSt.バーナードから、大は何処から来たかゾウまで、犬、猫、鳥etc.…

実は「お金」を欲しがるのは餌代だったりする。

 

「しかしようもまあ、虎牢関攻めから包囲戦の間に、誰かに食べられるとかしなかったものやな」

大型犬やらゾウやら数10が守っている邸を、襲撃するにも勇気がいっただろうけど。

 

無論、月や詠、霞たちは、恋の少ない人間の友だちで、この邸に居る「友だち」とも知り合いだった。

その霞たちから事情を聞いた華琳はあっさりと手配してくれた。

この邸の維持と動物たちの食料については、洛陽に残していく曹家邸の留守役に任された。

「これで呂布と陳宮が買えたら安いものよ」

味方にしたく成った相手には大判振る舞いするのが、華琳もとい曹操なのである。

そういう訳で、曹操軍と出立する前に御別れに来たのだった。

 

来ていたのは霞たちだけではなかった。

「ほんにお似合いやな。前からお人形さんみたいと思っていたけど、こうなるといよいよや」

現在の月と詠は「メイド」だから、基本として主人から離れられない。

北郷一刀が、気を利かせて連れて来たのである。

 

霞たちも洛陽を出立するまでは、捕虜の身だから従来の華琳の側近が付き添っていた。

野暮(やぼ)を避けて月たちだけにして、それぞれが自分たちだけで話していた。

その結果として、一刀と俺こと簡雍が男2人で話していた。

 

「公孫賛も心境複雑の様ですな。劉備軍の代弁者に成らなければ自分の手柄も無い」

「それでも白蓮さんと桃香の友情まで無くすには、桃香は好い娘に過ぎるしね」

「ご主人様の言い方だと、まるで惚気(のろけ)ですな」

『恋姫』とは、そもそも、そんなゲームだろう。

俺は内心で、そんなことを思っていた。

その後、曹操軍が引き揚げた後、連合軍の諸侯も1人去り2人去りしだした。

孫呉軍や、袁術軍そして最大勢力の袁紹軍も遂に引き揚げを検討しだした。

こう成ると公孫賛(真名白蓮)も袁紹軍の先手を取って、引き揚げるか否かを決断しなければならない。

現状からも「正史」からも、白蓮にとっては袁紹軍が最大の脅威であり、しかも帝都から自分の拠点まで帰る為には、その脅威の勢力圏を通るのだから。

 

劉備軍にも公孫賛軍とともに、帰還するか否かの決断が迫りだした。

そんな時、荊州の襄陽「名士」グループから入手出来た情報が在った。

益州州牧劉焉(りゅうえん)未だ荊洲に在り。

元々、漢帝国の地方制度では「郡太守」が皇帝に直属していた。

州を担当する刺史も最初は視察が任務だった。

だがしかし、黄巾の乱などの治安悪化を理由に「州牧」という官職が設けられる。

 

郡太守の上位に位置する広域行政職であり「有事」には治安回復の任に就く。

すなわち、後漢13州の1つに行政と軍事の権限を持つ。

もはや「有事」が常態に成りつつある現状では軍閥を正当化するに近い。

 

劉焉は当時の霊帝や10常侍、大将軍何進などに運動して「州牧」という官職を設置させると、自分を益州州牧に任官させた。

その劉焉が、益州に赴任する為に隣の荊州まで来ながら、そこで足踏みしている。

その理由というのが、南蛮が暴れていて治安が悪化しているから、だと言うのだ。

元々、その為に権限を与えられている筈だった。

けれども、益州にも入れない為に兵を集められない、とも言っている。

いたちごっこだ。

とはいえ、任務を果(は)たしていないと、難癖(なんくせ)を付ける事は出来る。

 

それに、劉焉当人は秘密にしている積もりでも「天の御遣い」は知っている。

何故「帝国」の西南に在る益州の州牧を希望したのかを。

実の処、結構バレたらヤバい理由なのだ。

かつて10常侍などが居た時に盧植(真名風鈴)とかが、どういう目にあったかを思えば州牧を取り上げられても当然だ。

荊州から届いた情報を検討していた時、北郷一刀は劉焉の秘密の動機を明かした。

その理由は「西南に天子の気があると予言した占者がいた」ことと、自分が「劉」氏である事を結び付けたという。

現代人よ、笑うなかれ。この時代の「占」は、後世の「科学」とほぼ同じ意味なのである。

だから一刀も、最初から「天の御遣い」として待ち構(かま)えられていた。

 

結局、この「天子の気」は別人を予言したものと伝えられる事に成る。

益州の軍閥化に成功しても、劉焉の息子が益州から追い払われて、予言の人物が取って変わったのだった………。

 

……。

 

…北郷一刀の態度が変化した。

「これがもしかしたら最後の「お告げ」かも知れない」

「お兄ちゃん、大げさなのだ」

「そのとおり、余程の重大事を打ち明けようとしているみたいですぞ」

「…そうだね…(そう見えるか)」

 

「伏竜鳳雛」は流石に気付いた。

「ご主人様は真剣です。現に…」

「この場には白蓮さんや月さんたちも居りません。

ご主人様はそれを確かめてから態度を変えました」

「星は居ても構わんけどな」

 

「ご主人様。いえ「天の御遣い」北郷一刀様」

桃香が何かを察したか、態度を改めた。

「私たちは、私たちの意思で貴方様を「天の御遣い」と認めたのです。

だから「真名」を許しました。皆、その気持ちに嘘は在りません」

 

「わかったよ。桃香、みんな」

そして北郷一刀は、決定的は「お告げ」を告げた。

「劉備玄徳は「伏竜鳳雛」の英知を得て、自らの王国を建てる。そう言ったよね。

その国の名は「蜀」……そう、今、劉焉が天子の気に目を付けている益州の事。

件(くだん)の天子の気は、蜀の王、劉備を予言していたんだ」

 

やはり「伏竜鳳雛」だった。数瞬の驚愕の後は頭脳が大回転しだした。

「出来ます。劉焉ではなく、桃香様が益州の主になることは可能です」

「あの「天府の国」なら、桃香様に相応しい国が作れます」

 

俺こと簡雍の見る北郷一刀は『原作』主人公に相応しい覚悟を決めている様に見えた。

(俺は、桃香を蜀の王にする。それが「天の御遣い」の役目だろう)

袁紹(真名麗羽)袁術(真名美羽)そして表に出た白蓮も、今の段階で益州州牧を引き受けるのは「火中の栗」と考えた。

劉焉が立ち往生している理由は真っ赤な嘘(うそ)でも無い。

公孫賛軍からも離れた劉備軍の小勢力では打開可能とも思えない。

その程度であれだけの功績に対して満足するのなら、さっさと面倒事をすませて自分の拠点に帰ろう。

実は劉備軍の策士たちが、そう思わせた

袁紹軍、袁術軍そして公孫賛軍も、帝都洛陽から引き揚げ、連合軍はなし崩しに解散した。

 

そして、劉備軍は公孫賛軍とも離れた孤軍と成って帝都を出立した。

益州州牧劉焉と交替して益州に赴任すべく先ずは荊州へ。

「な?!」

予州潁川郡の許昌への拠点進出を控えて、政務に勤しんでいた華琳は”その”報告を受けて、手から筆を落とした。




劉備が孔明と共に遂に拠点を得た時、曹操は手から筆を落して驚いたと伝えられます。
それだけ、ライバルとして評価していたという例えですね。
もちろん「正史」では「赤壁」の後の事です。

"この"外史「も」どんどん繰り上がって行きます。
どの程度「正史」と乖離して何処で辻褄を合わせるか。
これからも無謀を続けます。
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